巨鳥の巨獣
前半はアイラ視点、後半はアンゴラ視点になります。
視察団のメンバーと共に飛行を続け、山との距離が近くなってきた。
山の標高が高い部分に草木は見られない。植物が自生出来ない程の標高の高さがあるということなんだろうけど、雪化粧されてない点を考えるとアンプルデス山脈よりも標高が低い山だということが分かる。
ちなみに島の中心にまたがるこの山の名前は『ペレテ山』というらしい。
思えば視察メンバーが半分少なくなったとはいえ、これだけ大勢の竜族が竜化した姿で一緒に飛んでいる状況を見るのは初めてだけど、今見ていてもかなり迫力がある。全種族の中で最強種と言われるのも解る気がする。
アンゴラさんとルルとダーナとオリガの竜の姿も初めて見た。アンゴラさんは全体が赤色で黒色と白色の模様が入ったカッコイイ系の姿。ルルは黄色の身体に白色の翼。胴体の黄色は鮮やかで派手さがない。神秘的でキレイ。
ダーナは全身が鮮やかな青色と水色のコントラストで、ルル同様に神秘的。この子は活発で明るい子だけど、容姿はヒト型の時も竜の時も神聖さがあるのよねぇ。
オリガは緑色と黄緑色の……スイカの皮と同じ柄…。なんでこうなった?
「龍帝陛下。前方に見えている山頂付近を見てください」
「山の山頂?なになに?」
山の全体や一緒にいる視察団の面々ばかり見ていた私は、キリカに言われて初めて山頂付近をじっくり見た。すると山頂付近に大きな鳥のような姿が見える。見る限りサイズはかなりデカイ。
「あー、かなり大きな鳥がいるわね」
「鳥といいますか巨獣ですよ。危険なので近くで待機を希望します。判断をお願いします」
私に判断を求めてくるアンゴラさん。気が付けばみんな飛行速度がかなり落ちてる。
「お嬢様、視察団の皆様は怖がってらっしゃるご様子です」
「あそこに着陸できそうな場所がありますが…」
シャロルは視察団の状態を報告。ルルは着陸場所を教えてきた。確かに今の人数が待機できそうな岩場が見える。…何だか今の空気的にも降りた方が良さそう。
「じゃあ全員、一旦あの地点に降りてちょうだい」
私は視察団全員にルルが教えてきた岩場へ着陸を指示。全員一旦ヒト型に戻って待機となった。
この岩場はペレテ山に入る目前の場所で、現在地からも頂上付近にいる巨獣の存在が確認できる。今のところ巨獣に私達の存在は気付かれてないみたい。
「龍帝陛下。この後はどうされますか?巨獣は我々の進路上にいます」
降りて早々オリガが今後の判断を訊ねてきた。しかしこの時既に、私の頭の中で次の行動は決まっていた。
「この後はここでしばらく待機で良いわ。みんなは休憩してて。ただ何があってもこの場から動かないでね」
私は軽くストレッチしながら、視察団のみんなに休憩を命じた。
「…お嬢様、まさかとは思いますが…。…いえ、そのまさかですよね…」
シャロルは私が今からやろうとしている内容を察してくれた。さすが長年私に仕える優秀なメイド。ただ呆れた表情で言うな。
「あー…、そういうことか…。やっぱりこうなるんだ…」
キリカも察してくれた様子。だから呆れた表情やめて。てかなんで呆れられてんの?私。
「え~?一体何がどーいうことなの?キリカちゃん」
「…まぁ、見てれば分かる」
私がこれからどうするのか分からない様子のダーナはキリカに訊ねた。でもキリカは教える気がない様子。だから呆れてんじゃないわよ。
「じゃあ皆さん、ごゆっくり休憩を。私はちょっとアイツを始末してきますので♪」
<<<え…?>>>
私は視察団に軽く内容を伝えて、みんなの反応を待たずに巨獣に向かって突撃を開始した。
<<<へ、へいかあぁぁぁぁ~!!!>>>
視察団の面々は一斉に私に向かって叫んだけど、私は構う事なく既に戦闘機レベルの加速で飛んでいた。
巨獣へ距離を詰めていくと、その全長がよく解るようになった。鳥類型の巨獣である事は間違いない。けど胴体も翼もサイズがとにかくデカイ。ホント恐竜みたい。
「グギャアアアァァァァ!!」
巨獣も私の存在を認識。雄叫びを上げて威嚇してきた。
私は巨獣の真下から飛んで来ているため、このまま巨獣に攻撃させてしまっては私の下にいる視察団に危害が及ぶ可能性がある。なので私は一旦飛行速度を落とさずに巨獣の前を通過。高度をペレテ山山頂よりも高い所まで上げ、私が巨獣を見下ろす状態にした。
この状態から私はそのまま急降下。巨獣に向かって蹴りを繰り出す動きをとった。
私の動きを察知した巨獣は、私に向かって飛び、飛びながら火炎放射を繰り出してきた。口から炎が吹けるところは恐竜と異なるわね。
「なんつって♪」
この展開をある程度予想していた私。つまり上からの蹴りも実はフェイク。巨獣が火炎放射を繰り出した直後に私が体勢を変え、光速で巨獣の背後に回り込んだ。そんで巨獣の背に光速度の蹴りを入れた。
「ギュアアァァァァ!!」
私の蹴りを受けた巨獣は苦しみの声を上げながら空中で飛ばされた。
一見地味に思える私の蹴りだけど、蹴りを食らわせたと同時にかなり衝撃波を与えたから効き目はあるはず。最低でも骨が砕ける程の衝撃が来てるはずなんだけど。
効果を確かめたい気持ちだったけど、それだと勝負にならないので間髪入れずに次の行動へ。
飛ばされた巨獣にゼロ距離まで詰め寄り、巨獣の片翼の胴体との付け根部分に小さな丸いものを無数にくっつけた。
この小さい丸いものは、私が爆発系魔法に使う魔力を濃縮して小さな玉にしたもの。物理的に例えると爆弾。威力的にはダイナマイトかな?玉の表面はペタペタするように工夫したから、どこでもくっ付く。
玉をくっ付け終えた私はすぐに巨獣と距離をとる。直に巨獣が態勢を立て直し、怒った様子で私へ向かってきた。でもさっきと飛び方も姿勢も違う。やっぱ蹴りでどこか負傷してくれたらしい。
巨獣がある程度近づいてきたタイミングで、私は指をパチンと鳴らす。私のこの合図で、巨獣にくっ付けた玉が一斉に爆発。その爆発で巨獣の片翼はもげた。
「ギャアアアアア!!」
もはや悲鳴としか聞こえない声を発する巨獣。そういえば巨獣も痛みって感じるのね。ガブガと戦った時は瞬殺してたから、その辺分かんないのよね。
ところでこの巨獣に名前ってあるのかしら?
「ギャアァァ…」
名前は分かんないけど、片翼を失った巨獣は飛行を維持出来なくなり、空中から落ちていく。
「私の勝ちみたいね。さようなら」
私は魔法で巨獣に雷を落としてトドメを刺した。確実に仕留められるよう、実際の雷の倍の電圧で食らわせた。
ズドオォォォォォン…!
雷撃をモロに浴びた巨獣は黒焦げになって、そのまま動く事なく地上へ落ちて行った。
巨獣落下後、巨獣に生命反応は無し。周辺に感じる生命反応は視察団と森にいるであろう小動物等のみ。巨獣クラスの大きな生命反応は感じられない。
巨獣は完全に息絶えたようね。よし、私の勝ち。
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皆の声を無視してアイラは巨獣へ突撃して行った。私とキリカ補佐とシャロルさんとルルさん以外は皆慌てているが、これを気にしないということは既に何度か同じ展開をやったな?
あの子は立場も身体も特殊だと言っていた。この場でそれを確かめようと私は思った。
アイラは巨獣よりも高い位置まで飛んで行ったみたいだ。巨獣よりも上位置から攻撃をしようとする算段か…。
「巨獣が火を吹いたぞ!」
「もしかして龍帝陛下食らったんじゃ…」
巨獣の火炎放射に皆がわめき立っている。しかしこの程度で攻撃を食らうはずはない。あの子はどこへ…。
(…!?)
気が付けばアイラは巨獣の背後にいた。一体いつの間に…!
「おぉ!?巨獣が…!」
「巨獣が吹っ飛んだぞ!?」
吹っ飛んだのではなく、明らかにアイラが蹴り飛ばしたな…。あんなデカぶつ蹴り飛ばすって…。
…ん?急に巨獣と距離をとっているな…。次は何をする気だ?
「おおお!?なんだなんだ!?」
「急に巨獣が爆発した!?」
他の兵士達の言う通り、アイラは何をした?私からも巨獣が爆発したようにしか見えなかった…。
今の爆発で巨獣は片翼を失ったらしい。みるみる高度が低下していく。
「…!?うわ…!」
直後突然空が光った。快晴だったはずなのにまるで雷が発生したかのような…。光をまともに見てしまったせいで前が見えない…。
「ぐあぁ…、目が…」
「なんだ…?何が起きた…?」
他の兵士達からも同様の声が聞こえる。どうやら私と同じ状況らしい。
「アンゴラ様。大丈夫ですか?」
耳元で声が聞こえる。シャロルさんの声だ。
「えぇ…、目がチカチカしているだけですので…。シャロルさんは大丈夫なのですか?」
「ええ。私はお嬢様の戦闘を見ていませんでしたので」
「見ていなかったのですか?あなたも従者ですよね?」
「別に見続けなくとも、あのような生物にお嬢様が遅れをとるわけありませんので。時々視界の端で見ていれば問題ありません」
シャロルさんは大丈夫らしいが…、仮にも自分の主人の戦いを見守らずにいるというのはどうなのか…。しかしまるでアイラが巨獣に勝って当然のような言い方だな。それだけアイラの戦闘を見てきたという事か?…どうやら今世でのあの子の事は誰よりもシャロルさんが圧倒的に解っていそうだな…。アイラも今世で一番長く一緒にいると言っていたしな。
と、大きな物が落ちたような音が聞こえた。
「巨獣が地上に落下しました。ここからは離れた位置ですね。先程の光はお嬢様が巨獣に雷魔法を放った時のものだと思われます」
「そうなんですか?…アイラは?」
「まだ上空にいますよ。見る限り怪我等をしている様子は無さそうです」
どうやら勝ったらしい。本当に巨獣相手に勝利した…。信じていなかったわけではないが、軍隊で取り掛からなければならない厄介者を一人で…。
「アンゴラ様、目の異常は時間が経てば回復すると思われます。それまでは無理に動きませんよう。万が一調子がおかしければ申し出ください。私とルルさんとキリカさんは動けますので」
「あ、あぁ。解りました…」
キリカ補佐とルルさんも動けるのか…。偶然光を見ていなかったのか?
「オリガちゃ~ん!眩しかったよ~ぅ!目がチカチカして見えないよ~!」
「解ったから抱き着くな!私もまだ見えてないんだ!危ないからやめろって!」
……ダーナさんとオリガさんはこの状況下でも元気だな…。




