ヘレナとの会話
「あなたが何故山脈にいたのかはひとまず分かったわ。それで?死にきれなかったあなたはこれからどうするの?何か考えとかあるの?」
「……分からない…」
「今の魔王国に居場所はないのよね?」
ヘレナは無言で頷く。
「それなら、しばらくの間ここにいる?」
「え?でもさすがにそれは申し訳…」
「遠慮はいらないって。ここには私以外にも住人いるけど、私から説明しとくから」
「あ、あの…。ここはグレイシア王国の王都だって言ってましたけど、ここの建物は共同住居かなにかですか?」
「んーとね、この王都フェルゼンにはノーバイン城っていう王族がいるお城があるんだけど、城には別館と呼ばれる増築された区画があるの。そんでここがその別館。この部屋はノーバイン城別館の一室ってわけ」
「え…、ええぇぇぇぇ!?」
ヘレナは割と大きい声量で驚いた。うん、もう元気そうね。
「じゃ、じゃあ…、ここはグレイシア王国の王城の一部…」
「うん」
なんかヘレナがワナワナし始めた。
「わ、私…、魔王国じゃ単なる一般民なんですけど…。まさか私の事は城の外で話題になってるんじゃあ…」
「なんでそう思うの?」
「だってそうじゃないですか!?誰も入らない山脈に魔王国の民が倒れてて、隣国の王城にまで運ばれてきたんですよ!たくさんの人の目に触れるじゃないですか!」
「それなら心配ないわよ。まずグレイシア国民の目には触れてないし、あなたの存在はまだほんの一部の者しか知らない。周囲に知られないようにはしてあるから」
「そ、そうなんですか…?」
「そうよ。安心なさいな」
私はヘレナの頭を撫でて落ち着きを促す。
自分が隣国の王城にいる上に、ここまでの経緯を考えたらそりゃ焦るか。ちょっと配慮が足りなかったかな。
「私はまた一旦席を外すけど、少しの間一人でも大丈夫そ?」
「あ、はい…。大丈夫…だと思います」
私は部屋の外にいるシャロルやエウリアとメリッサに一旦報告をするため、ヘレナに一言確認をして部屋を出た。
「いかがでしたか?お嬢様」
私が部屋を出た直後、目の前で待機していたシャロルが声をかけてきた。
「うん、大丈夫そう。普通に受け答えできてるし、自分が山で倒れる前までの記憶もちゃんとあるみたい。私が確認した限りでは身体にも精神にも異常はなさそう」
私の言った事に驚くリアクションができてる時点で十分元気でしょうしね…。
「じゃあ…、診察…、必要…なさそう…?」
「それは一応やるべきじゃあ…」
メリッサがボソッとした声量で診察をしなさそうな判断をしようとしてたから、私は控えめにツッコんだ。メリッサの場合知識があっても医師免許持ってないからなぁ…。強く「診察しろ」とは言えないのよね…。
四人で色々話し合った後、私はエウリアやメリッサを連れてヘレナのいる部屋へ入った。
でもってメリッサが診察をしたんだけど、発言はほぼエウリアだった。メリッサって多分エウリアいないと生きていけないんだろうなぁ…。
診察の結果、ヘレナの身体はもう問題なさそうとの事。ただ若干の倦怠感がまだ残っているらしく、もう少しの間は安静にしておくべきとの事だった。
というわけで、現在ヘレナがいる部屋はそのままヘレナに貸し出しということになった。この事は事前にセリアと話し合い済み。
エウリアとメリッサが警備の仕事に戻った後、シャロルがヘレナの身体を拭いてあげた。
ヘレナはメイドという職業こそ知っていたものの直に見たことはなかったらしく、シャロルの事を興味のある目で見ていた。シャロルもそれを解っているのか、常時ヘレナにニコニコしてた。
その後私はヘレナの傍に座って会話を再開させる。
「ところでヘレナのフルネームを聞いてなかったけど、聞いても良い?」
「はい。ウェルスナです。ヘレナ・ウェルスナ」
「年齢はいくつ?」
「16です」
苗字と年齢は訊ねた理由は、セリアから念話で「フルネームと歳を聞いといてちょ!」という謎にぶりっ子口調で謎の語尾が付いた依頼を受けたから。
「あの、さっきのメイドさんなんですけど…」
「ん?シャロルのこと?」
「はい。あの方はここのお城で働く方なんですか?」
シャロルについて訊ねてきたヘレナ。やっぱりメイドが気になるのかしら?
ちなみにエウリアとメリッサは二人が警備兵である事をエウリアが自ら説明してたから、ヘレナは理解できてると思う。…多分。
「確かに今は城の中にいるけど、城のメイドではないわね」
「え?じゃあどういう立場で…」
「メイドなのは確かよ。でも城勤めではなくて、私専属のメイド。私の指示で動いて、私の行く場所に同行して、私の身の周りで働くのが彼女の仕事」
いつかは幾人ものメイドを束ねる存在になるかもしれないけどね。
「アイラさんの専属?あの、アイラさんって一体…」
「私これでも貴族なの。侯爵位持ってるのよ」
「貴族…って確か権力のある方々ですよね?侯爵…って、どれくらいの地位なんですか?」
あ、そっか。魔王国には貴族いないんだった。
「貴族の中で最も地位が高いのが公爵。その下が侯爵よ」
「じゃあアイラさんは貴族の中で二番目に偉いってことですか!?」
「う~ん、細かく言うと違うけど…、間違ってもないというか…」
同じ侯爵位の人はいるし、みんなそれぞれ役職持ってるから複雑なのよねぇ…。
「私はまだ侯爵になってからあまり時が経ってないし、領地もまだ開拓真っ最中で何もないし、立場的にはまだ下かなぁ…」
セリアから作って私にくれた国家総合監査会も全然動かしてないし。ていうか会に属してるのが私とノワールだけだし…。
「そうなんですか。じゃあまだこれからなんですね」
「あ、でも龍帝国で龍帝はやってるわよ。まだ公にはしてないけど」
「…へ?」
「シュバルラング龍帝国。ヘレナも聞いた事くらいあるでしょ?竜族が住む国」
「まぁ、知ってますけど…。今、龍帝って言いました?」
「うん言った」
公にしていないといえば、セリアも龍帝国政府もいつになったら私やノワールの事を世界に発信するつもりなのかしら?未だに情報をグレイシア国内に留めてるけど…。
「ま、まっさか~。冗談やめてくださいよ~」
「え?何も冗談言ってないけど?」
どうも龍帝であることは嘘だと思われてるみたい。まぁ、しょうがない。
「え?本気で言ってるんですか?」
「うん。だってホントの事だし」
以後私もヘレナもしばらく沈黙。ヘレナは私を怪しむ目で見てる。初対面だから信用できないのも解るけどね。




