前世ぶりの再会
特別応対室の前に到着すると、扉の横にいる兵士と目が合った。
その兵士は女性の兵士で、見た目で見る限り私とほとんど年齢は変わらないだろう。とても若い兵士さんね。
金髪の髪をハーフアップヘアーにしていて、見ただけでも髪質が良いように見える。青色のきれいな瞳をしていて、顔つきもけっこうかわいい。
格好は頭に銀色の前頭だけを隠す兜の役割をするであろう物をかぶり、上半身から腕や腰周りは金色の鎧。青色のマントを羽織っていて、下は白色のロングスカートをはいている。
あきらかに通常の鎧とは違う点から、おそらく高い身分の兵士かもしれない。
(でもドレスとか着せたらすごく綺麗だと思うんだけどなぁ。勿体ない)
私はお辞儀をして挨拶する。
「アストラント王国リースタイン子爵家令嬢のアイラ・リースタインと申します。グリセリア女王陛下がお呼びであると聞きまして、こちらへ参りました」
「お待ちしておりました。後ろの方は従者の方とお見受けしますが、女王陛下は二人きりでの対談を希望されておりますので、従者の方はここでお待ちください」
「分かりました。シャロル、ここで待ってて」
「畏まりました」
シャロルを女性兵士の近くに待機させ、私は特別応対室へ入る。
部屋にはグリセリア女王、神楽がいた。
メイド等は一人もおらず、彼女だけが一人で部屋のソファに座っていた。
テーブルにはティーカップが置かれていたので、おそらくさっきまでメイドがいたんだろう。私と話すために退出させたんだと思う。
私は彼女の顔を見て笑みを見せる。彼女も立ち上がって私を見ながら、感激するような表情を浮かべていた。
「久しぶり、神楽」
私がそう言うと、彼女は今にも泣きそうな、しかし歓喜に満ちたような表情を強くさせた。
「春華ーーーーー!!!」
彼女は私の前世の頃の名を叫ぶと、かなりの勢いで私に抱きついてきた。まるで久々に飼い主と再会した犬が嬉しさのあまり飼い主に突進するかの如く。
「春華だ!やっと会えた!超嬉しい!久しぶり~!」
「うん。本当に久しぶり」
嬉しそうに私に抱きついて甘えてくる彼女を私も抱きしめて頭を優しく撫でる。
「本当に良かった…。会えて良がっだぁ~~」
「ちょっとちょっと、なんで泣くのよ」
「だっでぇ~、思い出した時がら~、うぐっ!もう会えないんだ~って思っで~、ひくっ。でも春華がこの国にいるってじって~、ぐすっ。ずっと会いたいって思い続けて~、やっと会えたって思ったらぁ~、嬉じぐでぇ~!うえ~ん!」
「おーよしよし。良い子だから泣き止んで~」
嬉しさのあまり泣き出した彼女を宥める。大会前に見た女王としての姿も、世間に知られる威圧感も、そこにはなかった。
しばらくしてようやく泣き止んだところで、私はソファに座る。
神楽もソファに座るのだけど、彼女は元々座っていたところではなく私のとなりに寄り添うように座ってきた。そして私の事を見ながらニコニコしてる。
今の姿は、ホント女王様とは思えない。
「それにしても神楽が一国の女王様とはねぇ~。神様から聞いた時はビックリしたわよ」
「そういう春華こそ、貴族のお嬢様じゃん」
「まあね。あ、今世では私の事はアイラって呼んでね」
「わかった。私はセリアって呼んで。家族からはそう呼ばれているから」
「わかったわ、セリア。……なんていうか、色々話したい事はたくさんあるけど、まずは謝らせて。ごめんなさい」
「え!?」
「私は前世であんたを庇った。けど力及ばず死なせてしまった。その謝罪よ」
私はセリアに頭を下げる。セリアは突然の謝罪に驚いている。
私が彼女に会ってまずしたかった事が謝罪。あれが事故だったであろう事は私も分かってる。でも守れなかった事は神楽の事を思い出してからずっと私の心の中で引っかかっていた。
「そんなの謝る必要なんてないよ!あれは鉄パイプが落ちてきた事故じゃないか!アイラは何も悪くない!」
セリアは私が勝手に責任を感じていた事に憤慨してきた。けどすぐに悲しい表情に変わった。
「あの時、庇ってくれて嬉しかった…。でも、咄嗟に動けなかった自分が情けなかった…。私が動けてさえいれば、アイラだって助かったかもしれないのに…」
「セリア…」
「でも、神様は私達にもう一度チャンスを与えてくれた。神様はミスったとか言ってたけど。
あんな事がもうなかろうと、今度は私がアイラを守る!あの時のアイラみたいに!
どれだけ離れた所にいようと、国や立場が違っても、必ずアイラのもとに駆けつける!」
「セリア…。ふふ…、ありがと」
私の謝罪に怒ったかと思えば、自分が情けないと悲しんで、当然の守るという宣言。なんかめちゃくちゃな反応だけど、なんとなく私の中の引っかかりが取れた気がした。
「そういえば、神様から身体的な事とか神力の事とか色々聞いてるけど、セリアも説明受けてるの?」
「受けてるよ。情報交換といこうか」
私達はお互いに神様から聞かされた内容を確認し合った。
ケガの瞬時回復。
病気への無敵抗体。
攻撃の自動回避。
攻撃の自動防御。
全魔法無効化。
誰よりも速く移動できる。
これらの点は、私もセリアも同じだった。
「試合見てて、他の選手より身体能力が明らかに上だな~って思ってたんだけど、やっぱ神力使ってたんだね。しかも攻撃時に神力で威力を追加とかすごいじゃん」
「最初は大変だったんだよ~。全然制御きかなくてさ、殴ったり蹴ったりした物は粉砕していくし、地面殴れば深くえぐれるし。特訓しまくってようやく制御出来るようになったんだから」
「あはは。じゃあ、そのまま人殴ってたら、相手の首吹っ飛んでたね」
「それだけで済んでいたかどうか…」
「しかも精霊とか神獣とかと契約すれば、追加で能力得られるんでしょ?羨ましいな~」
「そういうあんたの能力は、既に追加とかいらないレベルじゃないのよ」
「まあね~。極力使わないようにしてるけどね。騒ぎにならないように」
武術に神力が重なることで威力が上昇し、威嚇等でも力を発揮し、精霊や神獣と関われば災害級魔法が使える私とは、セリアの神力はだいぶ異なっていた。
セリアの神力は『無条件斬断』というもの。セリア本人が何もしなくても相手がセリアの視界に入ってさえいれば、かまいたちのように相手を斬る事が出来るというなんとも恐ろしい力。
小さな切り傷程度にする事も、えぐるように深く斬る事も、全身の肌を斬り刻む事も、胴体の切断も、八つ裂きにする事も可能。相手がどれだけ重装備でも関係ないというのだから恐ろしい。
対象は人だけでなく、動物や魔物、木や岩や建物、大地や海までも斬る事が出来るとか。
内容だけ聞いてるともはや最強ね。でもまだ制御しきれていないらしい。
「前もさぁ、木の枝だけを斬ろうと思ったら、木そのものを斬っちゃったんだよね。後で誤魔化すの大変だったよ」
「あはは。それじゃあ、まだまだだね。もっと簡単な物で試してみたら?私みたいに廃材を使ったり、食べ物であれば斬るのに失敗しても食べれるでしょ?」
「それナイスアイディア!さすがアイラ!」
セリアは私に抱きつく。私もドヤ顔でキメとく。
「アイラがこの先精霊や神獣と契約すれば、雨とか降らす事も可能だよね?」
「うん。そうなるわね」
「それ良いな~。農作物の開発に役立ちそうで」
「でも神様は水たまり作る程度の力で洪水起こせるって言ってたから、多分発動と同時に田畑全滅するわよ」
「……それはよろしくないね」
「国にそういう人いないの?」
「うちの国、人材不足~。改善が図れなくって苦労してるところ」
「そうなの?大変なのね」
「アストラントは財源も人材もあるようだけど、見る限り見栄を張ってるね」
「そう見える?宮殿も装飾が多くて、私も好みじゃないのよね」
「ん~、やっぱアイラもそう感じるんだ」
「ところで農業に手出してるのね?前世の頃の農業知識生かせるわね」
「うん。農業と工業、それから生産系全般に。国の発展には必要でしょ?」
発展とか考えてるところが王族っぽい。うちの王子殿下はそういうところ考えているのかしら?
「具体的に何やってるの?」
「農作に関しては新品種の開発。工業や生産全般に関しては前世で存在してた物を開発できないかなって挑戦中」
「はあ~、ちゃんと国の主ね。しっかり考えてるじゃない」
「国民に実感させるような事はまだしてないし、自由時間が作れないのがキツイけどね」
「あんまり無理しないでよ?私はやる事無くて困ってるけどね」
「えぇ~、何それ羨ましい~」
「それもそれでキツイのよ。自分の荷物整理すら出来ないんだから」
「不自由な点はあるんだね…。私とは別の意味で」
「そういえばお姉さんがいるんじゃなかったっけ?王位継承とかで争わなかったって聞いてるけど、そのお姉さんに代役とか頼めないの?」
「姉さんはあまり政務とかしようとしなくてさ、政治に無関心なんだよね。
私がある日、姉さんに機械の事とか教えたらドハマりしたみたいで、父さんが退位する事になって王位継承問題が出た時も姉さんは自ら継承権を放棄して、私に全部丸投げして工業一本で専念してるんだよ。
だから姉さんは今、機械物開発責任者。それ以外は何言っても聞いてくれない」
王位継承の謎はなんとも自由なものだった。ハマっているとはいえ、王族がそれで良いのか?
「ところでさ、私前世の時以来久々に服作りを復活させたいから協力して」
「ん?でもあまり自由時間作れないって言ってたじゃん」
「少しくらい触る時間くらいはさすがにあるよ」
「なら良いけど。でも私に何を協力しろと?」
「アイラの身体の寸法測らせて。スリーサイズ知りたい」
「はぁ?」
服作りは解るけど、私の寸法を測る意味が分からない。
「なんで私なの?」
「前世の頃みたいに、アイラの超過激露出服作りたいんだよ。お願い!」
「そういう事か。うーん…、分かった。良いよ」
「ホント!?やったー!じゃあさっそく」
「なんでメジャー持ってんのよ!?てか、ここで測んの!?」
当然のように服のポケットからメジャーを取り出すセリア。ずっと持ってたわけ?それ。そしてマジでここで測るらしい。
「細かい事は気にしなーい。ほら、脱いで脱いで」
「ちょ…、コラ!なんで脱がすのよ。自分で脱ぐっての!ちょっと!聞きなさいよー!」
私の抵抗もむなしく、セリアに強制的に服を脱がされた。それどころか何故か下着まで取られ、私は今セリアの前で全裸になっている。なんか色々納得できない。
「早くしてよ~。人が入ってきたらヤバいよ~」
「大丈夫だって。それじゃ、測るよ~」
私の心配などお構いなしにスローペースで測っていくセリア。
私自身は前世の露出慣れの影響もあって、人に裸を見られるのは平気だけど、今は貴族令嬢と一国の女王が対談という状態なので、もし見られたらと思うと色々不安でならない。
「今世のアイラ、めっちゃスタイル良い…。バストサイズも大きいし、身体引き締まってモデルみたいだし、肌ツヤツヤで白くて透明感あって…。羨ましい…」
「うん、ありがとう。お願いだから早くして!」
「む~。わかったよ~」
何やら私の身体を触って堪能しているセリアを急かす。彼女は状況を解っているのかしら?
「はい終わり。服着て良いよ」
ようやく測り終えたと同時に私は急いで服を着る。
「それにしてもアイラはすごいね」
「何が?」
「身体がさ。全体のバランスがとれててスタイル抜群だし、肌質もめっちゃキレイだし、前世と比較にならない程の差じゃない?これは作りがいがあるよ」
ベタ褒めなのは素直に嬉しい。確かに露出の多い服装はスタイルが良いほど引き立つ。
「大会前にアイラを見かけた時も思ったけど、前世の時と違って髪の毛が長いのも良いよねぇ。でもって顔も美人で…。私としてはこのまま持って帰って飾りたいくらいだよ」
「褒めてくれるのは嬉しいけど、私はお土産物じゃないわよ」
飾りたいとか、観光地の土産店でたまに売ってる人形か。
「で、作った後、どうするの?」
「どうって、そりゃあ着てもらうんだよ。アイラに」
「どうやって?」
「え?」
「私とあんたは今、別の国に住んでる。しかも国同士友好的な関係ではない。物流も通ってない。お互い自由に動くことも不可能。
そんな状態でどうやって私のもとに完成品を渡すの?」
「……」
私の疑問にセリアは黙り込んでしまった。
アストラントとグレイシアの間は、道はあるし国境も成立しているけど、お互いに貿易をしていない。さすがに密輸も無理だろう。
ましてや私はアストラントの貴族令嬢。セリアはグレイシアの女王。お互いの立場上、簡単に会う事は出来ない。
つまりセリアが服を完成させたところで、私に渡す事など不可能なわけ。
「そうだぁ…無理だぁ…。他国経由で渡して……出来るわけないか。だったら貿易交渉をして……ダメだ。何年かかるか分かったもんじゃない。はぁ~…」
色々考えてはボツにしてを繰り返したあげく、がっくりと肩を落とすセリア。私はヤレヤレと肩をすくめて、ソファでくつろぐ。
「はぁ…。もっと早く気付く事だった…。今みたいにアイラが近くにいれば話は別……」
セリアはハッとした感じで私を見てきた。何か思いついた様子。
「アイラ。私良い事思いついた!」
「何?」
「アイラ、グレイシアに来てよ」
「………はぁ?」
突然私の手を握って笑顔を見せたかと思えば、驚くべき発言が飛び出てきた。
「えっと…。それは、グレイシア王国へご招待ってこと?」
「違うよ!グレイシアに移住しないかってこと。身分と生活は保障するし、超優遇するよ~!そうだ!私の側近にならない?うん!それが良い!」
トツゼンナニヲイイダスノ?コノコハ。
「あんた何言ってんの!?無理に決まってるでしょうが!」
「え~。今回の対談でアイラの事が気に入ったのでヘッドハンティングしました~的な事言っときゃヘーキでしょ」
「平気じゃないわよ!私リースタイン家の後継者よ!それに学院はどうするのよ!」
「家の事は誰か養子にすれば良いじゃん。学院は強引に卒業証書作らせれば…」
「平然と無茶苦茶言わないでよ!無理な事は無理!もうこの話終わり!」
「え~」
まったく。心拍と血圧上がりまくりだわ。
「むぅ~。でも私、諦めないからね。必ずアイラをグレイシアに移住させてみせる」
セリアは諦める気はないらしい。一度言い出すと止まらないからな~。この子。
「とにかく別の話するわよ」
「へいへい。じゃあ、前世の頃の思い出話でもする?アイラもまだ全部思い出せてないでしょ?話したら思い出すかもよ?」
「それが良いわね。そうしましょう」
「私コスプレ系の次にアイラがブチキレた時の事が強い思い出なんだよね。私もだいぶ暴れたけど、キレた時のアイラってさ、けっこうヤバかったじゃん?」
「あー、あったわねぇ~。今世含めてもあそこまでキレたのはあの一回きりね。あの時殺意しかなかったわ」
「あの後しばらくアイラに誰も近寄らなかったもんね。あの時はインパクトすごかったからなぁ」
「私としては良い思い出じゃないけどね」
私とセリアはこの後もずっと思い出話で盛り上がり、時間はあっという間に過ぎていった。
「女王陛下、そろそろお時間でございます」
「ああ、分かっている」
扉越しに聞こえた声にセリアが答え、私とセリアは立ち上がる。
「じゃあ、そろそろ行くね」
「うん、会えて嬉しかった。必ずまた会おう」
「うん。移住話無しでまた会おう」
「それは絶対諦めない」
「そこは諦めてよ…」
そしてお互い向かい合い、ギュッと抱擁した。
「じゃあ、バイバイ」
「うん、バイバイ」
私はセリアに背を向け、部屋を後にした。
シャロルと合流し警備をしていた女性兵士に挨拶して、教室へと戻る。
廊下を歩く私はスキップが出そうな程気分が良かった。
対談していた時間はおよそ一時間。でも私には10分程度の感覚だった。
彼女が前世の頃と変わらず元気だった事。なにより再会を果たせた事に私は心から喜びを感じていた。
必ずまた会う。そう約束したからには必ずまた再会を果たす。私は心の中でそう決意していた。




