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巣立ち

 本来、私はアストラント政府の引率によってグレイシアへ護送される事になっている。

 しかし、私はそれに従うつもりはない。私にはもともと計画していた事があるからだ。

 この計画は密書でセリアにも伝えてあり、グレイシア側にも動いてもらってる。


 そして今日はその実行日。つまりアストラントとお別れの日。

 政府の護送であれば、出国時間帯は朝。しかし私はシャロルとノワールとともに国を出る計画のため、辺り真っ暗で人々が就寝している深夜帯に国を出て行く。

 そうすると両親に最後の別れが出来ないため、両親および使用人や兵士の人達に感謝の手紙を自室に残した。

 そして今まで生活してきた自室に一礼し、シャロルとともにこっそり屋敷を出た。

 この世界は深夜になると警備も一切なくなるため、簡単に抜け出す事が出来る。


 私とシャロルはそのままヘルモルト邸へ向かい、既に玄関付近で待機していたノワールと合流。

 星空で照らされた薄暗い街を三人で歩いて、私達は王都メルキアを出た。


 王都を出るとその先は草原だけが広がっていて、人や動物の気配もない。深夜なんだからそりゃそうなんだけど。

 実は王都メルキアとグレイシアの国境は距離が近く、王都メルキアから半日程早歩きで歩けば国境へ辿り着くんだそうな。


 歩いているうちに草原の向こうから薄日が差してきた。そろそろ夜が明ける。

 今日の朝リーズンログ社が、アストラント政府が隠していた借金の事と私が追放された本当の理由を国中にぶちまけてくれるはず。

 それがうまくいけば、私の計画は大成功だ。


「ノワールさん。フラフラしていますが大丈夫ですか?」

「足が辛くて…。日頃の運動不足が響いたみたいです。最近鍛えようとは思っていたのですが、二日も続かなくて…」

「途中休憩挟むから頑張ろう?てか、鍛えようとしてたんだ」


 動くイメージのないノワールが鍛えようと思ってたなんて…。そんなに運動不足だったのかな?

 そんな会話をしながら私達は歩く。


「そういえばシャロル。ニコルとはお別れしてないよね?」

「あの子に別れの挨拶は必要ありません。一回ぐずり出すと聞かないので」

「えぇー…。多分ショックだよ、ニコル」

「そのショックを糧にして成長してほしいものです」

「シャロル、スパルタ…」


 私達はどんどん進む。

 もう周囲が見渡せる程明るくなっていた。


「だいぶ明るくなってきたわね。そろそろ朝ごはんにする?」

「そうですね。そうしましょう」

「ごはんと聞いたら眠くなってきました…」

「ごはん食べて眠くなるなら解るけど、ごはんと聞いて眠くなるってどういうことよ」


 シャロルが事前に用意していたサンドウィッチをみんなで食べる。

 食事中、ノワールがほとんど睡眠状態で食べていたのは面白かった。


 朝食を終え、私達はひたすら歩く。

 もうアストラントの街は一切見えなくなっていた。


「もうだいぶ歩いたわよね…」

「そうですね。かなり歩いて私は足が棒です…」

「…!お二方、前方を!」


 シャロルが指差した方向はグレイシア方面。よく見ると何かが見えた。

 街ではない。動物の群れにも見えない。

 距離が近くなるにつれ、それがグレイシア軍の人々である事が認識出来た。

 グレイシアの国旗が高々と上がっている。


「どうやら予定通りね。私達のお迎えよ」

「本当にグレイシア軍が…」

「アイラ様、本当に動かしたのですね…」

「何よ二人とも。信じてなかったの?」

「「半信半疑でした」」


 半信半疑だったとかドイヒー。

 私はセリアに密書で『国境まで迎えにきて』と送っていた。勿論私達が出立する時刻もきっちりと。


 そして、グレイシア国境となる小さな川の前までやってきた。川と言っても用水路みたいな小さい川だけど。

 グレイシア軍はそのすぐそばに陣を構えている。どうやら向こうも私達に気付いているようだ。

 私は川の前で立ち止まり、王都メルキアのある方角に向いて深々と一礼した。

 生まれてから今日までの、感謝の気持ちを込めて。

 気付くと私の横で、シャロルとノワールも同じ事をしていた。


「いよいよ国境を越えますね…」

「少し緊張してきました…」

「ここは同時にいきましょう。せーの」


 私達は同時に川を越え、グレイシア王国へと入った。

 その直後。


「アイラ~!!」

「え!?セリア!?」


 陣地から私を呼ぶ声がしたのでそっちを見ると、なんとセリアが陣から飛び出してきて私に向かって猛ダッシュしてきたのだ。

 いくらなんでもセリア自身が迎えに来いとは言ってないよ!?


「アイラ~!また会えた~!やっとこっちに来てくれた~!マジめっちゃ嬉しい!あ~もう離さない!」

「ちょっとセリア…、苦しい~…。力ゆるめて~」


 驚く私にセリアは勢いよく抱きついてきて、思いっきりぎゅ~っとされた。

 そんなセリアを追うように、他の兵士も陣から出てきている。

 シャロルとノワールは私とセリアの状態を見てあ然としていた。





 セリアがある程度落ち着いたところで、シャロルとノワールを紹介する。


「こっちが私の従者のシャロル。そしてこっちが友人のノワールよ」

「初めまして。シャロル・バレスタインと申します」

「ノワール・ヘルモルトと申します」


 二人ともセリアにお辞儀をする。威圧的で知られているセリアの前だからなのか、二人とも少し緊張してる感じがあった。


「これはご丁寧に。私はグレイシア王国女王、グリセリア・グレイシアだ。ようこそグレイシア王国へ。ちなみにアイラとは深い仲でね。アイラの連れなら大歓迎さ」

「もし拒否ってたら私があんたをぶっ飛ばしたけどね」

「アイラのぶっ飛ばされはご褒美です!」

「何言ってんの?あんた…」

「まぁ、とにかく馬車に乗ろう?王都に向かうよ」

「うん、よろしく。セリア」

「うん!陣を退け!これより王都フェルゼンへ帰還する!」

〈〈〈はっ!!〉〉〉


 セリアの号令で陣は崩され、私達はセリアの案内で王室専用馬車へと乗り込んだ。


「そんじゃあ、フェルゼンへレッツゴー!全軍進め!!」


 セリアの私へ顔を向けた時と周囲に指示を出す時のギャップの差が激しすぎる。しょうがないんだろうけど。

 そして馬車は走り出す。グレイシア王都フェルゼンへと向かって。








 こうして私のリースタイン子爵家令嬢としての立場、そしてアストラントでの生活は幕を閉じた。

 これから私はどんな立ち位置に着くんだろうか?

 どう考えてもそれは運命次第。今はとりあえず、少し休んで心を落ち着かそう。そう思った。


 今回の投稿で第四章は終了となります。

 そして舞台はアストラントからグレイシアへ変わります。

 ここまでお読みいただき、感謝申し上げます。ありがとうございました。


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