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異世界で最強 ~転生と神の力~  作者: 富岡大二郎
第十章 視察の道は逸れて
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アイラが帰る前と、去って行った後

視点がアイラから外れます。

 地上。小洞窟。アイラ視察隊の滞在場所であるこの場所。

 現在、洞窟の中にある即席ベッドの上には、ジーナが意識のない状態で横たわっており、傍でスキュラがジーナを見守っていた。近くではシャロルも待機している。


 それはアイラがゼーユングファーを出発する少し前の事。近くの砂浜では、ジーナのノンストップ猛烈特訓が続けられていた。

 ジーナは休息無しで戦い続けた結果限界を遥かに超え、無の境地で動き続けていた。それはまさに常人から超人領域に入り始めていた証拠であり、精霊達や神獣達もこれには高評価を示していた。

 しかしその状態は、ベヒモスによって突然止められた。


 ベヒモスは時々地中に潜っている時がある。それは元々普通のモグラだったがゆえの「潜りたい」という衝動によるものだった。今回の場合は、アイラが海に潜る、というワードがベヒモスのモグラ本能を呼び覚まし、勝手に地中へ潜っていた。

 そしてこれが災いとなった。ベヒモスはうっかり模擬戦特訓続行中だったジーナの足元に出てきてしまい、それに驚き一瞬動きを止めたジーナが、その時相手をしていたエキドナの攻撃をもろに食らってしまった。

 エキドナは自身の下半身を振って相手を飛ばす打撃攻撃を繰り出しており、その時にベヒモスが地面から出現。エキドナも慌てて攻撃を中止しようとしたが既に勢い止めきれず。ジーナは吹っ飛び、そのまま海へ落ちてしまった。

 既に身体も精神も限界を突破している中でエキドナの攻撃を食らったジーナのダメージは大きく、さらに疲労によって身体が動かなくなってしまったために、ジーナは溺れることなく海中へ沈没。アテーナとアルテミスが大慌てで引き上げた。

 精霊達がすぐに治癒魔法をかけたものの、状態が状態なだけにジーナの意識は戻らなかった。


 精霊達の診断でジーナの命に別状はないことは分かったものの、意識が戻らない以上特訓は終了。ジーナはベッドへ運ばれ、オリジンはベヒモスをフルボッコにした上で説教。他の者達は各自自由行動となった。


「お疲れ様です。ジーナさんの意識はまだ戻りませんか?」

「まだね。私も失敗したわ。この子が防ぐか避けると思って勢いよく攻撃しちゃったから…。まさかあのクソモグラが地面から出てくるだなんて思わなかったわよ」


 ジーナの様子を確かめに来たキリカに、反省しつつも愚痴るエキドナ。なお『クソモグラ』とはベヒモスのこと。


「まぁ、その…、とんだ事態ですね…」

「一番の被害者はこの子ね。彼女が起きたら、ベヒモスの事を気が済むまで殴って良いって言っておくつもりよ」

「「あはは…」」


 苦笑いするキリカに、ベヒモスをボコボコにする許可を出す宣言をするエキドナ。

 キリカ、そして近くで話を黙って聞いていたシャロルも、ただただ苦笑いするしか反応を思い付けなかった。





*************************************





 洞窟傍の砂浜。さっきまでジーナが特訓していたこの場所では、ザッハーク、オルトロス、エスモス、シルフの三匹と一人が、砂浜に波が来るギリギリの場所で遊んでいた。


「あはははは!あはははは!」

「ワンワン!ワンワン!」


 シルフとオルトロスは楽しそうにはしゃぎながら砂浜に迫る波を避けて遊んでいた。ザッハークも傍で楽しそうにバウンドしており、エスモスは波が直撃する場所でボーっとしていた。

 何度かエスモスに波がかかりビショビショになるが、エスモス自身は時々数歩動く程度。濡れていることを全く気にしていなかった。


 そんな一人と三匹の近く。砂浜の陸側にいるのがアテーナとアルテミス。

 彼女ら二人はジーナを救助した影響で服がずぶ濡れになり、川で塩を落とした後、砂浜近くに立っている木に服を干して、魔法で温風を当てて乾かしていた。


「いや~、何だか疲れた…。ジーナが水面に浮上してこなかった時は焦ったわ~」

「ベヒモスもホントに余計な行動してくれたものよねぇ。まったく…」


 二人は揃ってヤレヤレとため息をつく。


「アイラ様、もうすぐ帰ってくるのよね?人魚達と仲良くできたかな…」

「アイラ様のことだもの。間違いなく親しんでるわよ。それより…」


 アルテミスは真剣な表情をアテーナに向ける。


「アテーナは良いの?スキュラ様とは生前で関係があったんでしょ?きっとアイラ様と一緒に上がって来るはずだし、ちゃんとお話したら?」

「そうね…。向こうが大丈夫であればそうしようかな…」


 アルテミスはアテーナよりスキュラとの関係を天神界で聞いていたため、二人の関係はアイラが神獣と契約した時点でとっくに知っていた。ゆえにアルテミスは疎遠になっている二人を心配していた。

 アルテミスの勧めに濁った応答をするアテーナだが、彼女自身にもスキュラと久々に会話したい気持ちはあった。

 アテーナは天神界にいた時、ハルクリーゼと同じように時々スキュラの様子を見ていた。アイラの関係で地上に降りる機会に恵まれたアテーナだったが、メインがアイラであるがために、遠目で見る以上の接触は自主的に避けていた。


「きっとスキュラ様だって話したがってるはずよ。アテーナから近寄って行けば、スキュラ様だって嬉しいでしょうし」

「んー…。でも中心はアイラ様だし…、スキュラさん何かと忙しそうだし…、生前の頃もよく仕事が忙しいって愚痴ってたから…。あんまり邪魔にはなりたくないな…」

「そんなこと思わないって!絶対喜ぶよ!そんな控え目になっちゃダメだって!」


 アイラとスキュラの事を気遣い、接触をあくまでも回避しようとするアテーナ。そんなアテーナにアルテミスは会うよう強く説得する。

 アテーナからスキュラとの関係を聞いた時、アルテミスは密かに自分へ責任を感じていた。というのも、二人が人生を終えて天神界へ昇った理由は、相対して相打ちになったため。

 この事によってアルテミスは、自分がアテーナとスキュラを強制的に別れさせてしまったと感じ、いずれ何らかのかたちで二人を再会させると心に誓っていた。

 そして訪れた天神界から地上への降下。アルテミスにとってアテーナとスキュラを面と向かって再会させる事は、この世界にいる間に必ず成し遂げなければならない必須事項だった。ゆえに彼女はスキュラが地上へ上がって来る現状こそが最大のチャンスと考え、必死になっていた。


「ていうかさ、なんでアルテがそんなに再会を望んでるの?」

「え!?そ、そんなに会わせたがってるわけじゃないのよ?…その~、ほら、アテーナと私は親友じゃない?だから他人事にはできないな~って思って…」

「…?そ、そう…?ありがと…」


 やたら積極的なことをアテーナに疑問視されたアルテミスは、慌てて表向きの理由を作った。

 そんなアルテミスに、アテーナは礼を言いつつも首を傾げるのであった。





*************************************





 海底。人魚の里ゼーユングファー。


「行っちゃったな…」

「そうね…」

「もっと里を上げて歓迎したかったが…」


 アイラが去って行った直後である里の端では、アイラを見送った人魚達が未だその場に留まり続けていた。


「いつまでここに留まっているつもりだ?そろそろもとの仕事に戻れ。ほらほら」


 ミンスマンの声で人魚達が渋々通常の状態に戻って行き、ミンスマンやカリーナ達城使いの面々も城へ動き出した。


「あの、ミンスマン様」

「ん?なんだ?」


 カリーナはミンスマンに声をかけ、真剣な表情を向けた。


「今後の事なのですが、私に対して指摘点がありましたら、一切遠慮も容赦もなくおっしゃってください。どんな厳しい言葉を浴びせても構いません。なんでしたら暴言でも構いません」

「な、なんだ?どうしたんだ急に…?」


 突然ドМ発言ともとれる発言をし始めたカリーナに、ミンスマンは困惑する。


「私、リヴァイアサン様からご指導賜って、そしてアイラ様とお話して気が付いたんです。私は今まで、自分は失敗を恐れているんだと思っていました。失敗しちゃいけないって、ずっとそればかり思っていました。

 でも違ったんです。私は失敗する事が怖いんじゃなくて、失敗して怒られる事が怖いんだって気付いたんです。その事に気付いた時ハッとしたんです。私は怒られる事を恐れ、怒られた事だけを気にするあまり、失敗点の克服が出来ていなかったんだって」

「……」


 カリーナの話を、ミンスマンは黙ったまま聞き続ける。


「アイラ様とお話していた際に、アイラ様に言われた言葉があるんです。


【良い?カリーナ。どんなに優れた逸材でも、最初から完璧だった者はいないの。ううん、完璧な生物なんてこの世にはいない。どんな天才でも必ず弱点は持っているものなの。

 あなたのお母さんもきっとそう。上手く行かなくて悔しくて辛い経験を頑張って乗り越えて、自分の弱点や良くないところを自分で分析して克服していって、そうやって周囲から大きな評価を得てきたんだと思う

 だからカリーナ。失敗することも怒られることも恐れないで。そういうところから何か重要なものを得て成長する場合だってあるんだから。そうやってみんないろんな事を経験して、自分の能力を高めていくのよ。あ、だからって初心を忘れちゃダメだからね?】


 …て。だから私、もう怖がりません。失敗する事はいけないことですけど、自分のダメなところを自覚して克服していくためにも、そういう時があれば厳しくお願いします」


 話を聞いていたミンスマンの目には、カリーナがいつもと違うように見えていた。いつものちょっと弱気な彼女ではなく、何か強い決意をした強き女性のように見えたのだ。

 そんな闘志の炎を燃やすかのようなカリーナに、ミンスマンは微笑んで両腕を組む。


「そんなに厳しくして良いのなら覚悟しておけよ?他の者達にも伝えておくぞ?容赦は一切しないからな?」

「はい!よろしくお願いします!あ、ただゲルダみたいに母の事馬鹿にしたら許しませんけどね」

「さすがにそれはせん…。というか母親の事まで言われたのか?何て言われたんだ?」

「あんたの母親ブスだったって。よく考えればゲルダが母の顔知ってるはずないのに、何を言ってるんでしょうね?」

「子供か」


 カリーナとゲルダの口論の内容は、直後にガブガが襲来していた事とアイラの歓迎会の影響で聞かずじまいとなっていた。

 今更になってその一部を聞いたミンスマンは、予想を遥かに下回る内容に思わずツッコみを入れたのだった。

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