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異世界で最強 ~転生と神の力~  作者: 富岡大二郎
第十章 視察の道は逸れて
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人魚メイド。そしてトラブル発生

「じゃあまず一つ目の質問です。ここは深海ですから、陽の光は届きませんよね?なのにどうして、この里だけ明るいんですか?」

「アイラ様は『光明こうめい魔法』を知ってる?」

「はい。知ってますし、使えますよ」

「それを使ってるの。光明魔法を使える人魚達で魔法を発動させてるのよ」


 光明魔法は光属性の魔法で、発動者を中心にその場や空間を一定時間明るくしてくれる魔法。高位魔法の一つで、優れた魔法使いでも収得が難しいとされる超難関魔法でもある。洞窟にいる時も、夜間はルーチェがこの魔法で洞窟内を明るくしてくれている。なお、『照らす』とは機能が異なる。


「でも光明魔法を持続させるためには、発動者が発動から一定時間経過した際に再び魔法を発動し直さないといけませんよね?人魚の方々でも魔力量限界はあるでしょうし、一体どうやって持続させてるんですか?」


 光明魔法の欠点は、ある程度時間が経つと魔法効果が消滅してまい、暗闇に戻ってしまうという点。魔法効果を持続させるためには、その都度光明魔法を再発動しなければならない。ただ再発動を繰り返せば、発動者はいずれ魔力切れとなる。ちなみに私は大量の魔力量と超高速魔力回復力を持っているので、無限に再発動可能。


「里の周囲に光明魔法の力を吸収して明るさを持続させてくれる装置が置いてあるの。そこに光明魔法を発動させておけば、最短でも二日間は明るさを保てるわ。装置は私が物心付く前から存在してて、構造もいつから存在してるのかも知らないんだけどね」


 そんな装置があるのね…。今も使用可能な超古代装置的な?でも構造も分からないで、万が一故障した時どうすんの?

 ていうか人魚族も魔法を使えるのね。しかも光明魔法みたいな高位魔法まで…。地上と関わりないはずなのに、どうやって魔法知識を得たのかしら?ま、いいや。次の質問。


「里が明るい理由が分かったところで二つ目の質問です。里を覆うように存在してる膜は何ですか?」

「あれは実は詳しく解明されてないの。何なのか今も分からないわ」

「分かんないんですか!?あれだけのものが!?」

「ええ。あれが何なのか分かる人魚は里にはいないわ。分かってる事をあげるとすれば、膜はどこからでも通り抜け出来るという事と、あの膜が光明魔法をこれ以上広がらないようにする役割を担ってるって事だけね」


 確かに言われてみれば、あの膜から外側は真っ暗で光は漏れてなかった。謎だわ~。


「じゃあ三つ目の質問です。城の各部屋に入ると浮力を失って重力がかかるのは何故ですか?」

「それも知らない」

「知らない!?」

「だって昔からそうなんだもん。どうしてどうなってこうなってるのか誰も知らないし、先祖からも何も言い伝えられてないもの。資料的な情報も残ってないし、みんな当たり前に認識してるし」


 え~…、結局大半謎だらけじゃん。九割不明のまま…。


「ごめんね~?アイラ様が気にした事は何となく予想付いてたんだけど、何せ情報がないものだから…」

「情報がないなら仕方ありません。気になるけど諦めます」


 分かんないならしょうがないし、スキュラさんやミンスマンさんの態度から嘘を言ったり何かを隠したりしているようにも思えないし。そもそも疑う気もない。ていうかミンスマンさんが再びフリーズしてる…。


「きゃっ!も、申し訳ありません!」


 たまたまほうじ茶を飲み終わってた私におかわりを淹れてくれた人魚メイドが、淹れ終わった直後にカップをひっくり返した。私にはかからずに済んだけど。


「大丈夫?怪我とか火傷はしてない?」

「はい、大丈夫です…。申し訳ありませんでした!すぐに新しいのをお持ち致します!」

「謝らなくて大丈夫よ。慌てずゆっくりで良いから」


 水色のロングヘアーをウェーブさせた髪型の美人人魚メイドはほうじ茶をひっくり返した事に大慌てしていたので、落ち着くよう言っておいた。


「はぁ…。ごめんね?アイラ様。あの子しょっちゅうミスするのよ」

「後程厳しく注意および指導しておきます。それでも治らないようであればクビですね」


 スキュラさんは額を手で押さえてため息を付いてる。ミンスマンさんもクビ発言してるけど、あの人魚メイドはそんなに酷いのかしら?


「私は全然大丈夫ですよ。むしろ彼女に怪我がなくて良かったです」


 私はスキュラさんとミンスマンさんに気にしてない事を伝えた。それよりも気になるのが、あの人魚メイドの腕や手にうっすら傷や火傷の跡があった事ね。


「お待たせ致しました!大変申し訳ありませんでした!」

「良いのよ。気にしないで」


 淹れ直したほうじ茶を私の前に置き、私に向かって深々と頭を下げる彼女。私は笑顔を見せて何とか安心させようと図る。


「ねぇ、あなた名前はなんていうの?」

「カリーナと申します」

「カリーナね。カリーナ、失敗した時こそ慌てちゃダメよ?そして謝ってばかりもダメ。そういう時こそ冷静に。適切な判断が出来るように意識して」

「はい…。ご助言、ありがとうございます」


 ちょっと気が沈んでるように見える。気が弱いわけじゃなさそうなんだけど…。


「ねぇ、カリーナ。ちょっと私に近づいて」

「…?は、はい…」


 私はカリーナを自分へ引き寄せて、彼女の身体に触れる。


「どういう理由で傷を負ったのか知らないけど、このままじゃせっかくの色白美肌が台無しよ?」


 私はそう言うとカリーナへ『身体外跡滅しんたいがいせきめつ魔法』を発動させた。

 身体外跡滅魔法は高位魔法の一つ。身体にある古傷や火傷の跡等を消すことができる魔法。治癒魔法で怪我を治した後に傷跡が残っても、この魔法さえあればきれいサッパリ。


「はい、これで良し。もう動いて良いわよ」


 私に魔法をかけられたカリーナは、数秒間呆然とした後まじまじと自分の腕を見てる。

 ふと気が付くと、スキュラさんやミンスマンさんもポカーンとしていて、周囲にいた他の人魚達まで動きを止めてポカーンとしていた。爺やだけニコニコしてる。そんなに珍しい事した?私。


「あの…、傷跡を…消してくださったのですか…?」

「そうよ。なんかマズかった?」

「い、いいえ!ありがとうございます!」


 カリーナは嬉しそうな表情を見せてくれた。よかったよかった。


「アイラ様…、身体外跡滅魔法を使ったの?」

「はい、そうですよ」

「…話には聞いてたけど、本当に高位魔法をいとも簡単に扱うのね」

「アイラ様の魔法習得能力は精霊方も神獣方も誰もがお認めになるほどですからなぁ~」


 スキュラさんは何故か感心した様子で、爺やは何故か誇らしげになってる。なんで?


「カリーナ。アイラ様に治してもらったからには今後一切傷一つ付けるんじゃないわよ?」

「は、はい!」


 なんでスキュラさんはカリーナに若干圧力かけてるの?別にいくらでも治すって。


「カリーナ。先程の件で話がある。ちょっと来い」

「あ、はい…」


 気が付けば再起動していたミンスマンさんは、カリーナを連れて部屋から出て行った。「先程の件」は多分カリーナがほうじ茶ひっくり返した件なんだろう。私は気にしてないって言ってるのに。カリーナまた沈んじゃってたじゃん。


「わたしくめは一旦お手洗いに行って参りますゆえ。アイラ様、ごゆるりと」

「うん。行ってらっしゃい」


 爺やはトイレに行くために席を立った。けど立った時点で動きを止めた。


「…お手洗いは、どこでしたかな?」


 あ~…、トイレの場所が分かんなかったのか。


「部屋を出て右へまっすぐです」

「ありがとうございます。では」


 スキュラさんの説明で爺やはトイレに向かった。ていうか誰か案内してあげなさいよ。スキュラさんも誰かに案内させなさいよ。これだけ使用人魚いるんだから。


「失礼致します。スキュラ族長、少々よろしいでしょうか?」

「あ、はいはい。ゴメン、アイラ様。ちょっと席を外すわ」

「大丈夫ですよ。自由にしてますから」


 スキュラさんは訊ねてきた人魚に呼び出されて部屋を出て行った。きっと仕事の関係だろう。


 と、スキュラさんが出て行った直後、複数の人魚メイドが勢いよく私に近寄って来た。


「あ、あの…!アイラ様!」

「なぁに?」


 集まった中の一人…、いや一匹?の人魚メイドが声をかけてきた。


「その…、少々お願いがあるのですが…」

「何かしら?」

「…大変失礼かもしれませんが…、脚を…触らせていただけませんか?」

「脚?」


 あー、そっか。人魚達にとって脚がある人間の姿は珍しいから、興味深々なわけだ。


「別に良いわよ。気になるなら遠慮なくどうぞ」

「あ、ありがとうございます!では…」


 私が笑顔で了承すると、人魚メイドはそっと私の脚に触れた。そんでその後、集まった人魚メイド達に順番にきっちり触られた。まぁ、私は誰にどこを触られても平気だから別に良いんだけどね。ぶっちゃけ私は痴漢されようが何とも思わない人間だし。その辺他の女子とズレてるのよね…。


「じゃあ、今度は私が触って良い?下半身と耳」

「大丈夫ですよ。どうぞ」


 私の要望に一人…、一匹?一人でいいか。一人の人魚メイドが応えてくれた。

 里に着いてから気付いたんだけど、人魚は耳もヒレになっていた。スキュラさんは髪で耳が隠れてたから分からなかった。

 で、触ってみた感想だけど、「うん、魚だ」ていうのが正直な感想。ヒレがあるし、鱗があるし、触った感じそのまんま魚だし。


「アイラ様はとても容姿もさることながら、特にお肌が艶やかかで白くてお奇麗ですよね。どうやってその美しさを持続させているのか、よろしければご教授していただけませんか?」

「私も気になります!是非教えてください!」

「私も!私も知りたいです!」


 今度は私の肌の質感の良さを知りたいと人魚達が言い始めた。でも私何もケアしてないのよね…。


「私は特に何もしてないわよ?それに肌の美しさならあなた達や他の人魚達も奇麗じゃない?私なんて負けるわよ」

「いえ!そんなことないですよ!私達なんてすぐに肌荒れちゃって、お手入れ大変なんですよ」

「何もしないでその美しさ…!羨ましい!」


 そんな感じでワイワイしてたら…。


「ちょっと。仕事しないで何してんのよ」


 爺やと共に戻ってきたスキュラさんに人魚メイド全員が怒られた。別にいーじゃんね。サボってたわけじゃないんだし。


「そういえばスキュラさん。さっきのカリーナっていう子。どのくらい城務めしてるんですか?」

「えっと~、確かまだ一年程だったかしら?」


 じゃあまだ経験浅いじゃん。使用人として大変な時期よね。

 これはあくまで地上の認識だけど、メイドが仕事に慣れて一人前になるには最短でも二年はかかると言われている。ちなみにシャロルは一年と二ヶ月という驚異的なスピードで一人前と認められたらしい。やっぱシャロルって天才メイドよね。


「彼女はまだ若いように見えましたけど…」

「うん、確か15歳だったかしら?」


 15歳で城務めか…。なんだかあの子は訳ありな物事を抱えていそうな気がする。例えば特殊な家庭環境とか…。あまり深入りはしないようにするけど。


「スキュラさん。さっきミンスマンさんがカリーナをクビにとか言ってましたけど、できれば大目に見てあげてください。彼女からは懸命さが伝わってきましたから。悪い子じゃないんですよね?」

「んー…、ミスは多いし同じミス繰り返したりするけど、真面目で根が良い子なのは確かよ。アイラ様がそういうなら、考えておくわ」


 スキュラさんは検討してくれた。「クビにしない」ではなく「検討する」に留まったのは、おそらく他の使用人魚達の目を気にしてだと思う。さっきのミンスマンさんのクビ発言から見ると、多分ここは地上より仕事に対する評価基準が厳しいと思う。


「ん?爺や、眠いの?」

「うむ~…、少々眠くなってきましたな…」

「リヴァイアサンさん、確か前回も前々回も眠くなってなかった?」


 何それ?なんでゼーユングファーに来ると眠くなるの?なんか謎の睡眠作用のある周波数でも流れてるの?ここは。しかも爺やのみ…。


「カリーナ!待てっ!おいっ!」


 突然部屋の外から聞こえた声に、私やスキュラさん、ウトウトしてた爺やもビクッてなった。声は多分ミンスマンさんの声だ。そして声が聞こえた直後に廊下をかなりの速さで横切って行くカリーナが見えた。見えた時の姿勢的に、多分カリーナ泣いてた。

 ほらね~。注意の仕方間違えるとこうなるんだよ~。こーいう展開が嫌だったから気にしてないって言ったのに。


 私もスキュラさんも爺やもさっきまで一緒にワイワイしてた人魚メイド達も何事かと廊下に出る。

 廊下に出た直後に浮力が働いて私の身体は水中にいる時の姿勢になった。やっぱ不思議だわ。


「ミンスマン、何があったの?」


 スキュラさんは廊下にいたミンスマンさんに声をかけて事情を問う。


「はい。私がカリーナを注意した後、私は皆様のもとへ戻ろうとしたのですが、その途中で後方から言い争う声が聞こえたもので、何事かと確認しようとしましたらカリーナが泣きながら泳ぎ去って行ったんです」


 やっぱ泣いてたか。只事じゃないのは確かね。ていうかミンスマンさんが泣かせたわけじゃないのね…。


「誰と言い争ってたか分かる?」

「声からすると、おそらくゲルダかと…」

「はぁ~、またか…。もぉ~!大切なお客さんがいるって時に~!」


 なんか急にスキュラさんがイラつき始めた。ていうかそのお客さん本人を前にして言って良いセリフじゃないと思う。

 スキュラさんも色々ストレス抱えてるのかしら…?「忙しいのは嘘」って言ってたけど、実はマジで忙しいんじゃないの?


「スキュラさん、そのゲルダっていう方は?」

「城務めをしてる人魚よ。私にとっては一番の問題発生人魚よ」


 つまり城一番のトラブルメーカーと。


「どうせカリーナを傷つけるような発言したんでしょ。まったく…。ミンスマン、幾名か連れてカリーナを探して。ゲルダは私が対処するわ」

「承知致しました」


 ミンスマンさんはスキュラさんのめいで、カリーナが去って行った方へ泳いで行った。


「アイラ様、リヴァイアサンさん。せっかく来てくれたのに本当に申し訳ない!私はちょっと外すから、自由にゆっくり…」

「お手伝いしますよ」

「あぁ、そう。じゃあすまないけど…。え?手伝う?」


 私が割り込むように放ったセリフに、スキュラさんはキョトンとしてる。


「はい。お手伝いしますと言いました。お力になれる事があれば協力したいんです」

「い、いや…、ダメダメダメ!大切なお客さんであり、しかも私の神獣としての契約主であるあなたに協力させるなんて…」

「スキュラさん」


 私は人差し指を立てて、スキュラさんの口元に当てて黙らせた。


「私はあなたの契約主です。契約をしたその時から、私にとってあなたは大切な部下であり仲間であり友人なんです。それは爺や、そして他の神獣達もです。

 そんな友人に招待されて私はここへやってきました。そして今、私の目の前で友人であるあなたやその仲間を困惑させる事態が起きています。なのにそれをただ黙って傍観できるわけないじゃないですか」


 私は瞳に少し力を込めて、まっすぐスキュラさんを見る。


「あなたの契約主として命令します。私を協力させなさい。人魚族の長として私を使い、その器と実力を私に見せてください」


 私が神獣の契約主として命令すると、スキュラさんはポカーンとしたまま固まった。周囲の人魚達も静まり返っている。


「フ…、フフフ…、アハハハハ!」


 スキュラさんは突然笑い出した。なんか変な事言った?私。


「いやいやゴメンゴメン。こんなところで契約者としての権限を使うなんて思わなくて。何だか面白くなって笑っちゃったわ。ここまで言ってくれるなんて思わなかったわ。ホント優しいのね。

 契約者様のご命令なら拒否はできないわね。解った。一緒について来てくれるかしら?」

「ええ、喜んで」


 というわけで私はスキュラさんに同行する事となった。真っ当な理由を言ったつもりだけど、ぶっちゃけ本心としてはアストラントにいた頃にシャルと一緒に暇を持て余したあの状態は二度と御免だったから。放置プレイさせられてたまるか。


 スキュラさんは周囲にいた人魚達に指示を飛ばし、その後スキュラさんと私と複数の人魚メイドと一緒に移動を開始した。そしたら近くでずっと傍観してた爺やも一緒に付いてきた。


「爺やはゆっくりしてて良いんだよ?」

「何をおっしゃいますか。わたくしめにとっても人魚族の方々は長い付き合いのある友人でございます。それに主であられるアイラ様が動こうとされるのであれば、なお一層放ってはおけません。それにわたくしめだけくつろいでしまっては、後々他の神獣達から怒られそうですしな。はっはっは」

「爺や…」


 爺やは優しい発言の後に個人的な気持ちをぶっちゃけた。多分前者も後者も本心なんだろう。


「それでスキュラさん、どこへ向かうんですか?」

「ゲルダがいる所。彼女今まで色々問題起こしてるのよ。次に何か問題起こしたらクビにするつもりでいたんだけど、いよいよその時みたいね」


 ウンザリした様子で語るスキュラさん。こりゃ相当なトラブルメーカーみたい。一体どんな人魚なのやら。

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