割と深刻な事態
視点の移り変わりが、前回と同様となっております。
「いそげ~、いそげ~、どこまでも~♪」
「今更ですが、陛下って音痴ですね」
「今更ってなんだよ。つーか女王に向かって平然と率直な事言うとか鬼か」
音の外れた音程で歌を歌っていたグリセリアに対し、純粋に感想を述べたアリス。
彼女らグリセリア、ノワール視察団は、快調に馬車を走らせていた状態から一気に速度を上げ、ほぼ全速力でノーバイン城に向かっていた。
理由は至って単純。上空に見えていた鳥達、つまりアイラ達の飛行速度が加速し、一直線に王都へ飛んで行ったからである。
視察団は皆、鳥達に乗っているのがアイラ達である事を知らないが、グリセリア、アリス、ノワールの三人は、アイラ達だろうと勝手に思っていたため、さほど気にはしていなかった。グリセリアに至っては、どっちがノーバイン城に早く到着するかを競っている気分でいた。
しかしそういった可能性を一切考えていなかったドイルを中心とした兵士達は、アイラ達の加速に大慌て。移動速度を加速させ、猛スピードで走っていた。
「いや~、速い速い。陸と空、いい勝負だね~」
「そう思っておられるのは陛下だけですよ」
「王都でも姿は確認できているでしょう。城ではどうなっているのでしょうね」
慌てている兵士達をよそに、馬車の中でくつろぐ女子三人組。
「急げ急げ!襲撃の可能性もある!総員戦闘態勢もしておけ!」
<<<ははっ!>>>
三人の馬車の外では、兵士達がドイルの指示で城到着直後に戦闘できるようにするための準備に入っていた。
「ちょっと~?戦闘なんてならないって。あれに敵意はないよ」
「しかし陛下!それでは根拠がありません!万が一もありえます!」
「万が一もないよ!それに鳥の片方どう見てもキリカだろうが!この石頭め!」
馬車の窓から戦闘の可能性を否定したグリセリアだったが、結局言う事を聞かないドイルに苛立ち、窓を閉めた。
「女王が平気だって言ってんだから問題ないんだってのに。ったく」
「仕方ありません。陛下は威圧ばかりで威厳がありませんから」
「なんだとぉ~、アリス~!女王に向かって何てこと言うんだぁ~!プンプ~ン!」
「……」
「ねぇ、ため息つきながら目を逸らさないで。お願いだから無視はしないで。一番傷つく」
グリセリアの愚痴に対し失礼な発言をサラリと述べたアリス。そんなアリスにグリセリアは軽いノリで怒った。しかしアリスがため息をつきながらそっぽ向いたため、グリセリアは急激に弱気になった。
「これが陛下に最も有効的だと、以前アイラ殿が教えてくださいました」
「アイラの仕込みか…。むぅ~、アイラが相手だと怒れない…」
「陛下…、とことんアイラ様には適わないのですね…」
いつの間にかアイラからグリセリアの対応法を教えてもらっていたアリス。
不満を抱きつつもアイラには敵わないため怒れないグリセリア。
二人のやりとりをただ苦笑いしながら見ているノワール。
この三人は結局視察期間中一切ブレることはなかった。…が。
「ん?」
ふいに外を見たグリセリアは、アイラ達に動きがあるように見え、窓を開けた。そして三人と兵士達が見た光景は、ノーバイン城付近からアイラ達に向かって飛ばされている魔法弾であった。
「うっそ、攻撃されてる」
「向こう側からは攻撃していませんよね?こちら側から一方的に?」
「これマズくありませんか?もしもこれでアイラ様の怒りを買ってしまったら…」
三人の間に一定時間沈黙が流れる。
「…ノワールの予想が当たれば笑い事じゃ済まされないよ!これはヤバイ!」
グリセリアは馬車から顔を出す。
「総員全力前進!城まで全速力で急げ!」
<<<ははっ!>>>
状況は一変し、グリセリア達も深刻な事態として馬車を急がせた。しかしそれは、「城が襲撃されるかもしれない」というドイル達とは違うものであり、この世で最強と言っても過言ではないアイラの力を知っている三人だからこそ、そんなアイラの怒りを買ってしまう事の恐れからであった。
普段温厚で優しい者こそ、怒らすと怖い。アイラがまさにそういう人物であると知っているからこそ、三人は緊迫状態となっていた。
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「オルシズさん」
「なんでしょうか?リリアさん」
「あの鳥達…、かなりの速さで迫って来てませんか?」
「そうですね。非常に速いですね」
「飛行位置と角度から推測すると、確実にここに…」
「降りてきますね」
ノーバイン城の広場にいるリリアとオルシズは、アイラ達を見上げながら冷静に会話していた。
「アイツら急接近してくるぞ!」
「げ、迎撃準備!民の緊急避難要請を!」
「わあぁぁぁ!ちょっと待ってくださあぁぁぁい!戦闘態勢に入らないで~!」
「皆冷静に!こちらからの攻撃はしないでください!」
冷静だったリリアやオルシズとは対照的に、周囲にいた兵士達はパニックになっていた。
リリアは慌てて戦闘態勢の解除を指示。オルシズもこちらからの攻撃をしないよう命令した。だが。
「魔法部隊!攻撃魔法陣展開!魔法弾発射準備!」
「弓矢部隊!構えー!」
兵士達は全くリリアやオルシズの命令を聞いていなかった。
「…これ、もう手遅れですかね…?」
「そのようですね…。はぁ…」
リリアとオルシズは、二人して頭を抱えた。そして。
「魔法弾!撃てぇー!」
アイラ達に向かって、複数の魔法弾が発射された。
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(ん!?)
王都との距離が近くなってきた時、私は魔力の流れを感知、発生源はノーバイン城だとすぐに分かった。しかも攻撃魔法系の流れ…。てことは、これはヤバイ。
「フェニックス、キリカ。左に急旋回。カラス丸とファルコも動きを合わせて」
「「御意」」
「ピー」
「はいはーい」
飛行四羽が左へ旋回した直後、ノーバイン城から魔法弾が飛んできた。
「私達が攻撃されている…?」
「どうやら敵と認識された可能性がありそうですね」
「可能性というより、確実に敵視されたかしら?」
「フフフ…、ならば望むところ…」
ジーナは攻撃が飛んできた事に困惑気味。シャロルは冷静だった。
アテーナとアルテは微笑んでるんだけど、明らかに表情が戦闘モード。しかもアルテに至っては既に弓を構えてる。
「加速してまっすぐ近づいたから、襲撃されると思ったのかもね。フェニックスの姿もキリカの今の姿も、普通はそうそうお目にかかれる姿じゃないし」
「「お褒めいただき光栄です」」
「今何一つ褒めてなかったと思うわよ…?」
私の分析にフェニックスとキリカがお礼を言ってきて、カラス丸がツッコんだ。
「フェニックス、キリカ。若干減速しつつノーバイン城上空を旋回。ただし高度は下げないで。着陸地点の状況を探りたいわ」
「「御意」」
「ファルコとカラス丸は、フェニックスとキリカに隠れるように飛行して。やれる?」
「ピー!」
「アタシもファルコも問題ないわよ~ん」
私の指示に四羽は異論なし。ていうかファルコが状況を理解してるのが賢いわ~。
「アイラ様。先程見えていた馬車の列、城の広場へ入って行きます」
アテーナがセリア達の馬車がノーバイン城入りした事を伝えてくれた。確かに馬車列が見える。
「あら~、セリア達の方が早かったか~。負けたわ~」
「言ってる場合ですか!いかがされるのですか!?お嬢様!」
「まーまー、大丈夫だって」
私はシャロルの肩をポンポンと叩いた。
「アイラ様。馬車で着地地点奪われちゃってますけど?」
「あ、ホントだ」
アテーナの素朴な疑問に言われて気付く私。
「フェニックス、キリカ。そのままの飛行を維持して。向こうの動きを待つわ」
「「御意」」
いやぁ~、失敗しちゃったわねぇ。広場は今どんな会話してるのかしら?セリアなら戦闘は治められると思うけど。




