覚えのない夢と、親友からの密書
武術大会で優勝して、親友との再会を果たした日の夜、私は夢の中にいた。
いつものように前世の頃の夢で、今回は私がバイクを運転している。
何か起こるわけでもなく、その光景だけで夢から覚めた。
(んー?この夢……何かおかしい)
夢から覚めてベッドに座っていた私は、今見た夢に違和感を感じていた。
確かに私は前世で生きていた頃、バイクの運転免許を持っていた。でも私が運転出来たのは、バイクの種類の中でも一番小型の原付バイク。
しかし夢に出てきた私が運転していたバイクは、二人乗りが可能な大きさのバイク。多分、バイクの種類の中で一番大型なやつ。
前世では乗った事がないどころか、触れた事すらない物。
(どういうこと?今回の夢はよく分からないな…)
結局考えるだけ無駄と判断した私は、再び眠りにつくのだった。
学院は武術大会が終わったことで日常通りに戻り、私も今まで通りみんなとゆっくり…とはいかなかった。
私は現在学年関係なく、全学院生から注目の的になってしまっている。
武術大会優勝と爆弾を所持していたアホをぶっ飛ばしたことで大いに目立ってしまったため、私の存在感と知名度が格段に上がったのが原因。
それだけではない。その後セリアと対談した事と、セリアの学院を去る時の発言のせいで注目度がプラスされてしまった。
セリアが私の事を気に入り、グレイシアへ誘っている事はあちこちで様々な憶測を呼び、どこからともなく根も葉もない噂が飛び交っている。
私がいずれグリセリア女王の側近になるとか、グレイシア貴族と結婚するんじゃないかとか、その他諸々。
内容がどうであれ、私は常に視線を浴び続けたせいで精神的にクタクタになっていた。身体なら見られても平気なんだけど。いつものメンバーも何故かフォローしてくれないし。
そんな日々が続いたある日の休日。自室で過ごしていると、コンコンとどこからか音がした。扉のノックとは明らかに違う。
気のせいかと思ったんだけど再び音がしたので耳を澄ますと、窓から聞こえているのが分かった。
窓のカーテンを開けると、窓の外にカラスがいた。どうやらこいつが窓をくちばしで突いていたらしい。
前世の日本でカラスと言えば、色は基本的に黒色。ゴミ置き場を荒らしたり、時には人に襲いかかったりしてくる事で知られていた。カラス避けとか存在してたしね。
でもこの世界のカラスは違う。大きさや見た目はほぼ同じ。しかし滅多に見る事はない。というか一生に一度見れるかどうかのレベル。
そして、ある役割のために飛んでいる事で有名。
それは、密書を運ぶ事。
密書を送りたいと願う人のもとに極まれに現れ、送りたい人のもとへピンポイントで届けてくれる謎の存在。それがこの世界のカラス。で、そのカラスがここにいるということは…。
「カー」
カラスは窓越しに私を見ながら「開けろ」と言うかのように鳴いている。
私は窓を開けてあげた。よく見るとカラスの首部分に手紙らしき物があった。
私がカラスへ手を伸ばして手紙を取ると、カラスは役目を終えたようにどこかへ飛び去って行った。
カラスが届けた私への密書。差出人を確認すると、グリセリア・グレイシアと書かれていた。つまりこの密書は、セリアが私に送ってきた手紙ということ。あの子はどうやってカラスを呼んだんだろう?
[ヤッホー。どうしても会話したくて密書送っちゃった。早速服作り始めたよ~。
何着くらい作ったら良い?今の材料の量だと90着くらいは作れるけど。
ところで移住の件どう?ウチに来ない?お願いだから行くって言って~!(泣)
アイラを迎える準備も開始したから、意地でも来てもらうよ?
グレイシアへ来て、私の作った服も着て、『来て』と『着て』みたいな?(笑)
スルーしないでちゃんと手紙の返事頂戴よ~?]
手紙の内容は服作りの件と移住お誘いの件。移住は無理だと言っているのに引き下がらないセリアも中々しつこい。迎える準備って一体何始めたのよ…。しかも服90着とか多すぎだわ。
(さて…、返事はどうするか…)
私は判断に困っていた。普通の手紙なら返事を書いて当然。しかしこれは密書。しかも国同士としては仲が良いわけではない隣国の女王様が差出人。周囲に知られれば国家問題になりかねない。
(う~ん…、どうしよ~…。内容は誘い以外個人的な事だし~、周りに知られたら大変だろうし~、なんかつまんないダジャレぶっこんでるし~。隠した方が良いのは確かっぽいけど…)
公表はしないにせよ、返事を書くべきか悩んでいると、部屋の扉がノックされた。
驚いた私は反射的に手紙を隠す姿勢になる。
「失礼します、お嬢様。洗濯が終わったお洋服をお持ちしま……どうかされました?」
慌てて手紙を隠したせいで変な体勢になっている私を見て、部屋に入って来たシャロルは不思議そうな表情を浮かべる。
「ビックリしたぁ…。シャロルか~」
「はい、私ですが?あの、お嬢様?」
私の反応にさらに不思議そうな表情を浮かべるシャロルに、私は思い切って手紙の事を話すことにした。
私の説明を聞いたシャロルは、驚きの表情を見せた。
「いくら前世での親友とはいえ、立場を理解しているのでしょうか?女王ともあろう方が他の国の貴族令嬢に密書など、とんでもない事ですよ」
「ホントにねぇ。どうするべきだと思う?」
「一度返事をしてみてはいかがでしょうか?そして、『二度と送ってくるな』と書いてみては?」
「あなたもなかなか辛辣ね…。でも、悪くないわ」
そして私は返事を書きだした。
[移住の件は断ったでしょうが。あんたが学院生達の前で去り際にあんな行動したもんだから、私は今大変なんだからね!あと、服90着は作りすぎ。10着程度あれば良いわよ。
それから、つまんないダジャレ入れるな。
密書なんて送られても困るのよ。あんたは女王様だから好きにできるかもしれないけど、私はあんたと密書してるなんて国にバレたら大変なんだから!これっきりにしてよね!]
と、ひと通り書き終えた後、密書カラスをどうやって呼び出すのかと思って窓を見ると、いつの間にかカラスが窓で待機していた。
「カー」
「あんた、いつの間にいたの?ていうか、私が密書を送るってよく分かったわね…」
カラスの首に手紙を付けると、カラスは飛び去って行った。誰に送るかも言ってないのに。
それから二日後。再びカラスが来た。セリアからの手紙を持って。
やめろって言ったのに。あのバカちんは…。
[再び密書で参上~!アイラ冷た~い。
あ、そっか。密書やめろってことは、続けて良いってことで良いんだよね?芸人的な意味だよね?
服10着じゃもの足りないよ~。もっと作っておくね。ダジャレはやめる。
あと、移住の誘いの件お断りをお断り~。ぜっっっったい諦めないからね。
あ、お断りってことはオッケーってことだったり?(笑)]
あいつめ…。子供か!なんか腹立つわ。いつかまた会ったら絶対熱湯を頭からかけてやる…。
これを受けて再びシャロルと話し合った結果、セリアは密書をやめそうにないということで、やりとりは続行。私とシャロル以外には知られてはいけないという結論に至った。
彼女のことだから、国の機密情報などは聞いてこないだろう。まぁ、聞いてきたところで知らないけど。
しかし彼女の部下達はこれをどう思っているのかしら?セリア自身が秘密で送っている可能性もあれば、周囲が知っていてもセリアが圧力をかけて黙認させている可能性もある。
どっちにせよ、これからこっちは秘密を持ったせいでハラハラドキドキだよ。まったく。




