ガブガとの戦闘
前半はアイラ視点、後半は視点がアイラから外れます。
ガブガ目掛けて思いっきりグーパンチ食らわせたら、予想より勢いよく飛んで行った。…水中で飛んでいくとはこれ如何に。
私としてはただ殴って終わりにするつもりだったんだけど、多分スルトからの力がある影響で私が思うよりも力が出るようになってるんだ。ちょっと力加減気を付けなきゃ。
ふとやられそうになっていた人魚を見ると、呆然としたまま固まってる。完全放心状態。
試しに声かけようか迷ったけど、私今怒りマックスだし、放っておいても良いか。
「……」
周囲を改めて確認してるうちに、私に殴られて飛んで行ったガブガが逆さになった状態でゆっくり海底へ落ちて行った。全然動く様子ないし、どうやら一撃で倒せたみたいね。
そして周囲を見て分かったんだけど、ガブガは私が参戦する前と明らかに動きを変えた。どいつも攻撃してこない。後退こそしてないけど、攻めても来ない。
(でも、今の私にはそんな事関係ない。理由が何だろうと、人魚達の里を襲い、人魚達を今まで殺し続けたその罪、徹底的に暴力で返してやるわ!)
私は光速移動を使って一番近くにいたガブガへ攻撃を開始。思いっきり蹴りを入れた。蹴りを入れたらガブガは真っ二つになった。ちょっと今の私の力どうなってんの?予想外ばかりなんだけど。
でも止まる気はなかった私は、そのまま間髪入れずにガブガへ次々攻撃を繰り出し続けた。
「お、おい…。なんだ…?次々にガブガがやられていく…」
「さっきの異質な少女はどこ行った?一体何が起きているんだ?」
人魚達の戸惑いや疑問の声を聞きながら、私はガブガへの攻撃を続ける。でも中々数が減らない。ていうか人魚達も戦闘再開しなさいよ。
と、スキュラさんと爺やを発見したので、ひとまず一時停止。
「ア、アイラ様…」
「……」
私はスキュラさんの声に反応せず、近くにいたガブガを魔法攻撃で消し飛ばした。
「あ、あの…」
「……」
「……」
「…巨獣とは、愚かな生物よな」
スキュラさんからの再びの問いかけに返す言葉が怒りのせいで思い付かなかった私は、それだけ言って攻撃再開。あー、一頭一頭メンドイ。
「え?…え?」
「フフフ…、グリセリア様とキリカさんから聞いた通りですな」
「何が?」
「アイラ様は、本気で怒るとあのような状態になるそうです」
「じゃあアイラ様は今本気で怒っているのね…。私達のために…」
スキュラさんと爺やはまだ止まってる。早く戦闘再開しなさいよ。
「くらうが良い!」
神龍は戦闘継続してるけど、戦闘直後の一発以外全部外してるのよね…。
「全員ガブガへ総攻撃!アイラ様ばかりにやらせないで!倒れて行った仲間達の分までやり返すわよ!」
<<<うおおおおおおおお!!>>>
おお~、振動が伝わるほどの声じゃないの。やっと動き出すか。でもちょっと奮起するには遅かったかな~。
というのも、私はある場所にいたガブガを踵落としで勢いよく底に落とした後、ガブガが密集してる里の上から少し距離をとった。そして真闇界能力を発動した後、魔法の発動準備にかかる。
以前シュバルラング龍帝国で光線型爆発魔法を放ったけど、今回はそれとは違う魔法。
今回は水系の魔法。濃縮させた水を手のひらに作り、その中に刃状の氷と爆発する特殊な氷を作って入れた。
それらを約二秒で作り上げて、軽い爆発を起こさせて濃縮状態を一気に解放させ、ガブガ達へ放った。
これは『斬氷水力砲』という魔法で、光線型爆発魔法の兄弟魔法にあたる私開発のオリジナル魔法。本当は発動までに五秒くらいかかるはずだったんだけど、スルトが力を与えてくれてるおかげで二秒程度で出来た。
私の力調整は丁度良かったみたいで、ガブガ全頭に食らわせる事が出来てるみたい。
これを食らったガブガは、まず突然の水圧の流れでバランスを失いって動けなくなる。船で例えるなら、静かだった海が突然シケて動けなくなるみたいな。
でもって動けなくなったところに氷の刃が飛んできて、ガブガの身体を貫通していく。最後に、同時に流れる氷の粒が爆発を起こして、ガブガの身体は粉々に散る。
というわけで私は今、爆発による海底爆発圧に襲われています。地上で言う爆風ってやつ。まぁ、魔法壁張ったから大丈夫だけど。
ちなみにこの攻撃による人魚達や里への被害はない。何故かと言うと、里には被害が及ばない角度から魔法を放ってるし、ガブガ迎撃に当たっていた人魚達にも攻撃が届く前に『生命選別能力』を使って人魚達の位置を特定し、魔法壁を個々に張っておいたから大丈夫。爆発による水圧はヤバイかもしれないけど。
あ、生命選別能力っていうのは神力の一つ。広範囲の攻撃を行いたい時に味方と敵が混戦してた場合に、誰が見方で誰が敵かを見分けられる能力。私自身で攻撃を食らわしたい人と食らわせたくない人で分ける事も出来る。
この能力で分け終わったら、あとは味方に当たらない攻撃をしたり、攻撃直前に味方に対して魔法壁を張ってあげれば良いだけ。
何はともあれ、今回は私が一気に始末した事になったかな。人魚達には悪いけど、怒り任せに好き勝手やらせてもらった。やっとスッキリした。
水爆による周辺の視界不良も少しづつ晴れてきて、里も見えてきた。同時に神龍が私のもとへ戻って来た。
「龍帝国に続き、今度は人魚族の里で暴れたな」
「そうね。ところで神龍。あなたが参戦してから、最初の攻撃以外全部外してなかった?」
「奴らの動きが複雑でな。大量にいたゆえ、攻撃目標が定まらなかったのだ」
「単なる言い訳でしょうに…。伝説の存在なんだからもうちょっと活躍しなさいよ」
「無茶を言うな。我も長い事戦闘はしていなかったのだ。少々なまっても仕方あるまい」
「自分で言うな。それは私が言うようなセリフよ?言う気ないけど」
「では我は戻らせてもらうぞ」
「あ!ちょ…、コラ!」
神龍に攻撃外しまくりだった事を指摘したら、逃げるように私の中へ戻って行った。
そういえば体内から溢れてた力の感覚も止まってる。スルトももう力の供給を止めたみたい。私も神力の解放を止めた。
そして直後、人魚達から大歓声が起こった。
「やれやれ…。くつろげると思ってたのに、とんでもない訪問になっちゃったわねぇ…」
私は苦笑いしながら、ゆっくりゼーユングファーへ戻って行った。
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時を少し戻して、アイラが斬氷水力砲を放つ前。人魚達が奮起し、攻勢に転じていた頃。
「あれ?アイラ様はどこ行っちゃったの?」
「はて?分かりませんな…、ん?」
スキュラとともにアイラを探したリヴァイアサンは、遠くの方に青い光が輝いている事に気が付いた。
「どうしたの?」
「あれは…、何ですかな?」
「え?…本当だ。何かしら?すごい強力な魔力を感じる…」
スキュラも青い光に気付き、同時に強力な魔力を感じ取っていた。
青き光の正体。それはアイラが放とうとしていた斬氷水力砲であった。
(あそこに誰かいるの?それにここまで強い魔力…、まさか)
スキュラが何かを予想した、その時。
「え?」
「うむ?」
突然スキュラとリヴァイアサン、そして他の人魚達の周囲に分厚い魔法壁が出現した。アイラが構築した魔法壁である。
「おい!なんだこれ!?突然なんだ!?」
「出れないぞ!敵の攻撃か!?」
ガブガの迎撃にあたっていた人魚達は、突然の出来事に混乱する。
「これ…、まさかこれもアイラ様が…?」
「可能性はありますな」
スキュラとリヴァイアサンは魔法壁の分厚さから、展開したのがアイラではないかと予測。そしてその直後、突然強い力の水圧がガブガ達を襲った。それは魔法壁越しに人魚達にも感じられた。
そして流れとともに大小様々な氷が大量に流れてくる。氷は次々ガブガの身体を貫通していき、ガブガ達はなす術なく一気に血を流していく。
さらに突如氷の粒が連続爆発。その水中爆発の衝撃は、魔法壁に囲まれているスキュラやリヴァイアサン、他の人魚達にも届いていた。
「う、うおおおおお…!」
「ぐおおお…!なんだこりゃ…」
(なんて爆発と圧…!これもアイラ様の仕業なの…?だとしたらとんでもないわよ…)
スキュラは爆発の衝撃に耐えながら、アイラの力に圧巻されていた。
しばらく経つと衝撃や圧は治まっており、魔法壁も消え、爆発による視界不良も落ち着いてきていた。
「え…?」
スキュラは周囲の光景を見て呆然とする。
辺りは静かな深海の状態を取り戻しており、里も被害は見られない。そしてあれだけ大量にウヨウヨしていたガブガは、一頭もいなくなっていた。
ふと、スキュラの傍を肉片らしき物がゆっくり沈んで行った。形状からガブガの身体の一部だと、スキュラは断定した。
「なんだ…?一体何が起こったんだ…?」
「おい、見ろ!あれ!」
呆然としていた人魚の隣にいた人魚が、何かを発見して大声で指を差した。スキュラやリヴァイアサン、他の人魚達もそれに反応し、指差す方を見た。
人魚が指し示す方には、神気で輝く気を纏ったアイラと、傍でアイラと会話している神龍の姿があった。
その神々しい姿に、人魚達のみならず、スキュラやいつの間にかヒト型に戻っていたトンジットも見惚れていた。その姿は、爆発音や振動に驚いて避難場所から出てきていたミンスマンや里の人魚達にも見えていた。
「美しい…」
「奇麗…」
「ああ…、まるで信仰的な存在を見ているかのような…」
人魚達は神気を纏ったアイラの姿に見惚れて思考が回らず、ただ思った事だけを口にしていた。
「あはは…、敵わないわ…。別格ね。本当に既に支配者たるに相応しいものを持ってるわね、あの子」
「そうですな。普段はお優しく、怒る時は恐ろしく、全てが解決すれば神々しい。導き手としてこれほど相応しいお方はおらぬでしょう」
スキュラは脱力しながら苦笑いし、トンジットはニコニコしていた。
そして神龍はアイラの中へと戻って行き、アイラが纏わせていた神気はゆっくりと消えていった。
見惚れていた人魚達は魔法攻撃がアイラの技だと悟り、一斉にアイラへ称賛の声を上げた。




