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異世界で最強 ~転生と神の力~  作者: 富岡大二郎
第十二章 舞台の下準備
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隠密者の正体

 逃走する女性を追いかける私達。女性の動きは家屋の屋根や木々などを飛び渡って移動する完全な忍びまたはアサシン走法。スピードからしてもプロレベルの隠密術を持っていると思われる。シャロルやジーナと比べればまだ遅いけどね。


(彼女が止まったらみんなは一旦私から離れて。私一人で接触を試みるわ。複数だと警戒を高くさせる可能性があるから)

(しかしお嬢様。相手の技量が正確に分からない以上、単独接触は危険かと…)

(複数で囲って抵抗された方が何をされるか分からなくて危険よ。とにかくどこかで身を潜めて)


 私はシャロルの反対を押し切って一人で接触する算段を立てた。彼女の力量が分からないが故にみんなを危険な目に晒したくない。多分私一人でも大丈夫だと思う。






 追跡するうちに街からは離れ、森林に囲まれた人気のない場所までやって来た。そして女性はこの地点で動きを止めた。

 私達は彼女に察知されないよう気配を消して彼女周辺の木々に止まって様子を窺う。


「ふぅ…、ここまでくればさすがに追っては…」


 女性は私達が追跡してきている事に気付いてない。そして追手がいない事に安心している様子。そもそも城の兵士達は一切追いかけてないし、追手もいないって分かんない?


 とにかく私は彼女と接触するため一人で移動。ちょっと遊び心で彼女の背後に幽霊っぽくピッタリついてみた。


「みーつけた…。ウフフ…」

「!!?」


 私はボソッと小声で声をかけた。遊び心で。

 対する女性は私の声に驚いて振り返り、素早い身のこなしで後退した。せっかく脅かしたけど、「ぎゃああああ!!」とはなってくれなかった。


「フフ、ゴメンゴメン。ちょっと脅かしてみただけ。悪気はないのよ」


 手をヒラヒラさせて笑顔を見せる私。けど女性はメッチャ警戒心剥き出し。


「何者…」


 スッゴイ睨みつけてくるわねこの子。脅かした私が悪いんだけど。


「私はグレイシア政府の関係者よ。あなたがずっと城を見てて、兵士が声をかけた途端に逃げ出したもんだから気になっちゃってね。勝手ながら追跡させてもらったわ」

「…追跡した?私を?」

「他に誰がいるのよ?」

「無理だ。私を追いかけようなど…」

「出来ちゃうのよ」

「!?」


 私が追跡してたことを信じてくれなかったから、私はもう一度彼女の背後に回り込んで追跡できるだけの速さを持ってる事を証明して見せた。勿論一瞬で背後に回った。

 彼女はさっきと同様、驚きつつも素早い動きで私から距離をとった。


「さて、そろそろ教えてもらおうかしら?あなたが何者なのか」

「…お前に教える事などない」


 直後。彼女はゴルフボール程のサイズの玉を破裂させて、辺りに白煙を上げさせた。煙に紛れて逃げようって考えなんだろうけど、こんなの私には無意味。


「はいはい、逃げないの」

「なっ…!」


 私は逃走を図った彼女に一瞬で追い付き、彼女の腕を掴んだ。彼女は逃げれると思っていたのか、今回一番の驚きの表情を見せている。

 彼女が怯んでいる間に私は瞬時に腕から持ち手を変えて、背負い投げで彼女を地面に叩きつけた。


「ぐぁ…!」


 彼女が地面に付いた段階でそのまま彼女の上に乗っかり、抑えつけに入る。


「逃げようたって無駄なのよ。あなたの移動速度なんて私にしてみればゆっくり動いている状態と変わらないんだから」

「なん…だと…」


 彼女は私をどかして起き上がろうと必死にもがいてる。けど私は彼女が起き上がるために使う部位をきっちり抑えてるから、彼女の動きは無駄な体力の消耗。


「みんなもう良いわよ。出てきてちょうだい」


 私がやや大きめの声で叫ぶと、気配を消していた仲間達が出てきた。…ってなんでキリカだけ葉っぱまみれになってんの?あんたどこにいたのよ…。


「な…、な…」


 女性は突然現れた存在に驚いているようで、ずっとキョロキョロしてる。


「この通り私の仲間もいたのよ?存在に気付かなかったでしょ?」


 隠密術を使えても、私達の気配を察知する事は出来なかったみたいね。これがシャロルやジーナ並なら気付けたんだろうけど。


「それじゃあ改めて教えて?あなたは何者?」

「……」

「教えてくれないと、手荒な行為をせざるを得なくなっちゃうんだけど?」

「……」


 女性は完全黙秘。ちょっとした脅しにも動じない。

 こうしてる間に、アルテとキリカが女性が持っていた荷物の中身をチェックしてる。


「あ、食べ物みっけ。いただき…」

「ちょ、ちょっとアルテミスさん…!」


 アルテが荷物の中から食料を見つけて勝手に食べようとしてる。隣でキリカがオロオロしてる。


「おいコラ、そこ。他人様の物を盗むな。勝手に食すな」

「いや違いますよ~。危険な食べ物じゃないかっていう確認で…」

「それを口述に全部食べる気でしょ?もし食べたら後で吐くまでお腹殴るからね?」


 私からもアルテの行為が見えていたので、ツッコミを入れて厳重注意しておいた。直後アテーナがアルテの頭を平手でぶってた。まったく何をしてんだか…。


 その後いくら言葉を並べても女性は黙秘を貫いたため、私は仕方なく神力入りの圧をかけることにした。

 神力が入っている殺気を出して、彼女の顔との距離を可能な限りつめて、彼女の顎を触って強制的に顔が私に向くようにした。


「ねえ?教えてほしいな?あなたのこと…」

「…っ!?…!…っ…!」


 私と彼女の目が近距離で合った瞬間、彼女の表情はみるみるうちに恐怖の表情へ変わっていき、どんどん青ざめていってる。同時に彼女の身体が震え始めているのが分かった。言葉にならない声を出してるし、効果はてきめんみたい。


「ずっとこのままは嫌でしょ?痛い事されるのも嫌でしょ?今教えてくれたら、優しく扱ってあげるんだけどなぁ…」


 私は彼女の頬を指で優しく撫でながら、優しい微笑みを見せつつ優しい口調で声をかける。でも彼女は殺気を感じ続けてるだろうから、これが逆に恐怖を増幅させてるはず。


「…わ、私は…」


 ようやく話す気になったみたい。だいぶ恐怖が効いたわね。


「私の名は…、アングリア。アングリア・プレスター。アストラントから来た…」


 女性はアングリアというらしい。しかもアストラント出身者。……あれ?なんかどっかで聞いた名前…。


「ここへは何しに来たのかしら?」

「…アイラ・ハミルトンという女性を探していた。この国で侯爵の地位にいるという…」


 なんと彼女の目的は私だった!でもアストラント出身者の彼女が私が『ハミルトン』という姓でいる事と侯爵位にいる事を何故知っているのか…。…あ、街で情報集めれば分かる事か。

 念のため私は自分がアイラだとは言わずに、別人のふりをして接してみる事にした。


「アイラ侯爵を探しているのね?アストラントの人間が一体どこでアイラ侯爵を知ったのかしら?」

「…夢に出てきた」

「…へ?」


 アングリアの夢見た発言に私も他のみんなも呆気にとられた。


「夢の中で白く美しい女性が言ってきたんだ。『あなたが慕う存在にもう一度会いたいのなら、グレイシアへ渡り、アイラ・ハミルトンという女性侯爵を探しなさい』と…」


 あー!思い出した!この子、らくじゃん!転生者リストに載ってた栄永楽えいながらく!どうりでどっかで聞いた名前だと思ったよアングリア・プレスター!

 ていうかハルク様はどんだけヒント出してんのよ。夢で接触を図ったとは聞いてたけど、私の名前と爵位をまんま伝えちゃってるじゃないのよ。これもしかして他の転生者も…。


「私はかの方に長い間関わってきましたが、あなたのような方は知りません。一体いつ出会い、いつから慕ってらっしゃるので?」


 私がアングリアの正体に気付いて脳内整理しているうちに、シャロルがアングリアに質問をしていた。私がアイラではないふりをしてる事を察してくれてるみたいで、あくまで「関わった」という言い回しにしてくれた。


「……」


 シャロルの質問にアングリアは黙ってしまった。黙秘というより何やら考えてる様子だったから、何か言い出すのを待ってみた。

 なお、私はこの時点で殺気を止めた。念のため抑えてはいるけど。


「…おかしな事を言うかもしれないが、ここではない別のとても遠い場所で、今とは違う別の状態であのお方とは交流していた。変わり者で知り合いの一人も作らなかった私に差別なく明るく接してくださった方…。忘れはしない…。あのお方こそ、私が仕えるべきお方…」


 アングリアは何かを思い出すかのように話している。私はというと、既に頭の中で確信付いていた。彼女こそ前世で私を(何故か一方的に)慕い、私を様付けで呼んでいた友人。栄永楽だと。


「なら、その別の状態だった頃の、あなたの名前を教えてくれるかしら?」

「え?」

「名前よ。名前。アングリアとは名乗ってなかったでしょう?」

「……」


 私の名前確認の質問にアングリアはポカンとしたまま止まってしまった。もういいや。こっちから言おう。

 私は抑え込みを止めて、彼女を起き上がらせた。彼女からはもう抵抗する様子も感じられない。


「やれやれ…、質問にはしっかり答えないとダメよ?楽?」

「…え?今、なんて?」

「栄永楽。あなたの前世の頃の名前でしょう?」


 私がアングリアに前世の名前で呼ぶと、アングリアは驚愕の表情になった。私は笑みを浮かべながら、彼女についた土埃を掃う。


「話を聞いていて途中から確信付いたわ。酷い扱いしてごめんね?私がアイラ・ハミルトンよ。そして前世の名前が後藤春華。久しぶり、楽」


 楽、もといアングリアは、驚きの表情のまま私を見続け、そしてボロボロと涙を流し始めた。


「春…華…様?春華様…なのですか…?」

「そうよ」

「春華様…、…あぁ、春華様…」


 アングリアはゆっくりと私へ手を伸ばし始める。


「春華様…!会いたかった…!ずっと、ずっと…、会いたかった…!」


 アングリアは私に抱き着くと、本格的に泣き始めた。そんな彼女を私も優しく抱き返して頭を撫でる。


「ある程度領地が軌道に乗ったら私から探しに行くつもりだったんだけど、まさか楽自ら私を探しに来るなんてね。嬉しい限りだわ」


 ハルク様が行った夢での接触は、あくまで夢でしかない。いくら転生者とはいえ、所詮夢として終わらせてしまう人がほとんどかもしれないと私は思っていた。

 だから領地の事が落ち着いたらいずれ自ら転生者を探そうとも思ってたわけなんだけど、わざわざ国を超えて、しかも敵対国へ移動という危険行為をしてまで私を探しに来てくれる子がいる事は驚きだった。でも楽らしくもある。


 アングリアは私と再会できた事が相当嬉しかったのか、しばらくの間私に抱かれながら泣き続けていた。


 ちなみにこうして私とアングリアが前世ぶりに再会している傍で、アルテがマジでアングリアの食糧に手を付けていた。

 慌ててアテーナが吐き出させようとしたけどアルテは既に飲み込もうとしていたようで、結果アルテは食べ物を喉に詰まらせてもがいてた。キリカはひたすらオロオロ。シャロルもヤレヤレと首をすくめていた。

 せっかくの再会って時に雰囲気台無しにしたアルテは後でお仕置きね。

以上で第十二章は終了となります。

ここまでお読みくださった皆様に感謝致します。

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