シャロルの決意
一旦、視点がシャロルに移ります。
一人、廊下を歩く私。私の名は、シャロル・バレスタイン。リースタイン子爵家に仕えるメイドの一人。そして、子爵家令嬢アイラ・リースタイン様の専属メイドとして、アイラ様の身の周りのお世話を任されている。
私の母は専業主婦、父は王都の宮殿で働く役人、の末端。それと、アイラお嬢様と同い年の妹がいる。どこにでもいる普通の家庭で私は育った。
幼い頃、私は街で迷子になってしまった。その時に私を助けてくれたご近所さんがいたのだが、その人は当時国で有名だった殺し屋だった。
身分を偽って近所に潜伏していたその人の正体を、私は偶然知ってしまった。
幼いながらも死を覚悟した私に、その人は「いずれ必ず役に立つから」と言って、私に隠密行動術と暗殺術を教えてくれた。周囲には護身術と説明してあったので、親も特に止めたりしなかった。
私以外にも教わっている人がいて、護身術教室みたいになっていたが、ある日その人は「遠くに行かなくてはならない」と言い残し、姿を消してしまった。
その後、メイドに憧れを抱き始めていた私は、親に願い出てリースタイン家のメイドとなった。そして出会ったのが、アイラお嬢様だった。
いつも笑っていて、誰にもやさしくて、かわいらしい人だった。妹と同い年というのもあってか、私も時々妹に接するかのようにしたりもして、お嬢様と接する事が疲労回復にもつながった。
「シャロル。私ね、前世の事を思い出したの」
ある日、お嬢様から突然言われたこの一言に私は戸惑った。
からかっている様子はなく、本気の目をしていた。お嬢様の説明も、嘘を言っているようには聞こえなかった。
そして突如、武術特訓などと言って謎の行動をしだした。その後も『ちゃーはん』とかいう謎の料理を考案しだしたり、『すまーとふぉん』という謎の発言をしていた。
そんなお嬢様を見ていて、なんとなく思っていた。この人にはいずれ何か大きな出来事が起こるのではないか。そして、将来何らかの形で大成するのではないかと。その時に傍で仕え、教えてもらった技でお嬢様を守る事が私の役目なのではないかと。
そう思いながら幾年が経ち、そして今日、大きな出来事が本当に起きた。
聖堂でお嬢様が倒れた。これまでケガは速攻で治り、病気の一つもしない超健康体のお嬢様が。
そして、水晶の謎の強い光。これはお嬢様に対して何らかの力が働いたに違いない、そう思った。
お嬢様から神と名乗る女性の話を聞いて、私の勘が間違いではないと確信した。
神の力が宿っているということは、お嬢様は神の眷属、つまり神の使いということになる。そんな人が大成しないわけがない。お嬢様はいずれ必ず、その名を世界に轟かせる。それはどんな形かは分からない。
ただ、どういう形であれ、私はこの身体が朽ちるその時まで傍でお仕えし、守り続ける。例えそれで、周囲から批判を受けようとも。この国を離れる事になったとしても。家族と決別する事になったとしても。
子供の頃の、お嬢様と私に起きたあの出来事以来、私の主はアイラ様のみ。そう思っているのだから。
私は自室に入ると、部屋の隅に保管していた本を取り出す。
私に隠密術と暗殺術を教えてくれたあの人から貰った本だ。この本には、隠密行動についてと暗殺の仕方等が細かく書いてある。私はそれを最初から読み直す。
今後のために、もう一度習得している技術を見直さなくては。そして、もっと磨かなくては。いずれ、教えてくれたあの人を超えるぐらいに。
そういえば、当時一緒に修行していた二人は、今どうしているだろうか?一人は既に有名人だが。
あの二人に負けないよう、そして、いつまでもお嬢様の傍にいられるよう、メイドとして暗殺者としてもっともっと実力を上げなくては。
次回は、視点がアイラに戻ります。
次回から第二章へ進みます。




