神気
第三章開始です。
よろしくお願い致します。
学院が準備休暇に入り、何か催しも個人的にやる事も家族事も無く、私は屋敷の自室でひたすらダラダラしていた。
「あ~、暇だわ~」
「お嬢様、少しお聞きしても良いでしょうか?」
「ん~?なに~?」
「お嬢様、ここ最近お身体に変わった事はありませんか?」
「へ?いや、別にないけど…」
「そうですか…。う~ん…」
私の周りで仕事していたシャロルが、急に真面目な表情で質問してきたと思いきや、答えると何やら考え出した。
「え?何?シャロルから見て私何かおかしい?」
「おかしいと言いますか…、準備休暇に入った翌日あたりからお嬢様を見ると今までにない不思議な感覚に襲われるのです」
「今までにない不思議な感覚?」
「はい。私が表現出来る限りで説明致しますと、教会や聖堂で感じ取る神聖的な雰囲気と言いますか…、そういったものをお嬢様から感じるのです。
暗殺技術を持つ者としての視点で言うならば、私の師匠が言っていた『絶対的強者』によく似ています」
「いまいち分かんないんだけど…」
「申し訳ありません。私も何と言ったら良いか分からない状態でして、表現のしようがないのです」
表現が出来ない、例えが見つからない感覚か…。私自身何も変わってないんだけどなぁ…。
「お父様やお母様、他の使用人や兵士も感じてるの?」
「いえ、今のところ感じ取っているのは私だけのようです」
「そう…。とにかく、何か変化や異変があったら必ず伝えるわ」
「はい。私の気のせいかもしれませんが…」
シャロルの気のせいという可能性も確かに十分あり得るけど、シャロルは隠密術や暗殺術を習得している事もあってか、勘が鋭い上に雰囲気等の感覚の察知能力がとても高い。私と出会った頃から現在もそういった事の的中率が高くて、けっこう馬鹿に出来ない。
(う~ん…、少し気にしておこう…)
で、その日の夜。私は天神界へやって来ていた。来たくて来たわけじゃないけどね。
「こんばんわ、アイラ。あなたが休暇中動いてないせいで、面白そうなイベントが発生しないから、私も退屈でしょうがないわ」
「会った直後にまさかの苦情!?しかも内容が理不尽!」
神様の第一声が私への苦情。ていうか勝手に楽しんでたんかい。
「学院が始まったら面白いイベント期待してるわよ~」
「勝手に期待しないでください。そもそも暇潰し感覚で見ないでください。神様としてちゃんと仕事してください」
「むぅ~、冷たいなぁ。それはともかく、今日のあなたの使用人はさすがね。ちゃんとあなたの事見てるのね」
「使用人…、シャロルの事ですか?それにちゃんと見てるって?」
「アイラの雰囲気の変化を感じ取ってたでしょ?まだ周りは一切気付いていないのに」
やっぱり昼間の話はシャロルの気のせいじゃなかった!
私がここへ呼ばれたってことは、シャロルが感じていた感覚は神力絡みということ?
「私の中の神力に新しい能力が?」
「ちょっと違うわね~。新しい能力は目覚めていないわ。
でも既存の能力が前より強くなっているのよ。それにともなって、あなたの身体の内部のみで動いていた神力の気が外へと溢れ出し始めているの。
通常の人間でも覇気や殺気を出したりするでしょ?でもそれは目に見えなくて感じ取るもの。それと同じく神力の気、『神気』とでも言うものね。それをあなたの使用人は感じ取ったのよ」
いつの間に私の神力は強化されてたんだ?神の気と言われてもピンとこない。
でもシャロルしか感じてなかったってことは、溢れている量は微々たるものなんだろう。それを感じ取るシャロルは確かにすごいのかもしれない。
「覇気や殺気は相手を威圧するものですけど、神気はどういうものなんですか?」
「相手や周囲に対して本能的に従わす、逆らわせない力があるわ。感じ取った人が自分の思考関係なく『この人の言う事は絶対』『この人を敵に回してはいけない』と、無意識のうちに本能的に思わせる力。それが神気よ。
あと、人によっては神聖的に見えたりする場合もあるわね。どういう風に感じるかは人によって様々で、度合いも個人差があるわ」
「つまり私が神気を浴びせたら、相手はひれ伏すか私を信仰の対象にするってことですか?」
「そういうこと。アイラって理解力良いわよね」
ある人には恐れさせ、ひれ伏させる。ある人には私を神聖的に見させ、私を信仰するようにさせる。………これって完全に支配じゃない?
「せっかくだし、私の神気浴びてみる?体験した方が分かりやすいというものでしょ?」
「良いんですか?じゃあ、お願いします」
「それじゃ、いくわよ~」
直後、神様から金色、白金色とも言えるような色の気と思われるものが、ユラユラと現れ出した。
その時、私は言葉が出なかった。何故だか私は、神様に見惚れていた。何度も会ってるはずなのに。それで気付いた。これが神聖的というものかと。
「どうだった~?見惚れちゃった~?やっぱ私って美人?」
「……見惚れたのは確かですが、今の発言で全て台無しになりました」
ホント見た目美人なのに中身残念だなぁ。この神。
「でも見惚れたでしょ?これが神気ね。ちなみに今の私みたいに、周囲に金色が出る事はないからね。あれ、私限定」
なんだ、そうなのか。安心というか、残念というか。
「出し方を少し変えれば、恐れさせる事も出来るのよ。こんな感じに」
神様がそういった瞬間、ゾッとする感覚が身体中を駆け巡った。背筋が凍るとはまさにこのことと言わんばかりに。
直後、私は身体の震えが止まらなかった。寒くてではない。神様に対してとても強い恐怖心が、私の中から出続けていて止まらないのだ。
「はぁ…、あ…、は…ぁ…」
私はあまりの恐怖に過呼吸状態になってしまって、その場に倒れこんだ。
「わぁ!ゴメン、やりすぎた!しっかり!」
神様は慌てた様子で私のもとへ駆け寄り、私は神様に抱きかかえられた。
既に神様からは恐怖を感じなくなっていて、呼吸も少しづつ落ち着いていった。
「本当にごめんなさい。私のミスだわ。加減を間違えた」
「大丈夫です。よく分かりました。さすが神様ですね」
その後も神様は黙ったまま私を抱いていた。多分、自分のミスを引きずっているんだろう。
前もそうだったけど、神様に抱かれると何故か落ち着く。これも神の力のひとつなのかしら?
(私もこんな力持つのかしら?神気があることを考えると、十分ありえそう)
しばらくして神様の抱擁が終わり、私も落ち着いて立ち上がった。
抱擁されてる間にふと浮かんだ疑問を聞いてみる。
「神気って、どう制御するんですか?」
「もう少し神気が溢れてくれば、自然と制御出来るようになるわよ。ただ、何もしなくても溢れてるから制御なんてあまり意味ないけどね」
「そうなんですか…。もう少し溢れればって言いましたけど、これから溢れる量、増えるんですか?」
「ええ。いつからどの程度増えていくかは分からないけど、いずれはダダ漏れになるわよ」
ダダ漏れって…。そうなったら周りになんて説明しよう…。困ったなぁ…。
「じゃあ、そろそろ意識を返すわね」
「あ、もう一つだけ。セリアは神気の制御は出来るんですか?」
「いいえ。あの子はまだ漏れ出していないわ」
セリアはまだか。じきに溢れ出すとは思うけど。
「分かりました。ありがとうございました」
「いいえ。今回は本当にごめんなさいね。またね」
そうして私の意識は天神界から離れた。今後の生活が思いやられるなぁ…。




