ハルクリーゼとミュウの関係性
城をあらかた廻り終えた私とセリアは、ミュウと別れてヘーメスの誘導で天神界へと移った。
移動直後、ヘーメスは「俺も頼まれた事終えたから、先に地上に降りるぜ」と言って地上へ降りて行った。
「戻ってきたわね。どう?気に入ってくれた?」
ヘーメスと入れ替わりで私とセリアの前に現れたハルク様。笑顔で声をかけられたものの、私の頭の中は疑問が渦巻いてる。
「建物はとても素敵でした。あれだけのものを頂けるのなら嬉しいです。でもなんで事前にミュウのこと言ってくれなかったんですか?」
「どうせ会うだろうから言わなくても良いかなって思って」
「言ってくださいよ。仲良くなれたから良いですけど、最初警戒しちゃいましたよ」
「お化けかと思った」
ミュウの存在を事前に教えてくれなかったハルク様にプンスカする私とセリア。
「でも良い子だったでしょ?あの子の性格ならあなた達とすぐに馴染めると思ったの」
「確かに良い子でしたし馴染めましたけど…」
「私には雑な扱いだったよ?」
ハルク様の言う通り、ミュウは人懐っこくてすぐに仲良くなれた。そんな私の隣でセリアは雑な扱いを受けたと主張。確かにセリアには冷たかった。
で、ハルク様はセリアの疑問に何も返答しようとしない。
「でもミュウに関しては疑問が残っています。ハルク様、一体何のためにミュウを生み出したんですか?」
「そんでなんで私への扱い雑なの?」
私はミュウに関する疑問をハルク様にぶつける。同時にセリアが自分への態度が雑だったことに関する疑問を再度ハルク様にぶつけた。
ハルク様は一旦軽く息を吐いてから、口を開いた。
「あの子が元々ごく普通の女の子だった事は本人から聞いたかしら?」
「はい。戦争による村の襲撃に遭ったそうですけど」
「そうね。実はあの子の両親と私は、元々同じ志を持った仲間だったの」
仲間…。ということは当時ハルク様が率いてた『光差す翼』に属してたってことかしら?いや、もしくは属してないけど協力者だった的な?
「一緒に各地廻って行動する仲だったんだけれど、二人が交際関係になって結婚して、二人の間に子供ができる事が分かったのをきっかけに私の活動から離脱して、二人の故郷だった村へと帰って行ったの」
二人とも故郷が同じってことは元々幼馴染の間柄だったんだ。そんでミュウの妊娠をきっかけに村へ帰ったと。ミュウの故郷は彼女の両親の故郷でもあったんだ。
「別れた後もずっと長い間手紙でやり取りはしていたから、ミュウの成長も把握はしてた。会ったことはなかったけど」
なるほど。ハルク様は手紙でミュウの存在を認識してたんだ。
「ある日、二人の故郷の村が襲撃を受けたという情報が私のもとに届いて、私は急いで村へ向かったわ。
でも着いた時には遅かった。無事な人なんていなかった。いつも明るくて騒がしかったあの二人が血だらけで息絶えてしまっている姿も発見したわ」
それは辛い…。ハルク様や当時の仲間達は相当辛かったでしょうね。
「でも二人にまるで守られるかのように倒れている子がいたの。位置状況から見てその子が二人の子であるミュウだとすぐに分かった。そして彼女に僅かに脈があったことも」
この辺の説明はミュウが言ってた内容と同じ。違和感はない。
「けどその時点で有効な治療法なんてなかった。もうなす術がなかったの。それでも、志を同じくして共に歩んで、離れた後も応援し続けてくれていた仲間の子供をそのまま死なせてしまうことは私の気持ちが許さなかった。
その時咄嗟に思い付いたのが、移魂魔法とあの壁画だったの。移魂魔法は死者を出す可能性がある程の危険な魔法でもあった。けど当時私に付いてくれていた魔法師達はみんなとても優秀だったし、何より他のみんなもミュウを死なせたくない気持ちは同じだった。
だから危険を承知で移魂魔法を行使して、魂をあの壁画に描かれていた女性に移して、ミュウの死亡という最悪の事態を回避したの。それが今のミュウが生まれた理由よ」
ハルク様は善意や目的があって今のミュウを生み出したんじゃなくて、本当にミュウを助けたい思いで必死になってこの結果になったんだ。それは当時の他の仲間達も同じで…。
なんか色々考えちゃってたのが申し訳ないなぁ…。メッチャ良い話じゃん。
「ミュウに関しては理解できました。けどあの壁画は?」
「壁画は私が生きた時代よりも前の文明の頃に描かれた物みたいなのよ。でも誰が何のために描いたのか、どういう意味があるのかはサッパリよ」
「そうなんですか?そもそもどこの遺跡で見つけたんです?」
「まだミュウの両親も一緒に行動してた頃、ある山奥で偶然私が発見した遺跡があって、その遺跡から壁画の部分を取って回収したの。
小さな規模の遺跡だったんだけど、かなり劣化してていつ崩れてもおかしくない状態だったから、せめて崩壊する前に唯一状態が良かった壁画だけどこかに移動させようって話になって…。
…正直な話、金品財宝を期待したんだけど、壁画以外は何も見つからなかったわ」
そんな遺跡が当時あったんだ…。その文明から時が経って壁画がミュウの命を助ける事に繋がったんだから、ある意味奇跡とも言えるわね。
「その遺跡って、今で言うどこの辺りにあるんですか?」
「私も気になる」
「もうないと思うわ。遺跡は壁画を回収して間もなく崩壊して、その後近くにあった火山が噴火して溶岩が辺り一帯を飲み込んでしまったから。今となっては位置すら分からないの。
仮に位置が判明したとしても相当深く掘らないと出てこないだろうし、掘ったところで遺跡が残っている可能性はないに等しいと思う」
「そうですか…」
「なんだ。ロマン感じる展開だと思ったのになぁ」
遺跡はなくなっちゃってるか。残念。ミュウの現在を生み出す糧にもなった謎の文明遺跡。可能だったら見てみたかったんだけどな。
セリアもロマンがどうとか言ってる。ホラー苦手な割にこういうのは平気みたいなのよね…。遺跡にだって幽霊とかいる可能性はあるのに。
……そもそもこの世界って幽霊は存在するのかしら?でも幽霊っていう概念はあるから存在しててもおかしくはないのか。この辺って神々はどういう認識してるんだろ?……と、考えの方向をもとに戻さないと。
「あの、ミュウが今の存在になった経緯をちゃんと説明してあげてないのはどうしてですか?あの子の話だと聞いてもはぐらかされるって…」
「それね、実はわざと言わないでいるの。あの子は覚えてないだろうけど、一度だけ詳しく説明しようとした時があったのよ。そしたらあの子、襲撃された時の記憶を思い出したみたいで軽い混乱状態になっちゃったの。だから以降はあの子の事を思ってわざと語らないでいるの」
過去の嫌な記憶がフラッシュバックしちゃったんだ。竜族の頃のアテーナと同じように。アテーナのように名前は変えなくても大丈夫だったみたいだけど。
「それならば私も言わない方が良いですね。事情は解りました」
「理解が早くて助かるわ。あの子の事、お願いね」
私がミュウに対して抱いてた謎はあらかた解けた。当時のハルク様や仲間達がミュウを助けた理由が、目的があるわけでなくただ助けたい一心だった事は、これから多くの人を率いることになるであろう私としても見習いたい。
にしたってそこまで危険を顧みずに移魂魔法を行使したってことは、ミュウの両親はハルク様や周囲から相当信頼を得ていた二人だったんでしょうね。じゃなきゃその娘を命張ってまで助けようなんて思えない。その時点で手立てがなかったんだから。もしかするとミュウの両親はハルク様の側近クラスだったのかも。
ハルク様や仲間達の行動でミュウは死なずに済んだ。けど身体が変わって実質永遠の命となった。それをミュウの両親はどう思うんだろう?
ハルク様の話から察するとミュウの両親の魂はおそらくもう天界にはない。別の世界で何かとして生きてるでしょうね。……別世界で人間がいるとは限らないからあくまで「何か」になるけど…。
だからミュウに両親の想いを届ける事は出来ないけど、ミュウにはこれから楽しい想いをたくさんさせてあげたい。ハルク様や仲間達がいなくなった後もずっと、あの城で孤独だったわけだしね。
「私はアテーナやアルテには戦争や苦しい事ばかりだった分、現代で楽しく過ごしてほしいと思っています。それはミュウに対しても同じです。ミュウは城から出られないと思いますが、城の中で可能な限り楽しい想いをさせたいと、そう思います。
城は有難く頂戴します。幾代にも継承できるよう、大切に使いますね」
「ありがとう。大切にしてね。城もミュウも。アテーナとアルテの二人は地上に降りてから楽しそうにしてるから、私としては嬉しいけど」
確かにアテーナとアルテの二人、基本的に何か行動する時いつも楽しそうにしてるのよね。常に物事を楽しむ意識が働いてるというか…。
「あ、城の改装ってしても良いですか?あのままだと不便な箇所がいくつか…」
「私は構わないわよ。主導権はあなたに渡ったわけだしね。あとはミュウの許可が下りれば大丈夫よ」
リフォームにはミュウの許可が必須か。まぁ、城のヌシなんだから当然よね。
高層階へは階段だけじゃなくてエレベーター設置したいなぁ。あの階段毎日上り下りしてたら、私以外の人達が苦しむことになる。あ、どっかにエスカレーターも設置できないかしら?
「ねぇ、ところでさ。なんでアナとミュウは私に対して冷たいの?」
セリアはアナとミュウに初対面時に雑な対応された件を未だに気にしてた。
「それは本人達に聞いてちょうだい」
ようやくセリアの疑問に返答したハルク様の返答内容は当然の内容だった。
「ねぇ、アナの姉ちゃん。なんで妹冷たいの?」
「妹に聞いて」
セリアは私にも訊ねてきたから、ハルク様とほぼ同じ返答をしておいた。
でも確かにアナとミュウのセリアに対する雑な対応は何故なのか気にはなるのよね…。
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