表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で最強 ~転生と神の力~  作者: 富岡大二郎
第十一章 視察からその先へ
277/395

人狼の話。そして、ケルベロスの過去

 今の時刻は夜。もう深夜に近い。そんで天候は快晴。きれいな星々が夜空を埋め尽くし、大パノラマの幻想的な景色が広がっている。

 星空のおかげで周囲は薄暗くはあるものの真っ暗ではない。最低限人の顔が認識できる程度の明るさはある。

 そんな夜空の下。ケルベロスは一匹でポツンと座り、内陸の方を向いていた。


「ケルベロス。何してるの?」

「ん?アイラ様か。別に何かしているわけではない。ただ空と森を眺めていたのじゃ」

「空と森を?」

「あぁ。ちょっとした考え事じゃ」

「聞かれても良い内容なら、聞かせてくれる?」

「あぁ、良いとも。昔にな、共に過ごした友の事を思い出しておってのう」

「友…」

「とは言っても、奴の方が圧倒的に若かったがな」


 なんか話の展開的に既に死んじゃった仲間の話の気がする。変に聞くんじゃなかった…。


「どうした?何故に黙る?」

「え?だって既に亡くなった仲間の事でしょ?軽々しく聞いちゃって申し訳ないなって思って…」

「まてまて。死んではおらん」

「あ、生きてるの?」


 なーんだ。余分に気を遣っちゃった。


「アイラ様は、『人狼』を知っておるか?」

「うん、知ってるよ。フェンリルがそうでしょ?」

「フェンリルは元々四足歩行の狼で、そこから単に巨大化して二足歩行になっただけの狼じゃ。人狼ではない」

「え?違うんだ?」


 人狼。狼の種類の一つとして数えられていて、限りなく人に近い狼とされている存在。

 通常の狼が四足歩行なのに対し、人狼は人間と同じように二足歩行で移動する。身体能力は人間を上回ると言われていて、普通の狼よりも知能や観察力や認識能力が上回っているとされている。

 世間的に存在は認知されているんだけど、遭遇率は魔物に会うより低い。そのため個体数はかなり少ないとされている。

 過去に人狼と遭遇した、または見かけた事がある者達の証言から推測すると、生息域は人が近寄らない深い森の中か、山奥という感じに伝えられている。

 精霊や神獣みたいに伝説とまでは言われてないけど、実際に姿を見た人は数百年の歴史を掘り返しても分かっているだけで数人程度。

 私は二足歩行で歩く礼儀正しい狼の神獣であるフェンリルが人狼なんだと思ってたんだけど、ケルベロスいわく違うらしい。


「アイラ様は、人狼についてどの程度知っておる?」

「えっとね…」


 私は人狼について知っている限りを話した。


「ふむふむ、なるほどな。実はな、人狼であるわしの友が、グレイシア王国内のここではない他の土地の山奥に住んでいてのう。奴をアイラ様が治めるこっちへ誘おうかと考えておった」

「そうなんだ」


 私の領地は大自然が豊富で、派手に開拓したとしても確実に森は残るし、山奥はほとんどそのままになると思う。まして今や精霊や神獣が居座っている土地。人狼含め野性動物にとってここほど良い条件の場所はないはず。誘うにはもってこいなはずね。


「機会があればアイラ様に紹介しようかとも思っておるが…。今のアイラ様の知識だと、少々知識不足じゃ。わしが人狼について教えてやろう」

「そうなの?聞きたいわ」


 私が知っている人狼に関する知識は、あくまで人間が推測して伝えてきた内容。つまり信憑性がない。でも神獣であり人狼を友に持つケルベロスなら、正確な情報を得られる。これは聞かなきゃ損。


「まず人狼の各能力が従来の狼に比べてまさっておることは間違いない。じゃが野性の世界での扱いで言えば、他の狼達と同じじゃ」

「へぇ~。別に特別扱いはしないのね」

「その理由として、人狼は狼の姿と人狼としての姿の二つを持ち合わせておるのが特徴じゃ。普段は他の狼達と同じ姿同じ話し方で過ごす。じゃから同じ扱いなのじゃ。

 しかし必要だと判断した時には、すぐに人狼の姿を現す。人に近い体付きを見せ、二足歩行で行動するのじゃ」


 う~ん…、イメージがやっぱフェンリルしか浮かばないんだけど…。


「そして人狼のもう一つの能力として、人間と同じように会話をする能力を持つ。人間とごく自然に話す事が可能じゃ」

「人と話せるの!?」

「それと竜族並に長生きする点も、従来の狼と違う所じゃな」


 神獣やカラス丸みたいな存在でなくとも人と会話できる動物がこの世界にはいるんだ…。しかも竜族と同等に長生きってことは、およそ数百年は生きるってことじゃん。世界は広いな~。

 でも確かに人と会話できるとなるとフェンリルは違うか。フェンリル「ガウ」しか言えんし。


「身体能力も知能も優れ、二足歩行をして人間の言葉を話す。そして長寿。これが人狼という存在じゃ。そしてここからが最大の特徴なのじゃが…」


 ん?まだあるの?


「本来、普通の動物達は異性が交尾をして子孫を残すか、動物によっては孤独に子孫を残す。人間も異性の人間同士が結びつくことで子孫を残すじゃろ?それがごく当たり前じゃ」

「う、うん」

「じゃが人狼は違う。人狼は普通の狼から極稀ごくまれに生まれてくるのじゃが、皆オスなのじゃ。じゃから人狼同士が結びついても子孫は残せん」


 へぇ~。人狼も生まれる方法は普通の狼と一緒なんだ。しかもみんなオスなんだ。


「かと言って人狼はメスの狼と交尾はせん。人狼は他の狼と違って非常に変わった子孫の残し方をする。その方法をとれば、驚異的な身体能力と知能を合わせ持った子孫が生まれることを人狼は知っておる。

 その方法とは、人間のメス。つまり人間の女性を狙うのじゃ」

「え!?」


 人狼は人間の女性を好んで、人間の女性に交尾をするってこと?とことん人間に近いわね…。

 確かに人間はこの世界でもかなり知能の優れた生物だし、人狼の身体能力と人間の知能を併せ持った者が生まれれば、チート並の存在が出来上がる。でもこの場合、見た目は人狼に近いの?それとも人間?


「しかし狙うと言っても襲うわけではない。人狼はいくつかの条件を揃えた女性のみ好む。条件に当てはまった女性を見つければ、相手に恐怖を与えないよう様々な手段でゆっくり近づくのじゃ」

「女性に対する条件って?」

「親族がいない独り身、もしくは親族と疎遠になっておる事。幼くはないが成人していない少女である事。容姿端麗である事。森深くか山奥の家に住んでおる事。心や精神に傷や闇を抱えておる事。というのが条件じゃ」


 要は美人だけど孤独な十代後半くらいの少女を狙うってことか。確かに手段によっては付け入りやすいっていうか、人狼が少女に救いの手を差し伸べれば、向こうから近づいてくれる可能性もあるわね。でも条件に容姿端麗である事ってあるけど、条件的にぶっちゃけ難しくない?今ケルベロスから聞いた条件だけでもけっこう出会う確率低い気がするけど。いくら長寿でも…。


「しかし求める条件を定め過ぎて、わしが知っておるだけでもほとんどの人狼が子孫を残せずに寿命を迎えておった。あ奴ら頑として条件を変えんもんじゃから…」


 やっぱりね。


「アイラ様が我ら神獣と契約をする少し前に、人狼である友の様子を見に行ったら、奴の隣には若い人間の女が寄り添っておった。まだ世継ぎはおらんようじゃったが」


 まさかの相手見つけちゃったんだ。その少女の心に上手く付け入ったのかなぁ…。


「その女は奴と関わる一方、まだ自分の家に住んでおるようでのう。誘ったところでこっちに来るかどうか分からんて。それで誘おうかどうか迷っておるのじゃ」


 なるほどね。だからここで考えてたのね。


「しかし人狼と関わっている以上、家など捨ててしまえば良いものを。人狼と結ばれた時点で人間の領域からは脱してしまうというのに」

「え!?」


 今愚痴の中にすごく気になるワードがあったわよ!?


「人間の領域を脱するってどういうこと?」

「人狼に心を許した女性は、日をかけて少しずつ人間ではなくなっていく。身体の構造が徐々に変わっていくのじゃ。例えば、普通の人間が大量の生魚や生肉を食べたらどうなる?」

「お腹壊す。食中毒。嘔吐、下痢」

「そうじゃな。しかし人狼に心許し身体の構造が変わった女性は全くもって平気になる。それどころか人間や他の野生動物を食らうことも可能となっていく」


 それってもう狼化してんじゃん。怖っ。


「とは言っても容姿は人間のままじゃ。傍からは普通の人間にしか見えん。元々の人間としての容姿と人格を残し、身体の中身と寿命だけが大きく変わるのじゃ」

「でも他の動物を食らう事ができるってことは、牙は発達するんじゃないの?」

「その通りじゃ。そこを他の人間に見つかってしまえば怪しまれる。じゃからこそ人間の世界からは縁を切った方が良いのじゃが…」


 う~ん、身体の変化は本人も気付くはずよね?それでも家にいるってことは、何か理由があるのかしら?万が一人狼と関わっている事が周辺に知られたら、色々大変だと思うんだけど…。


「それこそ友と共に女もこっちへ来てくれれば、生活もよほど楽になるとおもうんじゃがのう。神獣はおるし、精霊もおるし、人間界での誤魔化しも可能になるしのう」

「ん?なんでこっちだと誤魔化せるの?」

「アイラ様が誤魔化してくれるじゃろう?」


 そういうことかーい。ここで私頼りなの?私だって限界というものはあるわよ?


「…もし誤魔化さなきゃいけない事態が起きたら、その分だけの料金を請求するわ」

「物欲的じゃのう」

「私だって無償で色々やってあげられるほど心広くはないわよ。苦労して何もお礼なしはさすがに堪えるわよ」

「フフ…。そう言ってアイラ様は無償でやってきたであろう?龍帝国の時然り、人魚の里然り」

「はて、何の事やら…」


 ケルベロスが言ってるのは多分、龍帝国でコアトルを倒しランを救出し、政務を一時的に請け負った事と、ゼーユングファーでガブガを壊滅させて里を守った事だと思う。


「まぁ、こちらに誘う時が来たとしても、それは早くてもアイラ様の領地がある程度形を成し始めた頃じゃろう。その時には向こうも状況が変わっておるやもしれん」


 これで喧嘩して別れてたらズッコケものだけど。


「とにかく明日からはジーナの特訓じゃな。わしも協力は惜しまん。それがアイラ様にとって都合が良いのであればな」

「うん。ありがと、ケルベロス」


(私にとって都合が良ければ、か…)


 精霊や神獣、そして神龍の契約者は私。そしてみんな私を中心に考えてる。だから考える事の第一は、私にとってそれが都合の良い事かどうか。得になるかどうか。

 きっとみんな、その部分にそぐわないものと判断すれば淡々と切り捨てていくんだろう。例えそれが、親しい関係だった者だとしても…。

 今のケルベロスの言葉で、伝説達の普段は見えない残酷な一面が見えた気がした。





 人狼の事はともかく、せっかくこうしてケルベロスと一対一で会話できてるので、私はケルベロスに気になった事を質問してみることにした。


「ケルベロスって、どのくらい前に生まれて、何がきっかけで神獣になったの?」

「うむ…。いつ生まれたのかはもう覚えておらん。自分がどの程度の年月を生きてきたかなど、もう数え切れん」

「あはは…、そっか」


 特にケルベロスは年月とか気にしなさそうだもんね。


「遥か昔。少なくともハルクリーゼやオリジンが生きておった頃にはわしは生きておったし、狼という個体も存在しておった。もしかすると、狼は人間より歴史が長いやもしれん」


 この世界の狼ってそんな前からいるんだ…。やっぱり世界は広い。


「じゃがその頃はまだ人狼はおらんかった。あくまで狼だけじゃった」

「となると、その後に人と接した狼から何かのきっかけで人狼が生まれたのかもね。突然変異とか」

「そうじゃのう。そういうことやもしれんな」


 私の推測に、ケルベロスは納得するように頷いていた。


「わしがまだ若かった頃、ある場所で起きたナワバリ争いをきっかけに、狼同士で大きな争いが起きたのじゃ」

「争い?狼同士で殺し合ったってこと?」

「まぁ、その解釈で間違いない。事の発端となったナワバリ争いがかなり苛烈だったらしくてのう。その争いの被害を受けた別の狼が怒って参戦し、それが広がっていって大きな争いとなったのじゃ。

 その時にまだ被害を受けておらんかった狼達はナワバリ同士で同盟を組み、争わないように対策を練ったがそれがあだとなった。同盟した狼達と、別の地域で同盟を組んでおった狼達とで争いが起きてしまってのう。結局世界規模で争いが起きてしもうた」


 まるで前世の世界であった第一次世界大戦や第二次世界大戦みたい…。そのまんま狼で再現よね…。戦争って嫌よね。


「当時のわしもその戦争に当然巻き込まれた。見知っていた仲間が、敵となって襲い掛かってきたのじゃ」

「……」


 昨日の友は今日の敵…か。悲しいな…。


「わしも襲ってきた奴を返り討ちにし、必死になって戦った。そうしなければ、自分が殺されてしまうからの。それから毎日のように狼同士で殺し合いじゃ。わしも何匹殺したか」


 前世の世界でも今の世界でも、過去に何度も戦争は発生してきた。でもそれは人間が知らない野生の世界でも起きてるのね…。


「しかし何年か経つと、争いの勢いは少しずつ弱くなっていった。やがて狼達は争いを通して子孫を残す重要性を理解し、争いを止めてこの世界全ての狼達で協力していくことを約束し合ったのじゃ」


 人間が今まで起こしてきた戦争は、どっちかが敗北を重ねて降伏か、滅びるまで終わることはなかった。でも狼達は途中で良くないことに気が付いた。その辺は賢明ね。


「しかし当時のわしは納得できなかった。あれだけの争いをしておきながら再び協力し合おうなど、話が上手すぎると思うてな。争いの引き金となった狼に何らかの処罰が必要だと思っておったんじゃ。しかし争いの起点におった狼達は全滅しておってのう。結局責めようがなかった」


 いわゆる戦争首謀者は既に死んでたか。…いや、この場合狼だから戦争首謀狼か。…いや首謀したわけでもないのか。


「一度信用を失った連中と再び馴れ合うのはわしは嫌でな。わしは仲間とは群れず、生涯孤独に生きる事を決意した。そこにわしと同じ理由で同じ行動をとっておった狼がいてのう。それがフェンリルじゃ」


 フェンリルも同じ時代にいたのか。フェンリルって若手な方なんだと勝手に思ってたけど、意外と老練なのね。


「それからフェンリルと共に行動し始め、時が経ち、わしやフェンリルと同年代の狼達が年を取って死んでいき、その反面新しい狼達が生まれていく中、わしとフェンリルだけピンピンしておる事に、わしは疑問に思った。

 一体どうしたものかと思っていた矢先、わしとフェンリルは偶然バハムートと出会い、わしとフェンリルが神獣化しておることを知ったのじゃ。知った時は実感が沸かなかったがな」


 つまり当時のケルベロスもフェンリルも、バハムートに言われるまで神獣化に気付いてなかったってこと?

 セイレーンは神獣化の理由が分からない、フェニックスとカラス丸は神獣の立場を争ってた、でもってケルベロスとフェンリルは言われるまで気付かなかった。

 時と状況が異なるとはいえ、あまりにも共通点がない。一体どうなってんの?


「神獣化の話って共通点が一切見当たらないんだけど、何がどうなってそうなるの?」

「わしも詳しいことは知らん。バハムートなら何か知っておるやもしれん。バハムートは神獣最年長じゃからのう」


 バハムートが神獣の中で最年長なのか。なら色々知ってそう。今度聞いてみよ。


「ところでケルベロスが人の言葉喋れるようになったのと、フェンリルが二足歩行するようになったのも、神獣になってから?」

「うむ。わしは神獣である事を自覚してから、人の言葉を覚えたのじゃ。毎日口を動かして話せるようになった。フェンリルは毎日激しく身体を動かしておったようでのう。いつの間にか図体ずうたいが大きくなって二足歩行しておるようになった」

「なるほど。ケルベロスもフェンリルも努力したのね」


 じゃあフェンリルの礼儀正しさも、神獣になってから学んだのかな。


「ふぁ…」


 私は無意識のうちにあくびしていた。どうやら眠くなってきたらしい。


「失礼。私そろそろ寝るわ。ケルベロスはまだここにいる?」

「うむ。わしはもう少しここに留まる。ゆっくり休むと良い」

「うん。また明日ね」


 私はケルベロスから離れ、洞窟にある寝床へ向かった。


 …セイレーンは神獣になる前に戦争被害にあった。ケルベロスとフェンリルも狼同士の大きな争いに巻き込まれている。フェニックスとカラス丸は争いこそなかったものの、世界中の鳥を巻き込んでいた。


「…もしかして?」


 私はハッとした。これまで話を聞いてきた神獣達はみんな神獣になる前、必ず数国規模または世界規模の何かを経験してる。おそらくこれが共通点だ。


(もしも私の仮説が正しければ、他の神獣達も何か大きな経験もしている…。気になるわ~…)


 眠いことは眠いんだけど、なんだか気になって眠れなくなりそう…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ