放置された件
視点がアイラに戻ります。
武術大会が終了する時間になった。結局、大会中にトラブルは一件もなかったようだ。
何も起きないまま、そして私とシャルは何もしないまま、さらに試合すら見ないまま、今年の武術大会は終了した。
「ねぇ、シャル。思ったんだけど、途中で帰っても良くなかった?」
「いや、さすがにそれはマズイかと…」
「だって私達いる意味ないじゃん!暇すぎるにも程があるでしょ!」
「あはは…、それはおっしゃる通りかと…」
「そもそも定期報告はどうしたのよ!誰一人来ないじゃない!」
「まぁ、確かにこれはちょっと酷いですよね…」
当初の打ち合わせでは、何も起きなくても誰かが定期報告に来る事になっていた。
ところが結局丸一日誰も来なかった。多分、全員忘れてる…。
とりあえずシャルとともに講堂へ向かうと、学院会全ての役員が既に集まっていた。
シャルとともに出入口付近で静かにやりとりを聞いてみる。今は王子殿下がみんなの前に立って、総評をしていた。
「みんなお疲れ様。学院会最初の大きな仕事で、僕がいない状態で良く頑張ってくれたね。僕はそんなみんなを誇りに思う。
次は学院祭だ。学院初開催の催しであって、みんな今回以上に苦労するかもしれない。でもそれが成功すれば大偉業だ。僕も次は会長として奮闘する。大変だろうけど、一緒に頑張ろう。
今日は本当にお疲れ様。何事もなくて良かった」
王子殿下の言葉にみんな誇らしげだったり、達成感を感じてる表情をしているけど、行動開始以降ずっと放置されっぱなしだった私は喜べなかった。
ぶっちゃけ暇すぎた事による疲労感が強い。ホント、シャルがいてくれて良かった。
「ところで、アイラはどこだい?代行のお礼を言いたいんだけど…」
「あ、そういえばアイラへの定期報告忘れてた…」
「え!?そうなの?ということは、アイラちゃんもシャルロッテちゃんもまだ学院会室にいるんじゃ…」
「まずい…。急いでアイラ様のもとへ………あ……」
王子殿下の言葉にステラがようやく報告忘れを思い出し、ナナカ先生がそれに驚く。
ほかのみんなも思い出したようで、ノワールが講堂から出て行こうと振り向いたところで私とシャルに気が付いた。
「もう自らここに来たわよ。まったく…」
「今思い出したんですかぁ!?ひど~い!」
私は呆れた態度を見せておこアピール。シャルはみんなが今更思い出した事に憤慨してる。
「あ…、あぁ…、アイラ…様…」
私から一番近距離にいたノワールはまるでこの世の終わりかのような表情で声を出せてない様子。いや、そこまでショック受けんでも。別に殺したりしないよ?
「えっと?何がどういう事だい?」
王子殿下はみんながヤバいみたいな表情を浮かべている事に理解が至らないらしい。キョトンとした表情をしている。
「会長!アイラ先輩も私も、学院会室に入ってから今までずっと何もしなかったんですよ!誰も定期報告に来ないから!」
「シャル、落ち着きなさい。殿下、シャルの言う通り報告が来なかったため、学院会の行動も把握出来ずに待機したままでいました」
「そうだったのかい?じゃあ、アイラとシャルロッテは一日中学院会室にいて、一切情報も得られなかったと…」
「はい、そうです」
「ということは、アイラ無視で学院会は動いていたと…」
「そういうことになりますね」
私とシャルの話を聞いた王子殿下は、頭を軽く押さえながら複雑な表情を浮かべる。
私やシャルが放置された気持ちも解るんだろうけど、多分みんなを責められないでいる。
直後、ノワールが私の前にやってきた。まだ顔色が悪い。
「アイラ様、誠に申し訳ありませんでした。言い訳は致しません。思うように処罰をお願いします」
「ア、アイラさん!あのですね!忘れていました事はお認めしますが、わたくしは決してサボったりしていませんから!」
「ホウのサボりは私が罰しておきます。誠にすいませんでした」
ノワールが謝罪してきたかと思えば、ホウが慌てた様子でサボりを自白するような発言をしてきた。ティナが代わりに罰しておくと言った上で、謝罪してきた。
というか、ホウはサボってたんだ…。またティナに後でお仕置きされるんだろうなぁ…。
「謝るのをやめなさい。全員謝罪は受け付けません」
みんなこぞって謝罪しようとする姿勢が見られたため、私はそれを制止させた。止められたみんなは驚いた表情をしている。隣にいるシャル含め。
「シャルへは後程謝れば良いです。ですが私には謝罪は不要です。逆に迷惑です」
「ど、どうして?みんな反省してるんだよ?」
「お察しいただければ幸いです。シャル、あなたもお疲れ様。帰ったらゆっくり休んでね。一日中私に付き合ってくれてありがとう」
「い、いえ!とんでもないです!一緒にいれて楽しかったです!」
「ふふ、そう?ありがと。先生、申し訳ありませんが帰りのホームルームは欠席させていただきます。お疲れ様でした。失礼します。じゃあね、シャル」
「は、はい!お疲れ様でした!」
「え?ちょっと!?アイラちゃん!?」
私はシャルを労い、ナナカ先生の声を無視して一方的に講堂を出た。
私が謝罪を受け付けない理由は、まず謝罪を受ける事が私自身前世の頃から苦手である事。そしてずっと放置され、総司令代行として頼られたと思ったらまた放置されを繰り返したあげくで謝罪など、都合良く感じて腹立つパターンだ。
なのでこのまま謝罪を受け入れれば堪忍袋の緒が切れそうな気がしたから、わざと謝罪を拒否して帰宅する事を選んだ。
「そんな事があったのですか。という事はニコルも…」
「その中に入ってるわよ」
「はぁ…。申し訳ありません。本当に。何をしているのかしら?あの子はまったく…」
私は講堂を出た後、そのまままっすぐシャロルと合流し、馬車で下校中。今は馬車の中でシャロルに出来事をざっくり説明したところ。
シャロルの謝罪はニコルが定期報告を忘れていた事の謝罪。とは言ってもシャロルは無関係だし、謝ってきても何とも思わないけど。
「学院会発足後といい今回といい、なんだか私良いように使われてるような気がするのよ」
実は今日シャルといる間、頭の片隅でずっと考えていた。今の学院会に私は必要なのかと。
学院会を考えたのは私。役割を決めたのも私。自ら権力を放棄したのも確か。でも放置されすぎてない?私。
「私もう学院会辞めても良いかな?」
「発案者が一年経たずに辞めるのはどうかと…」
「やっぱそうよねぇ…。もういっそ、シャルが言ってたようにガンガン突っ込んで行こうかしら?」
「それも一つの手段かと。放置したらどうなるかを周囲に教え込む形で」
「仕打ちをしろと?私そこまで独裁的にはなりたくないわよ」
「そうですかね?その方がお嬢様が功績を独り占め出来て、進路が楽になると思います。お嬢様が気にかけてらっしゃる、シャルロッテさん…でしたっけ?彼女を後継として優位な位置に押し上げる手段にもなると思いますが…」
「なるほどね~。まあ、ゆっくり考えるわ~」
ここで話は終わった。けど私の頭の中では『進路』というワードが引っかかっていた。
(進路か…。そういえばまともに考えてなかったな…。三学年に上がったらそういう話来るし。
……卒業したら家を出て国を超えて、セリアのもとに行くのもアリかもしれない。でも家的に難しいかな~…)
私は不意にそんなことを考えていた。
セリアとは未だに密書を続けている。おかげで前世の記憶が少しずつ蘇ってきている。おかげで一年前に学院で再会した時よりもセリアの事が恋しくなっている。
セリアとの事はともかく、今年の武術大会は終わりを告げた。去年は優勝直後にトラブルに巻き込まれ、今年は究極に暇で、私って武術大会に良い思い出がない。ていうか学院で思い出作りした覚えがない。
(はぁ、せめてひとつだけでも良い思い出作りしたいなぁ…)
私はそう思いながら、馬車からの景色を眺めるのだった。




