竜族対魔物
武器を構えて魔物の出方を窺う私達。そんな私達に魔物達は距離を少しずつ縮めていく。
そして、最初にダーナへ攻撃を仕掛けて私が蹴り飛ばした魔物が再び私に対して攻撃を仕掛けたのをきっかけに戦闘が開始された。
私は向かってきた魔物を双剣で斬り消滅させた。あっさり倒せた。
シャロルは糸とナイフで、キリカもハープで音の刃を出して善戦してる。この二人も最初は苦戦してたのにね。それだけ戦闘レベルが上がったってことかな。
私の隣にいるダーナも魔物に抵抗。持ってる武器が剣の刃を円形に曲げたような不思議な形。どこで作ってもらったんだろう?
オリガとアンゴラさんは槍を駆使して応戦。でも苦戦してる。ミハイも同様に槍を持って苦戦中。けどミハイの場合は脚がメッチャガクガクしててまともに動けてない。
ルルはナイフを使って応戦。ナイフという点ではシャロルと同じだけど、シャロルのように糸を使わないし、弱点をカバーできるだけの素早さもないっぽいから苦戦は必須ね。それでも他の兵士達よりは良い動きしてる。
(シャロル、キリカ。あなた達は目の前にいる魔物の殲滅に集中して。私は他の苦戦してる人達の助けに回るわ)
(承知致しました)
(御意)
シャロルとキリカに念話を送って、私は他のみんなを助ける方へ回る。とりあえず光速で動き回って魔物を一撃で葬る。
「うおおおおお!」
そんな中、魔物に対して果敢に攻める兵士が一人。ミハイとほとんど歳も変わらないであろう若い兵士。彼は雄叫びと同時に魔物へ突撃していく。まるで恐怖を振り切りつつ死を覚悟して立ち向かっているよう。あと関係ないけど顔がクール系イケメン。
でも突撃後は予想通り苦戦。突撃時に大怪我負ってないだけ良いか。彼もまたやられそうだったからすぐに向かって助けてあげた。勿論魔物は私が一撃で仕留めた。
「果敢に攻める覚悟と勇気は評価するけど、無茶な突撃しないでよ?死ぬわよ」
「……」
私の注意に彼は何も答えない。ちょっとだけ頷いたから無視してるわけではないようだけど。もしかして寡黙なタイプ?ヘーパトスさんとかメリッサみたいな。
「オリガ、ダーナと合流して。私が道を作るから」
「は、はい!解りました!」
私は魔物を屠りながらオリガを援護してダーナと合流させた。この二人は普段から一緒にいて付き合いが長い二人だから、こういう状況でも一緒にいさせた方が良い。連携プレイしてくれれば魔物に太刀打ちできるかもしれないし。
「ルル、深入りはしないでね。魔物は一瞬の隙を狙う事に長けてるから」
「はい!解りました!」
思えばルルの戦闘を見たのは今回が初めて。苦戦してるとはいえ恐怖を表に出さず正面から立ち向かうところは肝が据わってるわね。さすが龍帝国トップクラスの使用人。
「ミハイ。あなたはまず脚の震えを何とかしなさい」
「ははははい!むむむ無理ですぅ!」
はいと言ったのに無理と言うミハイ。完全にパニックになってる。
「ぐ、ううぅぅぅ…」
アンゴラさんは魔物と鍔迫り合いのような状態になって魔物に押されてる。さすがにアンゴラさんでも魔物の相手は厳しいか。
私はすぐにアンゴラさんへ接近。対峙していた魔物を斬り倒した。
「大丈夫ですか?アンゴラさん」
「ありがとう、助かった。護衛なのに情けない。…というか、一瞬私に抱き着いたりしなかったか?」
「気のせいですよ」
ホントはハグした。光速スピードで一瞬だけ遊び心で背中からハグしました。
こうしてみんなで魔物を殲滅(九割は私が殲滅)していき、残る魔物は一体のみ。最後の一体は、なんとさっき突撃を慣行していた若い兵士との一騎打ちになっていた。
兵士は苦戦してはいるものの一切引きを見せない。ここまで果敢に魔物へ攻撃姿勢を崩さない人ってそうそういないわよ?
「ぐっ…!」
あー、態勢崩れた。隙を突かれたわね。
私はすぐに横から魔物へ攻撃。これでチェックメイト。
「大丈夫?魔物相手にやるじゃない」
態勢を崩して尻もちついた状態の彼に私は声をかけて手を差し伸べた。彼は激しく息が切れてるし、所々負傷してる。
「申し訳ありません…。果敢に攻めておきながら力及ばず…」
「何言ってんのよ。魔物相手に果敢に攻められる事自体すごい事よ。普通なら動けなくなってもおかしくないもの」
俯く兵士に治癒魔法をかけて傷を癒す。
「あなた、名は?」
「アルフェン・モーメントです」
「アルフェンね。覚えておくわ。今回はあっぱれよ」
アルフェンと名乗る兵士の肩をポンポンと軽く叩くと、彼は会釈だけして静かに兵士達の中へ戻って行った。ちなみに他の兵士達はみんな一ヶ所に固まってグッタリしてる。しょうがないけどね。
しかしアルフェンはやっぱりルックスが良い。クールで感情を表に出さないタイプみたいだけど、顔がイケメンだからそれも似合う。前世の頃の基準で言うならかなりモテると思うんだけど、この世界の基準だとどうなのかしら?
「アルフェン、良い戦いでしたよ」
「……」
あれ?キリカがアルフェンに声をかけた。アルフェンは会釈だけだったけど、キリカはまるでアルフェンを知っているような声をかけ方だった。いやキリカの立場上、知り合いである可能性は大いにあるけど、なんか気になる。
「キリカ、アルフェンの事知ってるの?」
「ええ。彼はランの幼馴染ですよ。ランがヤンチャをし始めた辺りから疎遠になってしまったようなので深い関わりがあるわけではありませんが、兵士になった事は知っていました。これまで目立った動きを見せませんでしたが、まさか今になって魔物相手にあんな戦いをするとは…」
なんとランの幼馴染!ランにあんなイケメン幼馴染がいたんだ~。
でもランはアルフェンの事一度も話した事なかったし、疎遠になってるなら今はもう他人状態なのかな…。ましてや立場上一方首相で一方下級兵士だもんね…。
その後はしばらくの間その場で休憩となり、私は戦闘で負傷した人の治癒に回った。幸いにも怪我した人達はみんな軽傷で済んだ。
しかし私とシャロルとキリカを除く全員が魔物を初めて見たそうで、その影響なのか全体の士気は落ちていた。私がどう言葉をかけて士気を上げようか考えてたら、横でルルが「これで士気下げるとか、ダッサ」と鼻で笑うようにボソッと言った。ボソッと言ったつもりだったんだろうけど、完全に周囲に丸聞こえだった。結果士気は上がってはいないけど下がらなくもなった。言われて悔しいんだろうね。兵士達も。
「今回はなんとなく効果あったっぽいから良いけど、次からは気を付けようね?」
「思っていたとしても口に出してはいけない事があるくらいあなたも承知のはずです。それが使用人という立場ともなれば尚更です。今後強く注意してください」
「はい…、すいませんでした…」
ルルの発言に対して私は苦笑いで優しく注意。シャロルは真剣な表情で真面目に注意していた。
彼女自身わざと口に出したわけではない上、周囲には聞こえてないと思ってたようで深く反省してた。
休憩を終えた後、他に危険がないか警戒しつつ私達は住宅街の視察を開始した。
さっきも言ったけど建物は原型を留めてる。おかげで視察しやすい。…しやすいけどさ、どこもみんな同じ構造同じ見た目ってどうなのよ…。統一性はあるけど誰が誰の家なのか判別つかないじゃん。どうやって自分の家を判断してたんだろう…?
と思ってたらキリカが、
「当時は自分の家と他の家を間違えることが日常茶飯事で起きていたそうですよ」
だってさ。やっぱそうなるわよね…。……そもそも表札すらなかったわけ?




