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異世界で最強 ~転生と神の力~  作者: 富岡大二郎
第十四章 渦の形成
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少女の経緯

 翌日。グレイシア国内における世間の動きは普段と変わらず。私もみんなも普段通り。唯一異なる点を上げるなら、昨日アンプルデス山脈で拾った謎の少女の存在があるということ。


 メリッサによる診察と治療が終わった後、少女がいつ目を覚ますか分からないということで、別館メンバーで交代制で少女の様子を見る事となり、私も何度か少女を部屋で眺めていた。

 保護直後の時点で少女の浅かった呼吸は、今は睡眠時のゆっくりとした呼吸に変わっている。身体もちゃんと体温を持っていて落ち着いていることが分かる。ホント安心したわ。

 少女は確認できる限り痩せこけているわけではなく、だからといって筋肉や脂肪があるわけでもない。歳相応の平均的な身体をしている。となると生活上は貧しかったわけではなく、体力を派手に使うような事もしてはなかったはず。おそらく魔王国内で安定的な生活は送っていたものと思われる。

 ただ彼女が魔族である前提で言うと、この推測は成り立たない。魔族は竜族と同様に人間よりも身体能力が高い。細身な人でも力持ちだったりする。現にアンゴラさんが普段から鍛えてはいるけど、それでもアンゴラさんの身体は全然筋肉質ではなくて、むしろナイスバディな方。…思えばアリスも鍛えてるけど筋肉質ではないのよね。鍛え方の問題…?


 話を戻して私の個人的な推測で語るなら、彼女は魔王国の住人で平凡な生活を送っていたけど、何らかのきっかけでアンプルデス山脈を目指し、自らの意思で山脈中腹まで登ったものと思われる。

 状況からして誰かが彼女をあそこまで運んだとは考えづらいし、何かからの逃走等といった突発的で危機迫った状況で動いたのであれば、あんな大荷物なわけがない。

 時間をかけて事前に準備をして、アンプルデス山脈に入った。これしか今のところは考えられない。








 でもって午前中。たまたま私が様子を見ていると…。


「…ぅ…、ん…」


 少女の意識が戻った。ゆっくりと目を開けた少女の瞳は、きれいなアクアブルーで奥が紫色のように見える。


「こんにちは。私の事は分かる?」


 私は微笑みを作って少女に声をかけた。少女は私に視線を移す。どうやら目は見えてるみたい。


「……こ…、こは…?」


 返事が返ってきた。私の声もちゃんと届いてるみたいね。視覚と聴覚は異常なしか。


「ここはグレイシア王国よ」


 少女の問いに私は国名のみ答えた。詳しい場所を今伝えたところで、今の彼女は寝起き状態。処理しきれないでしょう。


「グレイシア…王国…?……確か私…、アンプルデス山脈に行って…」


 記憶が掘り起こされ始めてる。徐々に意識が覚醒してきてるみたいね。アンプルデス山脈に行った記憶があるならば、記憶喪失というわけでもなさそう。

 と、少女は身体を起こそうとした。けど力がうまく入らなかったようで横に倒れそうになった。


「おっと、大丈夫?まだやたら動かない方が良いかもね」


 私は咄嗟に彼女を抱き支え、ゆっくり仰向けに戻させた。


「あなたは…?」

「私はアイラ。ここの住人よ。良かったらあなたの名前を教えてくれる?」

「……ヘレナ…」

「ヘレナね。よろしく」


 フルネームは教えてくれなかったけど、そこはしょうがないか。


 本当はすぐにでも山脈にいた理由とか聞き出したい気持ちだけど、ここは抑えつつ…。


「今、どこか痛いとか、気持ち悪いとか、違和感とかない?感じるようだったら我慢せず言ってちょうだい」


 ヘレナは私の質問にしばらく黙り、


「特にない…かも」


 とだけ答えた。念のため『真・透視魔法』を使ってヘレナの体内を覗いてみたけど、見た限りは異常があるようには見えない。


「あの…」

「ん?」

「私の服は…?」

「そこにあるわよ。一応洗濯済み」


 実は現状ヘレナは一糸纏わぬ状態でいる。メリッサがヘレナの診察の際に全部脱がしてしまっていたため、以降ヘレナはずっと裸。いつの間にか服の洗濯までしてたし。

 せめて何か着させてあげようと私が自分のワイシャツを用意したんだけど…、


「すいませんアイラ様。万が一容体が急変した際に脱がすのが大変だからやめてほしいと妹が…」


 ってエウリアに申し訳なさそうに言われた。本来その発言をすべきメリッサはエウリアの真後ろにいたのに。

 メリッサってエウリアに頼りすぎじゃない?そしてエウリアはメリッサに甘すぎじゃない?今更だけど。


「荷物があったはずですけど…」

「こっちで預かってるわ。念のため中身の確認はさせてもらったけど、何も盗ったりなんてしてないから安心なさいな」


 今もヘレナの荷物は私達で預かっていて、カバンその物は私の部屋に置いてある。

 ちなみに中身を確認して以降、時々アルテがカバンの中にあった食料を盗み食いしようとしてはアテーナに怒られるという事を何度か繰り返してた。


「私は一旦ここから出るわね。そのまま待っててちょうだい」

「あ、はい…」


 ヘレナの受け答えは徐々にハッキリし始めている。まだ覚醒ではないみたいだけど。


 部屋を出た私は、扉の前で念話を発動。念話が通じる人達へ状況を伝えた。

 念話だから別にヘレナの前でもできたんだけど、彼女が一人で落ち着いて状況を整理できるようにわざと席を外した。


 私からの念話を受けて、一番にやって来たのはシャロル。タオルや水分等、現状に必要そうな物を一通り持って来てくれた。

 シャロルは本当なら今日も使用人の採用試験の打ち合わせがあるはずなんだけど、こっちの件を優先して動いてくれている。セリアも容認しててリリアちゃんやオルシズさんも事情を知っているから問題ないらしい。

 続けてエウリアとメリッサの別館警備姉妹も来た。今は二人に代わってアンとアンゴラさんが警備を代行してる。


「えっと、本人は目を覚ましたけど…、どうする?部屋入る?」

「しかしいきなり四人で入ってしまうと驚いて警戒してしまうのでは…」

「でしたらシャロルさんが持って来ていただいた道具一式、アイラ様が持って入るのはどうでしょうか?まだアイラ様だけなら落ち着いたままでいられるでしょうし」


 エウリアの案にメリッサは無言で頷いていた。

 結局私一人じゃん。ヘレナの前で念話でも良かったかも…。




 というわけで、私は再び部屋に入る。


「お待たせ。一応飲み水とかタオルとかその他諸々持って来たけど、他に何かいる?」


 私の問いにヘレナは首を軽く横に振った。


「あの…、さっき…ここはグレイシア王国だって言いましたよね…?」

「うん」

「グレイシア王国の…、どこなんですか?」

「王都フェルゼン」

「え…?え?お、王都…?」

「うん、王都」


 自分の現在地がグレイシア王国王都フェルゼンであることに驚いてるヘレナ。

 そりゃまぁ、自分の最後の記憶がアンプルデス山脈のド真ん中で、次に認識できた場所が隣国の王都じゃあビックリもするわよね。北海道の札幌にいたはずが気が付いたら沖縄県の那覇にいたようなもんだし。


「で、でも私…。アンプルデス山脈のクロコダイル魔王国側にいたはずで…」

「うん。そこから私がここまで運んだの」

「は、運んだ…?え…、どうやって…?」

「飛んで」

「……はい…?」


 ヘレナは訳が分からないというような表情をしてる。そりゃそうよね。


「アンプルデス山脈上空を飛行してたら偶然倒れてるあなたを発見して、ここまで連れ帰ったの」

「飛行って…。空を飛べるんですか…?」

「うん一応。あなたを見つけた時は私自身の力じゃなくて別の方法で空にいたけどね」

「は、はぁ…」


 ヘレナは私の説明を理解することができないようで、困った表情を浮かべてる。

 けど説明はここまでで良いかな。そろそろこっちの疑問を解消しないと。


「…そろそろ意識が覚醒してきて記憶も戻ってきている様子だから聞かせてもらうけど、どうしてあなたは山脈のあんな雪積もる場所にいたの?荷物を確認した限り、まるで山脈踏破でもしようかとも思えたんだけど」

「……」


 ヘレナはすぐに答えない。黙秘というよりもどう話そうか悩んでる様子。


「…お母さんの夢を…、実現しようと思って…」

「お母さんの?」


 ヘレナは軽く頷く。


「私のお母さんは魔王国で有名な冒険家だったんです。多くの未踏の地がある魔王国において、お母さんは政府の人達が入らない所まで踏破して行った事で知られていました。

 お母さんはアンプルデス山脈の登頂をずっと目標にしていて、5年くらい前に山脈登頂に挑みに行ったきり、帰って来ることはありませんでした」


 お母さん行動力エグいな。家庭持ってるのに前人未踏の地を制覇しようと思ってたわけか…。よく周りがオッケー出したわね…。

 でも行ったきり帰って来ないなら、ヘレナのお母さんはきっと山脈のどこかで…。う~ん、山脈の面積は広大だしなぁ…。新雪の動きとかあるし、クレバスに落ちてしまっていた場合捜索は絶望的だし、探しても見つかる可能性はないに等しいわよね…。


「お母さんがいなくなって時が経って、私は魔王国にある学院に通っていたんですが…。最近になってお父さんもいなくなって…」

「いなくなった?なんで?」

「仕事で地方に出張していたはずなんですけど、帰ってきませんでした。お父さんが働いていた所の人達も困惑していて…」


 てことはこの子の親は両親それぞれ別の事情で消息不明ってこと?なんか怖いんだけど…。


「両親がいなくなってしまったことはとても辛かったです。けど学院で仲の良かった先輩がとても気にかけてくれて…」


 そりゃ両親が謎の失踪してたら辛いでしょうね。その状況でヘレナが精神を保たせた事が私はすごいと思うわ。おそらく学院の先輩とやらが支えてくれたおかげもあるんでしょうけど。

 しかしヘレナの表情が暗い。この後絶対悲しい話になるわね。


「けど…、先輩にも…、裏切られました…。その直後に学費が払えなくなって学院中退して…」


 展開が辛すぎる。不幸の連鎖が続き過ぎでしょ…。


「またその直後に家に泥棒に入られて、家にあったお金とか盗まれて…、…家は借地だったんですけど、突然地主さんに家を追い出されて…」

「追い出された理由は見当付いてるの?」

「おそらく土地代を払えなかったからだとは思うんですけど…。学院中退したばかりで、仕事も探せてなかったので…」


 土地代払えなかったからってそんな突然追い出してくるかなぁ?両親行方不明で学院辞めざるおえなくて、挙句の果てに泥棒にまで入られて財産失って…。

 ……この子は不幸を引き寄せる何かでもあるのかしら…?不幸の連鎖にも程があるでしょ…。


「うちの家族は親戚との付き合いが薄かったので、頼れそうな人もおらず、住む場所も行く宛もなくなって、困り果てた時にお母さんの事を思い出して…」

「あなたのお母さんがおそらく成し遂げられなかったであろう山脈登頂を代わりに成し遂げて、誰かの気を引こうと考えた」


 私の言葉にヘレナはゆっくり頷いた。

 彼女の話と、話している時の表情、荷物の内容。私はこれらから一つの仮説を浮かべていた。


「なるほどね。仮に登頂失敗して力尽きても、そのまま誰に迷惑もかけず静かに死ねるもんね」


 私の言葉にヘレナは俯いたままではあったけど、少し驚いたような顔をした。どうやら図星みたいね。


「両親は行方知れず。信頼していた人からは裏切られ、泥棒に入られて財産を失い、家を追い出されるかたちで居場所も住まいも失った。だから誰かの気を引くという建前で母親がやろうとしていた事を死を覚悟の上で…、いや、死を前提の上でやろうとした。要は自殺しようとした。

 大量の荷物を持っていたのは、仮に誰かに見つけられても登頂挑戦していたと思わせ、自殺であることを隠すため。でしょう?」

「……」


 ヘレナはしばらく不動だったけど、ゆっくりと無言のまま頷き、私の仮説を認めた。

 彼女の母親が数多くの地を制覇してきていた人なら、どういう物を所持していたかをヘレナは見ていたはず。そう考えればヘレナが持っていた大荷物にも納得ができる。


「死のうとしていたのなら残念ね。私と関わったからには何があっても死は許されないし、自害なんて実行も実現もできないわよ?」

「え…?それってどういう…?」


 ヘレナと問いに私は返答せず、微笑みだけを返した。

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