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異世界で最強 ~転生と神の力~  作者: 富岡大二郎
第十章 視察の道は逸れて
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人魚の里ゼーユングファー

 スキュラさんや爺やと会話しながら進むうちに、ようやく深海の底に着いた。


 深海には深海らしく、独特な姿の生物達がいた。他の海の生物と同じ種なんだろうと思うけどぶっちゃけ気味悪い見た目の魚とか、まるで化石みたいな見た目の魚とか…。

 出来れば近くで見たいんだけど、何故か魚達は近づいてきてもすぐに遠ざかっていく。ていうか逃げてる?

 しばらくその原因を自分なりに探ってたんだけど、様子をよく見てみると私じゃなくて爺やから逃げてた。これ原因爺やじゃん。あれだけの巨体を動かして泳いでるから、多分みんな何かを察して逃げて行くんだ。


「爺や、魚達が爺やから逃げて行くんだけど…」

「大型の海洋生物以外は何故かいつもわたくしめから逃げて行くのですよ。昔からそうでしてな、わたくしめも謎ですな~」


 今の爺やの姿は表情が変わらないから感情が掴めないけど、口調は普段通りのままで謎がっている。爺や自身も原因が分からないらしい。


「それにしてももう相当深くまで来た気がしますけど、現在地って水深どのくらいなんですか?」

「どのくらいかしらねぇ…。測った事ないから分からないわ~」

「言われてみれば、気にしたことありませんな」


 スキュラさんも爺やも水深を気にしたことがないみたい。ずっと海の中で生きてきたわけだし、あまりそういうことは気にしないのかしら?きっと『浅い』と『深い』ていう概念しかないんだろう。


「さてアイラ様、見えてきたわよ。もう真闇界能力…だっけ?止めても大丈夫だから」


 スキュラさんは前方を指差す。真闇界能力を停止させた上で見ると、スキュラさんが指し示す方向だけ何故か明るい。明るい地点との距離が縮まる程、その範囲は大きい事が分かる。


「なにこれ…。どうなってんの?」


 明るい場所の前までたどり着いた所で私はボソッと一言。周囲は真っ暗な深海なのに、明るい所にはドーム状に謎の膜らしきものが張ってあって、その中が明るくなっていた。


「さ、入るわよ」

「え?このまま?入口とかはないんですか?ていうかこの膜は通り抜け出来るんですか?」

「どこからでも通り抜けられるし、いつどこからでも出入り可能よ」


 私は戸惑う気持ちのままスキュラさんに手を引かれ、膜の内側へと入って行った。






「わあ…!」


 膜の内側に入った私は、その光景を見て思わず声を上げた。

 そこはとても澄んだ水の中で、きれいなサンゴ礁や海藻、様々な魚達が泳いでいた。

 景色的には陽の光で照らされてる浅瀬辺りの光景に似てるんだけど、大きく異なる点が陽の光は差し込んでないはずなのに何故かとても明るい事と、たくさんの人魚が泳いでるという事。


「ようこそ人魚の里『ゼーユングファー』へ。歓迎するわよ、アイラ様」

「人魚の里ゼーユングファー…」


 …あれ?『ゼーユングファー』ってドイツ語で『人魚』って意味じゃん。偶然な事もあるものね。


「わたくしめもここへ来るのは久しぶりですな~」

「そうなんだ。それはそうと爺や、多分今他の人魚達や魚達の通行の妨げになってると思うわよ?」


 懐かし気に周囲を見渡してうろつく爺やだけど、爺やが動く度に周囲の人魚達や魚達が泳ぐ方向を急転換させてる。明らかに邪魔そう。

 今の爺やはヒト型じゃないんだから、もうちょっと周囲に気を付けてほしい。ていうか爺やの身体、まだほとんどが膜の外だし。


「さ、アイラ様。里の中心、私の住まいまで案内するわ」

「あ、はい。お願いします」


 私は引き続きスキュラさんに手を引かれて、里の奥へと進み始める。里の中でも移動はもちろん泳ぎ。…地上に上がったら歩けるかな?私。なんだか宇宙から帰還した直後の宇宙飛行士みたいな状態にならないよね?


 進めば進むほど分かるけど、この里は単なる海底じゃない。岩やサンゴ礁、海藻に至るまである場所ない場所がハッキリしてる。まるで区画整理されてあるかのよう。


「ここのサンゴ礁や海藻は自然にある感じじゃありませんね?何かしたんですか?」

「えぇ、この里にあるサンゴ礁や海藻類は、岩も含めて全部整備してあるの。特定の場所でしか育たないようにしてあるわ。どうやってそうしてるのかは里秘密で♪」


 そう言って私にウィンクするスキュラさん。なにその「企業秘密で」みたいな発言。


 こうして里の中を進んでいると、時々人魚達がこっちを見てる時がある。まぁ、族長と巨大生物と私がいるんだから当然なんだけど。

 私も人魚達を眺めてるんだけど、人魚といえばだいたいの人が女性像をイメージする場合が多い。でもここにいる人魚には男性もいる。

 眺めていて気付いた事が、男性はみんな程よく筋肉が付いたモデルみたいな体型で、ルックスが良い。女性も豊満なバストに引き締まったウエストのグラマラスボディで、顔もカワイイ系だったり美人系だったり、それこそ前世だったら芸能界とかファッション界にいてもおかしくないレベルの人魚ばっかり。

 総じて言うと、人魚達みんな老若男女問わず美男美女でスーパーハイスペック。


「なぁに?アイラ様。そんなに人魚に興味あるの?」


 ずーっとスキュラさんに手を引かれたまま進行方向を見ずに泳いでいたので、スキュラさんに不思議がられてしまった。


「興味と言いますか…、皆さん美男美女ばかりだなぁって思いまして。誰も容姿が人間にとって理想的な姿だったので」

「あら?羨ましい?」

「まぁ、地上の人間として見るのであれば」

「ふ~ん、そっか。でもまぁ確かに地上の人間はみんな様々な体格してるって聞いたことあったら、ここまで共通的に体格が一緒なのは気になるのも無理ないけどね。でも私から見れば、アイラ様だって女性なら憧れにされる顔と体型じゃない?」

「いえ…、私なんてそんな…」

「謙遜しなくて良いのよ~。カワイイわねぇ、もう」


 控え目な反応したら、なんか頭を撫でられた。

 確かに自分的には今の体型は理想ではある。でも他人に憧れられる体型かと聞かれたらよく分かんない。ノワールとかランとか、最近だとジーナとかが私の事を輝く目で見てくる時もあるけど、あれは神のなんちゃらが関わった時の事だし…。止めてはほしいけど。


「人魚族はね、古代からずっと男性は筋肉を付け、女性は細身でいなければいけないっていう風習があるの。何かしら特殊な事情がない限り、人魚達は子供の頃からそれを厳しく教わるのよ」

「特殊な事情とは?」

「知的または身体的な障害を抱えていたり、病気を発症していた場合ね」

「あぁ、なるほど。でもどうしてそのような風習があるんですか?」

「それが私が生まれるよりも前から存在してた風習でね、今となっては私も他の人魚達も誰がいつ何のために言い始めて、どうやって浸透したのか分からないのよ。みんな当たり前に受け入れてたし」


 スキュラさんが生まれたのが今から約二千年以上前だろうから、その風習はそれ以上の長い歴史を持つわけか。ちょっと変わった風習。…ていうか人魚族はどのくらい前から存在してるのかしら?


「それって、もし守らないとどうなるんですか?」

「規律や人魚族内での法律上は罪にはならないわ。でも周囲から非難は食らうでしょうね。

 私は風習に異議を唱えた者を直接見た事がないからなんとも言えないけど、伝え聞いた話で過去にかなりふくよかな体形の男性がいたらしいの。

 彼は体型に関する風習の必要性に異議を唱えていたらしくてね、人魚族の風習を考え直す主張を周囲にしていたらしいの。でも周囲はそれを認めず、彼に暴言や嫌がらせ、差別やイジメをしていたらしいわよ」


 周囲と違う容姿をして周囲と違う意見を主張したから、一斉に叩かれたんだ。前世の世界でもそういう人はいたけど、この世界でもそういう事ってあるのね…。


「その方は結局どうなって、話はどう治まったんですか?」

「男性はイジメが激しくなって暴力もかなり振るわれたみたいで、その暴力で受けた怪我が原因で亡くなってしまったそうよ。男性は主張はしてても押し付けてきたわけでもなく、他に活動をしていたわけじゃなかったらしいから、男性が亡くなった後は自然と元の状態に戻ったらしいわ」

「暴力を振るった側には何か法的処置はあったんですか?」

「ううん。異議を唱えていた男性が悪いって結論に至って何ともなかったらしいけど?」


 イジメがエスカレートして暴力に変わって、その暴力が原因で亡くなって…。完全に暴行罪と殺人罪だ。これで暴力振るった側がお咎めなしなのはおかしい。


「なんとも悲しい事件ですね…。亡くなられた方は自分の意見を主張しただけであって周囲の行動に迷惑はかけていないのに。それに暴力は絶対良くない事なのに、暴力を振るった側に何もお咎めがないのはおかしすぎますよ」

「……」

「…スキュラさん?」


 私は単に思った事を言っただけなのに、何故かスキュラさんは呆気にとられたような表情で私を見ていた。


「ねぇ、リヴァイアサンさん。私、他の神獣達や精霊達が『契約主が彼女で良かった』って言ってる理由が解った気がするわ」

「そうでございましょう。アイラ様はお優しい方でございますからなぁ」

「え?…え?」


 スキュラさんは突然爺やに何かに納得したような感想を述べ、爺やもそれに同調してる。私は訳が分からず戸惑う。


「えーっと…、私何か変な事言いました?」

「ううん。ただ今アイラ様、亡くなった男性に味方する発言をしたでしょう?」

「は、はい…。まぁ…」


 味方して何が悪いのか。例え当時周囲にとっておかしい発言だったとしても、仮に暴行を受けるきっかけとなる発言をしてしまっていたとしても、暴力を振るわれて暴行死という壮絶な死を迎えてしまった命に責める要素はない。これで周囲にメッチャ迷惑かけてたり、誰かを脅迫してたりしてたら話は別だけど。

 今の話だけで精査すると、悪いのは異議を唱えた人魚ではなく、嫌がらせやイジメ、暴力を振るった人魚だ。


「あのね、現在の人魚達はみんなこの話を知ってるの。でも話を聞いたみんなから出る発言は『異議を唱えた人魚の死は仕方なかった。言い出した以上どうなる運命だった』みたいなものなのよ。

 アイラ様みたいに異議を唱えた側に寄り添う発言をしたのは、アイラ様が初めてよ。それでちょっと驚いちゃって」

「そ、そうなんですか…?」


 つまりこの話を聞いた人魚達はみんな、そのぽっちゃり体型の人魚の味方はしなかったと。もしかして人魚族の中だとそれが常識的なのかな…。だとしたらちょっと悲しいな…。

 私自身、自分の事をそこまで優しいとは思った事ない。私だって過去に暴力を振るった事もあるし、本当に優しい心の持ち主なら絶対に暴力どころか誰かを責める事も出来ないはず。でもその辺の考えが違うのか、私って精霊達や神獣達からやたら良い人扱いされてる気がする。シャロルも私の事優しいって言うし…。


「はい、到着。ここがゼーユングファーの中枢であり、私の現在の居住場所である『リュウグウ城』よ」

「ここがお城ですか~。…ん?リュウグウ城?」


 リュウグウ城?『竜宮城』じゃなくて?これも偶然?


「どうしたの?」

「あ、いえ…。里の名前や城の名前に聞き覚えがあったので…」

「聞き覚え?」

「はい。と言っても私の前世の頃の事なんですけどね。ここの里の名前になってるゼーユングファーは、私が前世で暮らしていた国とは別の国の言葉で人魚っていう意味だったんです。

 リュウグウ城も私が暮らしてた国にあった昔ばなしに竜宮城っていう建物が登場してて、こんな偶然あるんだな~と思って」

「へぇ~、何とも不思議ね。あ、とにかく中に入りましょ?」

「はい。て、あれ?爺やは?」


 気付けばさっきまで近くを泳いでた爺やがいない。あれだけの巨体、見失うはずないんだけど…。


「ここですぞ」

「うわぁっ!ビックリした!」


 爺やはいつの間にかヒト型になっていて、私とスキュラさんの後ろにいた。


「その姿でも海底にいられるのね?」

「はい、問題ございません」


 だったら里に着いた時点でヒト型になれば良かったのに。なんで大型のままでいたの?


「まぁ、あのままでいられるとリュウグウ城入れないけどね」

「確かに」


 スキュラさんの言う通り、リュウグウ城の門のサイズは地上にあるお城のサイズと変わりない。爺やの巨体では入城は不可能。

 そんなリュウグウ城。割と横長な城で、和風と中華風が混ざった感じのきれいな城。高さはそこまで高くない。


「それじゃ、どうぞ~」

「お邪魔します」


 私はスキュラさんの後ろをついて行くかたちで、リュウグウ城の門をくぐった。

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