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異世界で最強 ~転生と神の力~  作者: 富岡大二郎
第十四章 渦の形成
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メイド試験前日

後半で視点がアイラから外れます。

 ノーバイン城の使用人試験に関する準備は着々と進んでおり、いよいよ試験開催の前日となった。

 セリアとノワールは今回の試験を利用して自分の専属メイドを獲得する気満々のようで、セリアに至っては何度も受験者の様子を見に行こうと企んでは側近達に阻止されてた。

 ノワールも今回の試験に動きを合わせるため、イストワール領の開拓は一旦お休みしてるそうな。開拓に参加していた人達も今はそれぞれ家に帰ってるんだそう。


 そんなノワールと私は倒れて療養しているらしいジオの様子を知るために、ウォーム街にあるジオの実家であるお惣菜屋さんへ向かった。もちろんお忍びで。


「いらっしゃ~い!お惣菜はどうだい?」


 ジオのお母さんは今日も店に立っている。奥の厨房にご主人がいるのも見える。そういえばご主人とは会話したことないわね。


「こんにちは~」

「お久しぶりです」

「あら、いらっしゃい。しばらくぶりだねぇ。二人とも美しさに磨きがかかったんじゃないかい?前に会った時よりも別嬪に見えるよ」


 明るく世辞を並べるおばさん。でも全く嫌な気はしない。相変わらず接客上手ね。


「にしても今日もお忍びかい?」

「はい、まぁ」

「実は今日はこちらに用がありまして」

「ウチにかい?惣菜売ってるだけだけど?」


 私がここに用があることを伝えると、おばさんはキョトンとした。

 次にノワールが用件を切り出す。


「実は人づてにジオさんが倒れたと聞きまして。心配になって伺わせていただきました」


 ノワールの言葉に続くように私が頷くと、おばさんは神妙な面持ちに変わった。


「そうかい…。わざわざあの子のために来てくれたのかい。あんな子のために申し訳ないねぇ。ウチの馬鹿息子なら今は部屋で寝込んでるよ。ロクに部屋から出て来ない日が続いててね。身体はきっともう大丈夫だと思うんだけど、何かに悩んでる様子なんだよ」

「そうでしたか…」


 ノワールがおばさんと会話している間、私はジオが何で部屋から出て来ないのかを察していた。

 ジオが悩んでいる内容は推測が付いてる。一つはイストワール領領主の側近というポジションへのノワールからのオファー。もう一つはそのイストワール領を調査していた時にドイル将軍から言われたらしい忠告。おそらくこれらがジオの中でプレッシャーとしてループしていて、それが自信喪失状態へと繋がって動けなくなってる。あくまで私の推測だけどね。


「そういえば、ノワール様はウチの息子を側近に誘ってくれたんだってね。他の兵士さんから聞いたよ」

「ええ。ジオさんは今の私にとって特に信頼のおける方の一人ですから。歳も近いですし、一緒に活動できると思ったのですが…」

「そうかい…。方向音痴で情けないウチの息子を信頼してくれているのは嬉しいよ、本当に。でも…」


 おばさんは言葉に一呼吸挟んだ。


「本当に申し訳ないけど、ウチの息子は今知っての通り倒れた身だ。あの様子じゃあこの先兵士そのものを続けてるかどうかも怪しい。これから領地一つ背負っていく領主様の側近なんぞ、あの子じゃ務まらないと思うんさ。

 ノワール様のような良い人なら、今後もっと優秀な人達が付いてくれるだろう。だから勝手で悪いけどウチの息子の事は…」

「諦めますとは言いませんよ?」


 おばさんが言い切る前に、ノワールが被せるかたちできっぱり回答を返した。


「今のジオさんには考える時間が必要だと思っています。誰にでも物事に悩む時間が必要な事はありますから。それに今のはお母さんの考えですよね?私は本人の言葉で受け入れていただけるのかお断りされるのかを聞きたいのです。私はジオさんご自身から返答をいただくまでずっと待っています。もしジオさんがお断りされるのであれば、その時は身を引きます」

「ノワール様…」


 ノワールの瞳はまっすぐおばさんを見ていた。「自分は半端な理由でジオを誘ったんじゃない」そう訴えるような瞳で。


「…そうかい。ならいつか必ず、あの子には答えを出させるからさ。それまで待っておくれよ?」

「はい。いつまでも」


 おばさんはノワールの表情から何か感じ取ったらしい。微笑んでジオに必ず返答させる事を約束した。


 ジオも悩むのは別に良いけど、私とセリアがノワールとの関係の行く末を見続けている事を彼は覚えてるかしら?


 その後惣菜をいくつか買った私とノワールは店を後にした。

 城に戻る途中でシスターのソニアを見かけたんだけど、シスターのお仕事真っ最中って感じがあったから、あえて声はかけなかった。ひとまず元気そうで何より。





「お帰りなさいませ。アイラ様、ノワール様。メイド長よりこちらが届いております。どうぞ」

「ただいま、ジーナ。これは…、リスト?」


 城の別館に戻ると、留守番をしていたジーナから今回の使用人試験の受験者リストを渡された。城のメイド長が持って来ていたらしい。







 同日の夜。私達別館メンバーはそのリストを眺めながら話し合いをしていた。その内容は二つ。

 まず一つは、リスト上にミルカ・ヴィーナスという名がある。この名前、転生者リストに載っている私の前世時代の友人、井端美香利の名前と一致する。思えば彼女はグレイシア王国にいる情報だった。

 そしてもう一つ。シャロルがギルディスさんから暗殺を教わっていた頃、シャロルと共にギルディスさんの弟子として習いに来ていた姉妹弟子、シャーリィ・オルランドとナタリア・マッチレスの名もリストにあった。

 城で働くかもしれない人達の中に私達と面識のある人がいる可能性。もちろん同姓同名という場合もありうる。でも私達はこの事で話し合いをせずにいられなかった。


「しかし名前だけでは確証が得られませんね。私が隠密で動いて確認して行きましょうか?」

「私は反対。もし記載されてるシャーリィさんとナタリアさんが同姓同名じゃなくてあんたの元姉妹弟子だったら、隠密で探ろうとしたところでバレるかもしれないでしょ?」

「た、確かに…。言われてみればそうですね…」


 隠密術を使って自身の姉妹弟子だった二人かを探ろうと考えたシャロル。けどホントに本人達だったらバレるリスクが高い。


「あ、じゃあこれ使う?」


 ここでセリアが何か思い出したように異空間収納から道具を取り出した。


「グリセリア様、それは?」

「望遠鏡と双眼鏡」


 アテーナの問いにしれっと答えるセリア。いやまぁ、望遠鏡と双眼鏡なのは私はすぐ分かったけどさ…。


「これで遠くからメイド候補達を覗き見しちゃえば顔を確認できるでしょ」


 名案と言わんばかりに堂々と胸を張るセリア。でも私はそんな事どうでもいい。気になる事は別にある。


「セリア。その二つはどうしたの?」

「造ったの」

「いつ?」

「最近」

「聞いてないけど?」

「言ってないもん」

「仕事は?」

「もちろんちゃんとやったよ~」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」


 私は「本当に仕事サボらず造ったのか?」という疑問の目でセリアを見つめる。

 対するセリアは若干私から目を逸らしてる。


「……すいません。ちょっとサボりました」

「レンズはここだよね~」

「ああぁぁぁぁ!待って!すいませんでした!やめて!レンズの部分にペンキ塗ろうとしないでぇぇぇぇ!!」


 やっぱりこの子はまた仕事サボってた。今回は役に立ちそうな物だからまだ良いけどさ。


 結局レンズ塗りつぶしはできなかったから、代わりにお説教しておいた。





*************************************





 ノーバイン城内使用人受験者専用区画。この区画にあるメイド候補達の控室では、各々が試験に備えて準備や心構えをしていた。

 緊張している者、緊張しないように気を紛らわせている者、落ち着いている者。様々な感情が混ざるこの区画には何とも表現しがたい空気が漂っていた。


 その区画内にある一室。この部屋の中では二人のメイド候補が明日の試験に向けてスタンバイしていた。


「んん~。いよいよ明日ね~。大鎌振り回すより気分は楽だわ~」

「ちょっとシャーリィ!今の言葉誰かが聞いてたらマズイって!」


 身体を伸ばしながらリラックスしているポニーテールの濃いピンク色の髪色の女性。そして彼女の発言に焦る茶色ボブショートヘアーの眼鏡をかけた女性。

 この二人こそギルディスの弟子でありシャロルと姉妹弟子の関係であるシャーリィ・オルランドとナタリア・マッチレスである。


「誰も聞いちゃいないわよ。聞かれたところで消すだけだけど」

「死神さんはすぐそうやって物騒な事言う。もうちょっと平和に生きていこうよ」

「同業のあなたに言われたくないわ」


 平和主義志向のナタリアにツッコミを入れるシャーリィ。


「そういえば、さっきちょっと気になる話を耳にしたのだけれど」

「ん?」

「まだ確かな情報ではないのだけれど、もしかするとここにシャロルがいるかもしれないわ」

「え!?」


 シャーリィの言葉に驚くナタリア。


「すれ違ったメイド達の会話がたまたま聞こえてね。その会話の中でシャロルって聞こえた気がしたの。だから興味本位で背後から盗み聞きしていたんだけど…。

 城のメイド達の間で❛隙なし完璧最強メイド❜とかいう通り名があるメイドがいるみたいなのよ。そのメイドの名がシャロルって名らしいの。それが私達の知ってるシャロルかどうかは分からないけどね」

「そうなんだ…。でも本当に私達が知っているシャロルだったら良いね。一緒に同じ職場で働けるんだし」

「そうね。まぁ、仮に本人だったとして、暗殺術を捨ててないか気になるけど」


 シャロルが受験者リストから二人の名を確認したように、彼女ら二人もシャロルがいる可能性を考え、久々に旧友に会えるかもしれないと心躍らせていた。





************************************





 所変わって別の部屋。ここには試験受験者のエルミナ・マヨーアとクルヴィ・オイゲンという人物がいる。

 エルミナは紫色の髪を肩まで伸ばし、髪色と同じ紫色の瞳が特徴。控えめで大人しい印象を持たれる見た目をしている。

 クルヴィは焦げ茶色の髪を首元まで伸ばし、黒い瞳をしている。かなり色白な肌で人形のような容姿をしている。


 この二人は初対面であり、たまたま部屋が一緒になっただけの関係である。


「いよいよ明日ですね…」

「そうですね」


 緊張を隠し切れない様子のエルミナ。対するクルヴィは微笑みながらも感情はほぼない。


「クルヴィさんは、緊張とかしない方ですか…?」

「そうですね。あまり」

「そうですか…。少し羨ましいです…」


 ここで二人の会話は途切れる。

 特に秀でた特徴のない二人だが、この二人がそれぞれ今回の試験を通して運命的な出会いをする事になるとは、二人もその相手もこの時は知る由もなかった。





************************************





 再び変わって別の控室。ここは先程までの二部屋よりも部屋が大きく、三人部屋となっている。


「はぁ…。緊張します…」


 小さくため息をついて緊張している様子の小柄な少女。茶髪おさげヘアーが特徴で、名をエコニル・ニジデスという。


「確かに緊張するよね~。何か緊張を誤魔化せれば良いんだけどね」


 エコニルの発言に桃色のツインテールを揺らしながら同調し、緊張を誤魔化せないかと言う少女。彼女こそ井端美香利の記憶を持って転生したアイラの友人、ミルカ・ヴィーナスである。


「気持ちは解らんでもあらへんけど、ソワソワしてたってどうしようもない事やで?こういう時は何も考えずゆっくりしてた方がええよ」


 エコニルやミルカと異なり、全く緊張を見せない黒色ロングの髪をおさげにしている犬系の獣人トコーラ・イズイヌルは、二人の傍で紅茶をすすって完全にリラックスしていた。


「すごい落ち着いてらっしゃってますね…。どうしたらそんなに落ち着けますか?」

「ざっくり言うと物事を予想しない事やな。緊張かしてどうしよ~ってなっていろんな事想定してまうから悪い事も考えてもうて余計緊張してまう。どうにかなるやろ~って大雑把に考えれば、何となく落ち着けるようになるで」

「誰もがそう簡単にできるとは思えないけどなぁ…」


 エコニルの問いにリラックスしながら答えるトコーラ。ミルカは控えめにトコーラの考えの難しさを伝えた。


(はぁ…。不思議な夢と偶然を頼りにここまで来ちゃったけど、これで目的果たせるかなぁ…?メイドになれたとしてもアイラ・ハミルトン侯爵に会えるとは限らないし…。今考えると突っ走り過ぎたかなぁ…。それにここに来て未だ百合の興奮が達成できてない…)


 ミルカは心の中でため息をつき、自分の目的が果たせるかどうか不安に駆られていた。

 彼女が今回の試験を受けに来た理由。それは試験に合格する事がメインではなく、アイラと出会う事であった。

 夢でハルクリーゼからアイラに会うよう伝えられていた彼女は、実家で起こったとある出来事を気にアイラに会う決心をし、夢だけを頼りに王都まで来ていたのだ。もちろん夢に出てきてアイラに会うよう言ってきた人物がハルクリーゼある事も、探しているアイラが前世の頃の友人である事も、ミルカはまだ知らない。

 ついでに前世の頃からの彼女の趣味である女性同士がイチャイチャする光景にも巡り合えず、彼女の心はいろんな意味で満たされずにいた。


(はぁ…)


 その結果ミルカの心の中のため息は増える一方であった。






************************************





 本気でメイドを目指し試験を受けに来た者。

 何か意図があって試験に参加する者。

 全く別の目的を持って試験に参加する者。


 様々な目的と思考が混ざる空気の中、試験の時は刻々と迫っていた。

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