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異世界で最強 ~転生と神の力~  作者: 富岡大二郎
第十三章 国の跡
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鍛錬光景

視点がアイラから外れます。

 少し時を戻して、アイラが巨獣の群れを一撃で仕留めていた頃。グレイシア王国で表すならばグリセリアがヘーパトスやセレスティアに銃の相談をしたしばらく後。

 ノーバイン城の裏手にある林の中。この場所は普段人がほとんど立ち入らず、野生動物も多くは往来していない割と静かな場所。そしてハルクリーゼの装備を継承したばかりの頃のノワールがアリスと模擬戦を行った場所でもある。

 この人里近くの自然の中では、木々のあちらこちらで何かが動く音が聞こえていた。同時に人工的な金属接触音が響く。

 何かが動いている。しかし姿は見えない。ただし常人には。


「うんうん。この短期間でだいぶ上達してきたわね」

「現状は両者互角かしらね。どっちもまだ動きが疲れてはないから、持久力も互角ね」


 林の中で会話をしているのはアテーナとアルテミスのアイラ護衛コンビ。

 ハルクリーゼという名の神に直接仕え、この世界の人々とはかけ離れている存在である彼女達が視線を向ける先には、目で捉えられない速さで動き回り、攻撃を繰り出し続けるジーナとアングリアの姿があった。

 アイラと再会したばかりの頃はアイラ達の標準的な隠密速度に合わせるだけで精一杯だったアングリアだが、日々の修行を重ねた結果、この短期間でジーナと互角の速さと実力を持つところまで来ていた。

 現在この林の中ではジーナ対アングリアによる模擬戦が行われており、アテーナとアルテミスが審判兼指導役になって二人の対戦を眺めていた。


「そろそろ休憩入れる?」

「そうね。だいぶ長い時間動かさせてるものね」


 アテーナとアルテミスが休憩を決めた直後、二人は武器を構えてジーナとアングリアにそれぞれ飛び掛かった。そして攻撃を繰り出そうとしていた両者を容易く受け止め、戦闘を中止させた。


「二人ともそろそろ休憩を」

「このままだと疲れちゃうわ」

「畏まりました」

「承知しました」


 アテーナとアルテミスの指示にジーナとアングリアは従い、近くにレジャーシートを敷いて休憩タイムに入った。


「アングリアさん、出会ったばかりの頃は動きについて行くのが精一杯っておっしゃっていましたけど、この短期間で格段に実力が上がりましたね。私も負けていられません」

「いえ、自分はまだまだですよ。ジーナさんこそたいへんお強いです。勉強になります」

「いえいえ、私もまだ修行の身でして…」


 互いを評価し合うジーナとアングリア。こんな会話をしながらも、ジーナはしれっと飲み物を淹れて全員に配っていた。

 隠密術と暗殺術。この二つと同時進行で使用人技術も磨く。シャロルと同様の鍛え方をジーナも実践していた。


「二人ともたたえ合うのは別に構わないけど、アイラ様と比べたら足元にも及ばないんだからもっと頑張ってよ~?」

「そんな体勢で言われても説得力ないわよ。アルテ」


 アルテミスはアイラを比較対象にしてジーナとアングリアに更なる精進を諭す。しかしその体勢はレジャーシートの上で仰向けになってくつろいでいる体勢であり、全く説得力のない光景にアテーナがツッコみを入れた。


「でも二人やアイラ様みたいにグリセリア様が鍛錬に勤しんでくれれば良いのにねぇ~」

「前よりはやるようになったけど、アイラ様と比べるとまだまだ足りないもんねぇ」


 アテーナとアルテミスはグリセリアの能力制御に対するやる気の無さを愚痴る。

 グリセリアは能力制御に関する最低限の訓練は既に終えているものの、アテーナとアルテミスからの視点ではまだ多くの修正点が存在していた。細かい点でアイラに劣り、全体的な実力においてもアイラに及ばないと。


「あの、アイラ様の実力とはどれ程のものなのでしょうか?色々話は聞いていたのですが、想像がつかなくて」


 アングリアはアテーナとアルテミスにアイラの実力について問う。

 彼女はアイラ本人から身体能力、魔力、神力に関して聞いてはいたものの、いまいちアイラが戦う姿を想像できずにいた。


「そうねぇ…。実際にアイラ様が戦った戦闘だと、だいたい一発殴っただけで魔物が消滅してたし、手を一回叩いただけで魔物の群れを消滅させてた事もあったわね」

「手を叩く?こういうことですか?」

「そうそう、そういうこと」


 アングリアの手を叩く動作にアルテミスが頷く。


「アイラ様は攻撃も防御も回復も武術系、魔法系問わず全て無限大になってるから、アイラ様の発想次第で何でもありなのよ。攻撃なら既に一撃で国一つを滅ぼす事だって可能でしょうし、防御なら禁忌魔法ですら防ぐでしょうし、回復なら数千人もの重傷者の傷を数秒で治すことも出来ると思う」

「そ、そんなにまで…?」


 アテーナの話に戸惑い気味のアングリア。ジーナは特に表情を変えることなく静かに話を聞いている。


「アイラ様はご自身の力が強大で強い影響力を伴う事をちゃんと自覚されているわ。だから絶対に毎日の自主鍛錬を欠かさない。短時間だろうと軽くだろうと必ず鍛錬を行う。時には存在しない新規の魔法開発にも挑戦したりして、常に新境地へ進もうとしてるわ」

「まさに向上心で突き進んでおられるのですね…。さすがはアイラ様…」


 アルテミスの話に、改めてアイラに感心するアングリア。


「これはアイラ様が以前言っていたことなんだけど、アイラ様は自分の力において重視してる事があるらしくて、それが『力の使い方』だそうよ」

「力の使い方?」


 アングリアは首を傾げる。


「いざ戦闘や緊急性のある事態が起きた時、自分の中にある力を正しい方向へ向けられるかどうか、状況に応じた魔力とかの調整ができるかどうか。そういう事をかなり気にしてるらしいの。

 どんなに強い力を持っていても生かしきれないのであれば意味はなし。制御できずに味方を傷つけてしまったら大問題。力に溺れて私利私欲に使うなんて以ての外。アイラ様は自分がそうならないように、そういう事を常に念頭に置いて鍛えてるそうよ」

「つまり力を制御しきった上で、常に正しく生かせる判断を出来るようにしていると…」


 アテーナの話を熱心な様子で聞き、解釈するアングリア。ジーナは何も喋らず、風でめくり上がりそうになったレジャーシートの端をおさえている。


「それと、いざ戦いになった時は常に頭の中で守りたいって思う人の顔を思い浮かべ続けるそうよ」

「誰の顔浮かべてるんですか?って聞いたら、今まで出会った人達全員って言ってたわよね」


 アテーナとアルテミスが会話するアイラの力に対する姿勢に、アングリアは考え込む。


(私はアイラ様と再会して、前世の頃に成し遂げられなかった陰から見守る事をこの世界で実現できれば…、と考えていた。しかしアイラ様ご自身もまた、他の人達と同じように仲間を守ろうと日々努力されている…。

 私はアイラ様の事を陰から見守りたい。前世で実現しきれなかったこの事を今世で実現するためには、アイラ様のお手を煩わせるなど以ての外だ。アイラ様の現在のお力の全容は未だ分からないが、現在以上の領域に進もうとしているのであれば今の私では力不足だろう。もっと…、もっと鍛錬に集中せねば…。ただ武器を振って動き回っているだけでは意味がない)


【私の周りには偶然にも色々な方面の専門家がいるわ。分からない事や解決できない事があれば抱え込まずにどんどん聞いて良いと思う。もし自分で考えろなんて言う奴がいたら、教えてくれればぶん殴るから。遠慮はいらないからね?】


(…。もっと多くの人に色々訊ねてみるのもありか…)


 考え込んだ先である時にアイラに言われた言葉を思い出したアングリア。前世の頃は基本的に孤独だった彼女が、他人を頼ってみようと思った瞬間だった。


「さて、そろそろ休憩終わりにしましょうか」

「そうですね。ジーナさん、先程の続きを」

「ええ、お願いしますね」


 アテーナが休憩の終了を宣言し、アングリアとジーナも立ち上がる。


「あ。アルテ片付けよろしく」

「え!?私やるの!?ジーナじゃなくて!?」

「最後までシートの上にいたのアルテじゃない。二人は模擬戦の続きやるし、私が見てるから」

「えぇ~…、理不尽…」


 レジャーシートの上で仰向けになっていたアルテミスが立ち上がるまで最も時間がかかっており、その流れでアテーナは道具やシートの片付けをアルテに頼み込んだ。

 アルテミスは理不尽さを感じつつも、せっせと片付けを始めた。


(…本当は私の役目なんだろうけど……。なんでだろう?口出ししちゃいけない気がする…)


 片付けも本来ならば使用人の仕事である事は解っていたジーナだが、この時ジーナは何故かアルテミスを手伝ってはいけない気がしていたため、あえて何もしなかった。この時にアテーナが密かにジーナへ手伝わないよう念を送っていたのがその原因なのだが。


 そうして四人が動き始めた直後。四人のもとにグリセリアがやって来た。

 リリアとアリスに連行されて政務室へ戻されたはずのグリセリアだが、彼女は側近達の一瞬の隙を狙って再び政務室から逃走。この林の中へと逃げてきていたのだ。


「やほー。修行やってる?仕事サボりついでに様子見に来たんだけど」

「また政務から逃げ出されたのですか…。女王陛下…」


 堂々と仕事から逃げた事を言葉にするグリセリアに、ジーナが呆れた表情を見せる。


「…ねぇ、アルテ。ちょっと耳貸して」

「ん?」


 何かを閃いたアテーナはアルテミスに閃いた事を耳打ちする。アテーナの案を聞いたアルテミスは笑みを見せた。


「私は賛成。良い案じゃない」

「でしょ?じゃあさっそく…」


 アルテミスとアテーナは二人揃ってグリセリアへ笑みを向ける。


「え?なにさ急に…。そんな怖い笑顔作って…」


 アテーナとアルテミスの行動に戸惑うグリセリア。ジーナとアングリアも状況が解らずただ眺める。


「「隙あり!」」

「うわぁ!」


 アテーナとアルテミスは戸惑うグリセリアへ同時に飛び掛かり、グリセリアの両腕を二人でがっちり固めた。それはまるでリリアとアリスがグリセリアを連行する時を彷彿させる状態である。


「なんだよ急に!なにさ!」


 突然の事に軽いパニックになるグリセリア。


「グリセリア様。このまま鍛錬に参加していただきます」

「どうせ仕事サボってるんですから、それならその方が側近の方々にとっても良いでしょう」

「アイラ様のお力に近づいていただくためにも、みっちり指導させていただきますからね」

「なっ…、チクショー!そういうことか!コノヤロ離せぇっ!」


 アテーナの案。それは仕事から逃げてきたグリセリアを捕らえ、政務室に返すのではなくそのまま鍛錬させるという内容であった。

 この後自分がどうなるかを察したグリセリアは逃げ出そうと抵抗するが、アテーナとアルテミスの名コンビを離すまでには至らず。


「ジーナ、アングリア。模擬戦および鍛錬は中断で」

「二人はグリセリア様が逃げ出しても止められるよう、包囲と警備をお願いできる?」

「承知致しました」

「これもまた、同時に修行となりましょう」


 状況を理解したジーナとアングリアは、アテーナとアルテミスの指示を聞き入れ、すぐに行動を開始した。


「いや~、ちょうどグリセリア様が鍛錬に来てくれないかなぁなんて思ってたところでしたから、ホント丁度良かった」

「ジーナとアングリアの訓練にもなるし、まさに一石二鳥ね」

「畜生…。様子見なんてするんじゃなかった…。アイラ~!アイラの部下達がイジメるよ~ぅ!助けてぇ~!」


 満足そうなアテーナとアルテミスに対し、落ち込むグリセリア。

 グリセリアは空に向かってアイラへ助けを叫ぶが、龍帝国にいるアイラには当然届くはずがない。単純に念話を使ってしまえば良いのだが、この時グリセリアは念話の存在を完全に忘れていた。





 その後グリセリアはアテーナとアルテミスの指導の下、ほぼ強制的に鍛錬させられ続け、逃走を図ろうとしてもジーナとアングリアがそれを見逃さずしっかりガードしていた。

 少し経過してからグリセリアを探していたリリアとアリスも合流。グリセリアはアイラの護衛二人や自分の補佐官と護衛騎士にくどくど言われながら、イヤイヤ鍛錬に励んだのだった。

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