グリセリアの側近
私とセリア対シャロルのベッドが一緒か別かの攻防は、最終的に私とセリアが勝利した。
その後、私達は再びセリアの案内でノーバイン城の高層階にある『国家政務室』へ移動した。
この『国家政務室』は、国王とその側近が事務仕事を行う部屋なんだとか。
つまりはセリアの仕事場だ。
「戻ったよ」
「あ、おかえりなさい。陛下」
「お疲れ様です」
部屋に入ったセリアを迎えたのは、二人の男女。
男性の方は黒色の短髪にキリっとした目つき。細い眼鏡をかけたクールな印象の男性だ。
服装も黒色のスーツのような感じの服を着ている。
見た目で見る限り、冷静沈着で感情とかあまり表に出さなそうな雰囲気だ。
女性の方は、小柄な少女だった。
年は私と大きく離れてはいないだろうが、おそらく年下だろう。
ピンク色の髪を赤色のリボンで二つに結び、ツインテールヘアーにしている。
服装は白色をメインにしてところどころにピンク色が入ったゴスロリっぽい姿。けど派手というわけでもない。
なんだか妹キャラっぽい。可愛い印象だ。
「随分遅かったですね。何か問題がありましたか?」
「待ってた間にお仕事全部片付けちゃいました~」
「いや~、すまないね。別館の説明が長引いただけだから大丈夫。何も問題ないよ」
二人の問いかけにセリアは自然と接している。
長い付き合いなのかしら?私以外と普通に接するなんて…。
「紹介するね。こっちの眼鏡君が宰相のオルシズ。そんでこっちが私の補佐官のリリア」
「陛下。眼鏡君とは何ですか。悪口ですか?」
「褒め言葉」
「そうは聞こえませんが」
「そう聞こえて。で、彼女がずっと前から話してたアイラだよ」
眼鏡君ことオルシズさんはセリアの紹介の仕方に苦情を出したものの、セリアは相手にする気無し。そのままの流れで私も紹介された。
私はここでは新参者。なので先に挨拶しておく。
「初めまして。アイラと申します。元々はアストラント王国リースタイン子爵家の令嬢でしたが、現在は性は無い状態です」
「陛下から話は聞いておりました。初めまして。グレイシア王国宰相兼エアハルト公爵家当主、オルシズ・エアハルトと申します」
「初めまして!女王陛下専属政務補佐官のリリア・プロテットと申します!」
宰相のオルシズさんは見た目通りクールな感じに挨拶してきた。
補佐官のリリアちゃんは元気に挨拶。やっぱりカワイイ系の妹キャラだ。
「これからよろしくお願いします。後ろの二人は、こちらが私の専属でメイドを務めておりましたシャロルです。こっちが友人のノワールです。訳あって私と同行してきました」
私の後ろにいたシャロルとノワールは、私の紹介を受けて深々お辞儀する。
「シャロル・バレスタインと申します。長年アイラお嬢様にお仕えし、これよりもお傍で仕える為にともに参りました。よろしくお願い致します」
「ノワールと申します。元はアストラント王国ヘルモルト伯爵家にいましたが、家族的な事情でアイラ様に同行致しました。よろしくお願いします」
ひと通りみんなの挨拶が終わったところで、セリアが話を進める。
「自己紹介は以上かな?馬車の中で説明した通り、今この部屋にいる者のみが私とアイラの前世の記憶持ちと神様関わりである事を知っている。他の者達は知らない事だから、うっかり言葉にしないよう注意してほしい」
「うん。私からもお願いします」
神様との関わりが露呈すればいろんな意味で大変な事になる。
セリアと一緒に釘を刺しておいた。
「あ、そうそう。アイラは役職に就いたら私が教えるつもりだけど、私が手を離せない時があったらリリアに聞きな。分かんない事だらけだろうから、遠慮なく頼って良いよ」
「分かった。よろしくリリアちゃん」
「はい!お願いします!」
「ねぇ、リリアちゃんって今いくつなの?」
「15です。今年16歳になります」
私が現在17歳で、もうすぐ18歳になる。ということは私の方が二つ年上となる。
シャルみたいな後輩も可愛かったけど、リリアちゃんは別系統で可愛い。
「じゃあ、私の方がお姉さんなんだね。年上なのに色々頼っちゃうようでごめんね?」
「いいえ!遠慮せず聞いてください!アイラさんは謙虚ですね~。どっかの誰かさんとは大違い」
「どっかの誰かさんって?いじわるな人がいるの?」
「はい、ここに」
「え~?私~?」
リリアちゃんはジト目でセリアを見ている。セリアは軽いノリ。
「そうですよ。毎日のように仕事丸投げしてくるわ、ちょいちょいイタズラしてくるわ、気が付くと政務室にいないわ、私がどれだけ苦労している事か!」
「セ・リ・ア~!」
「馬車でもう丸投げしないって言ったじゃん!なんで怒るの?いひゃいいひゃいいひゃい…!」
リリアちゃんのセリアに対する不満に応えるように、私はセリアの頬を掴んでギリギリと握力を強める。
セリアは手で私の腕を叩いてギブアップの意思表示をしている。
「リリアちゃん、苦労したんだね。私の親友が無茶ばかりしてきてごめんね。もしこれから同じような事されたら私に言ってね。キツ~イお仕置きしとくから!」
「アイラさん…。ありがとうございます!そう言っていただけると救われます!本当に!」
私がこれからは安心するよう諭すと、リリアちゃんは満面の笑みで喜んでいた。私の手を握ってピョンピョン軽く跳ねている。
「なんか私、悪者扱い…」
「それもそうですよ。これからは自重してください」
傍でセリアは自分が悪者扱いされている事に落ち込み、オルシズさんに注意されている。
そういえば、オルシズさんも丸投げの被害者だっけ。
「そんじゃ、アイラ。そろそろ別館に戻ろう?」
「え?あんた仕事は?」
「アイラを迎えるために一定期間休業にしてる。ちなみにこれは会議で正式に決まった休みだからね?決してサボりじゃないよ?」
「そうなの?いつから休んでるの?」
「昨日から」
「そうだったんだ…」
私を迎えるためにわざわざ仕事休んで、オルシズさんやリリアちゃんが代わりをしてくれてるんだ…。
なんだか申し訳ないなぁ…。
「では、私とリリアは仕事に戻ります」
「アイラさん、シャロルさん、ノワールさん、また~」
二人ともまだ仕事があるようで、私達に別れを告げてオルシズさんは書類仕事に、リリアちゃんは部屋を出て行った。
「じゃあ、私とアイラの愛の別館にしゅっぱ~つ」
「いや、愛の別館って…」
愛の別館ってなによ。なんか変な意味に感じるわ。
再び別館に戻るため城の廊下を歩いていると、小声でシャロルとノワールが話をかけてきた。
「あの、お嬢様。事前にお話をお嬢様から聞いていたと言えど、実際の女王陛下はその想像を上回る感じなのですが…。色んな意味で」
「私は威圧的で独裁的なところしか知らなかったので、ずっと驚きっぱなしです」
シャロルとノワールは世間的に知られているセリアのイメージとあまりにかけ離れている事に戸惑いを隠せないらしい。
まぁ、戸惑うのも無理ないけどね。
「ま、すぐ慣れるわよ」
私はセリアの側近を見ていて、信頼関係がある事がなんとなく分かって安堵していた。
前世の頃のように私以外には威嚇し続ける事はないようで良かった。
この世界はセリアにとって、きっと前世の日本の環境より過ごしやすいのかもしれない。
なんとなく嬉しくなった私は、セリアの腕に抱きついた。
「セリア。私、ここに来たからには他の側近に負けないくらい頑張るから!これからもずっとよろしくね!」
「アイラ…。うん!ずっと一緒だよ!」
私はセリアとじゃれ合いながら、新たな住まいへと戻っていった。
後ろにはシャロルとノワールが付いてきている。
そしてそのさらに後ろ。ポツンと付いてくる女性騎士が一人。
「私、ホントに出番が無いんですけど…。いつになったら発言出来るのでしょうか…?」
わずかにアリスのそんな嘆きが聞こえた。
そういえばアリスの存在忘れてた。




