表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で最強 ~転生と神の力~  作者: 富岡大二郎
第十三章 国の跡
360/395

崩落後

アイラ視点からの外れ戻りが連続します。

 竜神殿内の天井が崩落した直後。竜神殿内門前。

 アイラの魔法によって外へ飛ばされた視察団の兵士達は、竜神殿を見たまま呆然としていた。


「い、一体何が…、起こったんだ…?」

「竜神殿の中に入った後に何か落ちてきて…、龍帝陛下に引き返すよう言われて…、そしたら突然外に飛ばされて…」


 突然の出来事故、兵士達は状況理解に時間を要していた。


「俺の推測だが…、おそらく引き返し始めた後に龍帝陛下が魔法を使って、俺達を神殿の外に飛ばしたんだ」


 他の兵士達よりもいち早く落ち着きと状況理解を完了していたアルフェンが推測を出す。彼はアイラが兵士達を飛ばす直前、偶然自分の足元に魔法陣が展開される瞬間を目撃していた。


「じゃ、じゃあ…、龍帝陛下は…?」


 ある女性兵士の疑問の声に他の兵士達は黙り、全員が竜神殿の入口を見た。神殿内部への入口は扉こそ開いているものの、天井崩落による瓦礫で完全に塞がれていた。


「う、嘘だろ…。まさか…」


 ミハイの顔が、そして他の兵士達の顔もみるみる青くなっていき、絶望の表情となっていく。兵士達はこの時、ようやくアイラが神殿内の崩落した天井の下敷きになった事に気が付いた。


「へ、陛下…。あぁ…、そんな…」


 目の前の出来事にミハイは動けず頭を抱えるだけ。他の兵士達も同様の状態になっていた。


(どうすればいい…。考えろ…、俺に出来ること…。考えろ…!)


 兵士達の中で唯一、アルフェンだけは必死に自分が出来る事を考えていた。


「陛下!龍帝陛下!聞こえてらっしゃるのであればご返事をください!」

「ダメだな…。神殿に使われている材料は簡単には砕けない」


 兵士達が動かぬ中、オリガとアンゴラは飛ばされた直後に状況を理解し、崩落現場に近づいていた。

 オリガは瓦礫を叩きながら大声でアイラへ呼び掛け、アンゴラは瓦礫の粉砕を試みたが、竜神殿に使用される素材は固く、砕く事は出来なかった。


「どう…しよう…。陛下が…、龍帝陛下が…。はぁ、は…ぁ…」

「ダーナさん!ダーナさんしっかり!気をしっかり持ってください!」


 ダーナとルルも状況は理解している。しかしダーナはアイラが瓦礫の下敷きになった事へのショックが大きく精神面にダメージが及んでおり、過呼吸のような症状に見舞われていた。

 外へ飛ばされる直前までアイラと手を繋いでいたダーナ。アイラの事を信頼し、隣で寄り添ってくれていたからこそ、他の者達より大きくショックを受けていた。

 ルルはそんなダーナを抱えて懸命に声をかける。このままだとダーナの精神が崩壊する可能性をルルは感じていた。


「オリガ、アンゴラ竜大将。二人とも一旦瓦礫から離れてください。まだ二次崩落の危険が残っている可能性があります」


 オリガとアンゴラに竜神殿から離れるよう指示を出すキリカ。アイラの秘密をしっかり理解している彼女は、内心は心配しつつも「瓦礫の下敷きになったところで大丈夫だろう」と自分に言い聞かせ、冷静な態度をとっていた。


(お嬢様の場合どうやって脱出を図るか…。さすがに無鉄砲な方向へ魔法は撃たないとは思うけど…)


 シャロルに至っては冷静どころか、アイラの脱出方法で二次被害が出ないかを心配していた。


「キリカ!お前自分が言っている事が解っているのか!龍帝陛下が瓦礫の下敷きになっているんだぞ!それでいて今は離れろだと!?」

「落ち着きなさい。落ち着いてよく考えてみなさい。龍帝陛下には神龍様が宿ってらっしゃる。竜族の象徴、そして伝説たる神龍様を宿すようなお方が、瓦礫の下敷きになった程度で死ぬと思う?」

「キリカ…、お前なんでそんな…!」


 一国の帝が瓦礫の下敷きになっているという状況にありながら冷静なキリカ。アイラの伝説達との関わりや神の力等を知らないオリガはキリカに掴み掛るも、冷静過ぎるキリカが信じられず困惑する。

 普段のオリガはダーナを注意する時以外は基本的にクールでキリカと似たタイプである。しかし現状のような事態に、オリガは完全に冷静さを欠いていた。


「オリガさん。キリカ補佐に掴み掛ったところで物事は解決しません。冷静になれとまでは言いませんが、一旦少しでも思考を落ち着かせましょう」


 アンゴラはキリカとオリガの間に立ち、オリガに落ち着くよう諭す。


(解ってはいる。解ってはいるが、やはり心配なものは心配なんだ…)


 アンゴラはキリカと同様にアイラの秘密を理解しつつも、前世の元先輩としてアイラを心配していた。

 アイラやグリセリアと同様に転生者である彼女だが、前世での人生は彼女の方が長い。よってアンゴラは前世の頃のアイラが棺桶に横たわる姿を見ており、現状それがフラッシュバックしている状態であった。


「皆、今は自分の放心状態や混乱状態を落ち着かす事だけに集中しなさい」


 キリカは掴み掛っていたオリガを引き剥がし、視察団員全員へ指示を送った。


(とりあえず、念話を繋げますか)


 シャロルは周囲の状況状態を確認しつつ、アイラへ念話を繋げた。


(あ、よく考えたら陛下は神の眷属だし、これもしかして何も問題なし?…じゃなくて、ダーナさんを落ち着かせないと!)


 アイラの秘密事をすっかり忘れていたルルは、たまたま思い出した事で急速に自分の混乱を取り戻していた。しかしダーナは未だダメージを負っている状態のため、引き続き支えるのだった。







*************************************






 竜神殿の天井が崩落した後、私は呑気に崩落でかかった埃を掃っていた。


「まったく、とんだ災難だわ。どうしてくれんのよ、神龍」

「我に言うでない。我は知らんぞ」


 私が神龍を批難すると、神龍は小型の状態で出てきた。


「ここって神龍を祀る神殿みたいな場所でしょ~?それがいくら長い間誰にも整備されなかったからってこんな脆いんじゃダメじゃない?神龍がこの建物建てられた頃の竜の巫女にもっと頑丈に造るよう言えば良かったのに」

「こんな状況は我も予想しておらぬ。一方的に責任を擦り付けるな」

「ここは代表として責任持ってもらわないと、誰が責任持つってのよ?」

「どういう理屈で言っておるのだ…。誰かが今回の事態に責任持つ必要はなかろうに…」


 イジるつもりで神龍に責任押し付けたら呆れられた。


 私は今、人一人が立てるだけの空間に立っている。周りは全方向瓦礫の壁。

 視察団全員を外に飛ばせた事を確認してから瓦礫に埋もれるまでの僅かな時間、私は大急ぎで魔法壁を自分の周囲に展開。前世の頃にあった公衆電話ボックスのような形に魔法壁を張り、間一髪瓦礫に潰される事態を回避することが出来た。


「まぁ、それは冗談として。なんで扉開けた直後に天井が崩落したのかしら?久々に扉を開けた振動とかが影響してるとか?もしくは既に天井が弱ってて、たまたまこのタイミングで崩落したとか?」

「おそらく前者である可能性が高いが、後者の可能性も捨てきれん。既に天井が弱っており、そこに扉を開けたことによる振動が伝わって、崩落の引き金となったのであろう」

「むぅ~、そっか~。せっかくデザインとか装飾とか見たかったんだけどなぁ…」

「天井には我の姿が描かれておった。現主であるお主に見せられぬ事が残念だ」

「え!?天井に神龍の絵が描いてあったの!?うわぁ~、超見たかった~。そして落書きしたかった~」

「おい、後者はどういうことだ」

「いや、私ってこうして直に神龍の姿を見てるじゃない?そこに加えて普段暇してるわけで、そういう神龍の暇そうなところとかを描かれてる絵に上書きしてあげようと…」

「やめんか。我の威厳を下げる気か」

「違うわよ。神龍のありのままの姿を多くの人々に知ってもらうために…」

「何を恐ろしい事考えてくれておるのだ、お主は。我を羞恥心で殺す気か」


 私のイジリに対して適切なツッコミを返してくれる神龍。ハルク様と同じでちゃんと返してくれる。

 でも落書きとまではいかずとも、天井の絵がもしかすれてたりとかしていたら、本当に修繕を考えていたのも確か。今となっては崩落しちゃって瓦礫と化したから何も出来ないけど。


(お嬢様。ご無事ですか?)


 神龍と会話してるうちにシャロルから念話が入ってきた。


(私は大丈夫。そっちは全員無事?怪我人とか出てない?)

(全員脱出できましたし、怪我人も発生していないようです。しかしほとんどの方々がお嬢様が瓦礫に埋もれてしまった事に混乱状態となっております)


 ありゃ、みんな大騒ぎになってるのか。


(特にダーナさんとオリガさんの取り乱しが大きいです。ダーナさんは過呼吸手前のような状態に陥っておりまして、ルルさんが何とか状態の悪化を抑え込んでいる状況です。

 オリガさんは場の落ち着かしを試みたキリカさんに掴み掛りまして、アンゴラさんが止めに入っていますが、オリガさんとキリカさんで喧嘩スレスレとなっております。

 場を落ち着かす事が不可能になってしまっている以上、お嬢様が生還されなければ統率はとれないままでしょう。脱出が可能な状態なのであれば、お早めの脱出をお願いします)


 うわぁ…、思った以上に状況が荒れてる…。ダーナとオリガは私の秘密を知らないから、一大事として考えてるのね。ダーナはショックが大き過ぎて動けなくなって、オリガはおそらく何か行動を起こしたんでしょうけど、そこをキリカに止められたか何かで、焦りから感情のコントロールが出来なくなって…。

 他の兵士達とかも状況的に良くないみたいだし、これは早く外に出ないと。逆にこんなに私の事をみんなが思ってくれてるって思うと、素直に嬉しいな…。私今まで大した事やってきてないのに…。


(脱出は出来ない事はないけど、外までの距離と方角が少し曖昧になってるから、二次崩落覚悟で勢い任せに脱出を試みるわ。申し訳ないけど視察団のみんなが巻き込まれないよう、竜神殿から距離を置いた地点まで移動させてほしいわ)

(畏まりました。全員の退避が完了次第、また念話を送ります)

(お願いね)


 現状私の周囲は全て瓦礫の壁。天井が崩れる直前に外を見てたから、出入口の方向と距離はなんとなく予想できる。けど瓦礫の壁から先の状態や正確な方角が曖昧だから、脱出に使う力の加減が分からない。

 万が一私が脱出を図った事で二次崩落が発生して視察団の面々が巻き込まれたら大変な事。だからみんなには竜神殿から距離をとってもらわないと。





*************************************







 アイラとの念話を終えたシャロルは、未だにオリガと口論しているキリカに近づく。


「キリカさん」

「は、はい。何ですか?」

「アイラお嬢様と念話の交信ができました。特に怪我等はないそうです」

「そうですか…。良かった…」


 シャロルの報告にキリカは安堵。アンゴラも言葉は発してないが安堵の表情を浮かべていた。


「シャロル殿…。どういうことですか?龍帝陛下とシャロル殿は念話ができるのですか?というか龍帝陛下はご無事なのですか!?」


 オリガは一瞬呆けていたが、シャロルの発言を理解した直後、シャロルに問い詰めた。


「ええ。私もアイラお嬢様も念話魔法を収得しております。先程申し上げました通り、お嬢様はご無事です。キリカさん、お嬢様はこれより脱出を図られますが、二次崩落の危険性もあるため視察団全員を神殿から離してほしいとお嬢様が仰せです」

「解りました。すぐに移動を開始しましょう。具体的にはどの程度離れれば…」

「私も詳細は聞いていませんが、外門まで移動すれば大丈夫かと」

「解りました。皆聞け!龍帝陛下はご無事だ!今は説明している暇はないが、神殿から離れるよう陛下がおっしゃっておられる!すぐに外門へ移動するぞ!」


 シャロルの報告を聞き、すぐに兵士達へ指示を送ったキリカ。兵士達は戸惑いながら何とか動き始めた。


「ダーナさん、少しだけ動きましょう。肩お貸しします。私に寄りかかって大丈夫ですから」

「だ、大丈夫…。ありがと、ルルちゃん…」


 先程よりは落ち着きを取り戻したダーナ。しかし過呼吸に近い状態だった彼女は体力をほぼ使い切り、ルルの支え無しではまともに歩けない状態になっていた。


(……。…首相代理を務めた時もそうだったけど、私はやはりまだ統率能力が弱いみたい…。龍帝陛下の背中は、まだまだ遠い…。どうしてこんなにも成長できないんだ…!私は…!)


 ゆっくりながら移動を開始する視察団を眺めて、過去に首相代理を務めた時の事を思い出したキリカ。現状の視察団の状況を見て、自分がまだ未熟である事を彼女は密かに痛感していた。

 そしてアイラと同行し続け自分の成長を図っていた彼女にとって、この未熟さは悔しさでもあり、一人静かに自分へ怒っていた。







*************************************






 シャロルに視察団の移動を頼んでから10分くらい経った頃。


(お嬢様、お待たせ致しました。竜神殿外門まで移動を完了しました)

(はい了解。絶対誰も近寄らせないでね)


 シャロルから移動完了の念話が入った。思ったよりも時間かかったわね。


 私はまず、自分の身体に爆発系魔法と同じ力を纏わす。同時に魔法壁を消去。さらに同時にこれまた爆発系魔法を足にかけてブーストを発生させ、瓦礫に体当たりする勢いで発進。

 これ前世の世界で例えると、空母から発艦するジェット戦闘機みたいな状態。


 急発進から瓦礫へ突っ込んで二秒か三秒程。急激に視界が眩しくなり、私は急停止した。

 眩しさが治まると、目の前には芝生や木々、上を見上げると青空と陽の光、後ろを振り向くとガラガラという音とともに土煙を上げる竜神殿があった。

 どうやら上手く脱出できたみたい。竜神殿も建物本体の崩落は無さそう。


 外門を見ると、視察団のみんながこっちを見ていた。私は笑顔を見せながら視察団のもとへ歩く。


「お待たせしました。心配かけさせちゃったわね」


 私が声をかけてもみんなからの返答がない。というのもほぼ全員がポカーンとした表情のまま固まっていた。なんか幽霊でも見てるかのような顔されてるんだけど。


「う…、うぅ…。へいかぁ…、へいかぁ~!うえ~ん!」

「わわ、ダーナ。ごめんね、心配かけさせちゃったね。よしよし」


 最初に動き出したのはダーナで、私に抱き着いて来て泣き始めてしまった。私は彼女を優しく抱き返して頭を撫でる。

 抱き着いて来た時フラフラだったし、顔もやつれた感じになってたから相当パニくってたのかな…。この子の心の芯はもっと強いと思ってたんだけど、意外なまでに今は脆さを見せてる。やっぱ竜の巫女という事がこの子の精神を不安定にさせてるのかしら?


「龍帝陛下!お怪我はございませんか!?何か変に感じる所は…!」

「大丈夫よ。ありがと。何ともないわ。オリガも大丈夫?」

「はい。陛下が助けていただいたおかげで、何ともありません」


 ダーナに続くようにオリガも慌てた様子で私へ駆け寄って来て、怪我がないか訊ねてきた。思えばさっきシャロルがキリカと喧嘩スレスレだって言ってたけど、オリガがここまで感情を露わにしながら人に手をあげようとするのも意外。


 その後は他の兵士達からも安堵する声が聞こえた。私が見る限りシャロルが言ったように怪我を負ってる人はいないっぽい。良かった良かった。


「龍帝陛下。現状を察するに、ここは拠点へ戻るべきだと判断致します。構いませんでしょうか?」

「うん。構わないわ」

「では戻りましょう。全員移動を開始。速やかに拠点へ戻る」


 突然場をまとめてキャンプ地まで戻る事を薦めてきたキリカ。なんだか彼女の表情が若干暗い。同時に何かにイラついてるようにも見える。


「ねぇ、キリカはどうしちゃったの?」

「分かりません。先程からあの様子でして…」

「どうも自分に対するイライラがあるっぽいんだけど、なんでそうなったのか…」


 シャロルもアンゴラさんもよく分かんないらしい。なんなのかしら…?


「陛下~、無事で良かったですぅ。タオルで埃掃いますね。歩きながらで大丈夫ですので~」

「あら、ありがと。ルル」


 キャンプ地へ戻りながら、ルルはタオルで私に付いた埃を掃ってくれた。なんでかルルを見てるとほっこりするのよね。


 ルルが埃を掃ってくれた後、シャロルとアンゴラさんから私が瓦礫の中にいる間の状況を説明してくれた。やっぱ私が予想してた以上のパニックぶりだったらしい。

 アンゴラさんは私が瓦礫の下敷きになった事を理解した直後に、前世で私が死んで棺桶に収まった私を見た時の記憶が蘇ってきたらしくて、


「すごく心臓に悪かった…。もう二度とこういう状況は作り出さないでくれ…」


 って言われた。でも今回はああいう行動を私がとらなかったら兵士達の命が危なかったわけで、そう思うと何か解せぬ…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ