ガブガ戦勝利後
視点がアイラに戻ります。
私は人魚達から大歓声を浴びながら里へと移動する。ぶっちゃけどう反応して良いか分かんないし、恥ずかしい…。
「アイラ様~!」
で、内心戸惑ってたらスキュラさんが急接近してきてそのまま抱き着かれた。
「アイラ様ありがとう!ほんっっっっとうにありがとう!アイラ様のおかげで里と人魚族は救われたわ!アイラ様は人魚族にとって英雄であり大恩人よ!
人魚族の長として心から感謝するし、神獣として心から敬意を表すわ。本当に、本当にありがとう!」
「いいえ、お礼には及びませんよ。むしろ好き勝手に動き回っちゃってごめんなさい。戦いの中でもスキュラさんや爺やによく分かんない対応しちゃって…。犠牲者も出てしまいましたし…」
「謝らなくて良いの。犠牲者が出てしまったのもアイラ様のせいじゃない。何も悪くないわ」
「アイラ様」
スキュラさんの背後から爺やが近寄って来た。そういえばヒト型に戻ってる。
「此度のご活躍、大変お見事でございました。さすがは我が主でございます。このトンジット、感服致しました。そして友を助けていただいた事、心より感謝申し上げます。
巨獣ガブガは人魚族のみならず、海洋生物全てにおいて敵でございました。此度の大量討伐、とてもありがたき事でございます。今後は全ての種類の海洋生物達が、アイラ様へ英雄として敬意を払うことでしょう」
「いや、そんな…。海洋生物達が敬意ってそんな大袈裟な…」
私これからもその海洋生物達食べるんだよ?刺身とか焼き魚とかフライとかで。
ていうか人魚以外の海の生物でそんな敬意とか解る生物いないでしょ。
なんて心の中でツッコんでたら、今度はガブガ迎撃にあたっていた人魚達が近づいてきた。
「おう!お嬢さん!スゲェ戦いっぷりだったぜ!ごあっ!」
集まって来た人魚達の中の見た目豪快そうな人魚が声をかけてきたけど、直後スキュラさんのチョップを食らってた。
「エラそうな口を聞くな!なにがお嬢さんよ!アイラ様と呼びなさい!アイラ様と!」
「あはは…、まあまあ…。私は態度や言葉使いに関しては特に気にしないので、別に大丈夫ですよ?むしろ気軽に声をかけてくれた方が、私としても対応しやすいです」
「そう?なら良いんだけど…」
「はっはっは…」
「ぐおおおお…」
私はスキュラさんを落ち着かせて、別に構わない事を伝えた。
爺やは何故か笑ってて、チョップ食らった人魚は未だ痛がってた。
里へ戻って避難していた人魚と合流した時、戦いから戻ってきた人魚達へは安堵した様子で、犠牲となってしまった人魚達の家族や知り合いは泣き崩れていた。
「……」
「アイラ様?」
私は亡くなっている人魚達を見つめる。スキュラさんが私を呼ぶけど、今は心の中で黙祷していて応答しない。
力なく血を流しながら里へ落ちてきた人魚達の姿は、私の中で記憶としてしっかり残っている。
あの時は怒りが一気に湧き上がって、怒りの意のままに動いていた。
(今後の私の課題は、怒りに囚われないようにすることなのかな…。にしても、万が一地上で戦争とか起きたらこんな光景を見る事になるのかしら…?)
私は亡くなった人魚達を見て、何故かそんな事を考えていた。
その後亡くなった人魚達の遺体は改めて所定の場所へ並べられた。人魚達の家族と思われる人魚達がみんな悲しんでいたけど、その中で一際大泣きする女性の人魚がいた。
ミンスマンさんからこっそり聞いたんだけど、その女性人魚は亡くなった人魚の母親らしい。彼女の旦那さん、つまり今回亡くなった人魚のお父さんも、ガブガの襲撃で亡くなっているそうだ。つまり彼女は夫と息子に先立たれて、独り身という事になってしまう。
私はこの光景とミンスマンさんからの話を聞いて、もし今後ガブガの残りがいたら、一頭一頭塵にしてやろうと心に誓った。
私が城へ戻った後、里は少しずつ通常の状態へ戻って行った。
地上の国のように都市や街が多々あるわけではなく、里そのものも被害はなかったため、およそ数時間で復興完了するだろうと爺やは言ってた。
ガブガ襲撃前に私が意識を失わせたゲルダは、私が城に入ってから少し経って意識が戻った。
人魚族のお医者さんの診察によると、あばら骨が何本か折れてるとの事だった。この診察結果を知ったスキュラさんは…。
「その程度の怪我なら死にはしないでしょ」
と言って、自らゲルダを拘束してた。でも縛るための材料が紐じゃなくて海藻って…。
スキュラさんは今までの恨みと言わんばかりにゲルダを海藻でグルグル巻きにして、メッチャ強く縛ってた。ゲルダ痛みで涙流しながら叫んでたよ。
その後しばらく経って、ゲルダのご両親がやって来た。ミンスマンさんが事情を説明して城へ呼んだらしい。
そこで驚いたのが、ゲルダの父親はガブガとの戦闘直後に私に声をかけてきた豪快そうな人魚だった。似てないな~、父と娘…。ちなみに父親がアギトさん、母親がマチルダさんというらしい。
ゲルダの今回と今までの行い、そしてクビにする方針をスキュラさんから説明されたアギトさんとマチルダさんは、スキュラさんや今回の被害者カリーナ、その他の城関係者に深々と謝罪。私へも謝罪してきた。
自分の娘がやらかした事をかなり重く受け止めているようで、アギトさんからはすっかり豪快さが消えていたけど、マチルダさんの方はすごかった。
何がすごかったって、自分の娘に怒りを露わにして、まさかのフルボッコにしたのよ。この母親。ゲルダはあばら骨折してて、さらに拘束されてて動けないのに、一方的に連続攻撃…。ぶっちゃけ暴力よね…。周囲が止める様子なかったから私も止めなかったけど。
その後ゲルダは縛られたまま両親に連れられて城を後にした。もう二度とリュウグウ城には戻って来ないだろうけど、私はあの状態から先のゲルダが気になる。徹底的にしごかれるのは確定的なんだろうな…。
ということで私はようやく落ち着き、もとの案内されていた部屋でゆっくりしていた。本当は色々巡りたい気持ちではあるけど、事態が事態だから控えとく。
私の前にはほうじ茶が置かれている。これを淹れてくれたのはカリーナ。
彼女はゲルダに何か言われて傷ついていたのか、すっかり使用人としての自信を失っていて、深く落ち込んでしまっていた。私はそんな彼女にほうじ茶を淹れてくれるよう頼んだ。つまりご指名。少しでも働かせて自信を取り戻してくれればと思って。
カリーナは他の人魚メイドから比べると、行動が全体的に遅いしミスも多い。正直シャロルの足元にも及ばない。でも必死さはとても強く伝わってくる。懸命に一つひとつをこなそうとする精神はすごく理解が出来た。
スキュラさんの話によると、カリーナのご両親は彼女が幼かった頃に亡くなってしまったらしい。父親はガブガ襲撃によって亡くなり、母親はそのショックで身体が弱り、間もなく病気で亡くなってしまったそう。
カリーナのお母さんは、当時リュウグウ城内で有名な使用人だったらしい。とても優秀で誰もが手本とし、教えを乞いに来たくらいなんだとか。現在の城のベテラン使用人の中にも、カリーナのお母さんから基礎を教えてもらった人魚が何人かいるんだそうな。
とすると、娘であるカリーナにもその遺伝子は受け継がれているはず。この先めげずに頑張れば、きっと母親のような優秀な使用人になれると思う。でもそう簡単にスキルアップは出来ないし…。あ、そうだ。
「ねぇ、爺や。爺やはここにいる間、暇でしょ?」
「そうですな。特にやることはありませんな。せっかくお休みをいただいたのは嬉しゅうございますが、動かないというのはわたしくめの性分に合いませんな~。常にソワソワしてしまいます。はっはっは」
「そうなの。だったらちょっと頼める?」
「なんでございますかな?」
「ここにいる間だけ、カリーナに使用人としての指導をしてあげて」
「畏まりました。彼女の母君は大変優秀な方でしたからな~。その娘さんに指導を行えるというのは、わたくしめにとっても特別な思いですな」
爺やはカリーナのお母さんと知り合いだったのかしら?何だかそんな口ぶり。
カリーナは今別の場所に移動しちゃってるし、後でこの事話そうっと。
それはそうと…。
「あの、スキュラさん」
「何かしら?」
「里が一時危機に陥って、なおかつ犠牲者が出たほどの事態が起きていたというのに、しかもそれが治まってからほとんど経ってないのに、そんなゆっくりしてて良いんですか?」
スキュラさんはもと居た場所と同じ所でゆっくりお茶してる。客人扱いの私や爺やはともかく、族長が自分の里でそこまで動かなくて良いものなのか。
「私はくろいでてても問題ないのよ。だいたいの事はミンスマンが片付けてくれるから」
わぁ…、スキュラさんも仕事を部下に丸投げするタイプだ…。
サボってこそないけど、ほとんどセリアやハルク様と同じ気が…。ていうかハルク様の事『グウタラの塊』とか言っておいて、自分もあんま変わんないじゃん。
「あ、そういえば。人魚族の寿命ってどのくらいなんですか?」
「寿命?さあ?調べたことないわね。みんな途中から自分の年齢忘れちゃうから分からないわ。百年以上なのは確かだと思うけど」
話変えるつもりで聞いた事だったんだけど、人魚族って周囲の事や過去の事を知らなすぎじゃない?光の装置の構造知らないし、浮力消滅の構造も知らないし、平均寿命も知らないし…。
…なんでだろう?頭痛くなってきた…。もう分からない事だらけ過ぎるわ。




