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異世界で最強 ~転生と神の力~  作者: 富岡大二郎
第十一章 視察からその先へ
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王都とノワール視察団の一ヶ月

 三つ巴事件の話の後、自室に入っていたアテーナ、アルテ、キリカの三人がリビングへ出てきた。三人同時のタイミングなのは単なる偶然らしい。そして同時にエウリアとメリッサがちゃっかり混ざってる…。だからあんた達は警備はどうしたのよ…。しょっちゅうフリーパスじゃないのよ…。


「せっかくだし、この一ヶ月それぞれがどうしてたかを話すとしようよ。閣僚会議やその他諸々で説明しやすくなるし、みんなも早く知りたいだろうしね」


 セリアはみんなの視察期間中の各自状況報告を提案してきた。


「早く知りたいのは確かにそうですが、陛下もそれが解ってらっしゃるなら自室に籠らないでください」

「うっせーやい」


 リリアちゃんの指摘にセリアは拗ねたように一言。でも私もリリアちゃんと同感。


「ノーバイン城は特に何も起こりませんでしたよ。王都の街も城の中も普段通りでした」

「私達も普段とやる事は変わりませんでしたよ。閣僚の方々もいつも通りでした」


 オルシズさんとリリアちゃんの報告によると、ノーバイン城と王都は何も変わりなかったらしい。


「あ、そうだ。女王陛下。陛下じゃないと処理できない書類が政務室の机に積んでありますので…」

「アーアー。ナンニモキコエナーイ」

「……」


 リリアちゃんがセリアに仕事の話をした途端、セリアは自分の両耳を塞いで現実逃避した。そんなセリアの行動に、リリアちゃんがイラッとした表情になった。


「リリアちゃん、一発殴って良いわよ。私が許す」

「アイラさん、ありがとうございます。では早速…」


 私がリリアちゃんにセリアを一発殴って良い許可を出すと、リリアちゃんは立ち上がった。


「ちょっと待てぇリリア!殴ろうとする姿勢でさり気なくフォークを握るなぁ!明らかに刺す気だろ!解ったから!解ったからフォークを下ろせぇ!下ろせってばぁ!」


 リリアちゃんは澄ました表情でテーブルに置いてあったフォークを握ってセリアに振りかざそうとした。セリアは慌ててリリアちゃんの腕を掴んで制止させた。まぁ、セリアの自業自得よね。


「セリア。仕事、するわよね?」

「やる…。やるから…。アイラも余計な事言わないで…」


 はて?余計な事とは?何の事やら?


「そろそろよろしいでしょうか?次は私より報告させていただきます。皆さんも既にご存知かと思いますが、視察開始直後の豪雨の影響で視察団員の一部に体調不良者が出まして、視察の中止と緊急帰還を余儀なくされました」


 次はノワールからの報告。だいたいの事はネロアさんから聞いてるけどね。


「帰り途中に魔物と遭遇してさ~、私が迎撃を命令したのに兵士達みんなして腰抜かしちゃってさ、結局私とアリスとノワールだけで迎撃したんだよ~。怪我人とか馬車への被害はどうにか出さずに済んだけど、全く情けないったらなかったよ」

「魔物との遭遇により精神状態を悪くさせてしまった兵士もおり、かなり士気も下がっておりましたが、ノワールさんのおかげで士気はもとに戻りまして。それからは兵士達がノワールさんの事を‘剛陽の聖女’と呼ぶようになりましたね」


 セリアとアリスの話を聞いて、ノワールに付いた名が気になった。


「なにその‘剛陽の聖女’って!?ノワール通り名できたの?スゴイじゃない!」

「そ、そうですか…?私は別に思った事をしただけなのですが…」


 ノワールが照れてる。超カワイイ。


「魔物との戦闘後、女王陛下は兵士達が腰を抜かし、魔物に立ち向かえなかったことに対して非常に怒っておられました。兵士達に説教していたくらいでしたから」

「そりゃ怒るでしょ。何のための兵士だよ。まったく」

「一人苛立つ陛下とは別にノワールさんは兵士達に優しい言葉をかけ、手を差し伸べておりました。それが魔物との遭遇による恐怖で満たされていた兵士達の心を癒したようです。それがきっかけで一部の兵士がノワールさんの事を鋼のように強く、陽の光のように優しく温かい輝かしい聖女のような方という意味で‘剛陽の聖女’という名が誕生したそうです。今では城中の兵士や役人、使用人にまで名が通ってますよ」


 頬を膨らましてプンプンしてるセリアは置いといて、アリスが話すノワールの行動は中々素晴らしいと思う。

 魔物の姿を実際に見た事のある者として見させてもらうと、魔物の禍々しい姿を見て恐怖する人はいないと思う。私やセリアみたいな特殊的な存在は別として。

 それで士気が下がりきったところにセリアが説教をして士気がさらに低下。そこにノワールが優しく兵士達を癒し、士気を戻させた。これは指揮をする側として出来て当たり前に思える事だけど、いざやろうと思うと中々できない事。


『優しい言葉は、たとえ簡単な言葉であっても、ずっと心にこだまするのです』


 この言葉は私とセリアがいた前世の世界で有名だった修道女、マザー・テレサの言葉。ノワールはまさにこれを実践したと言える。だから通り名が付いたんだろうね。


「一度城へ戻りました後は、すぐに視察再開の準備を整えまして、可能な限り早く視察団の再編成を完了しました。その時にドイル将軍閣下も視察団として参加することになりまして」

「そーいえばノワールとジオが話してたら、ドイルがジオを叱り飛ばしてたっけ。あの時のジオの委縮っぷりは面白かったな~」


 あー、そっか。ドイル将軍はノワールとジオの関係、ましてやジオがノワールに恋してることなんて知らないから、立場上ノワールに気安く話かけてたことが納得出来なかったんだ。


「あの時私がジオさんと知り合いであることを説明しなければならなかったので大変でした。ドイル将軍がやたらジオさんに圧をかけるものですから。

 それはともかく、再開しました視察は順調に進みました。ほとんど眺めているだけで終わりましたが、一ヶ所だけ気になる場所がありまして」

「そこに流れてたはずの川の水がなくなってたんだよ。割と大きめな川のはずだったんだけど。地図で示すとここの川なんだけど」


 セリアはテーブルに地図を広げて指を差した。その川はちょうどノワールの領地を横断してる。


「私の記憶が正しければ、アイラ殿やシャロル殿、ノワール殿をアストラントから迎え入れた時、馬車から見た当時の川は普通に流れていたと思うのですが…」


 アリスいわく、以前の記憶ではまだ川は流れていたらしい。そもそも川に水が流れてない状態を視察団が発見する前に、あの豪雨が降ってたわけだよね?だとすると川が枯渇してるのは不自然じゃない?


「上流に何かがあって、それが原因で川の水がせき止められてるか、別の方向に流れが変わったかのどっちかかしら?」

「私もそう睨んでる。でも調査しようにも川を上流へ辿るとディゼフォーグ地帯だから入れないし、その先はアンプルデス山脈だから確認不可能だし…」


 なるほど。上流は簡単に調査ができない環境なんだ…。あれ?そういえば…。


「思えばセイレーンがノワールの領地の方には水源がないって言ってたわよね?」

「確かに言ってましたね。あの言葉からするとノワールさんの領地にはそもそも水がないと認識しておりましたが、川があった上に最近まで流れていたと考えますと、話の辻褄が合いませんね…」


 セイレーンが温泉に入りながら言ってた事が辻褄が合わない事に、私とシャロルは揃って首を傾げた。


「オリジン様、何か情報あります?」

「ええ、ご説明しますね。セイレーンが言っていたという水源がないという発言は、確かに間違いではありません。だたし、それは現在からおよそ二百年前の情報ですよ」

「え!?」


 古っ!セイレーンったらそんな古い情報を私に提供したの!?


「現在は水源ありますよ。だから木々が生い茂っていますし」

「た、確かに…」


 ホント言われてみれば…。どうして気付かなかった私。


「それじゃあ、川の水が流れてない原因は?」

「先程アリスさんが以前は水が流れていたとおっしゃっていましたが、その後にアンプルデス山脈およびディゼフォーグ地帯のみで豪雨になった時がありました。その時にアンプルデス山脈の下流域で小規模のがけ崩れが発生し、大きな岩によって川がせき止められたのです」

「ということは、川の水は今、せき止められた場所で自然に形成されたダムに溜まっている状態ってことですか?」

「はい。その場所は元々小さな湖なので貯水機能はありますが、いずれ限界がきて決壊し、川を土石流になって流れると思いますよ」

「へーぜんと言わないでよ!自然災害になっちゃうじゃん!」

「何か…、何か解決する方法は…。ディゼフォーグ地帯までなら何とか…。でもアンプルデス山脈までは…。う~ん…」


 オリジン様の説明に、セリアは自然災害を警戒し、ノワールは解決方法に頭を悩ませてる。確かにこのまま放置してダムが決壊、土石流が領地開拓中の場所に流れたら、多くの犠牲を出す災害になってしまう。

 これに関して精霊達や神獣達が何もしない、オリジン様が平然としてる理由は、おそらくあくまで自然の摂理の中の事だから。だろうね。


「なお、この事に関しまして、我々精霊は自然現象の一つとして考えていますので、基本的に何もしません」


 ほら。思ったことそのまま言ったよ。


「精霊は何もしないのかよ~!あっ!そうだ!」


 セリアは精霊達へ不満を言った後、何かを閃いたらしい。


「私の魔法とか、軍の魔法部隊使って遠距離から魔法をテキトーにぶっ放し続けて、山の一部ごとダム壊すってどうかな?事前に通告した上でやれば被害出さずに済むし…」

「待ちなさい。神の眷属が自ら進んで自然壊してどうすんの。それに野性動物と植物に被害が出るわよ。そもそもあんたの場合はまだ魔法制御完全じゃないでしょ」

「でも~」

「グリセリアさん。本気で実行されるようでしたら、我々精霊は全力で止めに入りますよ」

「ほら」

「むぅ~」


 セリアの案は私が止め、オリジン様も反対を表明し、セリアは肩をガックリ落とした。


「壊すけど決壊はさせたくない。それをクリアするには、せき止めている岩を慎重に壊さないといけないわ。魔法を放とうにも力の細かい調整が必要。しかも現地へ向かうには位置的にディゼフォーグ地帯を超えないといけない。こんだけの条件はあんたの案じゃクリアできないわよ」

「じゃあアイラ代わりに案出してよ」

「私が現地に行けば良いんでしょ。私が直接岩を壊しに行くのが最も早い解決方法だと思うわよ」

<<<え?>>>


 私が現地に行くと言ったら、セリアとアリスとオルシズさんとリリアちゃんとノワールが何言ってんの?みたいな表情になった。


「アイラさんのおっしゃる通り、人の手によって解決することができる方法としては、アイラさんが直接赴く事のみですね」

「アイラ様ならディゼフォーグ地帯超えられるし、アンプルデス山脈でも行動できるしな」


 ネロアさんとベヒモスは私の案を肯定してきて、他の精霊達も「うんうん」と頷いてる。


 この世界では、ディゼフォーグ地帯のような濃霧環境や、大きな山脈のような山々を踏破できる技術や知識はない。前世の世界にはなかった魔法を駆使しても、同様に踏破はできない。

 でも私の場合、神力と膨大な魔力、前世の知識、精霊と神獣と神龍のサポート、神体による底知れぬ体力と持久力などいろんな力を使って単身でもアンプルデス山脈を登頂踏破することができる。ディゼフォーグ地帯の中で行動するための能力も、領地視察の中で習得した。

 そして私は、自分が行く案と引き換えに、ある条件を突き出そうと考えていた。


「アイラって領地でいろんな能力教え込まれたんだよね~。だから行ける条件が揃ってるわけか」

「教わったどころか自分で新しい魔法とか開発もしたわよ」

「それ魔法研究してる人が聞いたら驚愕ものだろうな~」


 セリアは私が行ける条件に納得してた。反対ではないらしい。


「しかしアイラ様…。これは私が治める領地の問題。アイラ様のお手をわずらわせるわけには…」

「じゃあどうするの?このまま土石流がやってくるのを待つ?いつどうなるかも分からないし、領地の開拓なんて決行出来なくなるわよ?」

「それは…、そうですが…」


 ノワールはそのまま俯いてしまった。


「危険性がある点を考えると、私の領地の事は後回しでそっちへ行くわ。私の移動手段なら現地まで時間かからないし」

「アイラに任せておけばダイジョーブだね。ということでよろしくアイラ」


 セリアは私が完全無償でやってくれると思い込んでる。私そこまで善人じゃないんだけどな。


「言っておくけど、私タダで行くとは言ってないわよ?」

「へ?」

「何かご所望のものがあるのですか?私がご用意できるものであればなんなりと…」


 セリアはやっぱり意外そうな表情をして、ノワールは何でも応えるつもりみたい。…何故顔が赤い。


「私が要求したいものは、ノワールじゃ用意できないわね。これはセリアに要求することになるわ」

「私に~?あ、もしかして新しい服?それか機械品?アイラのためなら何でもあげるよ~!あ…、もしかして~…、私の~、かゴヘッ!」


 セリアが何て言おうとしたか分かってしまったので、とりあえず腹パンしといた。


「いったぁ~い!なんで殴るのさ~!私の身体を求めてるんじゃないの?」

「わざわざ言い直さないでよ!誤解されたら嫌だから殴ったのに!」


 まったく、まさか殴られた後に改めて言うとは…。


「それで、アイラさんが求めてらっしゃっているものとは?」


 オルシズさんが冷静に話を戻してきた。私はここで真面目に要求を伝える。


「セリア、オルシズさん。あとは政府閣僚に対して要求します」

「閣僚に対しても?」

「私がノワールの領地の川の問題を解決したあかつきには、グレイシア政府が管轄するアンプルデス山脈全域の所有権を私にください」

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