学院長とナナカ
視点がアイラから外れます。
アイラとシャルロッテが暇を持て余している時、活動する学院会の動きを学院長とナナカが眺めていた。
「なんだか去年までと雰囲気が違いますね。張りつめてるって言うか…」
「おそらく学院会の影響じゃろう。あちこちに警備を張っておる。時々周囲の学院生に交じって厳しい目で周囲を見ている者もおる。去年の事もあってか、相当厳しい警備体制を敷いているようじゃ」
「なんだか、私達教員より頼りになりそうなんですけど…。会議はずっと聞いてましたけど、あまりに予想外と言うか…」
「うむ。何かあっても我々より一足早く行動するじゃろう。それにしても、アイラ嬢はすごい子じゃな。政策、財務、警備、総務。国とほとんど変わらない組織形態を学院内に作ろうとは…」
「そうですね…。今日の指揮もアイラちゃんがとってますし…。学業優秀で運動能力抜群で行動力や指揮能力や指導力があって、なのに一切驕ったところが無くて、それ以前に謙虚で。私、アイラちゃんには感心しっぱなしなんです」
「ほう。学院生時代に『奇跡の秀才』と呼ばれていたお主がそれほどまで褒めちぎるとはのう」
「や、止めてください…。昔の話ですよぅ…」
現在は学院の教員であるナナカも学院の卒業生であり、学院生時代は当時の学院生や教員から『奇跡の秀才』と呼ばれる程の成績優秀者で評判が良かった。実はその時のナナカの担任が現在の学院長だったりする。
卒業後は国の機関を始め様々な所からオファーが来るほど引っ張りだこだったが、ナナカはその全てを断り、教員免許を取得した後に学院の教師として再び学院に戻ったのだ。
そんな過去を持つナナカが常に驚いている存在がアイラだ。ナナカから見てアイラの功績は、既に自身の過去の成績を凌駕する程の差を感じていた。
「アイラちゃんが卒業したら、王子殿下とも近いわけですし、相当高い地位に就きそうですよね」
「そうじゃの。リースタイン子爵家の後継でもあるが、それを除いても進路には困らんじゃろうな。
それはともかく、今は学院会じゃ。警備以外にも出場者や学院生達の誘導までやっとるからの。他の学院生からの評判次第によっては、学院会は今後大きな力を持つかもしれん」
「大きな力、ですか…。確かに王子殿下が会長ですもんね」
ナナカはリベルト王子の存在で納得するが、学院長は首を横に振る。
「王子殿下の会長の立場はあくまで表向きじゃろう。発案者であり役職を独断で決めたアイラ嬢が権力を持っておらんはずがない」
「まさか、アイラちゃんが裏で学院会の全てを動かして…?」
「可能性じゃがな…。じゃが彼女が相当な切れ者である事は違いない。彼女が新たに発案した学院祭もおそらく彼女の手の内にあるじゃろう。もしかすると、わしら教員もアイラ嬢の手のひらで踊らされておるのかもしれんな」
「まさか、それは考え過ぎな気が…」
「どうにせよ、アイラ嬢は卒業までに学院会の存在を確立させ、必ず後継者を育てるはずじゃ。いや、既に後継者がおってもおかしくない」
「後継者…。思えばアイラちゃん、やたらシャルロッテちゃんと一緒にいるような気が…」
「やはりの。後継者候補というわけじゃの。ただ、今はまだアイラ嬢は学院という檻の中じゃ。これが羽ばたいたら、将来とてつもない権力を握るとわしは思っておる。彼女が国に変革をもたらす可能性も無くはない。歴史上の偉人は皆、周囲の仲間すら変えたと言われておるからの。今の学院会の中でも、ノワール嬢が変わったと聞いておる。そう考えればアイラ嬢が偉人にというのも可能性がある」
「確かに最近、ノワールちゃんが変わってきてるんです。学院会でも自ら仕切る立場に就きましたし、アイラちゃんの尾行騒ぎ以降、話すのはアイラちゃんだけだったのが最近は他の人とも話す姿を見かけるんです。以前よりかなり愛想も良くなって、本人が言うには『アイラ様のおかげです』て言うんですよ」
「既に人を変えておったか。本当凄い子じゃ。裏を返せば恐ろしいが。ガウス子爵は一体どんな教育をしたのやら…」
学院長は警備や誘導やパトロールであちこちに動き回る学院会の面々を厳しい目で見ていた。
(それにしても軍さながらの雰囲気じゃ…。誘導している者達の態度も文句がない。普通の学院生だった者達をこの短期間で一体彼女はどうやってここまで…。アイラ・リースタイン。一体何者なのじゃ?もしやグリセリア女王はアイラ嬢の力を見抜いて誘ったのか?だとするとアイラ嬢はずっとグレイシアから狙われ続けるじゃろうな…)
学院長はアイラが待機している学院会室がある方向を向く。
(アイラ嬢。そなたはアストラントの味方か?それとも敵になるのか?)
学院長は状況次第によってはアイラがアストラントの敵になるのではないかとも思っていた。それだけアイラの能力を買っていた。
しかし実際のアイラは学院会で権力を持たず、各部署のレベルの高さも各自の自主的な訓練やシミュレーションによって確立されたものであって、アイラが全くの無関係という事など学院長は知らなかった。
また、ナナカも学院会の行動の全てを把握しているわけではないので、同じくその事は知らない。
そしてノワールが変わってきた事やシャルロッテが近くにいる事が、単なる偶然である事も、ましてや学院会や学院祭の発案が前世の記憶によるものなど、学院長もナナカも他の教員も知る由もなかった。
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「ヘックション!!」
「先輩、大丈夫ですか?」
「大丈夫…。誰か噂してるのかなぁ?」
「良い噂だと良いですね!」
「ねぇ~。それにしても暇だわ~」
「暇ですねぇ~」
シャルロッテとともにぐうたらするアイラ。
まさか学院長とナナカが噂をして勝手に憶測を立てられているなど、アイラは知るはずもなかった。