レイリーの想い
視点がレイリーへ移ります。
静かな部屋で何もせず、窓だけを見る。
ここ数日ずっと、こんな日々が続いている。
「お姉様、失礼します」
私の部屋に一人の少女が入ってくる。
ノワール。私のかわいい妹。
「あら?ノワール。どうしたの?」
「お姉様。今日アイラ様と二人きりで、一体何を話されていたのです?」
「あなたが知る事ではないわ。秘密事項よ」
「アイラ様も話してはくれませんでした。何故私に隠すのです?」
「あなたは気にしなくて良いの。その事だけなら下がりなさい」
「……分かりました。失礼します。何かあればお呼びください」
彼女は部屋を出る。最後の言葉は完全に使用人が言うべき言葉だ。
どうやらあの子は夜かなり遅い時間まで起き、朝は日の出とともに起きているらしい。
私が牢屋行きになる前はそんなことはなかった。おそらくは私に何かあった場合の対処の為だろう。
私はずっと重い病気に蝕まれている。お医者様でも手の打ちようがないらしい。
あの子を支え守ってあげなければいけないはずなのに、迷惑を掛けっぱなしだ。
この屋敷に残っている少数の使用人によると、親は国政会議等は出ているらしいがそれ以外はかなり好き放題のようだ。
昔から何も変わっていない。親も兄も欲望に満ちたクズだ。
この先私がいなくなって、ノワールが何らかの形で家を出ればヘルモルト家は壊滅するだろう。
クズ達に家を保つ力は既にない。本当、落ちたものだ。
私の死は刻々と近づいてきている。容体も日々悪化しているのが分かる。
もう残された時間は少ない。だからこそ、かわいい妹の事を妹が話題にする彼女に託してみようと思った。
リースタイン子爵家令嬢、アイラ・リースタイン。
なんとも不思議な子だった。ノワールが言っていた言葉に出来ない不思議な感覚というのが、確かにアイラ嬢にはあった。
一目見た瞬間に、彼女になら妹の事を任せられると、直感的に思った。
初対面の上、直感なので全く根拠がない。
でもあの時の私は確かにそう感じたのだ。
彼女ならきっと私の願いを受け続けてくれるだろう。ノワールへ手を差し伸べ続けてくれるはずだ。
「アイラ嬢、頼みましたよ。どうか妹を助けてあげてください。この牢獄と同じような空間から、あの子を出してあげて…」
私はつぶやく。
手段はどうだって良い。それこそ国外へ飛ばす形でも、それがノワールにとって幸せな道ならば。
「さて、また学費の事を考えなければ…」
ノワールは学院に通うための学費を私が出している事に気付いているだろうか?
全額私の貯金ということに。
親や兄になんて私の財産を渡してなるものか。
でもマズイ。現在の私の貯金ではノワールが卒業出来るかどうか怪しい。
もし中退なんて事になったらノワールはどうするだろう?
それ以前にその段階で私は生きているのだろうか?
…結局、私は今しか考えられない。未来がない。悔しい限りだ。
「ノワール。あなたはどういう形でもいずれこの家を出て…。
そして、世界を見て。もっと強くなって、いつか人を支えられる人になって…」
どこへ向かって言っているかも分からない、妹への想い。
私は最後まで妹の事を考える。短い人生だったけど、今までの事に悔いはない。
心残りがあるとすれば、妹が歩む道を見る事が出来ないということか。
「ノワール、アイラ嬢。あなた達に、神のご加護があらんことを」
それだけつぶやいた私は、そのまま就寝するのだった。




