族長補佐兼代理ミンスマン
前半はアイラ視点、後半は視点がアイラから外れます。
リュウグウ城の中へ入ると、そこは意外にも質素な造りになっていた。広さはあるけど装飾とかあまりないし、派手な色の壁とかもない。なのにどこか高貴な印象を感じ取れる場所。不思議な感覚~。
「お帰りなさいませ、スキュラ様」
「ただいま~。留守をありがと、ミンスマン」
玄関ロビーには大勢の人魚達がズラッと並んでいて、その中心にいた一際がたいが大きいスキンヘッドの男性がスキュラさんに声をかけた。ミンスマンっていうらしい。
「それと、お久しぶりでございます。リヴァイアサン様」
「お久しゅうございますな。ミンスマン殿」
おや?爺やも顔見知りか。このやり取りからみて、ミンスマンさんはスキュラさんの側近かな?
「アイラ様、紹介するわね。彼は私の補佐官兼族長代理のミンスマンよ。ミンスマン、この子が以前話したアイラ様よ」
スキュラさんの補佐兼代理か。じゃあ人魚族のナンバー2ね。
「初めまして、アイラ・ハミルトンと申します」
私は客人としてここへ来てるので、失礼のないように貴族としての品を出してお辞儀をした。…格好はマイクロビキニだけど。
「お初にお目にかかります。族長補佐兼代理のミンスマンと申します。ここまでの移動、誠にお疲れ様でございました。
精霊様方、神獣様方、神龍様の契約主であられる偉大なお方を迎えられました事、大変光栄でございます。我々人魚族一同、精一杯のおもてなしをさせていただきます。どうぞよろしくお願い致します」
ミンスマンさんと周囲の人魚達は一斉にお辞儀した。なんだか私、スゴイ人として迎えられてるみたい。スキュラさん一体どんな説明したのよ…。
「アイラ様。まずは一息着きたいだろうから、私の部屋に案内するわね。付いて来て」
「あ、はい。解りました」
「わたくしめはミンスマン殿と少々お話しますゆえ、先にお行きください」
爺やはミンスマンさんと話があるようで、その場に残るらしい。
私はスキュラさんに手を引かれるかたちで、スキュラさんの部屋へと向かった。ちなみに出迎えてくれた人魚達のうち、数人の女性人魚も一緒に付いて来た。やっぱ美女揃いだな~。
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アイラとスキュラと複数の人魚がスキュラの部屋へ向かった後、出迎えのために集まっていた残りの人魚達は解散。それぞれの仕事へ戻って行った。
そんな中、トンジットとミンスマンだけはその場に留まり、二人で会話をしていた。
「しかし本当に久々でございますね、リヴァイアサン様。最後にこちらへ来られたのは…、百年近く前でしたか?」
「そうですな。百年程は経っていたと思います。ここは変わら美しい場所ですなぁ」
「お褒めいただきありがとうございます。常日頃からこの状態を保てるよう、使用人一同努めておりますので」
「フムフム、結構な事で。それでどうでしたかな?アイラ様の印象は」
アイラの印象について問いかけたトンジットに対し、ミンスマンは少しの間考えた。
「そうですね…、驚かされた。という感想が最も表現しやすいでしょうか…」
「ほう?」
「リヴァイアサン様。私は先程のアイラ様との会話の際、冷静に話せていましたでしょうか?」
「ええ、至って冷静に見えましたが。もしかすると内心緊張していましたかな?」
「はい、その通りです。ここまで心臓の鼓動が強くなったのは初めてでした」
「ほう。あなたがそこまでおっしゃるとは、中々ですな」
ミンスマンは内心アイラに対して緊張していたらしく、トンジットはそんなミンスマンに意外性を感じつつも暖かな笑みを見せる。
「精霊様、神獣様、神龍様。この三つの存在と契約されておられる事はスキュラ様より説明を受けておりましたので、心構えは出来ておりました。ですが予想以上…、いや、予想を容易く壊された程の衝撃度でした。あそこまで強烈な雰囲気と視線を感じ取った方を見るのは初めてです。やはり伝説級の方々との契約が影響されているのでしょうか?」
「それもありますが、アイラ様はそれだけではございません。アイラ様は元々様々な面で大きな力を持つ方でしてな、現在に至っては伝説級との契約による力を抜いても、わたくしめやスキュラさんが敵わぬ実力をお持ちでございます」
「スキュラ様やあなた様ですら敵わぬ実力ですか!?」
トンジットの発言にミンスマンは驚愕する。ミンスマンにとってスキュラやトンジットは、神獣という通常ではありえない程の実力を持つ絶対強者。敵になれば一撃で殺られる事は必至である。
しかしアイラはそんな神獣をも凌駕する力を持つとトンジットは言う。ミンスマンはとても信じられない気持ちでいた。
「となると彼女は一体…。通常の人間ではないという事ですか?」
「ミンスマン殿は、ハルクリーゼ様の存在をスキュラさんから説明されておりますな?」
「ええ、スキュラ様とオリジン様からお聞きしておりますから…」
トンジットの問いに頷くミンスマン。実はミンスマンもハルクリーゼや神々の存在を知る者の一人。というのもオリジンがスキュラに会いに何度かリュウグウ城を訪れているため、側近であるミンスマンもオリジンとは顔見知りである。
スキュラより若干年下という長い年月を生きている人魚であり、常に冷静で口が堅い事で有名なミンスマンならと、スキュラとオリジンはミンスマンに神として君臨するハルクリーゼの事を説明していた。
「アイラ様は、とある事情でハルクリーゼ様の眷属となっておりましてな。神の力を保持しているためにお強いのです」
「ハ、ハルクリーゼ神様の…、眷属…?」
「今現在、この世界にはアイラ様の他にグリセリア様という眷属がおります。今回ここへはアイラ様のみでございますが」
「では…、今後はそのグリセリア様という方も来られる可能性も…」
「今は何とも言えませんな。グリセリア様はまだ力の制御が未熟でしてな、まずはそれを解決してからでしょう。それにグリセリア様はグレイシア王国という一国の女王でございます。簡単にここを訪ねる時間は作れませんでしょう。来るとしてもしばらく先でしょうな」
「そ、そうですか…。…ならば私は、気を引き締め直さなければならぬようです。アイラ様が神の眷属というそこまで高位な方であり、ともに眷属であられるグリセリア様が一国の女王なのであれば、アイラ様も地上では相当なお立場におられるでしょうし」
「いえ、アイラ様は貴族ではありますが、まだそれほどでもありません」
トンジットの否定に、ミンスマンは拍子抜けした表情を見せる。
「…あれほどの雰囲気を持ちながら、まだ組織的な頂点には立ってらっしゃらないのですか?」
「ええ、しかしそれも時間の問題でしょう。そう時をかける事なく、駆け上がって行くと思いますよ。グリセリア様がその基礎作りをしましたからな」
トンジットが言う基礎とは、アイラがトップを務める国家総合監査会の事。トンジットは未だ形を成していないこの組織が、いずれ何か大きな役割を果たすと予想していた。
「そうですか…。でしたらいずれ何らかの頂点に立たれる方をもてなす者として、このミンスマン、全力でアイラ様をおもてなし致します」
「はっはっはっ。よろしいのではないかと。アイラ様は非常に謙虚で心配りの利く方。どういう事でもお喜びになりますでしょうし、もてなしに感謝してくださるでしょう」
もてなしに張り切るミンスマンに、トンジットは暖かな笑顔を送った。
「ではアイラ様をもてなす前に、リヴァイアサン様をもてなしたいと思います。お部屋へご案内致します」
「はっはっ。お願いしますぞ」
トンジットはミンスマンの案内で、部屋へ移動を開始した。




