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異世界で最強 ~転生と神の力~  作者: 富岡大二郎
第十章 視察の道は逸れて
263/395

歓迎会。そして、スキュラの回想

グリセリア「ハッピーハロウィ…」

アイラ「はい、お菓子」

グリセリア「うん、ありがとう。嬉しいけどせめて最後まで言わせてほしかった」

アイラ「イタズラしちゃうぞ?って言わせないための対策よ」

グリセリア「いや、だったら普通にお菓子あげれば良いだけじゃん」

アイラ「それもそうね。ところであんた、その仮装だけど…」

グリセリア「どう~?似合う?作ってみたんだ~」

アイラ「リリアちゃんからあんたが仕事放り投げたって報告が来たんだけど」

グリセリア「…へ?」

アイラ「まさか仕事サボってそれを作ったんじゃないでしょうね?」

グリセリア「……」

アイラ「…おい」

グリセリア「逃げるが勝ち!」

アイラ「ちょっ…!コラァ!待ちなさい!」




 その後グリセリアはすぐに捕まり、アイラからお説教を受けたそうです。

 それでは本編どうぞ。


 前半はアイラ視点、後半はスキュラ視点になります。

 歓迎会の会場となっている部屋に案内されると、そこには大勢の人魚達がいて、盛大な拍手で迎えられた。

 私がガブガをほぼ全頭海の藻屑にした事は里全体に伝わっているらしく、会場にいる人魚達からひっきりなしに「ありがとう、ありがとう」と言われ続けた。

 嬉しいっちゃ嬉しいんだけど、褒められたり感謝されたりされることが苦手な私としては、ぶっちゃけ地獄だった。笑顔で対応するの大変だったよ…。

 こんなきれいな里や、ハイスペックな美男美女の人魚達がガブガに襲われる事態は見逃せなかったし、ハルク様の眷属として…、いや、それを差し引いたとしても当然の事をしたまでだし、私としては本当に偶然こういう事が起きたから協力しただけなんだけどね。


 歓迎会が行われている間、カリーナは私の傍でメイドの仕事を頑張ってやってくれた。時々爺やの指導も入ってたんだけど、気が付くと他の人魚メイド達も聞き耳を立てていて、人魚によってはメモまでとっていた。ていうか水中でそんな普通に文字が書けるペンとメモとか、なにそれ欲しい。

 しかし時間が経つと人魚メイド達はさらに爺やの話を聞き入ってしまって、最終的に動きがストップしてしまった。結果、カリーナ以外の人魚メイド達はスキュラさんやミンスマンさんに怒られた。





 歓迎会も後半になるにつれ、みんな酒の影響で酔っ払ってきた。明らかに最初より盛り上がりがやたら大きくなってる。別に良いんだけどね。誰かに迷惑かけてるわけじゃないし。


「ん~…」


 そんな中、スキュラさんはさっきから誰とも会話せずに何か考えている様子。そして時々カリーナをチラッと見てる。


「よし。決めたわ」


 スキュラさんは何かを決めた様子。


「カリーナ。ちょっと良いかしら?」

「はい」


 スキュラさんはカリーナを呼び寄せた。彼女の事で何か考えてたのかしら?


「カリーナ。私ね、あなたに使用人として新しい役割に就いてもらいたいと思ってるの」

「新しい役割…、ですか?」

「そう。きっとあなたが一番相応しいかもしれないわ。ずっとどうしようかな~って悩んでたんだけど、あなたが使用人として必死に能力を上げようとしてる姿を見て決めたわ。あなたになら任せられる」

「は、はぁ…」


 カリーナはちょっと戸惑いの表情を浮かべている。急に新しい仕事を任せるとか言われたもんだから、気持ちが追い付いてないのね。

 ふと周囲を見渡すと、会場にいる誰もが動きを止めて会話も止めて、スキュラさんがカリーナに新しい仕事を言い渡す瞬間を待っていた。まぁ、私もその一人だけど。


「カリーナ。今この時より、あなたをアイラ様の専属使用人に任命します。今後アイラ様がゼーユングファーへ来られた際は、アイラ様の身の回りのお世話を最優先としなさい」


 スキュラさんの発言から数秒の沈黙が流れ…。


<<<おおおおおおお!!>>>


 みんな一斉に声を上げた。耳痛いじゃないのよ。うるさいな。


「わ、わた…、私が…、アイラ様の…、せんぞ…く…」


 カリーナは驚きの表情のまま、壊れかけたロボットみたいな状態になってる。


「カリーナ!あんたスゴイわよ!大抜擢よ!」

「族長の上を行く人魚族にとっての英雄のお世話が出来るのよ!とんでもない事よ!」

「おめでとう!今後必ず人魚族の歴史にその名が刻まれるぞ!」

「お母さん、きっと喜んでるわよ?本当に…」

「辛く悲しい出来事があった日だが…、同時にめでたい祝い日だ!カンパーイ!」

<<<カンパーイ!>>>


 みんなして一斉にカリーナの新たな役割を祝ってる。中には泣いてる人魚もいた。それだけみんなカリーナを応援してたってことだよね。


「え…、えと…、私…」


 カリーナは未だに理解が追い付いてないようで、私とスキュラさんと周囲の人魚達を順々に見ながらうろたえてる。

 私はカリーナの傍に近寄り、彼女の背中に流れるきれいな青髪をそっと撫でた。


「カリーナ、見て。みんなあなたを祝ってる。それだけみんなあなたの事を応援していたってことよ。あなたの日々の努力は、ちゃんとみんなに伝わっていたの。

 あなたは常に全力で仕事に取り組んできたんでしょ?優秀だったお母さんのような使用人を目指して、失敗してもめげずに必死に頑張って来たんでしょ?」

「……」

「あなたのその姿勢は誰もが認めていたの。まだ指導を受ける以上、お母さんの実力には遠いかもしれない。でもこれで近づくきっかけができた。だからね?カリーナ。自信を無くす要素なんてどこにも無いのよ?あなたの使用人としての成長は、まだまだこれからなんだから」

「……」


 カリーナは、徐々に瞳を潤ませ始めていた。


「あなたのように一生懸命働く子を専属の使用人として迎えられる事、私はとても嬉しく思います。これからここへ来た時は、どうかよろしくね?カリーナ」

「う…、うぅ…」


 私が最後に笑顔を送った頃には、カリーナは涙を流し始めていた。


「うぇ~ん…、うえ~ん!」

「お~、よしよし」


 カリーナはようやく理解が付いて、同時にみんなが認めてくれていた事を認識したせいなのか、本格的に泣き始めた。私は彼女をそっと抱き締める。


 きっとカリーナは今までいろんな苦労があったんだと思う。父親を失い、間もなくして母親まで失って、使用人として働き始めた後も失敗をたくさん重ねて。きっとお母さんと比較された事もあったと思う。そんでもってゲルダみたいな奴に傷つけられて…。

 それでも彼女は必死にもがいて、今の職場にしがみついて、辛さも悔しさも全部受け止めて、どんな大きなストレスを抱えても強引にそれを引きずって職場に立って。本当にすごいと思う。

 そういった苦い経験をたくさんしてきて、今ようやく本当のスタート地点に立てたんだろう。彼女のキャリアはこれから。

 彼女は私に抱かれたまま、人目もはばからず大泣きしてる。それだけ今まで辛かったってこと。でもそれを愚痴ることなく、誰にも相談せず、周囲に迷惑をかけまいとしてきたその精神力と強い意志。そして真面目で穏やかな心を持つ彼女なら、きっと優秀で素晴らしい使用人となるだろう。いずれシャロルと肩を並べるかもね。


「まったくこの子は…。アイラ様歓迎の席で、なおかつ公衆の面前だというのに…」


 そんな事を言うスキュラさんだけど、表情は優しく微笑んでいた。

 でも急に任命したのはスキュラさんだよ?この状況にさせたのあなただからね?他人事みたいにならないで。






 それからしばらくして、カリーナはようやく泣き止んだ。でも大勢の人魚達の前で泣いた事が後になって恥ずかしくなったのか、それからはしばらくの間赤面した状態で壁を正面にして動かなくなってしまった。明らかに恥ずかしがってる姿がもうメッチャカワイイ。


 その後も歓迎会は盛り上がりを見せ、私はスキュラさんと会話したり、他の人魚達と交流したりして一緒に盛り上がった。最終的に大宴会になってた。

 カリーナも途中から復活したし、爺やも終始ニコニコしてて楽しそうだった。それとスキュラさんが途中から酔っ払っちゃって、歓迎会には参加してなかったミンスマンさんがそれを聞きつけて、スキュラさんを落ち着かせて介抱してた。ミンスマンさんも色々苦労持ってるな。多分リリアちゃん的ポジションなんだろうな…。主に振り回されるという…。


 そして歓迎会はお開きとなり、私はスキュラさんやカリーナと部屋へ戻った。

 …ところで今更気になったんだけど、私はどこで寝たら良いの?布団らしき物もないし、別室に案内される気配もないし、ずっとスキュラさんいるし。


「あの、スキュラさん。私の寝室って…?」

「ん~?ここよ~」

「でも、寝るための場所が見当たりませんけど…」

「あ~、そうだった。言い忘れてたわ~」


 スキュラさんは「あちゃ~」と言いながら額を抑えた。まだ酔っている状態なのか、顔が赤いし酒臭い。


「人魚族はね、睡眠という概念がないの。基本的に眠ることがないのよ」

「え!?そうなんですか!?」

「うん。生まれた時から死ぬ時まで、基本的に起きっぱなしよ。それこそ何らかの理由で意識を失ったり、昏睡状態とかにならない限りは。

 だから申し訳ないんだけど、座布団並べておくからそこで寝てくれる?肌掛け程度の物ならあるから」

「そうなんですね。解りました」


 眠らない種族なんてあるんだ。世界って広いな~。


 ゼーユングファーは海底だから陽の光がない。さらに時計もないから時間間隔が分からない。人魚達は一日の流れを勘で認識してるらしいんだけど、私には無理。だから寝るタイミングは時間的にはせず、眠くなったら寝よう、という風に考えていた。なのでスキュラさんやカリーナとおしゃべりしつつ、眠くなる時を待った。


「そういえば爺やとミンスマンさんは?ずっと見かけないけど…」

「リヴァイアサン様でしたら歓迎会終了後、ご用意していた部屋でお休みになられました。ミンスマン補佐も業務を終えてご家族のもとへ帰られましたよ」

「え!?ミンスマンさん、家族いるの!?」

「はい。奥様と息子さんが」


 ミンスマンさんはてっきり独り身だと思ってた…。家族持ってる感じに見えないのよね…、あの人魚。


「やっぱ以外でしょ~?私、ミンスマンが結婚するって聞いた時は、驚きのあまり大声上げて固まったわよ~」


 スキュラさんもミンスマンさんは生涯独身だと思ってたらしい。でもそういう印象のある人…、この場合人魚か。奥さんがメッチャ美人だったり、子供が美少年や美少女だったりするのよね。ちょっと気になる。


「ふあぁ…」

「そろそろお眠りになられますか?」

「そうねぇ…。そうするわ」


 私が徐々に眠くなってきたのをカリーナは察してくれたようで、私の即席の寝床を作ってくれた。


「では、私はこれで一旦失礼致します。本日はお疲れ様でございました。改めてアイラ様の専属使用人に着任しました事、とても誇りに思います。精一杯務めさせていただきますので、どうぞよろしくお願い致します」

「うん。今回は明日までになっちゃうけど、これからよろしくね」


 カリーナは一礼して部屋から去り、私は手を振って見送った。


「さてと…」


 私は早着替え能力で裸になって、座布団で出来た即席布団に横になった。


「ん?アイラ様、なんで裸?」

「これは地上でも多分私くらいだと思うんですけど、寝る時は裸にならないと眠れない性分なんです」

「あら、そうなの。急に裸になったから驚いちゃった。ゆっくり休んでちょうだい」

「はい。ところでスキュラさんはずっとここにいますけど、ご自分のお部屋は?」

「え?ここよ?」

「あ、ここスキュラさんの部屋だったんですか…」


 その辺何も聞いてなかったわ…。スキュラさんの自室だったんだ…。


「地上で言うところの朝になったら起こすわね。それまでおやすみなさい」

「はい、お疲れ様でした…」


 私はあえて「おやすみなさい」とは返さなかった。眠る習慣がないのであれば、おやすみなさいと言うのは不自然だろうから。

 いくら重力が働いている所とはいえ水中なわけだし、寝れるかどうか若干不安だったけど、思ったより強い眠気に誘われて、私はすぐに眠りに着くのだった。





*************************************





(ん~…。今のところ里で問題は発生してなさそうね)


 私は城の窓から里を眺め、異常がない事を確認する。


 今日は色々な出来事が一気に起きた一日だった。さらにそのほとんどが初経験。


 アイラ様の事は、地上にいる神獣達から念話で聞いていた。いざ直接会ってみると、美人で素直で優しい良い子だった。精霊達や神獣達からの評判も良いみたいだし、歯に衣着せぬ発言ばかりでエラそうにするあのエキドナですら普通に相手してるくらいだから、本当に優秀な子なんだろうなと何となく思っていた。

 里でのおもてなしも順調に進むと思っていたし、私自身アテーナ以来久々に地上の子と関われたから楽しくてしょうがなかった。


 でもそんな時間をゲルダが邪魔しやがった。アイツはもっと早くにクビにしておくべきだった。自分の立場も力量も理解できない暴言馬鹿を今日まで放置したのは間違いだった。

 カリーナがどっかに去って行き問題の発生を認識した時、私はアイラ様最優先で考えた。大切なお客さんであり、私にとっての主様でもあり、伝説達を束ねる未来の大物に人魚族の悪い所を見せるわけにはいかない。そう考えていた。

 でも私の考えとは逆に、アイラ様は自ら問題に突入してきた。私に対して協力させるよう命令してきた。

 きっと事態を察して何か出来る事を考えたんだと思う。優しい限りよね。でもただ協力を申し出ただけでは断られる事を解ってたみたい。だからこそ自身の立場を利用して命令というかたちで出してきた。そうすれば私が断れなくなる事を、彼女は解ってた。自分の立場をしっかり理解して客観的に見れてる証拠よね。本当に有能だわ。


 とはいえアイラ様を深くまで関わらせるつもりはなかったんだけど、まさかアイラ様がゲルダに一発入れるとは思わなかった。

 あの時私は、ほんの一瞬だけアイラ様から殺気を感じた気がした。でもアイラ様本人は至って通常だったし、私の気のせいとして片付けた。


 でもその時、アイラ様を怒らせたらどうなるのかを知る事になるなんて、予想すらしなかった。


 ガブガが襲来した事を聞いた時は、事態よりも次々起こる問題に対して私はイラついてた。大群とは聞いていたけど、あの時私は自分で片付けられると勝手に思っていた。

 でもいざガブガの大群を見た時、私の中からイライラと自信が一瞬にして消え去った。多くの犠牲者と里への被害は免れない。私は直感的にそう確信した。

 ガブガは巨獣。いくら神獣としての力を持ってしても、一頭ずつ片付けられるかどうかというところ。幸いにもリヴァイアサンさんがいてくれたから助かったし、アイラ様の中にいる神龍様も参戦してくれたから心強かった。

 でもアイラ様自身の参戦だけは不安だった。穏やかで優しい印象の彼女が、果たして巨獣を相手に出来るのかと。いくら神の眷属で伝説級と契約してるからといっても、恐ろしい状況に怖がって動けなくなるんじゃないかと思っていた。


 でも私のそんな想像はすぐに吹っ飛ぶことになった。

 戦闘中、ガブガの攻勢が弱まったから変に思ったら、周囲のガブガが次から次へと消えて行った。ただ突然一頭ずつガブガが消えていく光景だけが見えた。

 戸惑っていたら突然目の前にアイラ様が現れた。私の知らない、全くの別人と化したアイラ様が。

 冷徹な表情、恐ろしい表現だけじゃ片付けられないほどの殺気を帯びた瞳、精霊女王であるはずのオリジンですら比較にならない神々しさ、そして今までとは全く異なる口調と態度。

 彼女のその姿を見た時、直感的にガブガの攻勢が弱まった理由がアイラ様が参戦したから、ガブガが消えて行ったのはアイラ様が攻撃したからだと分かった。

 リヴァイアサンさんはあの状態がアイラ様が本気で怒った時だと教えてくれた。温厚な子が一度ひとたび怒らすとあんなにも豹変するのか、あんなにも恐ろしいのかと思って震えたし、同時に私達人魚族のために怒ってくれてると思って嬉しかった。


 アイラ様の姿も気配すら捉えることの出来ない移動速度と、ガブガを一撃で消滅させる攻撃には、一切言葉が出なかった。あんなに厄介で驚異だったガブガが、なす術なくやられていく。驚くあまりに戦いの手を止めてしまっていた。

 そして極めつけはアイラ様が放った魔法攻撃。あれだけの大群だったガブガを、一頭残さず塵にしていった。

 他の人魚達と同様に、私も何が起きたのかを理解するまでに時間を要した。理解が出来てアイラ様を見たら、とても神々しい光を放ちながら神龍様と会話していて、私がアイラ様のもとへ向かった時には、アイラ様はもとに戻っていた。


 事態が収束して少し経った時、私は頭の片隅でアイラ様が放った魔法の光景を思い出していた。あれは里が十倍…、いや、もっともっと大きい範囲だったとしても、間違いなく一撃で消し飛ばすことが出来る範囲と威力だった。あんな技は神獣の領域でも無理ね。

 アイラ様との会話の中でさり気なくあの魔法について訊ねてみたら、


「覚えた魔法技を色々組み合わせて開発したんです。初めて使ったんですけど、上手く発動出来て良かったです」


 と、明るく答えてくれた。

 その時の彼女の笑顔を見て、私はの心の中には自然と安心感が生まれていた。この子はどれだけ強力な力を持とうと、どれだけ強い権力を持とうと、それを暴走させたり悪い方向には持って行かない。何となくそう思った。


「すぅ…、すぅ…」


 アイラ様は今、私の部屋で、私の傍で眠っている。人魚族は眠らないし、誰かが意識を失った状態以外で眠る姿を見るのは初めて。アイラ様の眠る顔はとても可愛らしい。

 明るくて、素直で、誰かのために動ける子で、誰かのために怒れる子で、周囲を恐怖させるような雰囲気を出しても、それを超える神々しさを見せつけて、でもその後はもとに戻って、こうして可愛らしい姿見せてくれて…。自分がした事に驕ったところを見せなくて、亡くなった人魚達の事を気にしてくれて…。

 他の神獣達が言ってたように、私もこの子が契約主で良かった。本当にそう思う。ハルクリーゼも良い子を引き当てたものよねぇ。


 私はそっとアイラ様の頭を撫でた。アイラ様は反応することなく眠っている。


(フフ…、カワイイ)


 アイラ様を見ていると何だか癒される。不思議なものね。


 アイラ様は今をとても楽しそうにしている。どんな事でも楽しく前向きに捉えられるのはすごい事。この子が世界の権力を握ったら、世界は平和な方へ向かうでしょう。

 そしてそれは私にとっても嬉しい事。…もう、アテーナの時のような残酷な展開は二度とごめんだわ。


 当時、アテーナの成長を見続けるのは楽しかった。何より可愛らしい子だったし。でもその楽しみとあの子の将来は突然消えてしまった。私はあの子に何もしてあげられなかった事が悔しくて悲しくて仕方なかった。

 でも今度は違う。これからはアイラ様の行く末を神獣として見て支えていられる。人魚族から英雄視されている今、何かあれば人魚族は皆この子に協力するはず。

 私もどんな協力も惜しまないし、この世界へ天から降りてきたアテーナもこの子を守り支えるために動いている。この子の事で動かない理由はどこにもない。


「アイラ様…。これから忙しくなると思うけど、どうか今のあなたのままでいてね…」


 私は再びアイラ様の頭を撫でて、今の気持ちを小声で伝えた。

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