不思議な空間
視点がアイラへ戻ります。
スキュラさんの案内でリュウグウ城を進む私。私は人魚ほどスムーズに泳げるわけじゃないから置いて行かれないように割と懸命に泳ぐけど、スキュラさんや付いて来てる人魚達がペースを合わせてくれてるのか、距離が空くことはない。
にしても城内やっぱり派手な装飾がない。これはこれで良いけど。
「こっちよ。どうぞ~」
スキュラさん先導で案内された部屋に入った。その瞬間。
「わっ!わわっ!」
私は突如身体に重力を感じ、バランスを失って転びかけた。海の中なんだから転ぶはずないし、常に浮力が働くはずなのに、重力を感じて転びかけた。
里の明るさといい、謎の重力といい、一体ここはどうなってるのかしら?
「アイラ様大丈夫?ゴメン、言い忘れてたわ。リュウグウ城の各部屋は他の場所よりも浮力が働かないようになってるの。地上と同じ感覚で行動可能よ。私もほら、座れるの」
スキュラさんは私に説明をした上で自ら床に座って見せた。魚の姿である下半身を器用に折り曲げて、正座をするように座ってる。
「いや~、驚きました。なんとも不思議ですね」
「初めてだとやっぱりそう感じるわよね。あ、こちらへどうぞ」
スキュラさんが指定してきた所に私は座る。絨毯が敷かれた所になんと座布団が置いてあって、和室とかと同じようにその上に座るかたちになってる。海の中で座布団って…。マジでどうなってんのよ?ここ。
私と一緒にこの部屋に来た女性の人魚達は、部屋のあちこちでいろんな道具を使い始めてる。時々出入りもしてるし、動きから察するにメイドみたいな役割なんでしょうね。人魚メイド的な?
「それとこの部屋を含めた各部屋なら、地上にいる時と同じ感覚で飲み食い出来るわよ~」
「そうなんですか?ホント不思議…」
もう不思議過ぎて訳分からん。色々謎が多すぎる。
とか考えてるうちに、人魚メイドの一人が飲み物を出してくれた。
アストラントやグレイシア、その他この世界の各国ではほとんどの国で紅茶が主流となっている。でもシュバルラング龍帝国では烏龍茶だったし、アストラントのエドノミヤでは緑茶があるって聞いたことがある。
じゃあ人魚の里ゼーユングファーはなんだろうかと思ってたんだけど、まさかの『ほうじ茶』だった。
海の底の人魚の里でほうじ茶ってどういうこと?関係性なくない?ていうか茶葉はどうやって海底に仕入れてるのよ。そもそもどっから持って来てるのよ。もうツッコみだらけだわ。
と、心の中でツッコみまくってたら、今度は目の前のテーブルに料理が運ばれてきた。
「えっと?」
「昼食よ。お腹空いたでしょ?」
「あー…」
そいうえば砂浜を出発したの朝だったんだっけ。今はもうお昼頃か。昼食自体忘れてたわ。ずっと海の中にいるから、時間間隔が鈍くなってるわね。
「それじゃあ、いただきます」
「はい、召し上がれ」
用意された食事は野菜と肉がメイン。てだから、この食材はどっから仕入れてきてんのよ。
ちなみに魚料理はなかった。理由はなんとなく察したけど。
料理のメニュー自体は地上で食べてる料理とほぼ同じ。特に珍しい料理はない。美味いけど。
「スキュラさん、この後はどういった予定が?」
昼食を終えた後、私はスキュラさんにこの後の予定を確認する。
「夕食時になったら、部屋を移動してアイラ様の歓迎会よ」
そんな企画立ててくれてたの?気持ちは嬉しいけど、なんだか申し訳ないような…。
「わざわざ歓迎会開いてくれるんですか?ありがとうございます。それで、それまでの間は?」
「何もないわよ?」
「え?」
「え?」
スキュラさんの返答に私はキョトンとした表情になってしまう。そしたらスキュラさんもキョトンとした表情になった。
「特に予定ないんですか?」
「うん、何も」
歓迎会までノースケジュールかい。歓迎会やる予定の割に歓迎率が低い。
「じゃあ私はその間どうしたら…」
「好きに動いて良いわよ~。ここでゆっくり過ごすのも良し。リュウグウ城内を巡るのも良し。里の者達と交流するのも良し。里全体にアイラ様の事は説明してあるから、どこにいても問題ないわよ」
基本自由行動ってわけか。確かに人魚達と交流するのも良いかも。
「失礼致します」
「お邪魔しますぞ」
ここで部屋にミンスマンさんと爺やが入って来た。
「アイラ様、もうお食事は済みましたかな?」
「ええ、いただいたわ」
「左様でしたか~。もう少し早くここに来るべきでしたな」
「え?なんで?」
「そうすれば人魚の方々にお任せすることなく、わたくしめがシャロルさんの代わりを務められましたゆえ」
「ちょっとリヴァイアサンさん?あなただって今は客人扱いなんですから、ここでの主へのご奉仕はご遠慮ください」
「はっはっは。確かにそれもそうですな~。怒られてしまいました~」
てへぺろ的な反応でスキュラさんの注意を聞く爺や。爺やは普段のシャロルの代役をやろうとしてくれたらしい。でも確かに爺やもここじゃ客人扱いなんだから、いくら主の私がいるとしても執事兼使用人としての仕事をする必要はない。
「わざわざここでも仕事しようとしなくて良いよ。爺やも休んで?普段中々お休みあげられないんだし」
「そう言っていただけると嬉しゅうございます。それではお言葉に甘えさせていただきますぞ」
爺やは笑顔で私の気遣いを受け取り、私も向かい側に座った。
「……」
ふとミンスマンさんに目を移すと、何故か緊張するかのような面持ちでフリーズしていた。
「あの~、ミンスマンさん?どうかされました?」
「……」
「あの~?もしも~し?」
私が声をかけて手を振っても、ミンスマンさんは反応しない。
「ミンスマン!」
「ははははい!」
スキュラさんが大声でミンスマンさんを呼ぶと、ミンスマンさんは身体をビクッと震わせて慌てた様子で再起動した。
「あなたも座りなさい。いつまでも立ってないで。そこにいると使用人達の邪魔よ」
「はい…、すいません…。失礼します」
スキュラさんに言われて座るミンスマンさんの表情は堅い。何なんだ?
「ごめんね?アイラ様。彼、今緊張してるのよ」
「緊張ですか?」
ここに緊張するような要素なんてあるかしら?さっき出迎えてくれた時は至って冷静だったのに。
「アイラ様。ミンスマン殿は出迎えた時こそ冷静を装っておりましたが、いよいよ緊張を隠すことに限界が来てしまっているのですよ」
爺やの説明から察すると、ミンスマンさんは出迎えてくれた時から緊張していて、その時は緊張を隠せていたけど、それが隠し切れなくなってるってことか。でもなんで緊張してんの?
「ミンスマンさん、緊張されてるんですか?どうして?」
「アイラ様鈍感ね~。ミンスマンはアイラ様に緊張してるのよ」
「私に?」
私に対して緊張…、あー、神力か~。
「実はミンスマンにはハルクリーゼの事言ってあるのよ」
「あ、そうなんですね」
「わたくしめがアイラ様がハルクリーゼ様の眷属であられる事をお伝えしましてな。それで精霊、神獣、神龍との契約主という事と併合して、余計に緊張してしまっているのですよ。懸命にもてなすと言っておりましたのにな~。はっはっは」
「リヴァイアサン様!そ、それは言ってしまっては…!」
爺やがミンスマンさんが言っていたらしい事を暴露して、ミンスマンさんは慌ててる。
ハルク様の事を知ってて私が眷属である事を説明されてるなら、わざわざ隠す必要性もないし楽ね。
「そう緊張しなくても大丈夫ですよ。別に変な事は言いませんので。明日までよろしくお願いしますね。ミンスマンさん」
「はい…、よろしくお願い致します。アイラ様」
笑顔で声かけてみたけど、ミンスマンさんの態度はメッチャ堅い。
「ミンスマン、表情が強張ってるわよ~。それじゃあアイラ様に気を遣わせちゃうでしょうに。もっと力抜きなさい」
「そ、そう申されましても…」
スキュラさんが言ってもミンスマンさんの緊張は解けないらしい。う~ん、これは時間かけないとダメかな?
このままだとらち明かないし、放っておいて話変えるか。
「あの、スキュラさん。せっかくの自由時間なら、気になる事色々聞いても良いですか?」
「良いわよ~。何でも聞いて頂戴」
私の問いかけに、スキュラさんは笑顔でウィンクをした。




