対談後
視点がアイラへ戻ります。
セリアとの対談が終わり、シャロルとは途中で別れ、私は一人で教室へと戻った。
教室にはまだ学院生達が残っていて、ホームルームが行われている。
ホームルームが長いように思えるけど、これには理由がある。単に宮殿に戻る国王陛下方御一行を学院生達で見送るためにみんな残っているから。…一部の学院生はイヤイヤだけどね。
「あ、アイラちゃん」
教室の扉を開けると、教壇に立っていたナナカ先生が最初に反応した。
直後それを合図とするかのようにクラスのみんなが詰め寄ってきた。
「アイラ!終わったか!」
「アイラ様~!無事で良かったですぅ~!」
「どこかお怪我はありませんか?具合が悪い等ございませんか?」
「ねぇ、何話したの?何言われたの?どう脅されたの?」
レイジは安堵した様子で声をかけてきて、ニコルは泣きそうになっている。
ホウは私の身体に異常がないか心配してきて、ステラは質問攻めしてくる。
詰め寄ってきた他の面々からも同時に色々聞いてきたため、私は対応に困った。
しかしいくらセリアが威圧的で独裁的と知られているとはいえ、どうしてここまで悪く見られるのかしら?
「皆さん気にはなるとは思いますが落ち着いて。アイラが困ってます」
ティナが冷静にみんなに落ち着くよう言ってくれたおかげで、みんな引いてくれた。サンキュー、ティナ。
「みんな~、そろそろ時間だよ。外に移動しよ~」
直後、ナナカ先生の指示で外への移動を開始した。ちなみに王子殿下とリィンは既に国王陛下方御一行と合流するため移動しており、クラスの中にはいない。
私達は国王陛下方御一行が通る所へ移動し、その時を待つ。この時私は偶然最前列にいた。マジで偶然に。
しばらくして御一行がやってきた。セリアは私と話していた時とは違い、威圧感満載の女王様モードになっている。
御一行が私のほぼ前まで来た時、私の姿に気付いた様子のセリアが御一行の面々に何か話かけると、御一行は進行を止めた。そして、何故かセリアだけがまっすぐ私の方へ向かってきた。
私の前に立ったセリアは、威圧感たっぷりの微笑みを浮かべながら私の頬をやさしく撫でてきた。
(おいおい、何するつもりよ)
セリアの急な行動に私は内心困惑する。周囲も私の方を見てる。
そしてセリアは、周囲にも聞こえる程のボリュームで言葉を発した。
「先程も話した通り、私は君の事を諦めない。必ず私のもとに置く。君がどれだけ抵抗しようと、必ずグレイシアへ連れて行く。逃がさないからね?」
そう言った後、私の耳元で小声でつぶやいた。
「へへっ、返事を待ってるよ。またね、アイラ」
そしてニッコリ笑みを見せて、御一行の中へと戻って行った。
(こんな大勢の前で何してくれてんのよぉ!!あんたはあぁぁ!!)
私は心の中で絶叫した。
こんな人前で、しかも国王陛下がいる前で堂々と宣言。しかも若干脅しめいている。断っておきながら移住の誘いを周囲に知れ渡らせるとは、セリアも中々往生際が悪い。
(まったく、あの子は。私が恥ずかしいったらないじゃない)
そうして御一行は再び進行を始め、門の前で待機していた馬車に乗って去っていった。
その後、静かだった周囲が一気にざわつき始めた。
「い、今の、どういう事だ?」
「あれって、今回の武術大会一学年で優勝したアイラ令嬢だよな?」
「爆弾犯を撃退した人…よね?」
「あの女王とどういう関係なんだ?」
「さっき他のクラスから聞いたんだけど、女王陛下と二人で対談したらしいわよ…」
「ホントか!?それで目つけられたのか?」
あ~、早速噂されてる~…。視線が痛い…。
と、突然私のとなりにいたステラが、私の両肩を掴んで強く揺さぶってきた。
「ねぇ!今の何なの!?一体どういう事!?ホントに女王と何があったの!?」
「ちょ、ステラ…、揺さぶんないで…」
「ステラちゃん!落ち着いて!」
興奮状態のステラをニコルが落ち着かせ、ようやく揺さぶりから解放された。
と思ったら、今度はティナとホウが片方ずつ私の腕をホールドしてきた。
「アイラ、場所を変えてお話しましょう」
「さ、行きますわよ」
二人とも微笑んではいるのだが、なんか怖い。
私はそのまま二人に引きづられる形で、その場から離れたのだった。
私たちは学院の庭へやってきた。一緒に来た人以外に学院生はいない。
「では、教えてください」
「一体、何を話しましたの?」
「あんな事言ってくるなんて、ただ事じゃないわよ?」
ティナ、ホウ、ステラの三人が私に迫る形で聞いてくる。その横でレイジとニコルも私が言葉を発するのを待っている。
門の方にいたシャロルもニコルが呼び出して合流。今は私の後ろに控えている。
「えっとね、挨拶した後は大会見事だったとか言われて、武術はどうやって習得したのかとか、普段はどうやって鍛えているのかとか、学院生活はどんな感じかとか聞いてきて、その後は服の話とか趣味の話とか雑談みたいな状態だったんだけど、途中で女王陛下が『グレイシアに来ないか?優遇するし、身分と生活も保障するよ』て言ってきて…」
もちろん、ほとんど嘘だ。誘われたところを除いて。二人で抱擁し、呼び捨てのタメ口だったなんて言えない。ましてや、寸法測るために脱がされてスッポンポンだったなんて、到底言えるはずがない。
「なんで雑談が急に誘いの話になるの?変じゃない?」
「もしかすると女王陛下は最初からアイラを誘う目的で呼んだ可能性がありますね」
「確かにその可能性が高いですわね」
「アイラの戦いと爆弾騒ぎの解決を見てアイラに興味を抱いて、対談して気に入って誘ったというところか…」
「ア、アイラ様~」
私の話を聞いたステラが疑問を持ち、そこにティナとホウとレイジが推測し、ニコルは心配そうに私を見ている。そのまましばらく沈黙が流れた。
「とりあえず、教室へ戻りましょうか」
ティナの一言で追及は終了し、教室へと戻った。戻った後もクラスのみんなから追及された。マジで疲れることやってくれたな、セリアは。
その日の夕食時、私は今日起きた事を両親に報告した。
「出場しました武術大会にて優勝しました。お父様は報告を受けているかと思いますが、決勝戦終了直後に現れました爆弾所持者を再起不能にもしました」
「うむ。話は聞いているが、優勝もしたのか。良くやった。大会優勝も爆弾犯へ勇敢に立ち向かった事も誇れることだ」
「まぁ、優勝したのね。おめでとう。でも爆弾を持った人が現れるなんて…。それをアイラが倒すなんて。本当、怪我がなくて良かったわ。今度、お祝いしましょうね」
「ありがとうございます。お褒め頂き光栄です。それからグリセリア女王陛下と対談も致しました」
「その情報がしっかり入ってきてないのだが、詳しく説明してくれるか?」
「はい、わかりました」
私はティナ達に話した内容と同じ事を両親に説明した。
私の説明を聞いたお父様は険しい表情に、お母様は心配そうな表情になっていた。
「グリセリア女王がどう出てくるか分からんが、このままでは最悪アイラがさらわれかねん。護衛を常につけさせよう」
「あなた、それではアイラが学院に通えません。でも女王陛下から目をつけられたのはお母様も心配だわ。何かの対策はしておかないと」
二人とも私の事を心配してくれている。でも私はあえて反応しなかった。
人生何が起こるか分からない。将来、私がグレイシアへ渡る時がないとは言い切れない。
実際に私もセリアも高校生という成人未満の若さで死んで、その記憶を持ってこの世界へ生まれた。そんな経験を考えれば、他国移住も十分に考えられる事。
両親がどれだけ心配し厳重に私を守ろうとしても、あり得ないとは断定できない。
私は両親を見ながら、そんな事を考えていた。
自室へ戻った後、シャロルにセリアとの対談内容を全て話した。友達や両親に話した内容に虚偽がある事はシャロルは分かっている様子だった。
「これでも長く近くお嬢様と過ごしていますから。お嬢様が嘘をついている事くらいすぐに分かりますよ。しかし親友と言えど思いつきでここから引き抜こうとは、随分と大胆な方ですね」
私の話を聞き終えたシャロルの反応がこれだった。でも、大胆なところはセリアらしい。
前世の時と変わらず元気そうで良かった。本当に。
セリアのためにも、アストラントとグレイシアが友好関係になれる時を願いながら、私は気分良く就寝するのだった。