銃の試作品
お風呂から上がった私はセリアを急かして、銃の試作品を見せてもらう事にした。
どうもセリアはセレス様やヘーパトスさんの開発計画凍結宣言を受けて私が戻ってくるまで待とうと思ったものの、結局待ちきれずにこっそり自室で拳銃を試作していたらしい。そんなん作ってないで自転車の開発推し進めろっての。
ちなみに現在シャロルは私と入れ替わりで入浴中。ジーナとトンジットさんはキッチンで何やら話し込んでる。
アテーナとアルテは別館ロビーで今日の勤務を終えたエウリアやメリッサと立ち話してる。
キリカとアンは自室に籠ってる。何をしてるのかは知らない。アンゴラさんは自室で荷物の整理中。
オルトロス、ザッハーク、カラス丸、エスモス、ファルコはリビングの端でじゃれ合ってる。…というかカラス丸が他からリンチされてる?なんで?
「お待たせ。これだよ」
自室からリビングへ戻って来たセリアは、拳銃を私の前に差し出す。見た目は西部劇のカウボーイが持ってそうなデザイン。
「マジで作ってたとはね…。てかあんた、銃の仕組みや構造知ってたの?機械や電子機器に詳しい事はとっくに知ってるけど、銃となれば知識を得るのは難しいはずよ?」
「実は前世の頃にネットで調べた事があったんだよね。それを覚えててさ。あ、勿論前世の頃は銃なんて作った事ないよ?これが初めてだからね?」
「そりゃそうでしょ。前世で銃作っちゃってたら大問題どころじゃ済まされないわよ」
そもそも銃の作り方をネットで調べた時点で問題なんだけど。そのサイトも絶対違法サイトでしょうに。
「早速説明させてもらうと、ここに安全装置の切り替えスイッチがあって、安全装置オフの状態でここの引き金を引いてくれれば発砲できる。
姉さんやヘーパトスに説明した内容だと銃弾を入れて使うタイプになってて、単純に火薬の代わりに魔力を込めて引き金を引く仕組みだけど、これは銃弾が存在しない完全魔力型の銃になってる」
「銃弾があるないで何が違うの?」
「一言で言うと威力だね。銃弾があるタイプは前世の頃に存在してた銃と同じ威力。銃弾がないタイプは銃弾があるタイプよりも大きな威力を持ってる」
「具体的には?」
「A3サイズくらいの的があったとして、銃弾があるタイプはその弾とほぼ同じサイズの穴を開ける。銃弾がないタイプは一発で的その物を粉々に吹き飛ばす」
この銃弾がないタイプの威力は兵器クラスってことか。
「それと、銃弾がないタイプの銃を作るのはこれが最初で最後。仮に銃の開発ができたとしても、銃弾が必要なタイプのみにする」
「なんで?」
「試し撃ちした時に、これは量産してはいけないって思ったの。だからこのタイプはもう作らない」
「じゃあこれはもう廃棄?」
「ううん、これはアイラにあげる」
「は?」
なんとセリアはこの恐ろしい威力の銃を私にプレゼントすると言ってきた。
「差し上げますから銃の開発許可してください!」
そして私に土下座してきた。そこまでして作りたいんだ…。
「…今回の開発計画は使い方次第で大量虐殺を発生させる道具になりうる。これが狂った奴や真っ黒な思想連中に渡ってしまったらどうなるかは分かるわよね?」
「うん」
「まずは銃という物の恐ろしさを開発に関わる人達に教え込みなさい。そして悪者に渡らないようにするための策を徹底的に講じなさい。閣僚の人達にもきちんと説明して、専用免許や法律の整備も。
思い付く限りの安全策が徹底的にとられたのが確認できないと、私は許可できないわ」
「解った。まずは今アイラが言った内容を何とかする。それらがちゃんとできたら開発して良いって事だよね?」
「ダメって言ってもあんたどうせ聞かないでしょ。お願いだから危険物を作り出そうとしてる自覚だけは忘れないでよ?」
「アイラ…」
セリアは真面目な表情から一気に目を輝かせて、私に抱き着いてきた。
「約束する!ありがとうアイラ!これで今後開発したい物の足掛かりができる!あ、銃どうぞ」
なんか今この子、引っかかる発言をした気がする。銃以外にも開発案大量に持っていそう。
「やれやれ…。開発したい物があるのは構わないけど、今後は必ず私に話を通してよ?それと仕事サボんな」
「えぇ~、仕事時間を短縮しないと開発に時間があぁぁぁ嘘です!じょーだんです!ちゃんと仕事もします!だから銃を置いて!銃口私に向けないで!それ一発撃っただけで胴体に大穴開くし、腕脚吹っ飛ばす威力なんだから!マジ怖いから銃を置いてぇ~!」
仕事サボる気満々だったらしいセリアに私が銃を向けたら、セリアは両手を上げて震えてた。試し撃ちしないと分かんないけど、そんなに威力ヤバイんだ。この銃。
「ていうかなんでこんな威力のある試作銃を私にあげたの?頼み込むだけが理由じゃないでしょ?」
「……いつもの感謝に」
「本音は?」
「どんどん使ってもらってデータが欲しい…ってあっ!しまったっ…!」
「やっぱりそういうことか~。なら早速データとやらを作りましょうか?」
「私に向けてもデータはとれないよ~!てかそのデータを利用する開発者が死んじゃうよ~!お願いだから銃口を向けないでぇ~!マジで怖いんだってぇ~!」
銃を私にプレゼントしてきた理由を暴いたところで、私は再び銃口を向けてセリアを震えさせた。ホント分かりやすい企みしかしないんだから。今度説教する時があったら銃口向けっぱなしにしようかしら?
結局銃に関する話はその後もしばらく続き、夕食を経て、気が付けば私とセリア以外は就寝していた。
私も龍帝国から戻って来たばかりの身で、明日か明後日には領地開拓を再開しなければならないため、今日はもう休む事になった。そろそろ寝ないとセリアがまた朝起きないし。
「そういえばあんた、私がいない間寝れたの?朝起きれたの?」
「寝たっちゃあ寝たんだけど、感覚的に寝つけた感覚になれなかったな。まだアイラ依存症が…」
「直せ」
「はい…」
「で、朝は?」
「まあ自分で起きれはしたかな。そもそも眠りが浅かったわけだし。でも長く横になってるとジーナがやってきて、何故か私の横っ腹に蹴りを入れられた」
「自分で起きれてる分には良いんだけど、いい加減毎日自力で起きなさいよ…。にしてもジーナの起こし方も謎ね…。明日聞いてみるか」
あくまで予想なんだけど、きっとセリアを起こしに行って、中々起きなくて頭きて蹴りを入れたんだろうなぁ。事前に起こし方教えとくんだった。




