新たな生活空間
視点がアイラに戻ります。
私達はしばらく馬車に揺られて、ようやく王都フェルゼンのノーバイン城へ到着した。
ノーバイン城はまるでおとぎ話に出てくるような真っ白で綺麗なお城だ。前世の頃の世界にあったドイツのノイシュバンシュタイン城に似てる。
アストラントのアルクザー宮殿みたいにやたら豪勢な外壁装飾とか無いし、デザイン的にはこっちの方が私は好みだ。
女王であるセリアの帰りを城で働く者達が出迎える中、私や他の同行者はセリアの後ろを無言で付いて行った。
周囲の視線を感じはするが、あえて気にしない。
「まず荷物とか置いて落ち着きたいだろうから、各部屋に案内するね~」
セリアの案内で私達は城の奥へと歩いていく。
「ノワールの部屋はまだ確定してないから、悪いけどしばらく客室を使って」
「分かりました。客室でも全然大丈夫です。むしろちゃんとした部屋を用意してくださってありがたいです」
客室という点に文句はないらしい。というよりも雨風凌げればどこでも良いって感じだ。
「私とシャロルの部屋は確定してるの?」
「うん、案内するよ~。ノワールは~…」
「私も一緒に付いてきます」
というわけで、ノワールは部屋に荷物を置いて私達はセリアの案内で歩き出した。
アストラントのアルクザー宮殿は横に広い造りになっていたけど、ノーバイン城は高層型の造りだ。
そのためこの城は階数が多い。高層階へはなんとエレベーターを使う。
前世での日本で普及していたビルやマンション等のエレベーターより簡易的な造りだ。壁も天井もない。
セリアが言うには動力も魔力だそうな。どういう原理か知らないけど。
そんでもって、かなり上の階へ上がった。と思いきや、別のエレベーターに乗って今度は下っていく。
「今乗ってるエレベーターは、城のとなりの別館に行くために作られた物なんだよ」
「別館?」
「そう、別館。城の敷地内の空いてた所が裏手にあったから、そこに作ったんだ~」
「へぇ~。離れなの?」
「ううん。城そのものとくっついてる」
増築したようなものかな?そこに私とシャロルの部屋があるのか。
エレベーターが止まって、降りると目の前に扉があった。
前世の頃でよく見た一般的なマンションの入口と同じくらいのサイズの扉だ。
「この扉を境に城と別館が別れてるんだよ~。私が神力で壁くり貫いたんだ~」
なんかルンルンなノリのセリア。何が嬉しいのやら。
「はいどうぞ~。入って入って~」
セリアに言われるがまま入ると、ちょっとしたロビーのような空間があって、その先に廊下が伸びる。
廊下には無数に扉がある。
豪華までとはいかないが、リゾートホテルのような見た目の造りだ。床は絨毯、壁や天井は白色をメインにした僅かな柄が入ったデザインになっている。
城や宮殿、私が過ごしたリースタイン家の屋敷のような豪勢さはない。
でもそんな作りより気になった事がある。それは、明らかに生活感があるという事だ。既に誰か住んでいるような感じがあった。
「ここが私とシャロルが住む空間…」
「奥の各部屋が住まいとなるのですか?」
「城の中とは雰囲気が違いますね」
「ここがアイラとシャロルと私の部屋だよ」
「「「え?」」」
私はロビーを見渡し、シャロルは早速部屋を確かめようとしている。ノワールは率直な感想。
私を含めたそれぞれが各々の行動を見せる中、セリアは私の部屋と言った。
それに対し、三人揃って同じ反応をしてしまった。
つまりここは私とシャロルとセリアが住む所という事になる。
もしかして生活感があるのは、既にセリアが住んでるから?
「私とシャロルとセリアは同居ってこと?」
「そーゆこと。じゃあ早速各部屋の案内を…」
「ちょっとお待ちください!本当に女王陛下と同居なさるのですか!?私まで!?」
セリアが各部屋の案内をしようとしたところで、シャロルが止めに入った。
どうやら私とシャロルとセリアが別館で同居状態になる事に納得がいっていないらしい。
「女王陛下は城に住まうのではないのですか?ここに住むのはお嬢様と私で良いのでは?」
「前世の頃にね、いつか一緒に住もうって約束してたんだよ。アイラ覚えてる?」
「つい最近ポッと思い出したわ。確かに約束してたもんね」
前世の頃、高校を卒業したらお金を貯めてどこか部屋を借りて一緒に住もうって話を、高校の教室で話していた事があった。
「ちなみにシャロルが住む所はあっち。私とアイラとは建物が同じでも位置が違うから。これ決定事項。良いね?」
セリアが指差した先には、扉が複数あった。最初に見た所からは離れた位置にある。
「なんでシャロルはあそこ?」
「使用人専用プライベートルーム」
「あぁ、なるほど」
どうやらあっちは使用人専用の部屋になっているらしい。
「ちなみに使用人入居者はシャロルが初だから」
「へぇ~。そうなんだ。シャロルはそれで構わない?」
「私は構いませんが…、お嬢様はよろしいのですか?」
「うん。別に構わないけど?」
「はぁ、そうですか…」
シャロルは何が納得いかないのだろう?私は何も問題ないんだけど。
「じゃあ、案内ね~。ここは城とは完全に独立してて、生活の全てが揃ってるんだよ。私は既にここで生活してる。仕事の時は城にいるけど」
「生活の全て?」
「見てもらえれば分かるよ。えっと、まずは~…」
セリアの案内で私達は一部屋ずつ見てまわった。
まずはロビー。ここが別館の玄関となる。
次にシャロルが住む部屋。それなりに広めで家具も揃えてある。シャロルも十分過ぎると言っている。
廊下の奥には広い部屋。ソファやテーブル、キッチン等がある。調理器具も一式揃っている。セリアはこの部屋をリビングと呼んでいるそうだ。
そのリビングからロビーまでの間にある各部屋は、生活に欠かせない部屋となっていた。
まず、脱衣所。ちょっと旅館の脱衣所っぽい。その先にはお風呂。少し和風で湯船が広い。
トイレ。シンプルで広い。
セリアの部屋。リゾートホテルのような雰囲気。広さもあるし快適そう。王都の街並み等の景色も見えていて、この別館が高い階層である事が分かる。
しかし何故かベッドがない。別の部屋で寝てるのかしら?
そして私の部屋。部屋のデザインや造りはセリアの部屋と同じ。家具も一式揃っていた。
しかし私の部屋にもベッドがない。どういう事?
「ねぇ、セリア。ベッドは?あんたの部屋にも私の部屋にもないけど」
「寝室はこっち~」
私とセリアの寝室は別にあるようで、リビングの近くにある階段を上ると、そこには広い空間があった。
床はワインレッド色の絨毯が敷かれ、窓や天井の一部はガラス張りになっていた。
部屋の中心部にはベッドが一台だけ置かれていた。他に物は一切ない。
ベッドのサイズもめっちゃデカい。クイーンサイズよりも大きい。
「セリア、ベッドが一つしかないけど?」
「うん。そうだよ」
「あ、まさかそういうこと?」
「そーゆこと」
「すいません。どういうことか説明をお願いします」
私がベッドが一つだけの理由を察すると、シャロルが説明を求めてきた。
「このベッドは私が寝る所であり、セリアの寝る所でもあるのよ」
「えっと…。つまり、………添い寝?」
「そーゆこと」
私の説明にシャロルは顔を赤くしながら解釈し、それにセリアが頷く。
するとシャロルはさらに顔を赤くしながら焦り出した。
「同居の理解はしました。ですが一緒に寝る必要はあるのですか!?これも前世絡みですか!?」
「いや、これは私の個人的願望」
「それでは納得出来ません!」
「私は全然構わないけど?」
「お嬢様!?」
私とセリアが同じベッドで寝る事が納得出来ないシャロルと、ノリノリな私とセリア。
この攻防はしばらくの間続く事になった。
「私関われる時がないんですけど…」
「それを言ったら私、城に到着した時から何も発していませんよ…」
私とセリアとシャロルが攻防を繰り広げる傍で、ノワールとアリスが出る幕がないとお互い落ち込み合っていた。




