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異世界で最強 ~転生と神の力~  作者: 富岡大二郎
第九章 領地視察へ
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王子と二人の令嬢のそれぞれの夜

前半がリベルト視点、後半は複数視点になります。

 アストラント王国、アルクザー宮殿。王子リベルトの寝室。







「ん…」


 …眠れない。


(…一度起きるかな)


 ベッドから起きた僕は、ベッド横に置いてある水をコップに汲み、その水を一気に飲み干す。


「はぁ…」


 飲み終わってからため息。どうして眠れないんだろうか…?


「……」


 僕は寝付けない時の方法として、自らの過去を振り返って未来を想像してみる時がある。一見頭が冴えてしまいそうな方法だが、これが意外と眠気に誘われる。


「………ダメだ…」


 ところが最近、この方法で眠る事ができない。どうしても途中で打ち切ってしまう。

 原因は判明している。過去を振り返ると、必ずある人物が強く頭に浮かぶからだ。


(…アイラ……)


 リースタイン子爵家令嬢、アイラ・リースタイン。僕にとっては大切な友人の一人。そして、アストラントから追放してしまった人物。

 別に彼女に対して恋愛的感情はない。それがあるのはティナかホウに対してだけだ。

 でもアイラは…、彼女はおそらく歴史上稀に見る希代の天才だっただろう。

 普段の貴族からも平民からも好印象を持たれる立ち振る舞い。学業面でもそれ以外でも発揮される頭脳。誰とでも仲良くなれるほどの人柄の良さ。集会時や緊急時の統率能力と判断力。そしていざという時の戦闘力。

 僕が見た限りどういう面においても非の打ち所がない。何もかもが完璧。もしかすると、本領を発揮すれば僕をも超える力を持っていたのかもしれない。それほどの有能さを持っていた。

 だからこそ僕にとって彼女は重要な存在だったんだ。将来僕が国王の座に就いた時、右腕的立場となる宰相の座にこれほど相応しい人物はいなかったのだから。

 なのに…、僕は自ら彼女を手放した。彼女をグレイシア王国へと行かせてしまった。その事が、未だに僕の心に罪悪感として突き刺さっている。


「…!」


 胸が苦しい…。罪悪感を感じると、いつもこの症状に襲われる。

 いずれ国王となるというのに今もなおこのような精神の弱さでは、僕もまだまだだ。


 僕は部屋の窓を開け、少しの間涼むことにした。


「ふぅ…」


 部屋に入って来る風が涼しい…。少しだけ、気分が落ち着いた気がした。


「……」


 アイラはおそらく、ノワールとシャロルを連れてグレイシアへ入ったことだろう。

 彼女の事だ。いくらアストラント政府の予定を無視したからとはいえ、グレイシア入りはできているはずだ。

 でも不自然なのが、どうしてグレイシア政府は未だに何も反応を示さない?公衆の面前でアイラを収得する事を宣言していたグリセリア女王が、何故今も黙ったままなんだ?そしてアイラを手に入れた暁に、一体何をしようとしている?


 アイラはきっとグリセリア女王やグレイシア政府ともうまくやっていけるだろう。

 でもうまくやって行った先、もしもアイラがグリセリア女王の側近になってしまったら…、いや、既になっている可能性は高い。

 だからこそグレイシアに対しては慎重に動かなければ…。万が一アイラやノワールが僕や友人達に牙を向けてきたら…。……いや、止めよう。そんな事は考えたくない。


(アイラ。君は今どこで何をしているんだい?僕は君を何とかアストラントへ連れて帰りたいけど、君はどうするつもりだい?

 そして君は、その天才的な頭脳で、どんな未来を描いているんだい?)


 空を見上げてそんな事を思う。もちろん誰からも返事はない。

 未来ではどんな事が待ち受けているのか。それは偉大なるハルク神のみぞ知る事だ。でも、アイラやノワールと最悪の展開で再会する事だけは、何としても避けなければ…。






*************************************






 アルテミア公爵邸、ティナの寝室。





「いや~、今日で何泊目でしょうね。ティナさん」

「もう四泊目になります」

「四泊目…。四泊目の夜ですか」

「ええ、そうですよ。それにともなって一言よろしいですか?」

「なんでございましょう?」

「あなたはここにあと何泊するおつもりですか!ホウ!」

「分かりませんわ~。ティナさんがわたくしへのお説教を止めてくだされば帰りますの。というよりも帰れますの」

「あなたがロクでもない行動や発言を繰り返すからではありませんか!リベルト殿下との婚約争いもそろそろ本格化するのですから、いい加減大人になってください!」

「いやですわ~、ティナさん。わたくし十分大人ですわよ~?ほらぁ…、こんな所とかギュイッ!」

「身体的な話をしたのではありません…!」


 ティナの寝室にて彼女と会話しているのは、ティナの友人であり、ティナと同様リベルト王子の婚約者候補でもあるテミナガ侯爵家の令嬢ホウ。

 ホウはここ数日、ティナの家に泊まりっきりになっていた。というのも、この状況はティナが自身の屋敷にてホウを説教した事がきっかけ。

 アイラとノワールがグレイシア王国へ去った後も、ホウは変わらずティナに怒られぶっ飛ばされ続け、説教を受ける日々を送っていた。

 そして四日前。ティナがたまたまここでホウを説教していたところ、そのまま陽が暮れてしまい、ホウを泊める事になった。

 それからというもの、ホウは失言や叱られる行動を繰り返し、その度にティナから長時間におよぶ説教を受け続け、自分の屋敷へ帰る事なく泊まり続けている。

 この二人は互いに同じ人物の婚約者候補同士でありながら、世界的に見ても非常に珍しいほど仲が良い。互いの家の者達もそれを認識しており、ライバルとなる相手が屋敷に泊まっていようが周囲は何も不自然に思わない。なので余計にホウの連泊が可能になっていたのだ。

 なお、ホウがどのような失言や行動をし、ティナがどういった内容の説教をしているのかは、勝手ながら未公表とさせていただく。



 話を戻してホウに対して大人になるよう言ったティナだったが、ホウは自身の豊満なバストを見せて大人だと言い張った。

 ティナはすぐにホウに対して強めに一撃を食らわせた。


「まったく…、本当にあなたはいつでも何も変わらないのですから…」

「いつでもどこでも常に自分の欲望や本能に忠実で正直であることがわたくしのモットーなのですわ」

「それが全て良くない方向に進んでいるのではありませんか!それだからこういう状況になるのですよ!」

「まぁまぁ、そう怒らずに。皆様寝静まってらっしゃるお時間ですよ」

「誰のせいですか!だ・れ・の~!」

「ヒハイヒハイ…。ヒッヒャラライレフラライハヒ…」


 ホウ訳「痛い痛い…。引っ張らないでくださいまし…」


 怒るティナに対して、人差し指を自分の唇に当てて「し~」のポーズをとったホウに、ティナは怒りの頬つねりを繰り出す。両頬をつねられたホウは、その場でジタバタもがく。


「こんな事ではいつまで経ってもどっちが妃になるか決まりません。アイラもどっちがなるか楽しみしていると言っていたのに…」

「アイラさんですか…。今どこで何をしてらっしゃるのでしょうね…」

「アイラの事ですから、グリセリア女王とはうまく過ごしていると私は思っています」

「グリセリア女王陛下、アイラさんの事大そう気に入ってらしたご様子でしたものね」

「ええ、アイラならグレイシアでも生活していけるでしょう。問題はこれからです」

「そうですわね…。まだグレイシア王国からの反応はありませんし、アイラさんを帰国させようと行動を起こしても、グリセリア女王陛下が作る壁は相当分厚く高いものでしょうし」

「アイラを説得して帰国させることは容易ではないでしょう。少しでもやり方を間違えれば、アイラが私達を敵視してくる可能性も…」

「ないとは言い切れませんわね。全て平等に仲良くがアイラさんのモットーでしたからね。それを崩す者には容赦ありませんでしたし。説得材料としては、リースタインご夫妻以外だとシャルロッテさんが一番強いのでしょうけど…」

「彼女は現在の様子から見て、間違いなくアイラの味方をするでしょうね。私達の行動には協力しないでしょう」

「シャルロッテさん、完全アイラさん主義になっていますものね。アイラさんも一体どうやってシャルロッテさんをあそこまで有能にさせたのやら…」

「シャルロッテさんが学院会に入って来た頃から、アイラは彼女の秘められた才に気付いていたのかもしれませんね」

「それが一番妥当な考えですわね。しかし困りましたわ~。アイラさんが居てくだされば、アイラさんに賄賂を渡してわたくしを妃にするための裏工作を頼み込んで…」

「ホ~ウ~?」

「な~んでもありませんわよ~?オホホホホ…」


 話の最後にボソッと不正の企てを漏らしたホウを睨むティナ。

 誤魔化し笑いをするホウに、ティナはヤレヤレと無言で肩をすくめるのだった。

今回の投稿で第九章は以上となります。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

そして、今後もよろしくお願い致します。

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