スキュラ帰宅。そして、報告開始
ジーナはまだ目覚めそうにないし、スキュラさんはアテーナと会話中で、特にやる事もなかった私は何となく川へ行った。すると川底で爺やが笑顔のまま仰向けの状態で横たわってた。塩を落とすために入ってるんだろうけど、なんでそんな体勢…。超ビックリしたし怖かった…。
それから時間が経って夕方になる少し前、アテーナからスキュラさんがゼーユングファーへ帰ると声がかかった。
砂浜に向かうと、アルテだけ先着していた。聞くとどうやら、アテーナと親友との事でスキュラさんが興味を示していたらしい。挨拶してたんだそうな。
「スキュラさん、今回は楽しかったです。また行ける機会が出来れば必ずお伺いしますね」
「うん、いつでもおいで。人魚族総出で歓迎するわ」
私の言葉に応えるスキュラさんも、私の隣にいるアテーナも、とても晴れ晴れとした顔をしていた。きっと話したいと思ってた事たくさん話せたのね。
「じゃあ、行くわね。時々念話もさせてもらうわ。アテーナ、あなたにもね」
「「はい」」
私とアテーナは同時に返事をした。
「じゃあまたね。アイラ様、アテーナ」
スキュラさんは私とアテーナにハグをして、笑顔で海の中へと去って行った。ちょっと寂しい気持ちもあるけど仕方ない。念話も出来るわけだし、定期的に会話出来るかな。スキュラさんの事だから大半アテーナと話してそうだけど。
「さ、みんな戻りましょう?」
私は海に背を向け、みんなに声をかけて洞窟へと戻った。
ゼーユングファーにいた時の感想を複数人から聞かれたけど、今言ってしまうとジーナが置いてけぼりになっちゃうので、「ジーナが起きてから」と言って語らなかった。
さらに時間が経って夕食が終わった頃、野外炊事場所でみんなと会話していると、洞窟の方からジーナがフラフラと歩いてきた。いつの間にか起きてたらしい。私は慌ててジーナへ駆け寄った。
「ジーナ!大丈夫!?って、大丈夫なわけないか。とにかくこっち座って!」
「アイラ様…?…あぁ、もう帰って来られたのですね。お帰りなさい。もう夜ですか…」
ジーナは私に僅かに微笑む。どうやら意識は完全に覚醒してるみたい。
ジーナを木の椅子に座らせた後、現在までの事をざっと説明した。
「そうですか。スキュラ様は既に帰られてしまったのですね…」
「うん、陽が暮れるまでには里に帰らないといけないって言ってたから」
「なるほど…。そうですか。ちゃんと会えなかったな…」
スキュラさんとちゃんと対面できなかった事を悔やむジーナ。私はそんな彼女を見て、若干の違和感を感じていた。なんだかやたら落ち着いているって言うか、変に感情が控えめ。疲労のせい?本来の明るい彼女らしさが見えない。
「ジーナ、本当に大丈夫?なんだか変に落ち着いてない?」
「やっぱりそう見えますか…?実は特訓の最中、シャロルさんからあまり感情を出すなと言われまして、その後ずっとそうしていたら…」
「そしたら?」
「途中から自分の感情が分からなくなりまして、何故か感情が出せなくなったんです」
「…はい?」
どういうこと?何がどうなったって?
う~んと、シャロルの教えは暗殺者として理解が出来る。でもそれと感情が出せなくなる原因が結びつかない。特訓以外に何かあった?
「そういえば、武器変えの際は一時的に特訓を二十秒程止めていましたが、その度にジーナさんの態度がおかしくなり始めていたような気がしていました」
シャロルが今更ジーナの異変を思い出したようで、私に説明し出した。でもそれもっと早く説明するべき事よね?ていうか、異変を察知した段階で特訓やめろよ。
「それを感じ始めた段階でどうして特訓を止めなかったのよ。だからジーナがこんな目にあったんでしょうが」
「疲労のせいだと勝手に思い込んでおりました。申し訳ございません」
「シャロル、謝る相手が違うわ。私に謝ったところで今回の事は治まらない。みんなもそうだからね?今回はいくら強くさせるためとはいえ、特殊性を持っていない人間相手にあまりにやり過ぎてる。ジーナの特訓に協力的だった者はあとでジーナに謝罪しなさい。良いわね?」
「あの…、アイラ様。これは不甲斐なかった私にも問題はあります。もっと鍛え方を解っていれば、今回の特訓も耐え抜く事が出来たはずです。だから…」
「そんな事ない…、と言いたいところだけど、アンプルデス山脈で実戦しようとか考えたあなたもあなただからね?今回は短時間の意識不明で済んだだけ良かったと思いなさい」
「はい…」
みんなが私の行動にジーナが合わせられるようにと思って短期間で強化させようとしたその気持ちは理解できるし、同じように短期間で強くなろうとしたジーナの強い想いも評価できる。
でもその結果、あまりにもやり過ぎてしまった。結局ジーナは意識不明となって極度の疲労もため込んで、何故か感情まで出せなくなってしまった。
ここまでの事になってしまうと私も怒りざるえない。みんなには限度というものを私が責任持って教えないと…。ていうか、これでジーナの感情がもとに戻らなかったら、私はフィクスさんとリアンヌさんにどんな顔を向けたら…。
とにかくジーナは無事目覚めたわけで、感情の問題に関しては時間が経ってみないと分からないので、話を変えて昨日海の中に潜ってからの事を報告することにした。
全部説明すると大変なので、一部に割愛して、地上に帰るまでを浅く話した。
「お嬢様…、龍帝国に続いて人魚の里でも専属の使用人をつけたのですか…?お嬢様はあと何名ご自分のメイドを増やすおつもりですか?
人魚の里へは私が同行出来る場所ではありませんので、そのカリーナさんという方にお任せ致しますが、あまりやたらにメイドを増やされますと私の役目がなくなります」
「私だって増やそうと思って増やしたわけじゃないわよ。龍帝国の時は事前に専属の使用人が決められてただけだし、今回だってカリーナを可愛がってたらスキュラさんが任命しちゃったのよ」
「可愛がるからではありませんか…」
「仕方ないじゃない。懸命にお仕事頑張る美人ちゃんだったんだもの。気になっちゃうわよ」
「理由になっていません」
私の専属メイドが増える事に納得がいかない様子のシャロル。私はそんな彼女に今後の考えを伝えることにした。
「あのねシャロル。私が置かれてる立場上、今後は専属の使用人や専属のなんちゃらが増えるのはほぼ確定だと私は思ってるの。だから人数次第によっては、シャロルをその専属達の統括として置こうかと…」
「そのような事まで考えてらっしゃったのですか!?一体いつからそのような事を…!いくら私でもそこまでの地位にはいささか抵抗があります!」
「良いじゃない。私だって自分の立場を考えるとお腹痛いのよ。一緒に味わってよ。旅は道連れ世は情けって言うじゃない」
「ただ私欲で道連れにしたいだけではありませんか!それにそのお言葉の意味合っているのですか!?お嬢様はもしそれで私が動けなくなってしまったらどうなさるおつもりですか!?」
「もしシャロルが動けなくなったら私が持てる力全てを使って治してあげるわ。精神面でも治るように神力をさらに浸透させまくって~…」
「もうハチャメチャではありませんか…」
シャロルは頭を抱え始めた。そんなにおかしい事言ってる?私。
「シャロルさん。アイラ様のお考えは今後を考えると十分可能性がございます。どのような状態に落ち着くかは分かりませんが、覚悟はお決めになられた方が良いでしょうな」
「…。…解りました。少し考えます…」
爺やが会話に介入して私の見方をしてくれた。おかげでシャロルは少しだけ受け入れてくれた。
「もうシャロル~、機嫌直して~。これあげるから。人魚達から貰ったお土産」
私はシャロルの機嫌直しとして、ゼーユングファーで貰ったムルムル貝を一枚異空間収納から取り出して渡した。大きさは中くらいのやつ。
「これは…、きれいな貝殻ですね~」
シャロルは私から受け取った貝殻をまじまじと見ている。
「あ、それってもしかしてムルムル貝の貝殻ですか?」
「そうよ。アテーナよく分かったわね?詳しいの?」
「生前のまだ幼かった頃にスキュラさんから見せてもらった事がありました。龍帝国を出てからその希少価値に驚きましたけど。今も図鑑で調べると価値は変わってないみたいですね」
アテーナは知ってたのね。…てか、ムルムル貝って二千年前から存在してるのね…。
「あの、私は貝に関しては全くの無知で存じ上げないのですが…、この貝殻はどの程度の価値がある物なのですか?」
シャロルは貝に関しては何も知らないらしくて、頭にクエスチョンマークを浮かべてた。
私が説明しようとしたら、アテーナが先に話し出した。
「シャロルさん。それはムルムル貝という貝の殻です。地上でムルムル貝が水揚げされる事は奇跡に等しいと言われていまして、貝本体および真珠、貝殻の破片ですら水揚げされる確率はゼロに等しいんです。
そのため物凄く希少価値が高く、今シャロルさんが持ってるのは中くらいの大きさですが、大きな貝だと殻一枚だけで一つの大国の年間国家予算とほぼ同額の値が付くと言われています」
私はアテーナの説明をうんうんと頷きながら聞いてたんだけど、シャロルは貝殻を持ったままポカンとしてた。
「シャロルに渡した大きさだと、大富豪の年間収入以上はあるかしら?」
「そうですね。そのくらいはするかと」
私の例えにアテーナが頷くと、シャロルは貝殻を見ながら震え始めた。
「大富豪の年間収入…。貴族の収入と変わらない金額…」
シャロルはわなわなし始め、焦り出した。
「おおおお嬢様!と、とてもありがたいのですが!こ、こ、このような高価過ぎる物、おおお恐れ多くて受け取れません…!」
シャロルは貝殻を手のひらに乗せて、震えながら私に返却してきた。
「え~?だめ?じゃあ、こっちは?」
「おお~!巨大!これぞまさに年間国家予算並みの物ですよね!?私も初めて見ました!」
「これが生前の頃に図鑑で見てたムルムル貝の大物…!いつか欲しいと思ってた奇跡の貝殻…!」
「宝石みた~い!キレ~!」
「お受け取り出来ません!より持てません!」
大きいサイズの貝殻を取り出すと、アテーナのテンションが上がり始め、アルテとセイレーンも瞳をキラキラさせながら寄って来た。シャロルは全力で受け取り拒否。
他の面々は傍観してるけど、シルフちゃんだけネロアさんに寄りかかってウトウトしてる。超カワイイ~。
「これも嫌?じゃあ真珠は?」
「真珠まであるのですか!?」
「「「おお~!」」」
私が真珠を取り出すと、シャロルは驚いて、アテーナとアルテとセイレーンの三人はさらにテンションを上げた。
「これでも嫌~?なら小ぶりな貝殻か真珠を装飾品にしてあげるわよ。それで良いでしょ?せっかくのお土産なんだから受け取ってよ」
「嫌と言っているわけではございませんが…、せめてもう少し安価な物で…」
「特に高価なわけではない貝殻のビキニならあるけど?」
「何故にビキニなのですか!?」
その後もシャロルは私のお土産に散々抵抗し続け、最終的に小さな貝殻か真珠をピアスかペンダントにする事で決着が着いた。
私の傍でテンション上げてムルムル貝を見ていたアテーナ、アルテ、セイレーンの三人にも、貝殻と真珠をサイズを選ばせた上でプレゼントした。三人は大喜びしてくれた。
見ているだけで近寄っては来なかったキリカにも、日頃の感謝として貝殻をあげた。同じくジーナにも、これからよろしくというかたちでプレゼントしといた。
他の精霊達や神獣達は、「貰っても使う時がない」と言われて拒否られた。どうやら実用性のある物じゃないと受け取らないらしい。
唯一ベヒモスだけ貰おうとしてたけど、そこを何故かオリジン様とアグナさんとネロアさんにぶっ飛ばされてた。…なんでぶっ飛ばされてるんだろう?貰うも貰わないも個々の自由じゃん。




