別れ話
夕方頃、お父様が帰ってきた。
「アイラ!アイラはいるか!」
「あ、お父様。おかえりなさいませ」
「うむ、ただいま。……じゃなくて!アイラ、あのような罪状など聞かなくても良い!今国王陛下に異議申し立てをしてきた」
「しかし、お父様。私、罪状受け入れると言ってしまいましたが…」
「撤回などいくらでも出来よう。お前の事は私が守る!案ずるな」
「アイラ…」
ここでお母様が部屋から出てきた。
「お母様!大丈夫ですか?フラフラではないですか!」
「アイラ…。アイラはどこにも行かないわよね?ここにいるわよね?」
お母様は険しい表情で迫ってくる。いや恐いから。恐いって。
「マリア。アイラはどこにも行かせない。政府の連中の思惑通りになってたまるものか」
「あなた…」
う~ん…。心苦しいけど、これは話を着けないと二人とも暴走しそう。しょうがない。
「お父様、お母様。少しお話があります」
私と両親はリビングで向かい合う形で座っている。私の後ろにはシャロルが控えている。
「アイラ?どうしたのだ。こんな時にあらたまって…」
「アイラ?」
私は目を閉じて決心を決め、しっかりと両親を見る。
「お父様、お母様。大変申し訳ありませんが、私はこの国から去るつもりでいます」
「なっ…!」
「えっ!」
私の発言に両親は揃って驚愕する。
「国の決定は絶対です。変に抵抗すれば、国が何をしてくるか分かったものではありません。お父様がこのまま異議を唱え続けた場合、状況次第によってはリースタイン家が存続の危機に陥る可能性もあります」
「た、確かにそれはそうだが、しかし!」
「私は、今お母様のお腹に宿る新たな家族にそんな光景は見せたくありません!!」
「「!!」」
私が強めに言うと、両親はちょっと驚いたような引いたような反応を見せた。
「私としてはお父様やお母様、使用人さん方や兵士さん方、学院の友人達とお別れするのは辛いです。でも出会いがあるならばどのような形でも必ず別れは訪れます。それは私以上にお父様とお母様が承知のはずです」
「「……」」
「でも私は別れよりも知っている人が苦しむ方が嫌です。だからこそ、それを回避するために別れを選びました。だからもう、異議や抵抗は止めてください。笑顔で国を去りたいんです」
「アイラ…」
「う…、うぅ…」
お父様はうつむいて、お母様は泣き出してる。
「それに私はグリセリア女王陛下からグレイシアへのお誘いを受けておりました。向こうもそう手荒な対応はしないでしょう。
……お父様、お母様。今まで本当にお世話になりました。私はもう十分愛されました。どうかその愛情を、これから生まれてくる子に奉げてあげてください」
「アイラ…アイラぁ…」
「アイラ~…」
両親は揃って泣きながら私を抱き締めた。私もやさしく二人を抱く。
結局前世に続いて親不孝しちゃったなぁ…。
チラッと周囲を見渡すと、周りにいた使用人や兵士も泣いていた。落ち着いていたのはシャロルだけだ。
両親がある程度落ち着いてくると、それを見計らったかのようにシャロルが近づいてきた。
「旦那様、奥様。突然申し訳ありませんが、私からもお話が」
「な、なんだ?」
「こちらをお受け取りください」
「…?なんだこれは?」
「辞表です」
「なっ!」
「ちょっとシャロル!あなたまでいなくなろうと言うの!?」
突然辞表を差し出してきたシャロルに、両親も使用人も驚いてる。
「突然で申し訳ないのは承知の上です。しかし他に渡せる時がありませんでしたので。退職日はお嬢様が出立される日と同日です」
「まさか…、シャロルお前!」
「そのまさかです。私もお嬢様とともに参ります」
「何言っているんだ!お前の家族はどうするんだ!もう話したのか!?」
「いいえ。お手数ですが、代わりにお知らせいただくようお願い致します。反対されるとお嬢様の動きに支障が出ますので」
「シャロル…。何故にそんな淡々と…。アイラは知っているのか?」
「はい、お父様。私は事前に聞いておりまして、国を去り次第私が新たな主としてシャロルを迎える話になっています」
「いつの間にそんな話を…」
お父様もお母様も困惑してる。
シャロルはこの屋敷の使用人の中ではかなり優秀で、将来メイド長になるんじゃないかと言われていたくらいだ。
そんな有能メイドが娘と一緒にいなくなってしまうのだから、困惑も当然だろう。
「とにかく、そういうことですのでご理解お願いしますね。シャロル、ちょっと来て」
「はい、お嬢様」
話にらちがあかなくなるとマズイので、私は強制的に話を切ってシャロルと自室へ向かった。
困惑混乱している様子の両親と使用人と兵士は、私とシャロルが自室へ戻るのを誰も止めなかった。
自室へ戻った直後、私はシャロルへ指令を出す。
「シャロル。急で申し訳ないけど、すぐにノワールのもとに向かって」
「出立の時のお知らせですね?」
「察しが良いのはさすがね。その通りよ。お願い」
「畏まりました。行って参ります」
シャロルは普段のメイドとしての立ち去り方ではなく、忍者のように一瞬でいなくなった。
これで両親へのお別れは済んだ。次は学院と友達ね。
 




