お土産と、ムルムル貝
視点がアイラへ戻ります。
「…、…さま…」
「ん…」
「…さま」
何か声が聞こえる。これは…、私を呼んでいる?
「あ…さま…」
やっぱり誰かに呼ばれてる。そう感じて目を開けようとしたその時。
「アイラ様ー!お時間でございますよー!!」
「うわあぁぁ!!ビックリしたぁ!」
メッチャデカイ声で叫ばれた私は、驚きで飛び起きた。
私を呼んでいた声の正体、それはカリーナだった。どうも寝てる私の隣で、私を起こそうと声をかけていたみたい。
それは解るけどガチでビックリしたわ…。今までの前世の頃含めた人生でトップ3に入るくらいビックリした。
「カリーナ…。確かに起こせとは言ったけどそんな起こし方…」
「間違ってました…?いまいち起こし方が分からなくて…」
スキュラさんは昨日と同じ場所で呆れ気味にカリーナを見てた。一方カリーナは起こし方が分からなかったらしい。人魚族は眠らないらしいし、分からないのも納得できるけどね。
「起こす時は普通の声量で良いのよ。それでも起きなかったら、身体を軽く揺さぶって何度か呼べば起きるから」
「そ、そうなのですか…。すいませんでした…」
「良いのよ。分からなかったんだから仕方ないわ。はぁ…」
私は胸に手を当てて軽く一呼吸付いた。やっとビックリ状態から落ち着いた…。
「おはようございます。皆様」
「失礼致します」
すっかり目が覚めて、ここに来た時と同じマイクロビキニを早着替えで身に着けた直後、爺やとミンスマンさんがやって来た。
「アイラ様、おはようございます。海底でお眠りになられた感覚はいかがでしたかな?」
「感覚的には地上とあまり変わらなかったけど、風の音や葉が揺れる音もない静かさだったから不思議に感じたわ。でもそれがまた良くも感じた。私はけっこう気に入ってるわ」
爺やの質問に私は快適だったことを伝える。重力が働いてくれているとはいえ地上とは異なる世界。やっぱり全然違うけど、快適だったのは確か。
「今日でもう地上にお戻りになられるのですよね…。ちょっと寂しいです…」
「あら、昨日初対面だったのにそんなこと言ってくれるの?嬉しい~、ありがと~」
「い、いえ…。どういたしまして…」
別れを寂しがってシュンとしているカリーナが可愛らしくて、私は思わず抱き着いた。
「カリーナ。今日アイラ様が里を出られるまでが、アイラ様にご奉仕できる最後の時間よ。リヴァイアサンさんに指導してもらいつつ、精一杯務めを果たしなさい」
「はい!」
スキュラさんの言葉に元気良く返事をするカリーナ。私も爺やもミンスマンさんも、そんなカリーナを微笑ましく眺めていた。
朝食後。スキュラさんがお土産を用意してくれていたらしく、スキュラさんの部屋にたくさん並べられた状態で用意されてた。
スキュラさんはいつの間にか爺やに地上にはない物や地上では手に入りにくい物を聞いていたらしく、その情報をもとに厳選して用意してくれたらしい。
その中には私が興味を持ってた『水中で書けるペンとメモ』もあった。他には女性人魚が胸に着けてる『肌に吸着する貝殻』とか、ごく普通の大きめな貝殻で出来た『貝殻ビキニ』とか、クラゲの切れた触手を編み込んで作られた『クラゲ紐』とか、エイの毒針で作られた『エイの毒針』とか。…て、エイの毒針はそのまんまやんけ。
それと『毒刺し』というアイスピックみたいな見た目をした物もあった。これはガブガの強靭な歯を原料に作られた物らしくて、中が空洞になってる。この空洞に有毒魚の毒を仕込んで使うらしい。つまり殺しに使うための道具。対象に刺すと、刺した部分から毒が入り込むようになってるらしい。なお、地上生物の毒でも使用可能かどうかは分からないそうな。
その他いろんな物があったけど、ひと通り見終えたところでスキュラさんが用意してくれた物を全部袋に入れ始めた。
「あれ?スキュラさん?何してるんですか?」
「いちいち異空間収納に入れるより、この方が楽でしょ?」
「え?全部貰って良いんですか?かなりの量ありましたけど…」
「良いの良いの。持って行きなさいな」
私はてっきり選ぶのかと思ってた…。だってメッチャ量あったんだもん。同じ物もいくつも…。
「失礼致します」
スキュラさんの袋詰めをカリーナまで手伝い始めた頃、一人の人魚メイドがやって来た。
「お取込み中申し訳ございません。城の門に里の者達が訊ねて来ているのですが…」
「里の者達が?」
「はい。アイラ様に差し上げたい物があると…」
私に渡したい物?里の人魚達から?
「ん~…、ちょっと行ってみるか。あ、アイラ様とリヴァイアサンさんは待ってて」
「いえ、私も行きます。私宛てのようですし」
「わたくしめも同行致しますぞ」
スキュラさんに待つよう言われたけど、私に用件があるのに私が行かないのは失礼だと感じて付いて行く事にした。爺やも一緒に行く気みたい。カリーナは何も言わずに付いて来てる。
玄関ロビーへ向かうと複数の人魚達がいて、ゲルダのお父さんのアギトさんもいた。小さな子供までいる。
「一体何しに来たの?」
スキュラさんは人魚達と会うやいなやメッチャ冷たい一言を出した。なんでそんな冷たい態度…。
「いや~、突然すいません。実は里のみんなで、子供達にも協力してもらって、アイラ様に里を救っていただいたお礼を用意してまして、それを届けに来たんです。おい、持って来てくれ」
アギトさんの指示で、複数のカワイイ子供に人魚達が何かを大量に詰めたであろう大きな袋を持ってきた。その後ろで続くようにもう二人の子供の人魚が、何かを持って付いてきた。
子供達は私の前まで来ると、後ろにいた二人の子供が前に出て持ってきた物を差し出してきた。
「「アイラ様、里を助けてくれて、ありがとう」」
二人の子供は声を揃えてお礼を言ってきた。右側の子が差し出してきた物は、色鮮やかできれいな貝殻で作られたペンダントとブレスレット。左側の子が差し出してきた物は、なんと真珠で作られたネックレスだった。
「どういたしまして。私にくれるの?どうもありがとう」
と言って私は受け取ろうとしたんだけど、子供達の身長は当然大人達よりも低い。ここはロビーでどうしても浮力が働くので、私は子供達並の低さに沈めない。
どうしようかと思ったら、カリーナが察してくれたみたいで、私の後ろでそっと私の肩を抑えて浮かないように支えてくれた。こういうところに気付いて動けるのは優秀よ。カリーナ。
…まぁ、子供達がもうちょい浮上してくれたら解決出来たんだけどね。
とにかく私は二人の子供からプレゼントを受け取った後、二人をハグして頭を撫でた。
「アイラ様。こっちの袋にも、そのアクセサリーに使った貝殻や真珠と同じ物が入ってます。里のみんなからのお礼です。受け取ってください」
「い、良いんですか?」
一人の男性人魚からの説明に戸惑いつつ、大きな袋も受け取る。にしても私がたった今貰った物と同じ物って…。
貝殻は分からんけど、真珠はこの世界でも相場高いわよ?それをこんな大きな袋いっぱいに…。
「あんた達、いつの間に用意してたの?」
「ガブガとの戦いが終わって間もなく、みんなで何かお礼をしようって話になって、つってもアイラ様はすぐに地上にお戻りになられると聞いてたんで何したら良いか分からんて、最終的にムルムル貝の殻と真珠になったんですわ。これならきっと地上にあまりないかもしれないって」
スキュラさんの質問に答えるアギトさんの話を聞いて私は頷いていた。
(私が寝てる間にこんなの用意してくれてたのね。それにしてもこの貝はムルムル貝っていうんだ。私、前世も今世も貝には感心なかったからどんな貝かは知らないけど)
なんて思いながら貰った貝殻を見てたら、爺やがそっと近づいてきて耳元で言った。
「アイラ様。ムルムル貝の貝殻と真珠は、地上では王族すら入手困難とされる貴重な物ですぞ。
ゼーユングファーでは大量に捕れる物ですが、地上では見つけたら一生分の運を使い果たしたと言われております。あまりの美しさゆえに偽物を作る事すら不可能と言われておりまして、市場価値は高い物で一国の国家予算と変わらないかそれ以上と言われております」
爺やの説明を聞いて私は思わず立ち眩みしそうになった。頑張って踏ん張ったけど。
つまり私は、人魚達から数国分の国家予算数年分に相当する量の物を貰った事になる。…ヤバイ、子供達に付けてもらったネックレスやペンダントやブレスレットを身に着けてる今の状態が怖くなってきた。
「これ以外でムルムル貝は捕ってないんでしょ?」
「ええ。これ以上は。今回はあくまでアイラ様への贈呈用のみです」
「だったら乱獲にはならないわね。問題ない範囲だわ」
いや、地上の文明からしてみれば大問題ですよ?スキュラさん。
「というわけでアイラ様。里の者達からの気持ちです」
「どうもありがとう。嬉しいです。しかし里の皆さんは、一つだけ勘違いをしています」
「勘違い?」
「里をガブガの襲撃から救えたのは、私だけの力ではありません。族長であるスキュラさんや、私と一緒に来ていたリヴァイアサン。今は私の中にいる神龍や、あなた方のようにガブガへ勇敢に立ち向かった皆さんも、それぞれ里を救った方々です」
「アイラ様…」
確かに私は斬氷水中砲でガブガの大半を消滅させた。でもそれ以前に人魚達は勇敢に戦った。巨大な生物相手に命の危険を承知の上で、自分達の家を守ろうとした。
だから感謝されるべきは私だけではない。ガブガに立ち向かった人魚達もその対象だと思う。まぁ、プレゼントは貰うけど。




