レキシントン一家到着
視点がアイラへ戻ります。
兵士や役人の集まりと話した後、調査団の仕事を手伝ったり、キオサさんと話したりしたけど、結局時間が空いてしまって、村の子供達に懐かれる時間を過ごした。
「アイラおねーちゃん!これあげる!」
「あら?私にくれるの?ありがと~」
「こら!『アイラ様』でしょう!ちゃんと丁寧な言葉を使いなさい!申し訳ありませんアイラ様!」
「良いんですよ。これから大人に近づいていくにつれ自然と態度も言葉使いも覚えていくでしょうから」
村の住人の子供が花冠をくれたから、私はお礼を言いながら頭を撫でてあげた。
子供の接し方にこの子の母親が慌てて注意をして私に謝ってきたけど、接しされ方を特に気にしない私は笑顔で謝罪を流した。
(オリジン様、アイラです。今大丈夫ですか?)
(はい大丈夫です。どうしましたか?)
(村の子供から花冠を貰いました。多分近くに自生してた花で作った物だと思うんですが、これは問題ないですかね?)
(大丈夫ですよ。お子さんは純粋な気持ちで作った物でしょうから責める事はありません。悪用しているわけではありませんし、小さな子供ではまだ自然を理解することは難しいでしょうから)
貰った花冠は明らかに本物の植物。自生してる花を摘んで作られたのは確か。だからそれが自然界的に大丈夫かを村のどこかにいるオリジン様に念話で聞いてみたんだけど、子供が純粋な気持ちで作ったというなら許容範囲らしい。悪意さえなければオッケーというわけね。
「アイラ様」
と、不意に声をかけられたからその方向を見ると、ジーナがフィクスさんとリアンヌさんを連れて帰って来ていた。
「あら、ジーナ。お帰りなさい。無事に山を下りれたのね。お疲れ様」
「ただいま戻りました。両親を連れてきました」
「お久しぶりです、アイラ様。ご無沙汰しております」
「お久しゅうございます、アイラ様」
「お久しぶりです。フィクスさん、リアンヌさん。わざわざ山奥から下りてきていただいてありがとうございます。まずは休んでください。馬車まで案内しますので。ジーナ、あなたも」
私はレキシントン一家を連れて調査団の馬車へ向かい、途中でシャロルも合流して、レキシントン宅で話した時以来の面々が再び揃った。
「改めてお疲れ様、ジーナ。フィクスさんとリアンヌさんもお疲れ様でした」
「とんでもない。良い修行になりました」
「私としましても良い運動になりました」
「私は久々に長く歩いたので、ちょっと疲労感が…」
私の労いにジーナとフィクスさんは謙虚な反応。リアンヌさんは苦笑いしてる。表情を見るに、フィクスさんとリアンヌさんは疲れたような顔をしてる。ジーナは至って平然としてるけど。
「話はお手紙と娘の説明で理解しました。グレイシア王国の正式調査団がおられるということで、その者達からの聴取を受ければ良いのですな?」
「はい、その通りです。許可なく山奥で暮らしていた事を突っ込まれるかもしれませんが、聞かれたら私に話を回すよう言ってください。それでも駄目だったら私を呼ぶよう言ってください」
「解りました」
調査団の役人達なら多分そういった事を突っ込んでくる人はいないとは思うんだけれど、ここにサウルス子爵が横から入ってきたら厄介なのよねぇ…。それだけが心配。
「アイラ様。我が娘を使用人として雇ってくださってありがとうございます。色々とご迷惑をお掛けするとは思いますが、どうかよろしくお願いします」
「あ、いえいえ。ジーナを連れて行った時点で何らかのかたちで雇うつもりでいましたし、本人がメイドの仕事に興味を持ってくれたので、自然な流れで話が収まりました。毎日必死に努力してお勤めしてくれてますし、既に基礎的なメイド技術をこなせていますので、とても頼りにしてますよ。迷惑なんてとんでもないです」
頭を下げたレキシントン夫妻に謙虚に返す私。ジーナはさっきまで座ってたのに急に立ち上がって壁に向かって立ってる。よく見ると顔が赤く見える。多分恥ずかしいんだろうね。
「あ、あの。私ちょっとお花を摘みに行って参ります」
ジーナはそそくさと馬車の外へ出て行った。
「アイラ様。娘がいないうちにお聞きしたいのですが…」
「はい、何でしょうか?」
「ジーナは、ウチの娘は一体どのような修行をしてきたのでしょうか?」
「と申されますと?」
「雰囲気、態度、姿勢、覇気、気配。何もかもがまるで別人のようになっている事が気になりましてな。一体何があったのかと」
あー…、やっぱジーナの人格が変わっちゃった事が気になってるのね…。そりゃそうよね…。なんて説明したら良いのやら…。
「その~、何と言いますか…。どうやって説明したら良いやら~…」
「…?何か説明が難しい事なのですか?」
視線が泳ぐ私にリアンヌさんが首を傾げる。
「実は~…、ジーナが今のような感じになってしまった原因となった出来事が起きた時、私はその場にいなかったんです。私以外の者達がその場にいまして、事情を聞いた後にジーナの人格異変に気付いたんです。シャロル、申し訳ないけど代わりに説明できる?」
「はい。承知しました」
というわけで、シャロルが私の代わりに当時の事を説明。精霊と神獣中心で行われたアホみたいな修行と、ベヒモスのせいで起きた海ドボンをフィクスさんとリアンヌさんに話した。
「…以上が当時の状況となります」
「私もどうしたらジーナが前みたいな状態に戻ってくれるのか分からなくて…。結局今もあのままなんです」
シャロルの説明と私のコメントを、フィクスさんもリアンヌさんもポカーンとした表情で聞いていた。
「…なんともとんでもない修行をしていたのですね…」
「……」
リアンヌさんは一言だけコメントしてきて、フィクスさんは黙ったまま。
「あの…、その…、なんだかすいません…」
どう締め括ったら良いか分からなかった私は、とりあえず謝っておいた。
「別に謝る必要はありませんよ。娘を成長させてくださった事には変わりないのですから。むしろ娘を独り立ちさせてくださった事に感謝致します」
フィクスさんは私の謝罪を流して感謝してくれた。怒られるかと思った…。




