深海へ出発。そして、ジーナの特訓案
後半で視点がアイラから外れます。
「それじゃあ、そろそろ行きましょうか。準備はもう出来てる?」
「はい、いつでも大丈夫です」
いよいよ海に潜る時。一応準備運動も済ませてある。
「あれ?爺や、いつもの服装のままだけど、そのまま海に入る気?」
「左様でございます。これは一見すると何の変哲のない服に見えるかもしれませんが、実はこれはわたくしめの身体の一部でございまして」
「え?えええぇぇぇぇ!?」
「「ええぇぇぇぇぇ!?」」
衝撃の事実発覚!爺やのタキシードは服ではなく、爺や自身の身体の一部!シャロルとキリカも驚愕してる。
何がどうなってそうなってるのよ…。思えば洗濯してるところ見た事ないなとは感じてたけど…。
「なに?知らなかったの?」
「初耳ですし、今まで全く気が付きませんでした!」
エキドナさんは私達が知らなかった事が意外だったのか、不思議そうに訊ねてきた。
「リヴァイアサンさん、言ってなかったの?」
「今まで言う必要のない時ばかりでしたからな。お伝えしておりませんでした」
スキュラさんの確認に爺やは笑顔で答える。…なんか、天神界メンバーも精霊達も神獣達も神龍も、私に言ってない事がまだまだたくさんありそう。
とにかく爺やの衝撃の事実は置いといて、出発は可能なのでスキュラさんや爺やと一緒に海に入る。
海水温度は冷た過ぎず暖か過ぎず。海水浴やるには丁度良い水温。
「じゃあ、行ってきます!」
「行ってらっしゃいませ。お帰りをお待ちしております」
「お気を付けて」
「行ってらっしゃーい!」
私はみんなに向かって一声かけ、シャロルとキリカとジーナが返してくれた。
他のみんなも各々のやり方で見送ってくれてるし、ザッハークも高く飛び跳ねて見送ってくれてる。
水面が胸辺りまで来る位置まで進んだところで、私は水中呼吸魔法を発動。同時にスキュラさんが手を差し伸べてきた。
「ここから泳ぐ状態になるわよ。解ってるとは思うけど海は広大だから、知識ある者が手を繋いでいないと迷子になっちゃうわ」
いや解るけど、理解は出来るけど、迷子じゃなくて『遭難』でしょ…。手は繋いだけど…。
「わたくしめは先に先行し、海中でお待ちしております」
爺やはそう言うと、慣れた動きで海中へと潜って行った。何か用でもあるのかしら?
「アイラ様、海中に潜るタイミングは任せるわ」
「あ、はい」
今はまだギリギリ足を着けてるけど、泳ぐ姿勢への以降タイミングは私が決めて良いそうなので、私は呼吸を整えて潜る姿勢を作った。
(いち、にーの、さん!)
そして私は勢いよく足を浮かせて泳ぐ姿勢に変えた。直後、スキュラさんが繋いでいた私の手を引っ張り、私を海面近くから海中へと引き込んできた。
「さぁ、行くわよ。海を案内してあげる」
「はい!お願いします!」
私はスキュラさんの言葉に返事をして、手を引かれながら海中を泳いで進んで行った。
…あ。そういえば私、普通に呼吸出来てる。ていうか会話も出来てたわ。魔法のおかげなんだろうけど、なんだか不思議。
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「行ってしまいましたね…」
「行かれてしまいましたね…」
「行っちゃいましたね…」
「お三方とも、言い方が異なるだけで同じ発言をしておりますが…」
アイラが潜って行き静かになった海を眺めながら、シャロル、キリカ、ジーナの三人が呟く。
しかし三人とも言っている事は同じで、ラミアがツッコんだ。
「さて…、アイラ様が海底へ出発したんだし、私達は…」
アグナがため息を付きながら、次に自分達が行おうとしている事へ頭を切り替える。
切り替えは他の者達も同じだったようで、ジーナ以外の全員が一斉にジーナを見た。
「あ、あの…、修行を行う事は察し着いてますけど、そんな一斉に視線を向けられても…」
一斉に周囲から視線を浴びたジーナは、戸惑いながらも反応する。
「そういえばジーナさん。今朝起床したばかりの時に、何やら良い鍛錬方法を思い付いたとか言ってませんでしたっけ?」
「あ、はい。そういえばお伝えしていませんでしたね。えっとですね…」
アテーナは今朝ジーナが鍛錬方法を思い付いていた事を思い出し、内容をジーナに訊ねた。
そしてジーナの口から語られた鍛錬内容に、その場にいた全員が驚く。
「ジーナさん!それはいけません!自殺行為です!」
「いくらなんでも無茶が過ぎます。あなたの身体が持ちませんよ」
「身体どころか命まで危ないわよ」
「私は反対とまでは言いません。しかし…」
ジーナの特訓内容に対し、シャロルは必死の表情で反対し、アルテミスも真剣な表情で警告する。エキドナも心配し、オリジンまでも戸惑いを見せる。
他の者達も困惑する中、ジーナは至って冷静だった。
「危険なのは承知の上です。別に適当に言ってるわけじゃありませんから。
これは伝説たる精霊様方や神獣様方が居てらっしゃるからこそ実現できる方法なんです。今日と明日の短期間で自分を鍛え直すには、命捨てる覚悟で臨んだ方が良いって自分で思った結論なんです。
お願いします。やらせてください。何としても強くなりたいんです」
ジーナの瞳には強い決意が宿っていた。だからこそ他の面々は余計に戸惑う。
ジーナが考案した特訓内容。それはアンプルデス山脈での実戦修行。
まずアンプルデス山脈まで神獣に乗せて行ってもらい、そこで神獣達と直接対決しようというもの。
さらに獰猛な野生動物または魔物と遭遇した場合、神獣達には一旦退いてもらい、ジーナ一人で相手をするというものだった。
この内容が意味する事、それは死亡率がほぼ百パーセントに近いという事。
アンプルデス山脈は全域で標高が高く、酸素も少ない。実際にシャロルが山脈手前の峡谷まで来た所で息苦しくなっていた。
さらにアンプルデス山脈は一年中雪に覆われており、非常に足場が悪い。気温も常時マイナスなため、相当な防寒対策をしなければ凍死は免れない。
酸素濃度が薄く、極寒。足元は雪で危険性が高い。そんな場所で実戦的な修行をしようとするジーナ。
これは精霊や神獣でなくとも、普通の人間が行えば死は必須であることが分かる内容だった。
「そもそもジーナさん、アンプルデス山脈に行ったことはあるのですか?」
「実際に入ったことはありませんが、麓までなら行った事があります。酸素が薄くても動けるつもりですよ」
フェニックスの質問に答えたジーナに対し、周囲の者達は難儀を示す。
人類の歴史上でアンプルデス山脈を登頂できた者は誰もいない。それどころか誰も山脈の麓まで近寄らない。
実はアンプルデス山脈では、アイラやグリセリア、現在の世間が知らない、歴史上に語られないところで探検家や冒険者が登頂に挑み失敗したという事件が起きていた。
ある者は入山直後に雪崩に巻き込まれ死亡。ある者は麓付近で高山病にを発病し死亡。ある者は魔物に襲われ死亡。という、まさに死の山と呼ぶに相応しい過去があの山脈では起きていた。
そんな山の麓に行った事があると言うジーナ。周囲の面々はにわかに信じられなかった。
「もし疑ってらっしゃるのでしたら、尚更私を連れて行ってください。それで分かるはずです」
真剣な表情で話すジーナ。そんな彼女の今まで見せて来なかった決意に、誰もが困惑するのだった。




