行動開始
学院が始まり、私は三学年へと進級した。これが学院生最後の年となる。
とは言っても私は半年もいられないだろうけど。
新一学年の対応がひと通り終わった頃、学院会三学年メンバーには『次期学院会運営推薦書』と言う物が配布された。
これは以前の学院会会議で私が発案した物。後を継ぐ学院会メンバーの中で、重要ポストに立候補してほしい人、または推薦する人を記入して担当顧問、現在で言うナナカ先生に提出するもの。
推薦する人物の名前と役職、その理由を記入する。特にいない場合は白紙で良い。
提出された推薦書は、先生がタイミングを見計らって公表する。タイミングは先生次第。
何故私がこのような物を発案したかと言うと、シャルを会長に推薦するため。口頭で言った場合は忘れられる可能性が高いし、私が学院会を降りるのを待っていては、その前に国を出る事になる。
後者は後付けだけど、どうしてもシャルを次期会長に押し上げたいと考えた結果、この案を閃いた。
私は一切の迷いなくペンを走らせる。名はシャルロッテ。推薦役職は会長。
彼女はまだ目立った活躍こそ見せていないものの、私と暇を持て余している間ずっと学院会を客観的に分析して、メリットとデメリットや盲点や学院会メンバーの活動態度等を厳しくチェックしていた。
よく手厳しい発言も私と一緒の時にしていたりもして、誰よりも学院会を大切にしている感じに私には見えた。
ここに発言力やリーダーシップ、即断力が加われば会長として相応しい子になるだろう。
まだ身に着けているわけではない。でもそれらを掴むまでシャルは近い位置にいる。彼女なら学院会をもっと大きくしてくれるはず。
「ナナカ先生。これを提出しておきます」
「あれ?もう書いたの?早いね~。あ、うん。そうだね。いつも一緒だったもんね」
「はい。彼女以外考えられません」
「フフ…。確かに受け取りました。預かっとくね」
私が速攻で提出してきた事にナナカ先生は驚いていたけど、私が書いた内容を見て納得した様子だった。
(後の事はお願いね。シャル)
私は先生が職員室へ推薦書を持って行く姿を見ながら、そんな事を考えていた。
後日。学院が休日である事を利用して、私は徒歩でこっそりある場所を訪れていた。
そこは『リーズンログ社』という情報会社。前世の日本で言う『新聞社』と『週刊誌社』が一緒になったような会社。
たまに貴族の不祥事や役人の横領等をすっぱぬく事で有名で、面白がって購入する国民も多い。
私がここへやって来たのは他でもない、シャロルが盗ってきてくれた極秘資料を売り込むため。私がアストラントを出て行った時、政府の借金隠蔽と勝手な政策に鉄槌を食らわすために。
受付に声をかけると、あっさり会社の上層部と接触する事に成功した。家の名前出したら簡単だった。
「いや~、しかしリースタイン家のご令嬢様が一体どんな御用ですかな?何か面白い話でも?」
「面白いかどうかは分かりませんが…。これを見てほしくてこちらへ参りました」
「これは…、何かの資料ですかな?」
私が出した資料を読み始めるお偉いさん。時間が経つにつれ、どんどん顔つきが変わってきた。
「こ、これは本当ですか!?事実なら大スクープですぞ!」
「私の手の者が宮殿に忍び込んで持ってきてくれた資料です。信憑性はありますよ」
「う、うむ…。これが世に知られれば大事ですぞ…。アストラント民はグレイシアを嫌っております。そのグレイシアからこんな巨額の借金をしていたと国民が知れば、現在の政府の権威は総崩れでしょうな。
ましてやここ最近、学院の改革や暴動の鎮圧で知られているあなた様の情報であれば、なお一層混乱は大きいでしょうな。名のある貴族令嬢のあなた様ならば」
「改革などとんでもない。名など小さいものですよ」
お偉いさん方や周りで聞き耳を立てていた記者さんも驚いている。どうやら信用してくれているみたい。
私が学院会創設や学院祭の発案者である事や乱闘騒ぎの鎮圧をした事は、実はこの会社にも話題が飛んできていて、過去に何度かこの会社の新聞や雑誌で私が紹介された事がある。
私への取材依頼も来た事があったけど、お父様が一方的に追い払っていた。……追い払うと言うよりは、お父様の雰囲気が恐すぎて記者が怖がって帰ってしまっていた。ぶっちゃけお父様へこんでた。
「なお、この事は私の両親も知りません。知っているのは私以外に私の専属のメイドと、ヘルモルト伯爵家のノワール嬢のみです。資料の流失や口外には十分注意してください」
「公表するな、と?」
「いいえ。私は近いうち政府の策略によって国を出て行く事になると思います。その時になったら公表の準備をしてください。そして私がアストラントから去った時、その情報を思いっきりぶちまけてください」
「ハッハッハッハ!ぶちまけるとはまた思いきりが良いですな!しかしその様子ですと、もう国を出る覚悟はなされているのですな?」
「はい。でもいずれ帰ってくるかもしれませんよ?敵として」
「ハッハッハ!その時は我々だけでも良い意味で歓迎しましょう。せっかく頂いた情報のお礼をいつかはしないといけませんからな」
「お礼など別に大丈夫ですよ。では、お願いしますね」
「はい。我々リーズンログ社が責任持ってお預かり致します」
私はお偉いさん方と握手を交わして会社を去った。
「話はうまくいきましたか?」
「ええ。順調にいったわ。思っていたよりも簡単に」
「そうですか。それはようございました」
会社を出た直後、シャロルと合流して屋敷へ帰る。
完全に家を関わらせないプライベートなお出かけだったので、私もシャロルも平民と変わらない格好。
シャロルがメイド服じゃないのが、私にとって新鮮だった。
それから五日後。ついに国から私に宮殿への出頭命令が下った。
内容は、学院祭で発生した暴動鎮圧の際の私の過度な暴力。
両親はこれに猛抗議。でも私はおとなしく出頭した。だって流れ分かっちゃってるもん。
アルクザー宮殿の謁見の間に到着すると、国王陛下と王子殿下や国の重鎮達。多くの兵士達が並んでいた。王子殿下は落ち着きがない様子。
そして、進行役と思われる偉そうな態度の役人らしき人が声を上げた。
「リースタイン子爵家令嬢、アイラ・リースタイン。あなたを過剰防衛および殺人未遂で処分します。
本来は懲役刑ですが、グレイシア王国のグリセリア女王があなたを欲していた事もありましたので、こちらで交渉した結果、懲役刑にはせず貴族としての全ての権限と地位の剥奪およびリースタイン家からの家系からあなたを強制的に外した上で、アストラントからの強制出国およびグレイシアへの強制移住の命令を下します」
なんという無茶苦茶な罪状と刑罰。無茶苦茶すぎてしっくり来ない。まぁ、予想通りだけど。
この時、王子殿下は何かを堪えるような辛い表情を浮かべていた。何か葛藤してるんだろうな…。
「なお、この事にあなたの拒否権はありません。何か言いたい事はありますか?」
「ありません。全てお受け致します」
私が素直に受け入れると、国王陛下が口を開いた。
「アイラ嬢。お主には申し訳ないが、そなたの行為をやり過ぎととらえる者もおってだな、こちらの諸事情でそなたを親から引き離す事になってしまった。その点だけは謝罪させてほしい。申し訳ない」
「国王陛下。無礼を承知の上で発言させていただきます。私に対して本当に謝罪の気持ちがあるならば、私が去った後に何があってもリースタイン家は存続させていただきますようお願い致します」
「うむ。確かに承知した。約束しよう」
「ありがとうございます」
「そなたも色々準備があるであろう。特例として執行の日まで自由にしていて良い」
「お心使い、感謝致します」
そうして私は宮殿を出た。ほぼ予想通りの展開となった。
私が屋敷に帰ると、お父様はいなかった。聞いた話だと私に罪状が言い渡されている間に、同行していた兵士の一部が大慌てで屋敷へ戻り、両親に報告していたそうだ。
その報告を聞いたお父様が猛烈に怒って、鬼の形相で宮殿へと向かって行ったそうだ。つまり私と入れ違い。
お母様はショックのあまり倒れてしまって、今は自室で休んでいるとの事。お腹の中の子供に悪影響ないと良いけど…。
帰宅直後、私はシャロルとともにリーズンログ社へと向かい、罪状を言い渡された事を伝えた。同時に公表のタイミングも伝えた。




