調査団員との雑談
後半の視点がアイラから外れます。
キオサさんとの会話後に布団に入って、気が付いたら朝になってた。深い睡眠状態になってたみたいで、自分で起きる前にシャロルに叩き起こされた…。
調査団は昨日に引き続き、準備が整い次第で廃村住人への聴取と村周辺の調査を開始した。
昨日トウロさんから報告された通り、思ったよりもスムーズに物事が進んでるおかげで、帰還予定日時が早まりそうらしい。これシャロル情報。……シャロルは一体どこから情報入れてるの?
今日の聴取開始から間もなくして、キオサさんとギルディスさんも聴取を受けた。ギルディスさんが‘正義の暗殺者’である事はギルディスさんが聴取を受ける前に私から調査団に伝えたため、調査団側が警戒することはなかった。そもそもグレイシアじゃギルディスさんは無罪扱いだし。
しかしこの点に関してサウルス子爵が「本当に信用できるのですか?」としつこく聞いてきた。何度も聞いてきてウザかったから「いい加減にしてもらえませんか?何度言わせれば気が済むのです?」と、若干強めに言ったら引いてくれた。ホント何なんだろうね。あの人。
その後調査団の行動のお手伝いをちょいちょいしつつ、調査団員達の行動を見ていてある事に気が付いた。
サウルス子爵が調査団員に何か言ったり、指示を出したりする度に、言われた調査団員は兵士も役人もみんなシラーってしてる。指示を受ければ動くんだけど、サウルス子爵に対して返事はないし、みんなメッチャ面倒臭そうに動いてる。明らかにサウルス子爵を信用してる様子はない。それどころかウザがられてる。マジでどんだけ信用ないの?サウルス子爵。
私も一応貴族で今回の調査団統括責任者なわけで、ぶっちゃけ自分も調査団員達から信用されてるか不安だったけど、私が声をかけるとみんな明るく反応してくれるし、指示を出せば元気よく返事をしてくれた。偽りでそうしてるわけではないみたいだったから正直安心した。
私はこうして過ごしながら昨日レキシントン家へ向かったジーナの帰りを待ってるんだけど、まだ帰って来る様子はない。さすがにフィクスさんとリアンヌさんを連れた状態じゃあ隠密術で帰っては来れないだろうし、時間はかかるかなぁ。
サウルス子爵の行動を気にしつつ、調査団の手伝いもしつつ、ジーナの帰りを待つ。これらの事をやっていても、時々空き時間ができてしまう。
こういう空き時間がある時は誰かしらと会話してるんだけど、いつもの側近メンツとは常時普通にでも念話でも話してるし、キオサさんやギルディスさんともよく会話する。村の住人達とも交流は心がけてるけど、実は調査団の面々とはそこまで話せていない。
ということで今日は調査団の兵士や役人に重点を置いて接する事にした。
(お?ちょうど休憩中の兵士と役人の混合グループがいる。話かける前に会話を聞いてみよっかな~)
てなわけで私はすぐに話かける事はせず、ちょっと盗み聞きしてみることにした。
「ここの住人達への聴取、想定より早く進んでるって聞いたんだけど、実際どのくらい進んでるんだ?」
「もう半分近く。想定してた動きよりも何倍も早いよ」
「このまま進めば相当早く帰れそうだな。しかし勝手にここに住み着いてた連中にしては随分お行儀が良いよな?もっと抵抗されるか、聴取しても黙秘されると思ってたんだが…」
「その辺に関しては俺も不思議に思ってな。実は何人かの住人から聴取の際に興味本位で理由を聞いてみたんだ」
「お?そうなのか?教えてくれよ」
「興味あるな」
ちょっと聴取ついでに何を聞いてるのよ。必要事項だけ聞きなさいっての。
「俺が集めた情報によると、調査団を率いている人物、そしてこの場所の領主がアイラ侯爵閣下だかららしい」
「アイラ侯爵閣下だから従うってことか?なんでだ?」
「なんでも住人達にとってアイラ閣下は恩人らしいんだ」
「恩人?」
「この村、最近魔物の襲撃にあったらしいんだ。複数の魔物が突然襲撃してきたらしくて、戦える者達で迎撃しようとはしたものの、誰もみんな全滅を覚悟したらしい」
「複数体の魔物か…。一体だけでも死は確定なのにな…」
「まさに絶望じゃねえか…」
「しかしそこに突如として現れ、魔物を殲滅した者達がいたらしいんだ。それがアイラ侯爵閣下とその取り巻き達なんだと」
「魔物を殲滅!?複数いたんだろ!?」
「ああ。しかも魔物に一切反撃の余地を与えない強さだったとか」
「それ本当なのか…?その話通りだと、アイラ卿とその側近達の戦闘力は魔物以上ということになるぞ…」
うん、実際そうよ。
「しかも信じられねえのはそれだけじゃない。魔物の襲撃を受けたある住人が重傷を負ったらしくてな、怪我の状態からもう助からない状況だったそうだ。そこにアイラ卿がおもむろに近づいてきて、魔法であっという間に傷を治しちまったらしい。そのおかげでその住人は助かったそうだぞ」
「重傷の傷をそんな簡単に治すなんて…。魔法師が見たらひっくり返りそうだな…」
「…そういえばアイラ卿は精霊様や神獣様と契約してるんだよな?」
「そしてシュバルラング龍帝国で神龍様と契約してる」
「とすれば戦闘力も強大な魔力も納得できるな。でも側近達の強さはどうなんだろうな…」
「そういや俺、城にいる同僚からちょっと聞いた事あるぞ。いつもアイラ卿の傍に護衛がいるだろ?今もいるけど、確かアテーナ殿とアルテミス殿だったか」
「あぁ、いるな。アイラ卿と同じ歳くらいの女性二人組」
「以前同僚があの二人が模擬戦してるところを見かけたそうなんだが、まるで人間技じゃなかったらしい」
「どういうことだ?」
「何もかもが普通の領域じゃなかったんだと。ただの移動にしたって目で全く捉えられない一瞬の速さで動いて、二人の攻撃がぶつかり合う度に耳鳴りのような音と足元に振動を感じたそうだ。覇気というか闘気というか、そういうものも凄まじかったらしくて、本当にこの世の人間なのか疑ったくらいだってさ」
アテーナとアルテはいつの間にそんな事してたのよ…。確かに私が別館で過ごしてる時とかたまにどっか行ったきりしばらく戻って来ない事とかあったけど。
通常の人間とは異なって神力を持つ神の使いなんだからちょっとは自重してほしいわ。じゃないと周囲にバレちゃうじゃない。
「その話、かなり盛ったりしてないか?」
「さあな。俺も話を聞いただけだしな」
「というか、普通じゃないって言うんだったらアイラ卿のお付き連中多分ほとんどそうだろ。あのシャロルとかいうメイドだって何故か戦闘できるし、あのアリスに模擬戦とはいえ勝ったんだぞ」
「あ、俺その試合見てたぞ。アリス殿が手も足も出なかったんだよ。あれはホント驚いた」
「役人の間でもアリス殿の強さは知られてるぞ!?そのアリス殿を破ったのか!?」
「なんだお前知らなかったのか?城じゃあシャロル殿の名は有名だぞ。アリス殿を模擬戦で破って、城のメイド達で行われた研修会でメイド達を実力で黙らせたんだからな。‘隙なしの完璧最強メイド’って異名まである」
「マジか…。昨日今日でアイラ卿の世話をしてるのは見てたが…」
別にシャロルに世話されてるわけじゃないわよ。しつれーな。
「アイラ侯爵閣下は女王陛下とやたら仲が良いし、その周囲の者達も強者ばかりだし、あの人達は一体何がどうなってんのかねぇ」
なんか悪かったわね。こちとら常識範囲で過ごせるほど事情が簡単じゃないのよ。
私だって出来るならもっとフツーの生活送りたいわ。もっとスローライフ送りたいのよ。
「なあ、これは直接関係ない話なんだけど、前にノワール伯爵閣下の視察団として同行した時に、ノワール閣下とアイラ卿について話した事があるぞ」
「お?そうなのか。どんな事話したんだ?」
「ノワール卿はアイラ卿と一緒にグレイシアへ来たわけだから、色々知ってるはずだよな。重要な事聞けたか?」
「えっと、長いから書き出す。待ってろ」
兵士は自分で持っていたメモ帳らしき物に何やら書き始めた。私も気になって遠目で覗こうと思ったんだけど距離があり過ぎて見えない。と思ったら書いたメモを他の兵士が音読してくれた。
【ノワール様は戦闘において大変お強いと存じますが、ノワール様からの視点で強者だと思われる方はいらっしゃいますか?】
【単純に強い人、というだけではいません。しかし強さと頭脳と才能と人柄と気品の全てを兼ね備えた方でしたら一人だけ知っています。私が最も尊敬している方です】
【その方とは?】
【アイラ・ハミルトン様です】
【アイラ侯爵閣下ですか…?確かに色々噂は耳にしますが…】
【仮に私がアイラ様と戦った場合、私は一瞬にして戦闘不能となるでしょう。アイラ様ならばその気になれば、大軍を一人で殲滅する事も、逆に同じくらいの民を救う事も可能でしょう。それだけのものをアイラ様は持っています】
【そうなのですか?しかしアイラ卿の実力というものはほとんど聞きませんが…】
【アイラ様は戦闘にせよ権力にせよ、人前で見せつけるような事は致しません。敵のみか、誰もいないような所で動いてらっしゃる場合がほとんどです。アイラ様が自身の力を多くの人の前で見せた時は、何か物事が大きく動く時と思って良いと思います】
【そ、そんなにも強力でらっしゃるのですか…?】
【普段は誰にでも明るく接する、とても温厚でお優しい方ですよ。もし今後アイラ様とお話する機会がありましたら、是非お話してみてください。…こう言ってしまっては失礼になってしまいますが、他の貴族の方々と明らかな違いを感じると思います】
【随分尊敬してらっしゃるのですね】
【ええ。あのお方は昔、私が犯してしまった罪を許し、私が生きるための道しるべを作り、導いてくださった方ですから。それこそ命の恩人と言っても過言ではありません。今の私があるのも、ほとんどアイラ様のおかげ。この先どれだけ時が経とうと、アイラ様ほど素晴らしいお方は現れないでしょう】
「というのが話した内容だな」
ノワールは私の知らないところで何を言ってくれちゃってるのよ!どんだけ私を過大評価して株上げてんのよ!私めっちゃくちゃプレッシャーよ!お腹どころか心臓まで痛いわ!
ていうか昔犯した罪って絶対サブエル学院時代のストーカー事件でしょ!私を尾行してシャロルに捕らわれたやつ!あの子まだあれ引きずってたの!?私もう忘れてたわよ!?
「あの‘剛陽の聖女’様がそこまで言うなんて…。一体何があったんだ?」
「少なくともノワール伯爵閣下にはアイラ侯爵閣下に大きな恩義があるってのは事実だな」
「恐れられているグリセリア女王陛下から気に入られてて、身近にいる仲間はみんな強者揃いで、恩義を感じてる者が複数に渡っている…。本当に何者なんだろうな。アイラ卿って」
ここでグループの会話が途切れた。これは入り込むチャンス。
「私が何者なのか気になるの?」
<<<!!>>>
ここまで私の存在に一切気付いてなかった面々は、私が近くにいることにビックリしていた。
「お疲れ様。楽しく雑談するのは良いけど、他人をやたら普通じゃないとか言うのは良くないわよ?私の事なら別に良いけどね。もし良かったら私も輪に混ぜてちょうだいな?」
私が笑顔で話すと、みんな数秒程経って再起動した。
「アアアアアイラ侯爵閣下!」
「ももも申し訳ございません!全く気付かず…!」
「どうぞこちらへ!ささ、どうぞ!」
再起動した直後に全員超大慌てでバタバタし始め、一人の兵士が傍にあった岩の汚れを掃って座る場所を用意してくれた。
「ありがとう。とりあえず全員一旦落ち着きなさいな。はい、深呼吸~。吸って~、吐いて~」
<<<す~、は~。す~、は~>>>
みんなして深呼吸してる。なんかオモロイ。
「フフ…、落ち着いた?」
「は、はい…。大変失礼しました…」
「あら?何を謝るの?無礼なことなんて、あなた達は何もしていないでしょう?」
「しかし我々はアイラ閣下がお近くにいる事に気付かず…」
「気付かなくって当然よ。私ずっと意図的に気配消してたんだから。それよりもいちいち『閣下』やら『卿』で呼ぶの面倒でしょう?私に対しては好きな呼び方して良いからね。もっと気安く接してちょうだないな」
<<<……>>>
みんな呆気にとられたような表情してる。多分私がフレンドリーに接してるせいかも。自分で言うのも変だけど、ここまでフレンドリーを意識する貴族なんて他にはそうそういないはず。
「念のため言っておくけど、シャロルもアテーナもアルテも、確かに人間離れしてるような強さを持っているわ。でもその強さはそれぞれが努力に努力を重ねた末に手に入れたもの。普段はあなた達と同じで、喜怒哀楽を持つ普通の人間なのよ。それだけは解って」
戦闘力というものだけが先行して目立ってしまうと、その者はどうしても特殊な目で見られる。状況次第によっては逆に味方から恐れられてしまう可能性だってある。私ならともかく、私の大切な仲間がそんな目に合う事だけは避けたい。
「それで、私の事が知りたいんでしょ?答えられる事なら答えてあげる。どんどん聞いてちょうだいな?ホラホラ」
私は両腕を広げて笑顔で質問ちょうだいアピール。
<<<……>>>
けど誰からも質問が来ない…。話題にしてたとはいえ、いざ本人を目の前にして聞きたい事が浮かばなくなったのか、もしくは躊躇ってるのか。でもだからといってここまでシーン…とするのも悲しい…。
「ちょっとちょっと。何か言ってちょうだいよ。私が恥ずかしいじゃない」
「と、言われましても…」
私がブーブー言うと、みんなに困惑された。
「むぅ…、せっかく答えてあげようと思ったのに」
「あ、あの…。自分から良いですか…?」
やっと一人の兵士が控えめに挙手してくれた。
「どうぞどうぞ~」
「アイラ閣下は精霊様や神獣様と契約されていると聞いておりますが、どのような経緯で契約に至ったのですか?」
「あ~、契約ねぇ~。う~ん、説明が難しいのよねぇ~」
説明を考えてるフリをしながら、実は誤魔化し方を考えてる私。まさか伝説達との契約に関する質問が来るとは。
「これに関してはある日出会って契約したとしか言えないのよねぇ。精霊達や神獣達からあまり言いふらすなって言われてるし…」
「そうでしたか…。あまり良くない質問だったようで…」
「別に良いのよ。気になるのも解るわ」
よかった…、適当に誤魔化せた…。
「あの、最近行われたグレイシア国家会議においてユートピア領とイストワール領の開拓計画が発表されましたが、どの辺りに街を作るなども決めていたりされているのですか?」
「考えてあるわよ。決定とまではまだいかないけどね。どこに何を建設するのか、どの程度の規模の街をどこに作るのか、どういう未来を見据えて作るのかはだいたい頭の中で完成しているわ」
「決定までいかないとなりますと、確定はできないということですか?」
「そうね。私の領地って範囲が大きいから、まだ視察しきれてない場所が僅かにあるの。その部分においては何の計画もないのよ。さらに今後グレイシア政府が新しい事をやる可能性もある。それに合わせないといけない点を考えると、まだ形を成すのは遠いわね」
領地の開拓に関しては、閣僚会議で何か決まる場合とかありそうだし、まだアンプルデス山脈と地下洞窟の視察も出来てないし、私のユートピア領開拓計画は完全な出来上がりを見せていない。
「市という制度を入れると聞いたのですが、これらに関わる要員の目星は着いているのですか?」
「今のところはまだ少数だけどね。これから少しずつ増やす予定よ」
市の事の質問に私が答えた後、質問が途切れた。と思ったら一人の役人が時計を見てハッとした表情になった。
「マズイ。もうこんな時間…!」
「本当だ!そろそろ仕事に戻らないと!」
どうやらそろそろ休憩終了らしい。なんか全然お話できなかった…。これなら盗み聞きせずに突撃して行った方が良かったかしら?
「お邪魔しちゃったわね。残りの住人の聴取と村周辺の調査を引き続きお願いね。何かあったら遠慮なく言ってちょうだい」
私は軽く手を振ってその場を後にした。
どうも兵士達も役人達も私に対して委縮してしまっている感がある。いや私領主だし、貴族侯爵だし、龍帝だし、女王であるセリアと親しい仲である点を踏まえたらそりゃそうなんだろうけど。
私がこのユートピア領で目指す理想の領主像は、どんな人でも軽い気持ちで接することができる領主。領民にとっても兵士や役人や使用人でも一切関係なくいつでも声をかけてくれるような存在。
前世で女子高生だった頃。私には多くの友達がいて、みんな気軽に私に声をかけてくれて、たくさんお話してたくさん笑った。私は転生したこの世界で、今度はもっと広大な範囲でそんな環境を作りたいと思ってる。せめて自分の領の中だけでも、この想いを領主として実現したい。
勿論いざという時は強いリーダーシップを発揮できるようにするけどね。じゃなきゃ領主できない。
でも今こうして接した感じだと、まだまだ理想からは遠いみたい。課題は山積みね。私自身にも。
*************************************
休憩時間が終わり、仕事に戻る前の兵士・役人のグループ一行。彼らはアイラが去った後、ホッと胸を撫で下ろしていた。
「あー…、いやまさかアイラ卿が話しかけてくるなんてな…」
「心臓バックバクだぜ、ホント…」
「にしても随分親しみやすくしてる感じがあったな。気品あったけど妙に積極的っていうか…」
「言われてみれば確かに。普通貴族とか他領主なら俺らみたいのに自ら話かけになんて来ないし、会話する機会があっても圧力的か冷たい態度だもんな」
「ノワール卿も笑顔見せて話してくれたけど、アイラ卿の方が明るかったな…。もしかしてノワール卿が言ってた他の貴族との違いってこういう事か…?」
「そういえば今思い出したんだけど、アイラ卿ここの子供達に懐かれてるみたいだぞ」
「そうなのか?いつの間に子供達と過ごしたんだ?ていうか懐かれるってすごいな」
「…俺、ここに興味出てきたかも」
「ん?なんだ急に」
「だってよ、あの高圧的な女王陛下に気に入られて、‘剛陽の聖女’として信頼勝ち取ったノワール卿が絶対の信頼を置いてて、この村の子供達に懐かれてて、俺達みたいな下っ端に雑談しに来るんだぜ?普通貴族として、領主としてもあり得ねえだろ。ましてや伝説と関わってる存在で龍帝国で龍帝やってるとなれば尚更」
「確かに本来なら雲の上の存在として近寄れない雰囲気出しててもおかしくないよな」
「だろ?超が付くほどのお偉いさんがあれだけ親しみやすさを意識したような態度で接してくるんだ。そんな人が造る領地だぞ?気にならない方がおかしくないか?」
「そう言われると俺も気になってきた」
「まだ行政人員の受け入れしてないみたいだけど、開始されたらユートピア領行こうかな…」
行政人員の受け入れとは、兵士や役人、使用人などの領主や領行政機関に関わる人員の他地域からの募集の事。ノワールが領主を務めるイストワール領は既に募集を開始しているが、アイラはまだ募集開始には踏み切っていない。
「また会話できそうな時があったら話かけてみようかな…」
「アイラ卿のお付きにも話かけてみようぜ。そうすれば何か接し方とかが分かるかも」
アイラや彼女の仲間達にも話をかけてみようと考える若き兵士と役人一行。
理想との距離に悩むアイラが知らないところで、アイラの理想との距離は少しずつ近づき始めていた。




