久しぶりの宮殿入り
視点がアイラに戻ります。
私達は無事に何事もなくシュバルラング龍帝国に到着。誰も轢かれてないようで良かった…。
キリカが着陸したと同時に私とシャロルはキリカから降りる。キリカもヒト型に戻った。
「お帰りなさいませ!アイラ龍帝陛下!キリカ龍帝補佐!」
ベテランっぽい兵士が声を上げて敬礼すると、その周りにいた兵士や役人とかが一斉に敬礼してきた。
こうして集まって来て尚且つ「お帰りなさい」って言われると、この国から受け入れてもらえてる感があって嬉しいんだけど…、かなり慌てて集まったよね…?みんなの立ち位置バラバラだし、一部息切れしてる人までいるし…。
「ただいま戻りました。皆さん」
とにかく龍帝として何も返さないのはダメなので、笑顔で応えておいた。
「アイラ龍帝陛下!」
聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら、ランが宮殿から出て来ていた。ランの後ろにはダーナ、オリガ、サララの仲良し三人組と、ニースさんとルルが付いて来ていた。
「ただいま、ラン。ただいま、みんな」
「ただいま戻りました」
私はランをハグしつつ、一緒に出迎えに来てくれた面々にもただいまを言う。キリカも私に続いて一言。こうして出迎えてくれるのは本当に嬉しい。
「龍帝陛下。そちらの方は?」
あ、ニースさんがシャロルを気にしてる。紹介しとかなきゃ。
「紹介するわ。私が幼少の頃からずっと専属の使用人として仕え続けてくれてるシャロルよ」
「お初にお目にかかります。シャロル・バレスタインと申します」
私の紹介に合わせてシャロルはきっちりお辞儀。
「初めまして。首相を務めております、ラン・クラッセンと申します。竜族を代表しまして、当国への入国を許可し、歓迎致します。ようこそ、シュバルラング龍帝国へ」
ランが竜族の代表としてシャロルに挨拶した。なんだかランも首相の座が板についてきた感じ。
「ルル~、ちょっと来て~」
「はい?陛下」
シャロルをここへ連れてきた目的は、ルルと会わせるため。私はさっそくルルの腕を引っ張ってシャロルの前まで移動させる。
「シャロル。この子がここで私の専属使用人をしてくれてるルルよ」
「は、初めまして!ルル・コンコードと申します!」
「初めまして。シャロル・バレスタインと申します。あなたの事はアイラお嬢様より聞いておりました。お会いできて光栄です」
「お嬢様?」
ルルはシャロルが私の事をお嬢様と呼んだ事に疑問を呈した。
「あぁ、私はアイラお嬢様がまだ貴族の当主ではなく令嬢だった頃から仕えておりますゆえ、呼び方がそのまま残っているのです。特に意味はありませんので、お気になさらず」
「あ、そうなのですね」
シャロルの説明にルルは納得した様子。
「それではそろそろ宮殿へ参りましょう。皆の者!龍帝陛下は宮殿へ入られる!各自通常業務に戻れ!」
ランがシャロルとルルの会話のタイミングを見計らうように宮殿に入る方向へ話を持って行った。同時に周囲にいた兵士や役人などに対して号令を出した。もうすっかり首相じゃん。
「おい、ダーナ。宮殿に戻るぞ。…って何してるんだ?」
「足元にあった小石いじってるの。ちょっと面白い形だったから」
「子供か!龍帝陛下の前だぞ!そもそも龍帝陛下を前にしてしゃがんでるんじゃない!」
「あー!蹴り飛ばさないでよ~!せっかく珍しい形してたのに~!」
「遊んでるお前が悪い」
「ウフフ。中に入りましょう?二人とも」
「ヤレヤレ…」
広場にあった小さな石をいじるダーナと、それを注意するオリガ。
二人のやり取りを見て笑みを見せるサララと、肩をすくめて首を横に振るニースさん。この辺のメンツも相変わらずね。
ドラゴ宮殿に入った後、私、キリカ、ルル、シャロルは龍帝居住区に直行。ラン、ダーナ、オリガ、サララ、ニースさんは仕事へと戻って行った。ランは後から龍帝居住区に向かうって言ってた。
「いや~、久々に来たわね~。ゆっくりしよ~っと」
私はさっそくソファにどっかりダイブ。横になってダラける。
「ここが龍帝居住区ですか…。つまり現在は龍帝であるお嬢様のためにある区画…」
「そうよ。シャロルも一旦休んだら?ソファ適当な所使って良いから。慣れない空の移動で気を張ったでしょ?」
「それは…、そうですね。お言葉に甘えて休憩させていただきます」
シャロルもゆっくりだけどソファに腰掛ける。
「私は一旦自室に入ります。何かあればお呼びください」
「はいはーい」
キリカは区画内にある補佐官専用の部屋に入って行った。
こうしてる間もルルがせっせと飲み物の準備に追われている。前回初めて会った時よりも動きがスムーズになってるような気がする。
多分使用人としては十分なんだろうけど、普段からシャロルや爺やの動きを見てる私としては、感覚的にまだ足りない気がしてしまう。それだけシャロルや爺やがスゴイって事なんだろうけど。
「ルル。動きが以前よりも良く思えるんだけど、練習でもしたの?」
「はい。龍帝陛下の専属使用人として恥じぬよう、基礎を見直していました。お褒めいただきありがとうございます!」
やっぱ練習してたのね。偉いな~。
「……」
そんなルルの動きをシャロルはずっと観察してる。というかほぼガン見。やっぱ同業者の動きはきになるのね…。
「失礼致します」
「あ、チェンハ業務長。お久しぶりです」
「お久しぶりでございます。お帰りなさいませ、龍帝陛下。使用人一同、陛下のお帰りをお待ちしておりました」
やって来たのはドラゴ宮殿の使用人達を統括するチェンハ業務長。
「ただいまです。使用人の皆さんの調子はどうですか?何かお困りの事があれば聞きますよ?」
「ありがとうございます。おかげさまで問題なく過ごせております。むしろコアトルが実権を握っていた頃よりも一人ひとりの動きに余力が出てきました。そのおかげで皆身体を壊す事もなく元気に過ごせております」
コアトルがいた頃よりも余裕がある?コアトル政権時代は使用人達にも何か影響が出ていたのかしら?コアトルが無茶ぶりしてきたとか?あり得そう…。とにかく何も無さそうなら良かった。
「あ、シャロル。紹介するわね。この人はドラゴ宮殿で働く使用人達を統括してるチェンハ業務長よ。メイド長に相当する立場の人。
チェンハ業務長。彼女は私が幼い頃から仕え続けてくれてる使用人のシャロルです」
「初めまして。シャロル・バレスタインと申します」
「ドラゴ宮殿使用人業務長のチェンハ・フーフェイと申します」
私を挟むかたちでシャロルとチェンハ業務長は挨拶し合った。
「業務長。ルルは動きに磨きがかかりましたね。前回私がここにいた時より良くなって見えます」
「ええ。龍帝陛下がグレイシア王国へお戻りになられた後、ルルはかなり気合が入った様子で仕事に励んでおりました。これまで以上に熱意を持って業務に励んだかと思えば、しつこく私や他の使用人に指導を頼み込んで来たくらいで。今では他の使用人を寄せ付けないほどの完成度はあると思いますよ。私があの子くらいの歳だった頃と比べても、既に雲泥の差がありますね」
「業務長~!勝手にスラスラと私の行動を暴露しないでくださいよ~!恥ずかしいですよぅ!」
私がいなかった間のルルの努力をチェンハ業務長は評価してたけど、話はルルにも聞こえてたらしく、ルルは赤面しながら恥ずかしいと訴えた。カワイイ。
「お待たせ致しました。おや、これはチェンハ業務長。お久しぶりです」
「お久しぶりです。キリカ補佐」
キリカも部屋から出てきてチェンハ業務長と挨拶。そのままソファに座った。
「あ、そうだキリカ。何日かだけになっちゃうとは思うけど、休暇をあげるわ。実家に帰ってご両親に顔を見せてあげて」
「お気遣いありがとうございます。お言葉に甘えて休暇を頂戴致します」
キリカはすんなり休暇を受け入れた。ここまですんなりってことは、多分自ら言い出そうとしてたっぽいわね。
その後ルルの行動もひと段落し、私の傍で止まった。するとチェンハ業務長がタイミングを計ったようにシャロルに声をかけた。
「シャロルさん。使用人としてご意見を伺いたいのですが、シャロルさんから見てルルの動きはいかがでしたでしょうか?ご意見やご指摘する箇所があれば遠慮なく」
チェンハ業務長からのシャロルへの振りにルルが険しい表情になった。同業者から、しかも自分より圧倒的に長く主に仕えてる人から意見が飛び出そうとしてるんだから、そりゃ緊張するわよね。
そんなシャロルは私の方を見た。「言っても良いか?」と表情で聞いてきてるのは直感で分かったから、私は黙って軽く頷いた。っていうか念話使いなさいよ。
「正直に申し上げますと、改善点はあります」
シャロルの一言にルルもチェンハ業務長も真剣な表情。
「使用人としての動きは、先程チェンハ業務長がおっしゃった通り既に『一流』の領域に入っていると思います。しかし私はその『一流』の先にある『完璧』という領域にいる技量を持った方を見た事があります。私も使用人として、その『完璧』の領域を目指しております。現にその方から指導もしていただきました。もしルルさんがその『完璧』の領域を目指すのなら、まだまだ甘いと思います」
シャロルの言ってる「完璧の領域」にいる人って絶対爺やの事でしょ?あの人そもそも神獣なんだけどな…。そもそも経験値が違い過ぎるって。爺や何千年生きてると思ってんの…。
「例えば先程ここに入ってから現在に至るまでの動きで申し上げますと、アイラお嬢様がソファにお座りになられてからルルさんは飲み物の準備に入りました。しかしそれでは遅いです。主が腰掛けた時点で、最低限グラスにすぐさま飲み物をそそぐ事が出来るようにしている状態が望ましいでしょう。不定期とはいえお嬢様がこちらに来られる事は分かりきっているのですから、事前にいくつか行動予想を立てて、どういう状況であれ最速でご奉仕ができる状態を整えておくべきかと。
それと飲み物をそそぐために費やす時間が少々長いです。もっと素早く、勢いよく、しかしながら音を立て過ぎず、水滴を飛ばさないように淹れる事は可能です。
それから全体的な移動速度も現状より早くできると思います。こちらも素早く、しかし足音を立て過ぎずですね。
あと、主人の格式を誰にでも高く見せるためにも、奉仕する側である我々使用人も動きに優雅さと気品を持たなくてはいけません。ルルさんの動き方には所々が事務的に感じました。以上が現状を見た限りでの改善点ですかね」
シャロルからズバズバ出てくる指摘に、ルルは完全にブルーになってしまって、チェンハ業務長は呆然としてる。
「シャロル。許可したとはいえ言い過ぎ」
「はっ!も、申し訳ございません!私とした事が…!」
私がシャロルを注意すると、シャロルは慌てだした。
「……」
ルルはの周囲だけどんよりとした空気になってる…。そりゃそうよね…。
「あ、あはは…。いやまさかここまでご指摘いただくとは思ってもいませんでした。私も他の使用人達も、ルルの実力には指摘するところがないと思っていましたので…」
呆然状態から復活したチェンハ業務長は、頭をかきながら苦笑い。
「あ、あの。確かに指摘はしましたが、あくまで一流のさらに上を目指した場合でのお話ですので、奉仕が出来ていないわけではありません!先程も申し上げましたが、使用人としては既に一流だと思いますので、改善せずとも十分やっていけます!」
シャロルが慌てた様子で必死に言葉を付け加えてる。シャロルも時々こうやって慌ててると可愛く見える。
「ウフフ…。チェンハ業務長。シャロルは以前、グレイシアの王城で働く使用人達を自らの実力で黙らせた事があるんですよ」
私は笑顔でシャロル自慢。当のシャロルは焦りで呼吸が乱れたのか、ゼーゼー言ってる。
「なるほど…、そこまでの実力が…。……シャロルさん。お願いを聞いていただいてもよろしいでしょうか?」
「は、はい…、何でしょう?」
「短時間でも構いませんので、使用人達に実践指導をしてはいただけませんでしょうか?それとルルへの指導もお願いします」
「はい!?」
チェンハ業務長の申し出に、シャロルはメッチャ驚いてる。
「し、しかし!私はお嬢様に仕えているという事以外、何の肩書きもないただの使用人ですよ!?チェンハ業務長のように統括もしていません!なのに他国の使用人の方々に対して実践指導など…」
「え?シャロル、肩書きあるじゃない?『隙なしの完璧最強メイド』っていう…」
「お嬢様は余計な事言わないでください!」
なんか私が口挟んだらシャロルに怒られた。解せぬ。
「お願いします。これは龍帝国以外で働く同業者の方に見ていただける滅多にない機会なのです。無理を承知でお願いしている事は理解していますが、どうか…」
「シャロル、お願い聞いてあげたら?あんただっていつまでも指導される立場にはいられないでしょ?いつかは爺やみたいに誰かを指導しなきゃいけない時が来るだろうし、現にジーナを指導したでしょう?」
それにいずれそーいう統括役に置くつもりだしね。
「……解りました。お嬢様がそうおっしゃられるのでしたら…」
「あ、ありがとうございます!」
「えと…、よろしくお願いします!!」
私の説得でシャロルは折れて、業務長のお願いを受諾した。業務長は頭を下げて、ブルーになってたルルも勢いよく頭を下げた。けどシャロルは微妙な表情。
シャロルにとって龍帝国は完全に他国。そこにいる同業者、しかも宮殿勤めしている人達に、お願いされてるとはいえ指導してしまって良いのか、まだ頭の中で疑問視してるみたい。これが爺やだったら何の躊躇いもなく笑顔でオッケーしてそう…。




