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異世界で最強 ~転生と神の力~  作者: 富岡大二郎
第十一章 視察からその先へ
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ノワール視察団 再出発

視点がアイラから外れます。

 王都フェルゼン。ノーバイン城広場。


「おっしゃー!、いっくぜーぃ!」

「お一人で何をそんなに盛り上がってらっしゃるのですか?後々疲れますよ?」

「別に盛り上がってるわけじゃねーわ。眠気打ち消すためなんだよ。察しろ」


 一人テンションを上げているグリセリア。そんな彼女を冷めた様子で見ているアリス。グリセリアはすぐに冷静になってツッコんだ。


「またよろしくお願いしますね。ジオさん」

「は、はい!こちらこそ、よろしくお願いしまぶゅっ!」

「あらあら?大丈夫ですか?ウフフ…」


 笑顔を見せて挨拶したノワールに、ガッチガチの緊張状態で返答したジオ。そして思いっきり舌を噛み、ノワールは心配しつつも笑っていた。


 現在ノーバイン城の城門広場には、グリセリア、アリス、ノワール、ジオの四人とその他兵士がおり、同時にいくつもの馬車が用意されていた。

 グリセリアとノワールを中心にして馬車移動する先は一つ。ノワールの領地である。


 豪雨の影響で体調不良者が発生し、視察が中止され王都に緊急帰還したノワール視察団。グリセリアとノワールは少しでも早く視察を再開して遅れを取り戻すため、視察再開へ向けた準備を猛スピードで行っていた。

 ネロアが様子見をしていた別館での話し合いの翌日、緊急の閣僚会議が行われ、視察再開が可決。その日のうちに準備はほぼ完了した。

 本来ならば同行兵士の選定、馬車や馬の準備等、様々な事を行うために出発まで長い日数がかかる。しかし今回に関しては、準備に必要な事が早い段階で動いていた。

 まず視察の内容に関しては一切の変更はされず、視察開始位置も変わらないため、そもそも話し合う必要はなかった。

 馬車と馬に関しても、視察団が王都へ緊急帰還した際に、管理側が早期の視察再開を予想していたため事前に準備を整わせていた。

 最も準備に時間がかかる同行兵士の選定に関しても、前回同行した兵士達が当日行けなくなった場合を想定して予備指名されていた兵士達が今回同行するかたちとなり、前回同行の兵士と入れ替えになったため選定する手間が省けていた。

 こうしてノワール視察団は非常に早く再編され、帰還してから異例の速さでの出立となった。


 ちなみに同行兵士は総入れ替えではなく、前回同行していた兵士が数人だけ今回も同行する。ジオもその一人である。

 当初は総入れ替えをする方向で話が進んでいたが、ジオを始め一部の兵士が軍の上層部に再びの同行を志願。却下するつもりでいた上層部だったが、偶然その件を知ったノワールが同行を許可。女王に話を通しやすい存在で、アイラという女王を叱れる存在を友人に持つ。そして視察団長であり視察先の領主であるノワールが許可をしたことで軍上層部は何も言えなくなってしまい、結局正式に志願兵士の同行を許可した。

 なお、ジオ以外に同行を志願した兵士達というのが、前回の視察でノワールのファンになった兵士達である。ただしノワールはそれを知らない。


 そして再編されたノワール視察団において前回と最も異なる点が、ある人物が同行するということである。

 その人物は、会話をしているノワールとジオの方へ歩いて行く。


「おい、小僧!何をヘラヘラと話しているんだ!貴様はいつから伯爵になるお方と話せるほど偉くなったんだ!ヒヨッコが!さっさと馬車に乗れ!」

「ヒィ!すすすすすいません!」


 グレイシア王国軍のトップであり、今回の視察団の同行者でもある将軍ドイルは、ジオに向かって思いっきり怒鳴り散らした。ジオは驚きのリアクションと同時に、ドイルへ頭を下げた。


「あの、ドイル将軍。私は別に構いませんのでそう怒らないであげてください。ジオさんとは仕事以外でも交流がありまして、彼のお母様にもお会いしたことがあるくらいです。立場や役職以前の友人としての関係ですので、対等に話しているのです。

 彼に声をかけて引き止めてしまったのは私ですし、話し込んでしまった原因を作ったのも私ですから、責任は私にあります。ですのでジオさんはなにも悪くありませんから」


 ノワールは苦笑いを浮かべながらドイルにジオとの関係を説明し、彼をフォローした。


「左様…ですか…。うむ…、でしたら今回は不問とします。しかしながらそろそろ出発のお時間です。おい、お前も自分の乗る馬車へ行け」

「ははっ!…それではノワールさん、自分はこれで」

「ええ」


 ジオはノワールに向かって敬礼した後会釈し、自分が乗る馬車へと去って行った。


「ノワール殿。彼とは本当にご友人で?」

「ええ。頻繁に共にいるわけではありませんが、お仕事の時以外でのお付き合いはあります。この国に来て、初めて友人と呼べる仲になったのが彼ですしね」

「そうでしたか…。そうとはつゆ知らず、突然怒鳴り込んでしまい申し訳ありませんでした」


 ドイルはノワールへ謝罪の会釈をし、それに対してノワールは首を横に振った。


「お気になさらないでください。ドイル閣下がなされた行動も間違いではありませんので、謝罪する必要はありません」

「はは…。心遣い、感謝します。では」


 ドイルはノワールから離れ、自分が乗る馬車へと去って行った。


 ノワールは現時点ではまだ正式なグレイシア貴族入りはしていない。しかし彼女が近いうちに伯爵になる事は、閣僚達を始め他の貴族、城で働く役人や兵士、使用人達も認識している。そのため既に誰もがノワールを貴族扱いしているがために、ドイルは身分的な意味でジオを怒鳴ったのだった。

 ドイルは現時点でまだノワールに「殿」をつけて呼んでいるが、大半の者が「卿」「様」「閣下」をつけて呼んでいる。


 そんなノワールを中心としたやり取りを、グリセリアとアリスが馬車の陰から覗き見ていた。


「いやぁ~、ドイルがいると違うねぇ~。兵士達の気が引き締まって助かるよ」

「本来ならば陛下がいる時点で引き締まっていないとマズイのですが」

「うっせー。私だってやろうと思えば引き締めさせる事くらいできるわ」

「陛下の場合、常に圧力が効き過ぎているのですが」

「しょーがないじゃん。制御できないんだから」

「そこはできるようにしてください…」


 アリスは呆れた表情でため息を付いた。


「それにしてもノワール殿はジオ殿にもドイル閣下にも態度を変えず笑顔で応対し続けていてさすがですね。‘剛陽の聖女’と言われ始めているだけあります」

「剛陽の聖女?何それ?」

「陛下ご存知ないのですか?最近ノワール殿に対して呼ばれるようになった通り名ですよ。ほら、陛下が前回の視察で魔物と戦闘した後、同行していた兵士達に怒ったじゃないですか。あの後ノワール殿が兵士達に優しく声をかけて士気を戻したんですよ。それ以降兵士達の間でノワール殿に通り名がついて広まっているらしいんです」

「ふーん。よくもまあ、そんなどーでも良いような事思い付くねぇ」

「いや、これが意外と効果を発揮してるみたいですよ。開拓が始まればノワール殿の通り名を聞いた方々が期待を込めて移住してくるかもしれませんし、現時点で一部の兵士がノワール殿が治める領地への移動を考えているとかいないとか」

「ふーん、そーいうもんかねぇ~。ノワールは解ってんの?それ」

「さぁ?ノワール殿本人は特に何も言っていませんし、そういった事を気にするとも思えませんね」


 馬車の陰に潜んだまま雑談を交わす女王と護衛。そんな二人にリリアとオルシズが近寄る。


「陛下?アリスさん?二人して何してるんですか?」

「お二方、そろそろ出発のお時間ですが?」

「解ってるよ。ノワールの話をしてたの」


 リリアとオルシズの疑問にグリセリアが答え、アリスも頷く。


「皆さん、そんな所に集まってどうされました?他の皆さんもう馬車に乗り込まれましたよ」


 四人の姿に気付いたノワールも合流してきた。


「いいやー、なんでもないよー。それじゃ行こっか。オルシズ、リリア。留守よろしく」

「お任せください」

「行ってらっしゃい!気を付けて!」


 グリセリア、ノワール、アリス、ジオ、前回から引き続き同行する兵士達、新規に同行する兵士達、そしてドイルを乗せた馬車の列は、オルシズやリリア、城に残る者達に再び見送られるかたちで、ノワールの領地へと出発したのだった





*************************************





「あー…、将軍閣下怖かった~…」


 移動を開始した馬車の中の一台。そこに乗っているジオは、ノワールとの会話中に突然ドイルが怒鳴り込んで来た事で、かなり精神を削っていた。


「ただえさえ俺ドイル将軍閣下の事は怖くて苦手なのに、これじゃあノワールさんと会話できないじゃないか…」

「いや、俺らからしてみればノワール伯爵閣下に声かけてもらって普通に会話してるって時点でスゲー事なんだぞ?それを会話したがるとかおかしいって」


 ジオの愚痴に対してツッコミを入れたのは同乗している若手兵士。共に同乗している兵士達も皆頷いていた。


「なぁ、ジオ。お前一体どうやってノワール伯爵閣下と知り合ったんだ?まだ立場的に低い俺達なのに、貴族の、しかも当主と仲良くできてるとか普通ありえないぞ?」


 ジオに質問しているこの兵士は、普段はジオがいる職場とは別の職場で勤務し、かつ前回の視察には同行していない。そのためノワールとジオの関係を知らない。

 馬車に乗り込む直前にノワールとジオが会話をしているところを偶然目撃した彼は、そのまま一定時間フリーズするほど驚いていた。


「前に書類を城まで届けるよう言われて城に入った時に、城の中で迷っちゃって…。戸惑う俺にノワールさんが優しく声をかけてくれたんだ。それが初めての出会いだった。

 事情を説明したら目的の場所まで案内してくれて、その後も色々気にかけてくれてさ。それからは仕事以外の時とかも偶然会ったりして、仲良くさせてもらってるんだ。初めて会った日の別れ際に、近々貴族の当主になる人だと知った時は大汗ものだったよ…」

「そうなのか…。にしてもお前、さん付けで呼んでるよな?相手が貴族だって解ってるのに」

「俺もマズいと思って訂正したんだけど、そしたらノワールさんが『今までの呼び方や接し方で構いませんよ』って言ってくれた」

「そっか~。けっこう謙虚な方なのかな…。そういえばアイラ侯爵閣下は誰とも親しみやすいらしいって聞いた事あったけど、実際どうなのかな?」

「あぁ、俺、アイラ侯爵閣下にも会ったことあるぞ?」

<<<はぁ?>>>


 アイラとも会っているというジオの発言に、馬車内の兵士達全員が「何言ってんだ?お前」的な表情になった。


「いつだったか、夜勤を終えて家に帰ったら、家の総菜屋に何人か人がいて、その中にノワールさんがいたんだよ。お忍びで街を巡ってるとかで。それで挨拶したらノワールさんが紹介してきた女性がいて、その方がアイラ侯爵閣下だったんだよ。他の人達もアイラ閣下の専属護衛の人と専属のメイドさんと、龍帝国から来た竜族の人だった。あの時は一気に緊張が出て倒れるかと思ったよ…」

「うわぁ…、そりゃ緊張するわな…」


 ジオの話に、兵士達は皆共感した。


「アイラ閣下って、どんな方なんだ?」

「何と言うか…、美人なのは確かなんだけど、良い意味で言い表せない強烈な雰囲気を持ってるっていうか…。人に対してあんな神々しさを感じたのは初めてだったよ。ウチのおふくろも、アイラ閣下を見た瞬間に考えてた事が何もかも吹っ飛んだって言ってた。

 俺は緊張でほとんど会話できなかったんだけど、おふくろは謙虚で優しさのある接しやすい方だったって」

「そんなにも異質なのか?アイラ閣下は」

「あの感覚を言葉で表現するのは無理だな。良い意味で」

「そうか…。あの威圧的で知られる女王陛下が気に入ってらっしゃる方…。無理かもしれないけど一度は姿を見てみたいな…」


 その後話題はシャロルの事へ移る。


「アイラ閣下の侍女って、確か最近アリスさんと模擬戦して勝った人だよな?」

「そして城で働くメイド達をメイドの実力で黙らせた人だろ?」

「俺、家の前で会ってるけど、ごく普通のおしとやかそうな美人さんだったけどな」


 兵士達の話に、ジオが情報を付け加える。


「でもアリスさんを倒すってすごくないか?最近は盛んに模擬戦繰り返しては連勝重ねてノリノリだったんだぞ?実力も軍の中じゃ順位的に上位に入るくらいだったのに、その勢いを止めたんだからな」

「聞いた話だとアリスさんが手も足も出なかったらしいぞ?」

「そもそも普通のメイドは戦闘しないよな?なんで戦闘能力持ち合わせてるんだ?」

「何かの理由で戦闘に関わった時があったとか?あとはメイドになる前に別に仕事してたとか?どうにせよ戦闘できてメイドもできるってスゲーよ」

「ホント完璧最強メイドだな」

「ホントそれ」


 彼らは馬車が止まる時まで、ずっとアイラやその周辺にいる人物達について話し込んでいた。






*************************************





 ジオが乗っている馬車とは違う馬車。この馬車には、ノワールのファンになっている兵士達が乗っていた。


「いや~、良かった。上層部が同行を許可してくれて」

「ノワール様が同行許可をおろすのを後押ししてくれたんだよな?いやもう感謝しきれないわ」

「ノワール様がどういう理由で私達の同行を許可してくれたのかは分からないけど、前回の失態を挽回する時を与えてくれたのは確かよね」

「そうだな…。今回こそは懸命に働いて、何があっても腰が引かないようにしないと」

「だからと言ってまた魔物と遭遇するのは嫌だけど」

<<<それは確かに>>>


 この後、ジオが乗っている馬車と同じように、この馬車に乗る兵士達はずっとノワールについて話し込んでいた。





*************************************





 そして別の馬車。ドイルが乗車する馬車の中。


「……」

<<<……>>>

「……」

<<<……>>>


 ドイルは特に何か言うわけでもなく、黙ったままただ座っていた。しかしその間もドイルから放たれる迫力や威圧感を感じ取っていた同乗している兵士達は、何か言われることが怖くて一言も言葉を発せずにいた。


「……」

<<<……>>>

「……」

<<<……>>>


 結局彼らは一切言葉を発さず、緊迫した空気だけが馬車の中に流れていた。

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