昔話と極秘資料
今回の投稿より第四章に入ります。
よろしくお願いします。
学院が準備休暇に入った初日。シャロルが極秘任務から帰還した。
「おかえりなさい、シャロル。怪我とかしてない?無理しなかった?」
「ただいま戻りました。何も問題ありません。ふふ…、お嬢様は任務の成果よりも私の事を心配してくださるのですね。本当、お嬢様はお優しいです」
「当然でしょ。危険を承知の上で依頼してるんだから。当たり前の事よ」
「それがお嬢様の良いところなのですよ。こちらを」
シャロルが持ってきたのは、とある資料。
この資料をシャロルに盗ってくるよう頼んでいた。
「それにしても手間取った?予定より一日遅れよね?」
「少しだけ長く実家に帰省していました。両親に遠回しにお別れを言うのが難しくて…。あ、でもちゃんと伝えてきましたので。両親は気付いてはいませんが」
「そう…」
なんだか人の家族を引き裂いてる感じがして心が苦しい。
シャロルはホントに良いのかな?やっぱり申し訳ないんだけど…。
「ねぇ。疑うわけじゃないんだけど、どうしてシャロルは一緒に付いてきてくれるの?」
何故ここまでシャロルは私に協力するのか。どうしてグレイシアへ付いて行くと即答出来るのか。
私はその点が気になっていた。
「お嬢様は、昔家具の下敷きになりかけた件を覚えておりますか?」
「うん、覚えてるよ」
それは私が10歳の頃。当時屋敷には大きな棚があった。
その棚は四本の脚で立っていたんだけど、ある日前二本の脚が折れて、偶然近くを通りかかった私とシャロルめがけて倒れてきたのだった。
私は咄嗟にシャロルを抱きかかえてジャンプ。ギリギリ回避する事に成功。少しでも動きが遅かったら下敷きになるところだった。という事があった。
思えば前世の時といい、屋敷の時といい、学院の武術大会の時といい、私同じ事繰り返してるわね。前世で神楽庇って、屋敷でシャロル庇って、学院でティナ庇って。
「その事件の後、私が体調を崩して寝込んだ事は?」
「覚えてるよ。懐かしいね」
棚転倒事件の後、突然シャロルが倒れる事態が発生した。
高熱を伴う病気、前世の世界で言う『インフルエンザ』のような病を発病し、シャロルがしばらく寝込んでいた事があった。
この時私はシャロルの事が心配でならなくて、両親や他の使用人達の制止を振り切ってシャロルの看病をし続けた。
でもそれが私の質問とどう関係があるのかしら?
「棚が倒れてきてお嬢様が庇ってくださった時、本来お嬢様をお守りしなくてはいけない立場の私が、咄嗟に何も出来なかった事が悔しくて仕方ありませんでした。
同時に、従者である私を身体を張って守ってくださった事に驚きました。
そしてその後私が倒れた際に、つきっきりで看病してくださった時は、感動で涙が止まりませんでした」
あれ?シャロル泣いてたっけ?う~ん…、覚えてない。
「私はメイドの教育を受けている時、主となる人は従者を物として見る人が多い。見返りや感謝はあり得ないと思うようにと教えられました。
お嬢様と出会う前、研修で別のとあるお屋敷に行った際、その冷たさを身を持って味わいました。
お嬢様も成長すればきっと冷たくなると、失礼ながらそう思っておりました」
研修で経験した以上しょうがないけど、雇う側全員が冷たいわけではない。
「私を守ってくださった時、看病してくださった時は嬉しかったのです。今でもはっきり覚えています。
だからこそ病が落ち着いた後、私は決心しました。この先何があろうと、お嬢様がどんなお立場になろうと、お嬢様に冷たくされようと、私はお嬢様を信じ、この身と心と生涯、持てるもの全てをかけてアイラ様と言うお方にお仕えしていくと。
ですので、私はお嬢様がグレイシアへ行かれるのであれば必ずお供します。そして、お嬢様のお世話をさせていただきます」
シャロルは微笑んでたけど、目は本気だった。
「シャロル…。ありがとう。これからもよろしくね」
「はい、アイラお嬢様」
私はシャロルをゆっくり抱きしめた。
私にとってシャロルは身の周りのお世話を長年し続けてくれた理解者だけど、シャロルもきっと私の存在を生きがいにしてくれたんだと思う。
こんなに良い人が従者で良かった。心からそう思う。
その日の夜。シャロルが盗って来てくれた資料を読む。
「やっぱりね…。私の読み通りだわ」
この資料。実は宮殿にある極秘資料。
シャロルには宮殿へ忍び込んで資料を入手。つまり盗んでくるよう命じていた。
この資料にはグレイシアへの借金に関する事も書かれている。よく見るとその金額はこの国の年間国家予算並。これは確かに返せと言うわ。
この資料が盗まれている事に政府が気付いたところで、借金の事はおおやけには出来ない。つまり騒げない。私はその点を考えて、盗って来てもらった。
以前私が予想した通り、乱闘騒ぎの件を利用して私をグレイシアへ渡らせる計画がしっかり書かれていた。
しかしまぁ、なんという低レベルな計画。王子もこの計画を知っている。あれだけ様子がおかしいんじゃ、すぐ分かるっての。
さて、私もそろそろ動きますか。国にお灸を添えてやらないと。




