パンゲア視察開始
視点がアイラに戻ります。
翌日早朝。私達はかなり朝早い時間で出発。いよいよパンゲアへ入ることになった。
パンゲアは元々範囲がそこそこある。けど遺跡化した現在の状態だとどこがどうなっているのかも、どこまで見て回れるかも分からない。だから出来るだけ多くの場所を一日で見れるように早朝の出発となった。パンゲアの中で巨獣との戦闘になる可能性も大いにあるし、魔物だっている可能性も。
現在の天候は快晴。陽射したっぷりのお出かけ日和。このままこの天候が続けば良いけど…。
昨日私が遠目から確認した入れそうな場所まで行くと、そこはパンゲアの中と外を隔てていた壁の一部が崩壊して入口のようになってる場所だった。正規の出入口じゃなかったか。
「一応ここから入れるっぽいけどどうする?ここから入るか、正規の入口を探すか」
「私はここから入る事に賛成です。正規の入口を探していては時間と体力を消耗しますし、正規の入口が入れる状態である保証もありません」
念のためここから入るかどうか確認したら、キリカが賛成を述べた。他の面々も頷いてる。でも私とシャロル以外のみんなの表情がやや険しい。緊張してるみたいね。
「それじゃあ、パンゲアへ入るわよ」
私は先頭をきってパンゲアの中へと足を踏み入れた。私に続いて他のみんなも入る。……こういう時って代表者以外が先頭をきるもんじゃないの?しかも私龍帝とはいっても他国の人間だよ?流れで私が一番に入っちゃったけど、みんなこれで良いのかな…?
入った直後に周囲を確認すると、私達がいる場所は丁度道の分岐点になる所だった。いくつかの道が前にも右にも左にも伸びている。
それと床、壁、周辺の建造物の外壁まで色が統一されてる。様式美ってやつ?多分どこにも共通の材料が使われてるみたい。なお色は金色。眩しくない金色。
「推測を立てると…、現在位置はこの辺りか?」
「え~?この辺りじゃないかなぁ?」
「ペレテ山と湖の位置関係から辿ると…、この辺りだとも思うが…」
「いえ、それだと目の前にある分岐の数が合いません」
「う~ん…、私地図苦手ですぅ~…」
「ルルさん、無理に参加しなくても良いと思いますよ?」
周辺を眺める私の背後では、キリカ、ダーナ、オリガ、アンゴラさんが地図を見て現在位置を確定しようと議論してる。
ルルも話に参加しようとしたけど、地図の難しさに目を回してシャロルに介抱されてる。
「今ここか?」
「絶対こっちだろ」
「絶対って言える根拠あるのかよ?」
「ない」
「自信満々に言うなよ…」
「もうこの辺ってことで良くね?」
「勝手に決めてんじゃないわよ」
さらに後ろでは兵士達が同じように現在位置に関して議論してる。なんでみんなして地図とにらめっこすんの…?もっと周辺の景色を楽しもうよ…。
そもそもみんなが見てるパンゲアの地図って歴史資料をもとに作られた物でしょ?あてになるかどうかも怪しいんだけど…。
とにかくここはパンゲアに入って最初の地点となる場所。周辺の景色はしっかり記憶しておこう。そうすれば緊急退避とかがあった場合に有効だし。
それからしばらくの間みんなの現在位置模索会議が終わるのを待ってたんだけど、一向に終わる気配がない。痺れを切らした私は異空間収納から木の枝を取り出して、その場に縦に置いた。
「お嬢様?何をなさるおつもりで?」
「行き先を決めるの」
「は、はぁ…?」
シャロルは私の行動に戸惑ってる。この世界じゃこういう決め方まずしないもんね。
でもって枝は一番右の道の方へ倒れた。
「よし、決まり。一番右の道から行くわよ」
「決め方が雑過ぎやしませんか…?」
「良いのよこれで。みんな地図ばっか見てて物事が進まないじゃない。こういう時は運任せよ」
私の決め方を雑と言うシャロル。でも正確かどうかも怪しい地図とにらめっこし続けるより良いと私は思う。
「陛下、お待ちください。皆地図の収納がまだです」
オリガに呼び止められて足を止めた私。別にいちいち荷物の中にしまわなくても。てかみんなして地図グッチャグチャにしまってる…。地図破れるよ…?
みんなが地図を収納し終えたところで改めて移動開始。最初は分岐の中で一番右の道。
「わぁ~!」
「コラ、ダーナ!」
歩き始めてほとんど進まないうちに私の横をダーナが通過して行って、誰よりも先行し始める。ジャングル地帯でも見たダーナのテンションアゲアゲがまた発動したみたい。オリガが注意はしてるけどダーナは聞く気なし。
「床も壁も綺麗に整えられてますね~。所々崩れてる箇所はありますけど、長い間無人だったとは思えないほど原型も保たれてて…」
「おそらく頑丈な材料でかなり大きく分厚くして組み立てたのだろうな。造るのに苦労しただろうに」
「歴史資料にも巨獣対策でかなり頑丈にしていた事が記録されているわ。使われた材料に一部である石もこっち側で採石された物みたいだし、今もどこかに採石場跡があるかもね」
ルル、オリガ、キリカの三人は周辺を見渡しながら会話中。別に何の変哲もない会話だけど、この会話のせいで私が思ってた事全部先に言われた…。
「本当こういう遺跡はファンタジーに出てきそうだな。日本にはなかった造りだ」
「否定はしませんけど声のボリュームもうちょっと下げてください。周りに聞こえますよ」
「おっと失礼」
前世の頃の記憶を用いて感想を述べるアンゴラさん。声のボリュームが標準状態だったから慌てて注意した。現状いるメンツのほとんどが転生の事知らないから、前世会話は小声にしないと。
「龍帝陛下~!先に何か見えますよ~!」
先行していたダーナは私に報告をした後に小走りでさらに先へ。底なしの元気の良さね。
「龍帝陛下~!道がありませ~ん!」
ダーナの新たな報告は……え?道がない?
実際私達がダーナのもとへ向かうと、すぐ前は深い溝?いや崖?…どっちって言って良いか分かんないけど道がなくなってた。橋があったっぽい痕跡があるんだけど、橋その物はない。どうやら橋は既に崩落したみたいね。
「この先へは行けないか…」
「あ。でもこの先に何かありますよ。何か書いてある?」
「ホントね。何か看板みたい…」
「しかしこの位置からでは遠すぎて見えないぞ」
道がない事で先へ進む事を諦めた様子のアンゴラさん。でも直後にルルが看板と思われる物があるのを発見。キリカとオリガが読んでみようとしたものの、さすがに距離がありすぎて無理っぽい。
「ん~。とりあえずあの看板、こっち持って来る?」
「持って来るとは、どのように?」
私が看板を持って来ようか訊ねると、オリガが方法を訊ねてきた。
「どうって、こうやって」
私は浮遊魔法でひとっ飛び。
「はい、持ってきた」
私が看板を持って来ると、シャロルとキリカ以外がみんなポカーンとしていた。おかしいなぁ…、別にただの浮遊魔法をしただけなんだけど…。浮遊魔法なんて竜族でも知られてるはずだし…。
「陛下…、今のは浮遊魔法を使われたのですか…?」
「そうよ?」
「速すぎませんか?」
「そう?」
私の浮遊移動速度に困惑してるオリガ。私他の人の浮遊魔法を見た事がないから基準が分かんないんだけど、そんなに速かったのかしら?
「オリガ、龍帝陛下の飛行速度はコアトルが止まっているかのように見えたくらいだ。驚いてると持たないぞ」
「そ、そうなのか…」
オリガに何か説明してるキリカ。でもコアトルを比較に出すってことは、コアトルは竜族の中でも相当飛行速度が速かったのね。
「んで?看板持ってきたけど?」
「ん~?ボロボロだし文字かすれてて分かんない…。それに知らない文字だよ~?」
私が話を看板に戻したところでダーナがさっそく解読に挑戦。でもダーナの言う通り、書かれている文字は私がこの世界で知ってる文字ではない。
「この文字…、もしや『竜文字』か?」
「竜文字?」
「はい、陛下。現在の竜族は皆、大陸にいる他国他種族と共通の文字と言語を使います。しかし龍帝国では一部の竜族のみで使われていた文字と言語がありました。この看板に書かれている文字はその竜文字かと思われます。なお言語の方は竜語と呼ばれていました。
その当時は大陸側の文字や言語と平行して使われていたそうなのですが、歴史資料によるとパンゲアから都を移す少し前に大陸側の文字と言語に揃えられました。
理由までは分かりませんが何故か一部の竜族のみでしか使用されていなかった事と、使用されなくなってから世代がいくつも変わっているため、現在竜文字を扱える者はほぼいません。高齢層のごく一部にもしかしたらいるかもしれませんが…」
キリカの説明を要約すると、今は消滅してしまった古代文字ってことかしら?じゃあ読めないわ。
「失礼致します!発言の許可を求めても良いでしょうか!」
ここで一人の若い兵士が近寄って来た。
「発言を許可します。何かしら?」
「自分の曽祖父は竜文字を扱う事ができました。曽祖父は既に亡くなっておりますが、幼い頃に曽祖父から竜文字と竜語を少し教えてもらった経験がありまして、曽祖父亡き後も曽祖父が残した言葉の資料を見ておりました故、もしかすると解読ができるかもしれません。看板に書かれている文字の解読、挑戦させていただいてもよろしいでしょうか?」
へぇ~。ひいお爺ちゃんから教えてもらってたんだ。読めそうっていうんなら頼りにさせてもらお。
「解りました。そういうことなら解読挑戦を許可します」
「ありがとうございます!失礼します!」
私の解読挑戦許可に兵士は敬礼して、看板の文字解読をスタートさせた。
ちなみにこの看板。裏側はサビだらけで文字後すらない。
解読挑戦中の兵士はずっと小声でブツブツ言いながら看板とにらめっこしてる。記憶を掘り返しながらなのね。
それからおよそ五分後。
「お待たせ致しました!一応の解読はできました!」
兵士は敬礼をして解読を終わらせた事を報告してきた。
「それで、看板にはなんと?」
アンゴラさんが兵士に訊ねる。でもねアンゴラさん、それ私が言うセリフなのよ。
「はい。おそらく『特別検問実施中』と書いていると思われます」
兵士の解読結果に私以外の全員が「は?」みたいな顔してる。なんで?
「あなたふざけているの?真面目に解読した?」
「ちゃんと解読しました!ふざけてなどおりません!」
何故かキリカが兵士の解読を疑い始めて、兵士は困惑してる。もしかしてもっと重要な事が書かれてるとでも思ってた?
「キリカ、彼は真面目に解読したと思うわ。古文書や壁画などであれば重要な事が書かれていた可能性はあるけど、この看板はあんな所に雨ざらしで置いてあったのよ?歴史を語る上で重要な記述がこの看板に書かれているのであれば、こんな所にあるはずないもの」
私はキリカを止めて兵士を庇う。兵士が真面目に解読に挑んで嘘偽りなく報告してきた事は、私の虚偽探知能力で分かってる。
「おそらくこの看板があった辺り、もしくはそのさらに向こうの方がパンゲアの正規出入口だったかもしれないと私は予想してるわ。ちょうど看板があった位置から向こう側は見える限り未舗装。そしてこちら側は舗装されている。その境界線となる場所に検問実施中という看板がある。全部辻褄が合うじゃない」
「なるほど…。では私達が歩いてきたこの道が、入口から中心部を繋ぐ道だったと…」
私は兵士が解読に挑んでいる間、看板があった先をずっと眺めていた。私達がいる場所と道は石造りで、看板があった先は土が剥き出しの未舗装状態だった。さらに周辺は草むら。
この状態から推測すると、兵士が解読したこの看板付近がパンゲアの正規の入口だった可能性が高い。
私の説明に兵士を批難していたキリカも納得してくれた。他のみんなも納得してる様子。
「あなたが解読してくれたおかげで場所の予測が出来たわ。ありがとう。あなたのその知識はパンゲアを廻るにあたって貴重で重要な力よ。頼りにしてるわね」
「あ、ありがたきお言葉!必ずやご期待に応えてみせます!」
「フフ…、頑張ってね。それとあなたの名前を教えてくれる?」
「はい!ミハイ・ツィーリンと申します!」
「ミハイね。覚えておくわ」
多少なりとも竜文字を解読できるのなら、ミハイというこの若き兵士の存在は貴重になるでしょうね。年齢は多分私よりも少し下かな?まだこれから経験を積んでいきそうなフレッシュさのある子。
「ミハイ良かったね~。龍帝陛下が名前覚えてくれたよ~」
「は、はい…」
「ダーナ、ここでミハイを撫でまわすな。困ってるだろうが」
ダーナがミハイの頭を撫でまわし始めて、オリガが注意した。ミハイは固まってる。ミハイはダーナやオリガと交流があったんだ。
「あなた達ミハイと知り合いなの?」
「はい、友達ですよ~」
「彼が軍に入ったばかりの頃にダーナが一方的にカワイイとか言って構い始めたのがきっかけでして」
やっぱダーナのコミュ力あるなぁ。つーかダーナはホント顔が広い。
ともかくこの道がパンゲアの正規の出入口である可能性がある事は解った。けどこれ以上は先へは進まず、他の道を調べるために最初の分岐点へと引き返す事にした。




