痛い起こし方
武術大会が終わってからわずか三日後。初開催となる学院祭の準備が始まった。間を開けろって言ったのに…。
私が武術大会終了後に謝罪拒否した件については、いつものメンバーとナナカ先生が話し合いをして、私が怒った理由を探っていたらしい。ちなみにノワール情報。
ノワールはあれ以降謝る事はなく、いつも通りに接していた。最初動きがおっかなびっくりだったけどね。
放置された不満を引きずる程私も心は狭くないので、後日みんなに会った時は私はいつも通り接した。私の怒った時からの態度の変わりようにみんな困惑してたけど。絶対謝罪させてなるものか。
学院祭では食べ物の屋台に講堂での劇にその他色んな遊びにと、学院中で様々な出し物が出る。
学問を学ぶ場所が期間限定でお祭り会場へと変貌する。やっぱ学校にはこういう催しがなくっちゃ!あ~!密書でセリアも誘うんだった~!
私は存分に楽しむ予定だけど、遊びとは真逆の空気が学院会室には流れていた。
初開催で先生達も初経験。学院会も武術大会とは違う基礎の無い行事ということもあり、かなりの緊張状態にあるみたい。
緊張する気持ちは解るけど、来場する一般客や保護者にはそういうのが伝わるからどうかしてほしい。
そんな私の願いが伝わる様子もなく、張りつめた空気の中で会議は進んでいく。しかしこんな空気の中で、緊張感を持たずに空気も読まない奴が一人。
「かぁ~…、かぁ~…」
王子殿下のとなりにいるリィンが盛大にいびきをかいて寝てやがる。コイツは入学式の時といい、普段の時といい、テストの時といい、そして今といい、ホントいい加減にしてほしいよ。まったく。
あまりにリィンのいびきがうるさいので、私はシャルと一緒に会議そっちのけでこっそりある物を作った。
私はそれを持って席を立ち、リィンの席へ向かう。起きないので放置していた幹部達やナナカ先生も、私の突然の行動に驚いて話を止める。
「アイラ?どうしたんだい?」
「まぁ、見ててください」
王子殿下の問いかけに私はウィンクをして微笑む。
私がシャルと一緒に作り上げた物は、複数の洗濯バサミに紐を結んで束ねた物。それをリィンの耳たぶ、鼻の穴、唇に挟む。この時点で私が何をやるか知っているシャルはクスクス笑っている。
「ぐふぇ?」
挟まれた痛みで起きたのか、リィンが目をうっすら開けた。けどもう遅い。
私は紐を思いっきり一気に引っ張った。当然、洗濯バサミはリィンの顔面から勢い良く取れて…。
「むああぁぁぁぁ!!いってぇぇぇぇぇぇ!!!!」
リィンは顔面を手で覆って悶えだした。
「フフン!どうよ!」
「ア、アイラ…」
「クスクス…」
「自業自得ですわ~」
「クックックックッ…」
「あはははは!面白いんだけど!アイラ最高~!」
「さすがアイラ様です」
「い、痛そうです…」
「「面白いもの見ました!」」
「見てる私まで痛い…」
私はうまくいってドヤ顔。王子殿下は苦笑いしている。
ティナは静かに笑っていて、ホウも自業自得と頷いてる。
レイジは肩を揺らしながら笑っていて、ステラは大ウケしてる。
ノワールは何故か私を称賛していて、ニコルは痛そうとは言っているけど顔は笑っている。
イルマとエルマの双子姉妹も面白がっている。けどこの二人には別々にしゃべる時はないのか?
ナナカ先生は自分の顔を手で覆っている。
「いってえな!何すんだよ~!」
「あんたが寝てるからでしょうが!いびきうっさいのよ!」
「だからってこんな起こし方しなくても良いだろ!」
「普通の起こし方じゃ起きないあんたが悪い。文句があるならもう一回やろうか?誰かリィンを取り押さえて~」
「すいませんでした。勘弁してください」
私が脅しをかけてようやくリィンは反省した。
私の行動でみんなの緊張が解けたのか、その後は穏やかな雰囲気で会議は進んでいった。今回の会議内容は別にそこまで難しい内容でもなかったので、私自ら意見は出さなかった。というか、シャルとずっとこっそり筆談してたので、まともに話を聞いてなかった。




