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異世界で最強 ~転生と神の力~  作者: 富岡大二郎
第十三章 国の跡
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同時刻のそれぞれ

投稿に間が空いてしまいました事、お詫び申し上げます。

視点がアイラから外れます。

 ドラゴ宮殿前の広場。現在ここにはラン、ニース、サララを始めとした龍帝国政府の関係者や高竜督を含む軍の関係者がいた。そして彼ら彼女らの目の前にはパンゲア視察から離脱した兵士達。

 アイラの配慮で視察団から離脱した兵士達がドラゴ宮殿へ戻ってきた直後、広場にいた宮殿関係者が騒ぎ立て、それを聞いたラン達国家中枢が自ら対応に当たったのだ。


「…という事でして、我々のみ団を離脱し、こちらへ戻ってきました次第でございます」


 戻ってきた兵士の一人が代表で事情を説明。アイラの判断であった事も説明したものの、話を聞いていた軍のトップである高竜督は怒りに震えていた。


「貴様ら…!それでも龍帝国の兵士か!誇り高き竜族の騎士か!龍帝陛下や神龍様と同行できるだけでも非常に名誉のある事だというのに、それを放棄しておめおめと帰ってくるとは…!情けないとは思わんのか!」


 高竜督は兵士達に怒鳴り散らす。その内容は離脱前にキリカが言っていた事とほぼ同じであった。


「高竜督閣下、落ち着いてください。話を聞く限り龍帝陛下のご判断もある様子。今はやたら兵士の方々を責める時ではありません」


 興奮状態の高竜督を宥めるのはラン。


「しかし、龍帝陛下が離脱希望者を募る処置をとったなど、自分にはにわかに信じられませんが…」

「いえ、ニースさん。私は可能性はあると思います。龍帝陛下はご自身と関わった方々をよく観察されておられるお方です。僅かな異変を察知して引き返させた事も考えられます」


 戻って来た兵士の説明に疑いを持つニース。対して事実である可能性を示唆するサララ。

 正反対の判断となっている二人は、それ以上の議論をする事なくランの方へ顔を向けた。


「私一個人としてはサララさんとほぼ同じ考えを持っています。龍帝陛下は周囲の方々の特徴や能力をよく見ておられます。巨獣等との遭遇で精神状態の不安定化を感じ、意図的に途中で離脱者を募った可能性は非常に高いと思われます。

 そもそも今回は出発前から士気が低い状態でしたし、出発前段階で離脱者もいました。陛下ご自身も一人で良いなどとおっしゃっていたくらいですし、これ以上士気が落ちたり、体調不良者が出るくらいならと考えられたのかもしれません。神龍様も龍帝陛下に任せておられると思われますから。ただ、こうして戻って来た方々の説明が事実であれば、ですが」


 ランはここで一旦言葉を閉ざすと、しばらく考えた上で再び口を開く。


「チェンハ業務長。『関係者用泊部屋』はいくつ使える状態ですか?」

「泊部屋ですか?一応全部屋使用可能ではありますが…」


 ランはチェンハへ確認を取る。関係者泊部屋とは、ドラゴ宮殿内にある宮殿関係者が寝泊まりするための専用部屋である。通常の客室とは異なり、最低限の設備と質素な造りになっている場所となっている。


「皆さん、事情は解りました。しかし確実な証拠が存在しない以上、残念ながら完全に信じきる事ができません。よって皆さんをこのまま各ご家庭に返す事は、現時点では許可できません。

 よって皆さんにはしばらくの間、泊部屋にて過ごしてもらいます。視察団の方々が戻って来られるまで部屋から出ることは許可しません。その間に必要な物があれば用意しましょう。食事も提供します。よろしいですね?」


 ランの判断は兵士の話を信じるか信じないかのちょうど境界線を辿る五分五分判断。可もなく不可もない判断に兵士達は頷いた。


「他の方々もよろしいですか?」

「ええ、私は異論ありません」

「同じく」


 ランの確認にサララとニースが頷く。他の者達も続いて頷いた。

 こうしてアイラの判断で視察団を離脱した兵士達は、ランの判断で宮殿内に隔離されることとなった。






*************************************







 天神界。ここではいつものようにハルクリーゼがアイラやグリセリア、世界各地の様子を眺めていた。

 ノワールを見ては号泣しているレイリーは現在仕事に励んでおり、眺めているのはハルクリーゼ一人……ではなかった。

 ハルクリーゼの隣には、灰色長髪で真っ赤な瞳の美少女がいた。彼女は笑みを絶やすことなく、巨獣相手に圧勝するアイラを見ていた。


「フフ、やはり強いですねぇ」

「そりゃ私の眷属だからね!強くなかったら困るというものよ」


 少女の言葉にハルクリーゼは誇らしげに胸を張る。


「いいですねぇ、楽しそうで」

「あら?地獄は退屈なのかしら?」

「退屈ですよ。魂に苦痛を与えるだけの仕事なんていい加減飽き飽きです」

「あらあら、そんな事言ったら地獄の支配人に怒られるわよ?まぁ、彼女が怒る相手は閻魔だけだろうけど」

「大丈夫ですよ。もしマズくなったらこちらにお伺いしますね」

「ちょっとちょっと、ここはあなたの隠れ蓑じゃないのよ?」


 その後一定時間沈黙が続く。


「ねぇ、やっぱり行きたい?地上の世界に」

「そうですね。行きたい気持ちはとても強いです。既に地上へ降りて行ったアテーナさんやアルテミスさんみたいに、私も地上を楽しみたいです。私が知る世界はこの天神界と地獄くらいですから。生前の世界なんて思い出したくもありませんし」

「そう…」


 少女の発言にハルクリーゼは少し戸惑いつつも、優しい微笑みを絶やさなかった。


「もし良かったら、私からお願いしてみようか?地上の世界へ行けるように」

「本当ですか!?是非!是非お願いします!」


 ハルクリーゼの提案に少女は顔を輝かせる。


「もし地上へ降りれたら、やっぱりアイラのもとに行きたい?」

「はい。それともし我儘が言えるなら…」


 少女は満面の笑みを浮かべて、一息ついてから言葉を放った。










「アイラお姉様と呼ばせていただいて、妹として生活したいです」






*************************************






 ノーバイン城敷地内。機械工業部門の工場。


「お疲れ~。邪魔するよ」


 新たな道具の開発、制作のために時々ここへ出入りしているグリセリア。今日もアリスやリリアの制止や追跡を振り切って、仕事をサボった上で工場に来ていた。


「おや、セリア。今日も仕事放棄して来たのかな?」

「そんなところ。ヘーパトスいる?」

「いるよ。あそこ」


 自分の妹が政務を放棄しても責めようとしないセレスティア。グリセリアにとって仕事をサボっても怒ってこない人は、姉であるセレスティア一人だけである。

 グリセリアはそんな姉に天神界のメンバーであり、現在は機械工業部門の一員であるヘーパトスの居場所を訊ねた。

 セレスティアが指差す先で、ヘーパトスは今日もいつもと変わらず黙々と何かを作り続けていた。


「やあ、ヘーパトス。今平気?」

「……どうした…?」


 とても軽いノリでヘーパトスに声をかけるグリセリア。対するヘーパトスはボソッとしか言葉を発さない。


「実は開発、製造、量産したい武器の構想があるんだけど、私一人じゃ難しそうでさ。ヘーパトスの知識と技術力を借りたいんだけど~」

「…協力しよう……」

「そう言ってくれると思ったよ。姉さんにも是非協力してもらいたいんだけど?」

「私もか?構わないよ。まだこの世にない武器や道具の開発に携われるのなら、機械工業部門の責任者としてこれ以上の名誉はないよ」


 グリセリアの頼みをヘーパトスとセレスティアは悩む事なく受け入れる。


(姉さんもすっかり技術者の顔になってるなぁ。絶対時々自分が王族だってこと忘れてるな)

(こうしてセリアが新しい話を持って来てくれると楽しいなぁ♪まだ見ぬ可能性に興奮する)

(……)


 自分が教えたとはいえ、すっかり工場での作業にのめり込んでいる姉に心の中で苦笑いするグリセリア。

 妹が次々新しい開発構想を持って来てくれる事に嬉しさと喜びを覚え、ご機嫌なセレスティア。

 そして特に何も思っていないヘーパトス。


「それで?新しい武器とはどんな物?」

「これなんだけどさ」


 持参してきたイラストと設計図を二人に見せるグリセリア。セレスティアとヘーパトスは真剣な表情でイラストを見る。


「これは飛び道具。名前は銃。仕様としては弓矢や魔法に近いかな。でも弓矢と違って腕力を必要としない。特に力がなくても使えるよ。まだ考案段階だけど、従来の魔法攻撃より少ない魔力で使えるかどうか」


 イラストや設計図を見せながら説明をするグリセリア。彼女が持つ紙には『拳銃』『猟銃』『ショットガン』『ライフル』『スナイパーライフル』等の銃全般のイラストが描かれていた。


「それとこれもなんだけど」


 グリセリアは新たなイラストを見せる。


「これは銃に近い仕様の物ではあるんだけど、発射時の持ち手側への反動が大きかったり、直撃範囲が大きかったり、連射式だったりする。これがそれぞれの名前ね」


 次にグリセリアが説明した物は『バズーカー砲』『ガトリング砲』『大砲』『ミサイル発射装置』であった。


 銃、砲筒のどちらにおいてもいくつもの種類のイラストと設計図を描き上げてきたグリセリア。アイラが認めるグリセリアの機械工業知識が輝いている証拠であった。

 そしてグリセリアは、これらの武器が作れる技術が確立されれば、家電も作れるのでは?と考えていた。


「セリア。これって前世の記憶から引用してきた?」

「うん」

「へぇ~、随分複雑な構造の武器や兵器があったんだね」

「それだけ高度な文明だったからね。その分使った時の虐殺性も上がったけど。ちなみに銃に関しては弓矢より殺傷能力高いよ。まぁ、だた今私が考えてる内容だと、前世の頃の物とは発射物が異なる」

「ほうほう…」

「本来は銃本体に弾丸っていう鉄製の専用の玉を入れて、それを勢いよく発射させて敵に当てる。でも今の私の考えだと、玉の代わりに魔法弾を入れて使用できないかと考えてる」

「ふむふむ…」


 グリセリアの話を熱心に聞くセレスティア。ヘーパトスは無言無反応。


「これらって食らうとどうなるの?」

「銃の場合なら長距離でも頭や首や胸に当たれば死は免れないし、それ以外でも当たり所が悪かったら死ぬ。血も出るから時間差で出血死もあり得る。近距離で食らえば弾丸が身体を貫通するよ。

 砲の場合、まともに食らえば木端微塵だね。直撃を免れても近くに着弾すれば爆風で吹っ飛ばされて、その衝撃で死に至る事もある。まぁ、種類や仕様によって異なるけどね」

「欠点は?」

「弓矢に比べて発射音が大きい。それと物によっては弓矢よりも重量がある。それから扱い方に気を付けないと、暴発っていう現象を起こして持ち主自身が死ぬ」


 セレスティアの質問にスラスラ答えていくグリセリア。セレスティアはしばらく考えた後に深く頷いた。


「解った。必要な材料や製造工程、開発費等を考えて計画を立てていこう。これは恐ろしい物が出来上がりそうだね。ところでこれは当然アイラ了承の上だよね?」

「え?言ってないよ?」

「え?」


 銃と砲の開発計画をアイラが知らない事を知ったセレスティアとヘーパトスは、同時に動きが固まった。


「待って。この計画は一旦凍結」

「は?なんでよ?」

「なんでじゃないよ。明らかに殺傷能力がある、しかもこれまでの戦闘概念を変えかねない程の武器兵器を軽々と作ってしまうのは良くない。ましてや前世関わりの物なら私達には未知数だ。ここはアイラにもきちんと相談して、本当に開発して良いかの有無を議論した上で開発すべきだよ。そうしてからここへ持って来てくれないと、こっちの責任が重すぎる」


 計画の一時凍結を要請したセレスティア。その根拠にヘーパトスも頷く。


「…アイラ様に、相談すべきだ……」

「アイラ今龍帝国行ってるんでしょ?帰って来たら話しなよ。計画の解凍はそれから。絶対独断では作らせないからね?」

「えぇ~…」


 アイラへの相談を推奨して元々の作業に戻るヘーパトス。

 妹の発案とはいえ危険な武器であるために独断では作らせまいとするセレスティア。

 武器の説明をしている間は生き生きとしていたグリセリアは、二人の計画続行反対にガックリ肩を落とす。


「あー!いたー!」

「やはりこちらにおられましたか」

「げ…」


 そこへやってきた二人の女性。リリアとアリスである。

 二人の出現にグリセリアの表情が突然引きつる。


「どうやらお迎えみたいだよ。セリア」

「ちょっと姉さん!?しれっと私を差し出そうとしないで!」


 逃走体勢に入ろうとしたグリセリアの後ろ襟を掴んでリリアとアリスに差し出そうとするセレスティア。

 グリセリアは驚きつつも抵抗するが、セレスティアは離さない。


「まったくホントいい加減にしてください!何度逃げて捕まったら気が済むんですか!いつどうやって逃げたのかは全て私が記録してますし、全部アイラさんに報告しますからね!アイラさんが龍帝国から戻ったら叱ってもらいます!ホラ、仕事に戻りますよ!」

「セレス様、我々はこれで。職務中、失礼致しました」

「大丈夫だよ。そっちも仕事頑張ってね」


 リリアはグリセリアにプンスカ怒り、アリスはセレスティアに詫びた。セレスティアはアリスの詫びを手を振って流す。


「ほら暴れない!書類溜まってるんですから急ぎますよ!」

「道路整備に関してフリマン大臣との会議も予定されております。時間的にも急ぎませんと」

「や~だ~!は~な~せ~!働きたくな~い~!私は他にもやりたい事があるんだ~!誰か助けろ~!」


 リリアとアリスに両脇を抱えられ、引きずられながら補佐官と護衛に連行されて行くグリセリア。彼女の抵抗も虚しく助ける者はおらず、三人は工場を後にした。


「…あの子の側近達もそうだが、アイラもあの子には苦労が絶えないだろうなぁ…。今度労ってあげないといけないかな。自由に動いてる私が言うのもあれだけど」


 セレスティアは連行されて行った妹を眺めてボソッと呟いた後、三人が出ていくのを確認して自分の作業へと戻るのだった。

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