鎮圧
何とか新たな怪我人が出る前に庭へたどり着けたみたい。間一髪ね。
「ア、アイラ特別顧問!」
「無事みたいね。間に合って良かったわ。先生方や学院会がここへ向かってるはずよ。あなた達は学院会室へ向かって。途中で学院会と合流出来るはずだから」
「お、お一人で戦うつもりですか!?」
「私の事は良いから!早く!」
「わ、分かりました!」
残っていた警備部を撤退させ、反乱を起こした不良連中を睨む。
レイジが言ってた通り格好は確かに不良だ。長い木の棒とか持ってる。
「さて、私の仲間に怪我を負わせた代償を負う覚悟は出来てるわね?」
「フン!舐められたもんだな。一人で俺達の…は?」
私は反応してきた一人の言葉が言い切るのを待たずして距離を一瞬で詰める。
「ぐごあぁぁぁぁぁぁ!!」
私は間を置かずに無言でぶん殴り、直後高速で移動。隣にいた奴を蹴り飛ばす。その繰り返しで不良連中を次々と殴っては蹴りまくった。
私の攻撃をくらった奴は皆吹っ飛んでいく。そして壁や木々に激突していく。
神力を去年の武術大会の時よりも解放しているので、攻撃威力や移動速度は格段に高い。
数十人はいるであろう反乱者達だけど、私にやられた奴はみんな一撃ノックアウトしていく。
私のスピードが速いせいなのか、相手は全く動けていない。多分目ですら追えてない。
せっかくこんな時なので、私はちょっと試したい事をやってみた。
「こ、この!……ふぁ…」
動きを止めた私に、一人が襲いかかろうとしてくる。が、私が神力を込めた殺気を向けると、相手は口から泡を吹いて気絶してしまった。
初めてまともに使ったけどやっぱすごいね、神力睨み。そりゃシャロルが怖がったわけだわ。
私は高速移動を再開させ、再び反乱者達は私の餌食になっていく。
ある一人を殴り飛ばした時、何もない空間でそいつは何かにぶつかって落ちた。
良く見ると、糸のような物が張り巡らされてるのが見えた。これは当然シャロルの糸。
シャロルが参戦する気満々だったので、走りながら打ち合わせして即興で計画を練った。
私は思いっきり暴れる。シャロルは周辺で身を隠し、糸をある程度の範囲に張り巡らせて相手の逃亡を防ぐ、というもの。
つまりさっきまで余裕こいていたこいつらは、絶対に逃げる事が出来ない状態。勿論奴らがそんなことに気付くことなどないのだけど。
「お、おい!コイツ、マジでやべぇぞ!」
「なんだよあの女!人間技じゃねえぞ!」
「ば、化け物か…!こんなの太刀打ちできねぇよ!」
完全に形勢逆転。連中は恐怖で怯えだした。しかし化け物とは失礼な。
そんな事を思いつつ、私は高速移動と攻撃を止めなかった。友達を傷付けた代償はまだ終わってない。
「覚悟おぉぉぉぉ!!」
「う、うわあぁぁぁぁぁ!!」
「畜生!一旦逃げるぞ!」
「お、おい!なんか分かんねえけど、めっちゃ痛い糸が檻みたいになってて通れねぇ!」
「こ、こっちもだ!やべぇ!逃げらんねぇぞ!」
私の叫びに怯えた連中は、逃げようとしてようやく退路が無い事に気が付いた。
「念のため言っておくけど、逃げる事は出来ないし、謝ってきても許さないからね?全員その意識がぶっ飛ぶまで何度でも痛い思いをさせてあげるわ!」
「ぎ、ぎやあぁぁぁぁ!!誰か助けてくれえぇぇぇ!!」
「ひ、ひいいぃぃぃぃ!!」
逃げ惑っても同じ。私は怒りと放置プレイを受け続けた鬱憤を晴らすため、手を止める事はしなかった。
あれから何分経ったか。私以外で立っている人はおらず、唯一目の前でしりもちをついている奴だけが意識のある状態だった。
「さて…、残りはあんただけだけど」
「ひ…!い、嫌だ…。死にたくない…!」
「殺しはしないわよ。他の連中も生きてるわ。重症だと思うけどね。安心しなさい。痛みは一瞬。意識はすぐに飛んでいくから」
私の言葉に相手はもはや声を出さず、必死に首を振るだけ。
「今更命乞いされてもねぇ。仲間が大怪我を負っている以上、あなた達が無傷とはいかないのよ。あなた達がどこの誰とかなんてどうでも良いわ。私は仲間達が感じた痛みをあなた達に教えたいだけ。人の痛みを知る事が出来るのよ?とても為になるでしょう?」
私は殺気を出しながら指を軽く鳴らす。よく見ると、相手は恐怖で失禁していた。…自分でやっといて思うのも変だけど、今の私って完全に悪役だよね。
「それじゃあ、そろそろ。さようなら」
私は座っていた相手に腕を振りかざそうとした。その時だった。
「アイラちゃーん!」
「アイラー!」
遠くからナナカ先生と王子殿下の声が聞こえた。
「シャロル!糸を急いで解除して。糸をまとめ次第シャロルはすぐに撤退して」
「承知しました」
私の指示にシャロルは素早く応え、物陰から現れた彼女はもの凄いスピードで糸を回収して去って行った。
その速さはまるで、録画した映像を早送りで見るかのよう。もしかして私よりシャロルの方が動き早いんじゃあ…。
「ア、アイラちゃん!良かった!無事……ひっ!」
「こ、これは…!」
「な、なんですの!?この惨状は!」
「アイラ様…」
「せ、先輩…?」
「おいおい…、喧嘩とかのレベルじゃねえぞ…。これ…」
ナナカ先生は私が無事であった事に一瞬ホッとしたようだが、周囲を見て表情が変わった。
王子殿下とホウも驚愕している。
ノワールとシャルは私の事を恐る恐るな感じで見ている。
剣術バカのリィンも、庭の惨状に息をのんでいる。
他にもいつものメンバーはみんないるが、言葉が出ない様子。ともに駆けつけた先生達も同様。
どうしてみんながそんな反応を見せるかというと、それは私と周囲の状況が原因。
この庭のあちこちに人が血だらけで倒れている。私に殴り飛ばされたり蹴り飛ばされたりした後に壁や木々に激突した衝撃で頭を打ったり、吐血をしたりした影響で、壁や草木や地面のいたる所に血が流れている。私自身も手や靴に血が付着している。
それはまるで、大量虐殺が行われた現場のよう。殺してはないけど。
駆けつけたみんなを見たことでようやく怒りが収まった私は、いつもの笑みをみんなに向ける。
「皆さん遅かったですね?もう私だけで片付けちゃいましたよ。あとはこいつ一人だったんですけど、証言確保のために意識持たせておきますか?今すぐにでも他と同じように出来ますけど?」
「ア、アイラ!駄目です!それ以上は!」
「アアアアアイラ様!おおおお落ち着いて!」
行動を起こそうとした私をティナとニコルが止める。私至って冷静なんだけど…。というか私よりニコルが落ち着くべきだと思う。
「これでも落ち着いてるわよ。まぁ、みんなが来たなら後は任せるとしますか。あんた、残念ね。お仲間と痛みを共有出来なくて」
「……」
私は後の事をみんなに任せる事にし、去り際に意識のあった奴に一言添えて微笑んどいた。
相手は怯えたまま、何も言う事はなかった。
やれやれまったく。なんで私の周りはしょっちゅうトラブルが発生するのかしら?