グレイシア王国国家会議開催
ノワールの伯爵位正式就任の翌日。今日は予定通りグレイシア国家会議が開催される。
開催会場はノーバイン城の謁見の間の隣にある大会議場。造りは前世の日本の国会議事堂の議場に近い。けっこう広くて大きいんだけど、使用率はかなり低いらしい。勿体ない。
ちなみに傍にはもう一室大きな部屋があるんだけど、そこは今日の会議後に行われる会食会場になってる。ここも普段は使わないらしい。マジ勿体ない。
今日は国内のお偉いさんが集まるだけあって、城に勤める人達は早朝からバタバタしてる。セリアもさすがに気を張ってるようで、今日は私に起こされることなく自ら起きた。
普段行われている閣僚会議に参加している人は、大臣職を務める政府閣僚もしくは何らかの事情で特別参加した者のみ。けど今回の会議では、国内にいる他の貴族当主やドイル将軍以外の国軍幹部、商会のトップやその他何らかの組織の代表等、何かしらの権力を持ってる人達が参加する。
普段城に来ない人達は当然女王であるセリアに会議前に挨拶しに来るわけで、セリアは朝からその対応に追われている。だからセリアは朝食後から女王モード。本人は「今日一日持つか不安…」って言ってた。
関係ない話だけど、今日の私の格好。髪型は前髪と横を普段と同じ状態にして、後ろは結ばずにウェーブさせて流した。服装は昨日よりも豪華めなドレス。…勿論アリスからのレンタル…。そろそろ自分のドレス欲しい…。
リボンと髪留めのヘアーアクセサリーは異空間収納にしまって、首輪やピアスなどの髪部分以外の装飾はいつも通り。靴も普段履いてるウェッジヒール。
…え?誰も私の服装になんて興味ないって?あ、そう。
私も支度を済ませて…、訂正。昨日と同様シャロルとジーナが全て済ませ、ヘアーの整えとメイクはスンテノさんとアプテさんにやってもらった。結局別館出る時まで私ずっとボーっとしてたよ…。
ノワールは一足早く会場入りしてるらしいから、私は追いかけるかたちで会場へ向かう。セリアは女王様なので、会議参加者が全員揃った頃に会場入りする。それまでは控室でオルシズさんと最終打ち合わせなんだそう。
ということで今日はセリアともノワールとも完全別行動。まぁ、これが普通なんだろうけどね。
「それではお嬢様、キリカさん。私達はここで」
「また後程」
「後程~」
「うん、またあとでね」
「行って参ります」
会場前まで行くと、シャロルとアテーナとアルテは私とキリカを残して離れる。
シャロルはこの後城のメイド達の手伝いをすることになっていて、会議後の会食会でまた会う予定。
アテーナとアルテの二人もフリーで城内を巡りつつ、会議終了後に私の護衛業務に戻る。
爺やも今日は城の執事達のお手伝い。ジーナはまだ正式な使用人試験を受けていないため、今日は別館でお留守番。ザッハークとオルトロスとエスモスとカラス丸とファルコの相手をしてくれている。
エウリアとメリッサの二人はいつも通り別館の警備。スンテノさんとアプテさんはそれぞれ自由に行動しつつ、髪型直しやメイク直しがあれば急行してくれるそう。ただしセリアのみ念話ができないから要請不可。他の天神界メンバーは知らない。
セレス様は大会議には不参加らしい。セリアの話だといつも通りに機械開発に勤しんでるとの事。ホントに国政に無関心というかなんというか…。
大公殿下と大公妃殿下のご夫妻も大会議には不参加だそうで、セリアに国政の主導権が移っている以上、あえてノンタッチなんだそう。
これだけ不参加者が私の周囲にいる中、キリカは大会議に参加する。というのも、キリカは特別枠で会議参加資格が与えられていて、基本的に私と行動する事になってる。
キリカはシュバルラング龍帝国から来ている他国人。私から見れば龍帝の補佐である彼女だけど、グレイシア王国政府から見れば龍帝国政府に属する外国からの要人。今後グレイシア王国がシュバルラング龍帝国と良好で親密な関係を築いていけるよう、キリカにも参加してもらう事になったんだそうな。
セリアの話によると、これを発案して決めたのは政府の大臣達閣僚らしくて、キリカにグレイシアの事をたくさん知ってもらって、龍帝国にグレイシアをアピールするのが目的なんだそう。
龍帝国に住む竜族は世界中の全種族の中で最強を誇っていてもおかしくない高位種族であり、行動を起こせば世界各国に影響を与えやすい存在。そんな国と友好国である事を、私が侯爵であり龍帝である事を他国へ公表した時にアピールして牽制する狙いがあるらしい。
話聞いてて思ったんだけど、これ間違いなくアストラント意識してるわよね。
大会議場に入ると、既に参加者がたくさん。
最奥の中心にはセリアが座る玉座がある。謁見の間から動かしたらしい。私の席はその隣にあって、キリカの席は私の隣にある。
大会議が始まるまでの間、参加者は会場内を自由に動き回って誰かと挨拶がてら雑談する場合がほとんどだそうで、現にノワールもドイル将軍や軍の幹部の人達と話していた。今はそっとしておこう。
「龍帝陛下。あそこに座ってらっしゃる方ですが、確かバーミンガム教会の…」
「ん?あぁ、オマハ神父ね」
キリカが見つけた人は、王都のウォーム街にあるバーミンガム教会の神父であるオマハ神父。前にシスターのソニアにストーキングされて返り討ちにした教会の。
あの人も会議の参加資格持ってるんだ。今は誰とも話してないみたいだし、ちょっと声かけてみよ。
「ごきげんよう、オマハ神父様。教会でお会いした時以来ですね」
「む?こ、これは!アイラ侯爵閣下!ご無沙汰しております!」
私を見るや軽く慌てた様子で挨拶してきたオマハ神父。でもご無沙汰ってほどでもない気が…。
「教会ではウチのソニアが大変失礼を致しました。あれから二度とあのような行為をしないよう厳しく言い聞かせておきましたので、機会がありましたらどうぞバーミンガム教会へお越しくださいまし」
ストーキングの件を謝っておきながらまた来てくれと宣伝…。まぁ、機会があれば行くけど。
「今更謝る事ではありませんよ。もう終わった件ではありませんか。それにソニア本人が反省しているのであれば、私は彼女や教会を責めるつもりはありません」
そもそも事を大きくする気はないって言ったしね。
「寛大な処置、痛み入ります。ところで…、あなた様はアイラ閣下のお付きの方では?ここは代表の方しか入れませんが…」
オマハ神父は不思議そうな表情でキリカを見てきた。教会にいた時はキリカが龍帝国の人だとは言ってないから、ここにいる事がオマハ神父にとっては不思議な事なんだ。
「オマハ神父様。彼女は確かに私の側近ではありますが、他の側近とは少々立場が異なります。彼女はシュバルラング龍帝国の龍帝補佐官。つまり龍帝としての私の側近なのです」
「!!」
私がキリカを紹介してる間にキリカはオマハ神父にお辞儀。オマハ神父は驚きの表情を見せている。
「なんと…、龍帝国の方でございましたか…!これは大変失礼致しました。高位種族たる竜族の方とお会いできました事、大変嬉しく思います。グレイシア王国およびハルク教との友好、何卒よろしくお願い致します」
「友好を結べるかどうかは私ではなく、竜族でもなく、あなた方にかかっています。竜族は善良な者であればどのような立場の者であろうと受け入れます。当然悪しき心を持った者とは仲良くしません。
竜族、そして龍帝国との友好は、グレイシア王国とハルク教全体の意思次第です」
キリカはオマハ神父の言葉にイエスでもノーでもない言葉で返した。これにはオマハ神父も少し困った顔をしてる。
「ま、まぁ、要は悪巧みするような人がいなければ仲良くするという事ですから。少なくともハルク教とバーミンガム教会の中にはそんな人はいないと私は信じてますから、仲良くなれますよ!きっと!」
結局キリカの発言に私がフォローを入れなきゃいけない事になった。
その後オマハ神父からソニアがストーキングした件の後日談を聞いたんだけど、私達が帰った後、ソニアは事態を後から知った他のシスター達から猛烈に怒られたらしい。
ソニアは元々正義感が強い子らしくて、街では困っている人を見つけては声をかけまくったり、泥棒を追跡したりと、兵士レベルの事までしてるそうな。…それもう正義感が強いとかのレベル超えてない?
シスター達に怒られた後、彼女は反省の念から懺悔の祈りを行い、その後二日ほど自室から出て来なかったらしい。なんでも自分への戒めとして断食してたとか。いくらなんでもそこまでしなくても…。
現在は普段通りの生活を送ってるようで、様子も変わらないそうな。
オマハ神父と別れた後、次の行動をどうするかキリカと話し合っていると…。
「アイラさん、キリカ補佐」
一人の女性が声をかけてきた。私と同じ侯爵家当主で、国務大臣のリナリアさんだ。
「ご無沙汰しております。リナリアさん」
「ええ、お久しぶりですね。領地の方はいかがでしたか?」
「開拓のし甲斐がある土地だと思いました。私個人としては気に入ってます」
「そうですか、それは良かった。領地の運営について不明な点や疑問があれば遠慮なく聞いてください。力になりますよ」
「ありがとうございます。心強いです」
今までの閣僚会議や会議終了直後とかでもそうだったんだけど、リナリアさんはちょいちょい私の事を気にかけてくる。セリアいわく「お互いに女性当主で同じ爵位だから気になるんじゃない?きっと先輩風吹かせたいんだよ」だそう。でもこうして気にかけてくれるのは助かる。気軽に頼れるし。
「昨日女王陛下から通達が来たのですが、本当にアンプルデス山脈をご自身の領地に入れるおつもりで?」
「はい。山脈そのものの開拓はさすがに出来ませんが、利用できるものがある可能性が高いとの判断で、セリ…グリセリア女王陛下とオルシズ宰相閣下にお話して私の領地として扱う事になりました」
「利用できるもの…、ですか?」
「はい。私が持つ領地には温泉がありまして、その源泉はアンプルデス山脈の範囲にあるようなのです。それから領地を流れる川の水質が非常に良質で、源流であれば飲み水として活用可能な可能性もあります。しかしそれら源流も全てアンプルデス山脈から流れてきているわけでして。後は会議でお話しますよ」
「そうですか。しかしアンプルデス山脈へ入るには危険を伴います。どうするおつもりで?」
「あら、聞いていませんか?私には伝説と謳われた存在が付いているんですよ?」
「…そういうことですか。話を聞いた時はにわかに信じられませんでしたが、竜族の信仰である神龍様と契約しておられる事を踏まえれば何とか納得はできました。それにしても精霊様や神獣様と邂逅していたとは…。
どうやってお会いしたのか…は、色々事情がありそうなのでお聞きしませんが、今後はそういった方々の力をどう扱うおつもりで?」
「精霊にも神獣にも神龍にも意志があります。その意思を尊重しつつ、頼りたい時に頼る。ただそれだけです。もちろん何らかの命令を私から出す事も可能ですので、緊急性の伴う時は無理にでも動かす可能性もありますけど」
「私から補足ですが、龍帝陛下は伝説の方々のお力を使って世界征服などを目論むような方ではありません。どう扱うかという質問をする事自体失礼かと思います。それこそ龍帝陛下に対する反抗勢力が現れた場合は話は別かもしれませんが」
「ちょっと、キリカ…!」
急にキリカが話に入り込んできて、思いっきりリナリアさんに失礼と言った。私は予想外な事に焦る。
リナリアさんはそんな私とキリカを交互に見て、何故か微笑んだ。
「向かってくる者には容赦せず。これは女王陛下が念頭に置いている言葉です。アイラさんもまた、それに近い感覚をお持ちなのかもしれませんね。だからこそ女王陛下が信頼しているという事でしょうか。
しかしあなたやノワール伯爵がアストラントからこちらへ来てまだ半年も経っておりません。立場があるとはいえ新参者扱いをして力量を見極めずに噛みついてくる者をいるでしょう。どうかご注意を」
リナリアさんが言う『力量を見極めずに噛みついてくる者』っていうのは、自分が有能だと、自分の方が上だと勝手に過信してこっちを見下してくる連中の事だろう。そういう奴ってどこの世界にもいるのね。やっぱ。
私はまだそういう奴に遭遇した事ないけど、セリアはありそうな気がするなぁ。今日の夜辺りにでも聞いてみよ。
「ご忠告、感謝致します。確かに私も女王陛下と同じで、向かってきた者には容赦しません。ただ理由や真意は探ります。片っ端から誰をも皆殺しにするつもりはありませんよ。そういう輩が現れた時は、リナリアさんや他の仲間や先輩方を頼らせていただきますよ。例え末端の役人や兵士でも、頼れる存在なのであれば」
「そうですか。ならば安心しました。…そろそろお時間のようです。私はここで」
「はい、失礼します」
大会議開催の時刻が迫って来たようなので、リナリアさんとの会話はここまでとなり、私とキリカはお辞儀をしてリナリアさんと別れて席に着いた。
グレイシア国家会議開催直後、会場の全ての席に誰もが着席した頃にセリアが威圧感満載の女王様モードで入って来た。そして黙ったまま玉座に座った。
セリアが会場入りした事で会場内は一気に緊迫した空気に変わった。やっぱみんなセリアの威圧には負けるらしい。私とノワールとキリカと閣僚達は至って普通だけど。
(…ん!?)
私はふとセリアの方を見て、驚きのあまり二度見した。
セリアが座る玉座の真後ろ。私と、玉座を挟んで反対側にいるオルシズさんの位置からでしか見えない位置に、なんとリリアちゃんが潜んでいた。いつの間に…。
「リ、リリアちゃん!?そこで何してるの!?」
私はリリアちゃんに他には分からない程度の小声で話かけた。
「陛下が途中で居眠りしないよう見張ってるんです。国家会議の時はいつもこうしてまして。じゃないと陛下、目を開けたまま寝てる時もあったりするので。もし陛下が寝たら、ここから足を突いたりして起こすんです」
うわぁ…、会議自体長時間なのに、その時間リリアちゃんはずっと玉座の後ろに隠れてるんだ…。朝からの対応に疲れて寝ちゃうセリアの気持ちも解らなくはないけど、これはリリアちゃんも大変だなぁ…。
「リリアちゃん、ホントに大変な役目背負ってるわねぇ…」
「長時間同じ体勢なので、けっこう腰痛くなります…」
「でしょうね。会議終わったら休みなさい。それと私から特別給料あげる」
「ホントに!?やったー!」
セリアに仕事丸投げされたり、セリアに追い掛け回されたり、こういう時にこっそりセリアを見張ってたり、色々と大変そうに思えたから、ボーナスをあげる事にした。
「ちょっと、アイラもリリアもうるさいよ。会議始まるんだから静かにしててよ」
「誰のせいでリリアちゃんが裏に待機してると思ってんの?誰のおかげで居眠りを回避できてると思ってんのよ?会議終わったら必ず労ってあげなさいよ?」
「労いよりも陛下へお説教お願いします!」
「じゃあそっちで」
「え、えぇー…」
セリアが小声で私とリリアちゃんのやりとりをうるさいと言ってきたので、私は軽く叱り返した後にリリアちゃんを労うよう言っておいた。そしたらリリアちゃんが労いよりもセリアへの説教を希望してきたから、即座に変えた。セリアは苦い顔してる。
「それではこれより、グレイシア王国国家会議を開催致します。進行は私、オルシズ・エアハルトが務めさせていただきます。よろしくお願い致します」
オルシズさんの挨拶で会議はスタート。まずは私が紹介を受け、ノワールとキリカも紹介された。そして私が精霊および神獣と契約している事も公表された。
精霊と神獣の件に関しては会場がかなりざわついたけど、ざわつき始めたと同時にセリアが無言の圧力を強くかけたためか、意見等は一切上がらなかった。完全にセリアがこの会議場をコントロールしてるわね。
そういえば前世の頃、学校で先生達が数人でセリアの相手をしようとした事があって、その時セリアはとても強い無言の圧力を先生達にかけて、先生達を撤退させたっていう事があったわね。
今の圧力がその頃を彷彿とさせてる感じがあって、なんだか懐かしい感覚だなぁ…。




