シャロルとノワール
視点がアイラから外れます。
アイラとグリセリアが入浴しながら語り合っている間、シャロルとノワールは二人きりでリビングにいた。
「それにしても、不思議なものです」
「何がでしょうか?」
シャロルの発言にノワールは首を傾げる。
「今この時が、です。アイラ様とともにアストラントを離れグレイシアへ渡るなど、お嬢様が学院に入学された頃は考えもしなかった事です。
ましてやお嬢様を尾行していたあなたと一緒とは、なおさらです」
「そういう事ですか。まぁ、その…、尾行していた事は反省しています…。
しかしそういう事でしたら不思議なのは私も同じです。学院でアイラ様のようなお方を見つけ、不快な行為も許していただき、友人にまでなれるとは思っていませんでした。
アイラ様の秘密を知ってともにアストラントを離れるなど、それこそこれっぽっちも思っていませんでしたよ」
「そして知らない場所であなたと二人きりでいるのですから、運命というものは分かりませんね」
「ええ。本当に」
二人は揃って紅茶をすする。
「今日で紅茶何杯目でしょう?」
「だいぶ飲みましたよね…」
そしてまた紅茶をすする。
今度はノワールから話をきりだした。
「アイラ様は女王陛下とどんな話をされているのでしょう?まさか国政の話ではありませんよね?」
「ここに到着してまだ一日も経っていません。そのような話をましてやお風呂場でするとは思えませんね。
しかし、女王陛下には驚かされました。私はお嬢様の密書を拝見させていただいていたので人物像の想像は出来ていましたが、想像以上に強烈と言いますか…」
「私もそうですね。威圧的で独裁的と聞いておりましたので、アイラ様の前世のご友人だと聞いた時は驚きましたが、いざ会ってみると驚き以上でしたね」
アイラとグリセリアの接し方は、二人をあ然とさせていた。
威圧的で近寄れない、意見すら出せない雰囲気で有名なグリセリアが、別人のように軽々しい態度でアイラに甘えていたからだ。
アイラも文句を言いながらも嫌がる気配を見せない。それどころか受け入れる体勢をしている。さらには時々アイラがグリセリアを叱っている。
この光景は二人にとって衝撃的であった。
正確に言うと、アリス、リリア、オルシズの三人も同じ気持ちではあるが。
「今だってアイラ様と女王陛下が一緒にご入浴されている事自体、通常ありえない事ですよね?」
「通常でも異常でもありえない事です。王家の者と一緒に貴族の者が入るなど…」
「ベッドも一緒なんですよね?」
「そうですね…。あのお二方の関係はもはや親友と言うより…」
「……」
「……」
お互い見合ったまま沈黙が続く。
「「恋人同士」」
そして同時に同じ結論が出た。
「…いやまさか、考え過ぎですかね?」
「考え過ぎ…、と思いたいですね…」
と、ここで客室からアリスが戻ってきた。
「ただいま戻りました。あれ?お二方だけですか?」
「お嬢様と女王陛下は現在入浴中です」
「アリスさん、私の部屋着が客室にあるのですが…」
アリスの問いにシャロルが答え、ノワールが自分の部屋着が客室にある事を伝えた。
「そうですか。でしたらともに客室へ向かいましょう」
「私もご一緒しても良いでしょうか?念のため城内の道を覚えたいので」
「構いませんよ。行きましょう」
そして三人は王城客室へと向かった。
この頃、浴室ではアイラとグリセリアがシャロルの話を展開している時だった。