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学院、そして友人との別れ

 私が裁かれ、アストラントを出て行く事になったニュースは、今朝早くからリーズンログ社から王都を始め国中に流れていた。私が渡した借金の件はまだ隠したままだけど。


 そんな中、私は学院を訪れていた。

 授業を受けるための登校ではない。学院を辞めるための手続きをしに来たのだ。

 正直なところ、まさかこんなにも早い段階で学院を辞めるとは思わなかった。

 なお、他のみんなは既に私がいなくなる事を知っているかと思うけど、現在授業中のため私の前にはいない。

 私は学院長室で学院長とナナカ先生とで話していた。


「アイラちゃん…」

「そんな悲しい顔しないでくださいよ。ナナカ先生」

「だって納得いかないよ!みんなを守るために戦って、学院を盛り上げてくれたアイラちゃんがどうしてこんな目に合わなきゃいけないの!?不自然すぎるもん!」


 興奮気味のナナカ先生を宥めていると、学院長が言葉を発した。


「アイラ嬢。ワシも今回の政府の判断と処置には納得いっておらん。裏があるようにも見える。お主もそれに気付いているじゃろう?なのにお主は随分落ち着いておる。何か考えでもあるのかの?」

「考え過ぎですよ。私は国の決定に従うだけです」

「うむ…」


 さすが学院長。私の落ち着き具合に疑問を持っている。

 裁かれる事ばかり見ている両親やナナカ先生とは見るところが違う。


「あ、そうだ。学院会で私の補佐をしてたシャルロッテなんですけど、次の選挙まで本人が希望するところの補佐に就けてあげてください」

「アイラぢゃん…、ぐずっ、うん。わがっだ」

「もう先生~、泣かないで~」

「だっで~。うえ~ん」


 ナナカ先生は完全に泣き始めてしまった。また子供っぽい泣き方。

 そんなナナカ先生を宥めていると、なにやらドタドタと音が聞こえてきた。人が大勢走るような音。その音はだんだん近く大きくなってくる。

 私と学院長も音が気になり始め、泣いていたナナカ先生も音が気になったのか、泣き止んだ。

 三人で何事かと廊下へ出た。その直後。


「おい!いたぞ!」

「アイラ!」

「アイラさん!」

「先輩!」


 リィン、ティナ、ホウ、シャルの声が聞こえたと思ったら、同級生達と学院会の二学年、つまりシャルの同級生の一部が、右から左から窓からと色んな方向から私に向かって群がってきたのだ。


「うわぁ!みんな!」

「アイラ!待ってください!辞めないで!」

「わたくし達が全力でお守りします!ですから!」

「話聞いて頭きたから、今朝宮殿に行って内容知ってたのに何もしなかった王子と話進めてた役人連中ぶん殴ってきた。今の政府に従う必要なんてねぇよ」

「アイラが来てるって聞いて、授業そっちのけでみんなで来たんだ。俺もみんなと同じ気持ちだ。辞める必要なんてない」

「あたしも納得いってないしね。とことん抗うわよ」

「アイラ様~!」

「「アイラさん!」」

「先輩!私嫌です!アイラ先輩ともっと一緒にいたいです!ましてやもう会えないなんて受け入れられません!」


 ティナとホウは私の退学を必死に止めてくる。

 リィンは怒りに満ちた表情をしている。殴ってきたとかまたなんて行動を…。

 レイジは授業を抜け出したと説明した上で、同じ気持ちと語る。ステラも同じようだ。

 ニコルは泣きながら私に抱きついてきた。そういえばニコルはシャロルが一緒にいなくなる事を知らないはず。シャロルはどうするつもりなんだろう?

 イルマとエルマの双子姉妹も泣きそうな表情で私を見つめる。

 シャルは私の腕にしがみついて、必死の表情で訴えてきた。

 王子殿下はここにはいないみたい。

 他の面々も私の罪状に対する反発の声を上げている。でも両親同様、こういった反発は危険。

 このまま国に反発し続ければ、今集まっているみんなに危険が及ぶ。最悪、命を狙ってくる可能性もある。


「みんな、私を想って守ろうとしてくれる気持ちは本当に嬉しいわ。だけどそれ以上国に反発しないで。それが強くなれば国はあなた達に刃を向けてくるわ。危険なのよ」

「それが何だってんだよ!関係あるかよ!」

「あるのよリィン。もしそれであなた達が危険な目にあって怪我でもされたら、私は辛いわ。私自身がどうこうより、みんなが傷付く事が嫌なの。

 もうみんななら学院会を運営して、学院会に入ってない人も学院を引っ張っていけるはずよ。私がいなくてもね。だからお願い。少し早い私の卒業を見送って?」


 騒いでいた面々はすっかり静かになっていた。

 抱きついていたニコルはそのまま泣いていて、シャルは私の足元で泣き崩れていた。


「ティナ。あなたの冷静さはとても強みよ。にこやかで冷静で、いつでも笑顔のティナでいてね?」

「アイラ…」

「ホウ。その気高さは貴族の見本になるわ。その貴族らしさを忘れないで」

「アイラさん…」

「でもいい加減ティナにぶっ飛ばされるような行為と発言はしないでね」

「うぐっ!オホホホホ…。気を付けますわ」

「リィン。あなたの接しやすさは良いけど、もうちょっと騎士らしさと冷静さを持ちなさいな。寝てばっかはダメよ」

「わ、分かってるよぉ…!」

「レイジ。立派な騎士になれるよう応援してるわ。いつか幼馴染と再会して、一人前の騎士になってね」

「アイラ…。ありがとう…」

「ステラ。あなたの計算の早さ、将来武器になるわよ。あとお姉さんとの再会も祈ってるわ」

「アイラ…。格好つけすぎよ!あんた」

「ニコル。あなたはもっと強くなって。もっと堂々としていられるように。あなたなら出来るわ」

「アイラ様…!うぅ…、ひくっ!」

「イルマ、エルマ。その息のピッタリさ。けっこう売りよ。文字記入の速さと両方生かせるわ」

「「アイラさん…。はい!」」

「シャル。あなたなら遥か上を目指せるわ。きっと大きな役目を持つことが出来るはずよ。更なる高みを目指して頂戴。あなた自身の力で!」

「先輩…、先輩…!」


 私は特に交流が多かったメンバーにそれぞれ言葉を送っておいた。

 みんなして泣きそうな顔をしている。

 ヤバい。私まで泣きそうになってきた。


「さて、そろそろ行かなきゃ…」


 私はニコルを引き剥がし、バッグを手に取る。

 退学の手続きはもう済んでいるので、もうここでのやる事は終わった。


「先生方、今日まで本当にお世話になりました。数々のご指導、ありがとうございました。他の職員の方々にもよろしくお伝えください」

「……」

「うえ~ん!アイラぢゃ~ん!」


 学院長は黙ったまま険しい表情。ナナカ先生はノワールが退学した時並みに号泣してる。


「みんな、私と友人になってくれてありがとう。私は一足早くいなくなるけど、みんなは頑張って卒業してね。二学年は進級目指して頑張って。そしてこれからの時代に活躍出来る人になって。

 どれだけ離れていようと、私はみんなの友人であり続けるから」


 みんな黙って私の話を聞いている。中には泣いている子もいる。

 すると、ティナが私の前に出て、私の手を握ってきた。


「アイラ。もう覚悟は出来ているのですね。グレイシアへ行ってもどうかお元気で。あなたと出会えた事は私の自慢です。どうかお達者で」

「ええ、ありがとう。ティナも元気でね。ホウとどっちが未来の王妃になるか、結果を楽しみにしているわ」

「フフフ。ええ、いずれ決着付けますよ。ね?ホウ」

「そうですわね。わたくしも負けるつもりはありませんわ」


 ティナとホウの王子婚約者争いは、今からでもバチバチらしい。まぁ、仲の良い二人だから良い結果で終わらせるだろう。


「みんな。いずれまた機会があれば再会しましょう?お互い大きくなって立っている形で」


 みんなは一斉に頷く。きっとグレイシアへ行っても、何らかの形でアストラントと関わる事はあるだろう。

 その時に、みんなの活躍を聞けるかな?


「それでは皆さん、ごきげんよう!また会う日まで!」


 私はみんなに背を向けて歩き出す。

 三学年と学院会のメンバーに見送られながら、私は卒業を迎えることなく学院を去ったのだった。

 

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